くるり、オリジナルメンバーで立ち返
った基本姿勢、約20年ぶりとなる3人
でのアルバム制作と密着ドキュメンタ
リー『くるりのえいが』に迫る

1996年に結成、1998年にメジャーデビュー。岸田繁、佐藤征史、そして当時メンバーだった森信行。10月4日にリリースされたニューアルバム『感覚は道標』は、約20年ぶりとなるオリジナルメンバー3人での制作となった。そして、アルバム制作現場に密着した初のドキュメンタリー映画『くるりのえいが』も10月13日(金)より3週間限定で劇場公開&配信がスタート。今回、京都で開催された先行上映会と舞台挨拶後にメンバー3人にインタビューを敢行。デビュー当時からリアルタイムで聴いていた世代としては、結成の地である京都で3人にインタビューできたことに興奮と緊張がある中で、ひとつひとつの質問に丁寧に応えてくれたので、とにかく読んでいただきたい。

『くるりのえいが』本予告

ーー約20年ぶりに3人でアルバムを作られて、こうしてインタビューで話すというのはいかがでしょうか?
岸田:いろいろなインタビューを通して、作品にかけるエネルギーと想いがそれぞれあることを確認できたと思います。
佐藤:舞台挨拶でもそうですけど、もっくんがいいこと言うなぁとか。そういうところで、お互いの年齢を経てきたことを感じますね。
森:僕がいた頃のくるりを知ってる方がどれぐらいいらっしゃるのかなと気になって、舞台挨拶の時に観客の方に聞いてみたんですけど、今日は半分ぐらいいらっしゃいました。もちろん、その方々に届くのはすごく嬉しいですし、そうじゃない方々がアルバムを聴いてどう思うのかとか、そういうところも楽しみだなと。この気持ちは、20年ぶりにやらないと味わえないんだろうなと思いますね。
ーー映画の中でもおっしゃってましたが、最初は今回のアルバムに参加するにあたって複雑な思いもあったと。
森:ライブは3人でもやってたんですけど、レコーディングとなるとまた違ってくるので……。今回は映画も撮るということでドキドキだったんですけど、いざやってみるとお互いのこれまでの積み重ねが感じられて、新鮮な気持ちで曲ができていくことがすごくおもしろかったですね。
岸田繁
ーーいつぐらいから3人でアルバムのレコーディングをしたいという想いがあったんでしょうか?
岸田:アルバムのレコーディングをしたい、という気持ちは特になかったですね。3人で集まると曲を作るときのバンドとしての基本姿勢みたいなところに立ち帰れるので、ゲストで来てもらって集まった時も、ふっと出た音でそういう瞬間があって。そこに期待したというか、やっぱこの感覚はこの3人でしかないよね、という気持ちはずっと持っていました。なのでアルバムができたのは結果論であって、最初からそこを目指していた訳ではないです。
ーーあくまでも3人でスタジオに入ろうということだったんですね。
岸田:そうですね。曲を作ったりとか、各々が音楽の思いをぶつけるというよりは、お互い知ってる形をちょっとぶつけて、何か新しいものが生まれたら嬉しいなと。
ーー佐藤さんは、3人のレコーディングで曲をつくるアイディアを聞いた時は、どう感じられましたか?
佐藤:多分、前回のアルバム『天才の愛』のマスタリングが終わった後に、「久しぶりにもっくんとやりたいね」という話はしてたと思うんです。前作からの反動だけではないんですけど、その次にくるりとしてやってみたいことのひとつに「バンドで曲を書いていく」というのがあって。 過去にもっくんと制作する時間を設けたこともあるし、色んなドラマーさんとバンドで曲を作ることもあったんですけど、それが形になるところまで持っていくことがなくて。デモ曲みたいところで終わることの方がやっぱり多かったんです。それがこの映画の話もあり、一気に作品まで持っていけたので良かったなと。
ーー岸田さんのように、佐藤さんもアルバムを目指してたというわけでは無いですか?
佐藤:そうですね。みんなできたらいいなと、ちょっとは思ってたかもしれませんが、1回、2回とスタジオに入った時に「これいけんちゃう?」と感じられたのが大きかったと思います。
佐藤征史
