濱田龍臣らが青春時代の眩しさやほろ
苦さを体現 ニール・サイモン作『ビ
ロクシー・ブルース』囲み&ゲネプロ
レポート

ブロードウェイを代表する喜劇作家であるニール・サイモンの自伝的戯曲で、青春グラフィティの傑作でもある『ビロクシー・ブルース』。1985年にブロードウェイで初演を行いトニー賞最優秀賞作品賞受賞、ドラマ・デスク・アワード演劇部門ノミネート、他にも数々の賞を受賞し、1988年には映画化もされた。 第二次世界大戦中の新兵訓練所で繰り広げられる、若者たちのエネルギーに満ちた青春群像劇に挑むのは、2018年に読売演劇大賞を受賞し、ストレートからミュージカルまで幅広く手がけている小山ゆうな。キャストは濱田龍臣、宮崎秋人、松田凌、鳥越裕貴、木戸邑弥、大山真志、岡本夏美、小島聖、新納慎也と実力派が顔を揃えた。
開幕を前に行われた囲み取材には、濱田龍臣、宮崎秋人、松田凌、鳥越裕貴、新納慎也が登壇した。
ーーまずはご自身の役の紹介をお願いします。
濱田:主人公・ユージンを演じます。この作品は、ユージンが自身について記した回顧録を開いて振り返ることから始まり、彼の主観で進む。すごく知的で、だけど可愛らしい部分もあるようなキャラクターだと感じます。
宮崎:エプスタインはみんなの輪から少し外れている青年。ユージンの理解者なのかなんなのか、人のために動いているのか自分のために動いているのか、はたからどう見えているかよくわからない、掴みどころのない男の子だと思います。
松田:カーニーは優柔不断な男。皆様の近くにもいると思いますが、なんでそんなことで悩むんだ、食べ物ひとつでどこまで悩むんだと思うような人。作中でも恋に悩み将来に悩み、戦時中をとてもビビッドに生きています。この現状で、カーニーがどう生きているのか、成長過程を見ることができるのかなと思います。優柔不断な男が仲間たちとの出会いで何か決断できているんじゃないか、そんなことを思う今日この頃です。
鳥越:セルリッジは年代にふさわしい素直なアホの子。クラスにひとりいればいいなと僕は思っています。
松田:まんまやん。
鳥越:まんまやろ。いいキャスティングですね!
新納:トゥーミーはいわゆる鬼軍曹。それ以上でも以下でもありません。今の時代だととんでもないことをしていますが、僕としてはちゃんと礼儀作法を持ってパワハラをしています。お楽しみに!
『ビロクシー・ブルース』会見より
ーーニール・サイモンの戯曲で、長台詞なども多いかと思います。取り組んでみていかがでしょう?
宮崎:長台詞と言ったらもう。(新納を見る)
新納:ニーロ・サイモンとしてはですね……。
一同:(笑)。
新納:ニール・サイモンをしばきたくなるくらい長台詞のオンパレード。通してみると意外と出番は少ないけど、登場するとものすごく喋る。役者のエゴですが、知人などが見に来てくれた時に「台詞よく覚えたね」という感想をもらうのが一番恥ずかしい。そうならないように一生懸命練習しました。でも「そんなに喋ってるように見えないよ」と言われて、「こんなに一生懸命覚えたのに?」と(笑)。それを狙っていたものの、ジレンマを感じています。
濱田:稽古を通してテンポ感はすごく探りました。読み合わせから考えると会話のテンポがすごく上がった。この作品の言葉が持つパワー、表現力があってのことだとすごく感じます。通しを始めてから「ここか!」という部分を見つけられましたね。
新納:僕が教官でみんなが若い訓練兵だけど、実際はみんなそんなに若くない(笑)。でも稽古を進めるうちに会話のテンポで若さが出てきて、うまいことごまかせているなって思います。
宮崎:確かに、年齢が近いのってたっつん(濱田)くらい。
濱田:とはいえ、ユージンも多分18歳なので5歳違うんですよ。本当にすごいなって思います。
松田:役割がはっきりしているというか、各々が魅力を出すことで作品が立体化していくのを稽古で感じ、初日が楽しみになりました。
宮崎:印象的だったのは、新納さんが出てきてバーっと喋るシーンがあるけど、お客さんは意外と聞いている僕らを見ているからと言われたこと。(トゥーミーは)なんてコスパが悪い役なんだと思いました(笑)。
新納:そっちを見る方が面白いからね。僕はBGMでしょ? すごく悲しいです。でも全部かっさらってやります。
鳥越:僕はほんとにアホだから、やりながらわかってくる感じでした。でも、お客さんの中にも僕みたいな人は絶対いると思う。伏線だらけで、何回やってもまだ探りながら頑張っています。まだ見つけられると思うので、お客さんと一緒の状態。もしかしたら初見のお客さんが僕より先に色々見つけるかもしれません。
ーー小山さんの演出について、印象的なことを教えてください。
新納:僕と同い年ですが、「こういう演劇少女、いたな」と。そのまま大人になられたような方です。台本を深く読み込んでいて演劇を愛していらっしゃるんですが、演出なのか感想なのかわからない時がある(笑)。チャーミングな一面を持ってらっしゃいます。
濱田:1ヶ月稽古をしたんですが、1ヶ月やった気もするしやっていない気もする。不思議な気分です。小山さんとは劇場に入ってからも色々お話して、細かいところまでアドバイスをいただきました。吸収しながら今も必死にもがいている状態です。

※以下、ゲネプロの写真とレポートあり

物語はユージンたちが5日間列車に揺られ、新兵訓練所に向かうところからスタートする。ルーツも宗教も様々な18歳~20歳というまだ若い青年たちは当然価値観や考え方の違いでぶつかり合うが、鬼軍曹・トゥーミーは彼らを一人前の兵士に育てるべく、理不尽にも思える規律や軍隊におけるあり方を教え込んでいく。
『ビロクシー・ブルース』舞台写真
濱田演じるユージンは、語り手ということもあって一歩引いた視点で軍の日常や仲間たちの個性を観察している。仲間たちと過ごす中で彼が人として成長し、夢である作家に近づいていく姿を、浜田は等身大で表現。そんな彼が、娼婦のロウィーナ(小島聖)や初恋の相手であるデイジー(岡本夏美)とのシーンでは青年らしいピュアさを見せるのも可愛らしい。回顧録を手に訓練所時代を振り返る濱田の穏やかな語り口が心地良く、辛く苦しい日々の中にもささやかな友情や愛おしい瞬間があったこと感じさせる。
エプスタインを演じる宮崎は、軍隊に染まらず自らの信念に則って行動するユダヤ人を魅力的に表現。軍隊という組織に全く向いていない彼はトラブルメーカーである一方、はたから見る分には圧倒的に面白い存在だ。ちょっとした声や表情でエプスタインの真意や信念を覗かせる宮崎に惹きつけられた。
松田が演じるカーニーは、おとなしい性格だが思わぬ言葉でトゥーミーの神経を逆なでしたり、点呼のたびに他のメンバーより一歩前に出ていたりと、時折見せる天然っぷりがおかしい。また、カーニーは作中で何度か歌うのだが、松田の柔らかく優しい歌声が胸に響く。
鳥越は本人も語っていた通り、クラスにひとりはいるタイプの元気な青年・セルリッジを好演。表情豊かで、目の前で起きることに素直に反応する様子がチャーミングだ。大山は大食いで喧嘩っ早いワイコフスキを愛嬌たっぷりに演じる。短気のせいでトラブルを起こしがちだが、憎みきれないガキ大将といった印象だ。ワイコフスキとセルリッジの悪友感も楽しい。ユージンたちより先に入隊していたヘネシー役の木戸は、周りに馴染みつつも彼が抱える事情を感じさせる繊細な芝居を見せていた。様々なシーンで彼がどんなことを考えていたか想像すると切なくなる。
新納は会見でも話に出ていた通り、登場するたびに圧倒的な長尺のセリフを披露。相手を萎縮させるような話し方、高圧的な態度は、そこにいるだけで空気をヒリつかせる。それでいて人間らしさも感じさせ、単なる悪役・憎まれ役で終わらない魅力的な上官として存在している。
また、娼婦のロウィーナやカトリック学校に通うデイジーは、青年たちとは違う価値観や考えを持ち、短い登場シーンながら強い印象を残している。大人の余裕と奔放な色気を放つ小島、初々しい愛らしさと清廉さが眩しい岡本という女性陣の対比も魅力だ。
新兵訓練所を舞台にしており、戦場が間近に感じられるようなセリフも多い本作。さらに、人種や宗教、同性愛といった様々なテーマが出てくるが、決して重苦しい物語ではなく、どこか爽やかで軽やかな雰囲気がある。訓練所での生活は若者らしいエネルギーに満ちており、ゲネプロでもコミカルなシーンは自然と笑いが起きていた。
また、シンプルながら丁寧に作られたセットや、芝居を引き立てるような照明と音楽により、キャスト陣が放つセリフや細かな表情にグッとフォーカスできる。“戦争中のアメリカの新兵訓練所”という、現代の私たちからすると遠く感じる世界であるが、青春時代の眩しさやほろ苦さは、国や時代に関係なく共有できるのだと感じさせられる。ユージンと一緒に懐かしい日々を振り返っているような、どこかあたたかく切ない時間を、ぜひ劇場で体験してほしい。 本作は11月19日(日)までシアタークリエにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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