ーー伊豆スタジオの雰囲気はどうでしたか?
佐藤:合宿できるスタジオというのが、まず良いですね。個人的には地下のスタジオも良いのですが、外が見えるスタジオの方が時間経過がわかったりとかするから好きで。猫がいっぱいいるところ、というイメージがあったんですが、久しぶりに行ってみると、ちょっとイメージが変わりました。太陽がいっぱい当たって風通しが良くて、スタジオから1歩外に出ると季節柄ずっと暖かかったり、海の見えるところに行けたりして、リセットできるのはすごくよかったです。
岸田:僕もだいたい佐藤さんと同じですね。あとは、伊豆スタジオにおられるエンジニアの濱野さんと上手くやれたなと。
森:どんな音かとかはうまく言えないんですけど、最初に3人で集まった時に、楽器がとってもいい音で自然に鳴っていて、それをそのまま録れたらいいよね、という話は共通して話してたんです。伊豆スタジオの音の鳴り方とか、そういう言葉にできないところも濱野さんが即座に理解してくれたのは凄く意味があったなと。僕らがスピード感を持ってやってることに対して、「あ、そっち行きたいんやね。わかった!」みたいな感じで録ってもらえたり、ずっと伊豆スタジオでエンジニアをされてる濱野さんならではの感覚があって、こちらの言ってることとスタジオの感じをお互いに密着させるような感じがおもしろかったですね。
森信行
ーー岸田さんが委ねて、佐藤さんがジャッジをしていることが昔と違う変化だと、映画で話されていてとても印象的でした。
森:僕も20年も離れているので、その中でいろんなことがバンドには起こっていて。僕もいろいろ変わりましたけど、当然、バンドのやり方にも変遷があったりすると思うんです。その上で、久しぶりにやってみれば昔と同じようなこともありますけど、変わってることもある。そこはすごくおもしろかったです。
岸田:今回は作品に込めるべき想い、みたいなものを共有できたような気がしていて。別に仲が悪いわけじゃないので、たまには集まることもありますし、 その間にお互いが知らないようなこともいろいろあって。それぞれ変わった、変わらないじゃなくて、これだけ時間が経てばお互いいろいろあるよね、というところを前提に始められたのは大きいなと思います。もちろんお互い知ってる仲ですから、安心感もあるので「変わらんなぁ」みたいな感覚もあるとは思うんですけどね。ただ制作においては、そういう感覚はさほど意識せずにやっていたと思います。当時に立ち帰ったような、でもそうじゃない不思議な感じがありました。
佐藤:もっくんとは違う現場でもレコーディングすることがあったんですけど、やっぱりその時とはまた違っていて。もちろんその日のテイクの責任を持つというのは変わらないんですけど、今回は特に作品になるまで責任を持たなきゃいけないし、お互いが曲の何が良いと思ったかも持っていないといけなくて。デビュー当時は、ディレクターに委ねてたとこも大きかったんですよね。それが今回、自分のプレイはこの曲に対してこっちの方が良いとか、スタッフも含めて、曲の良さの視点が違ったりしても気兼ねなく言えるようになったところが変わったところかなと思います。もっくんにしても自分のテイクに対しては、こっちの方が好きとか、後でポストプロダクションやった後で元の方が良いとか、そういうのが普通に言える関係性になってるんですよね。まあそれは歳を取ればあたり前の話だと思いますけど、そういう感覚が当時はあんまりなかったのかもしれないなと。
(c)️2023「くるりのえいが」Film Partners
ーーレコーディング中に揉めるというドキュメント映画ではよくあるシーンも、この映画では全く無くて。穏やかに、和やかに進行されているのも印象的でした。
佐藤:それは監督がそうしてくださったからです(笑)。試写前の確認段階で監督と話していても、「僕が見たくるりは、ああいう現場でした」とおっしゃってて。見せ方によっては違うものも全然できるとは思うんですよ。でも、自分たちはそんな映画を見せたいとは思わないし、特に今回は、曲が生まれる瞬間から撮っているので、曲にフォーカスを当ててもらえたことが嬉しかったですね。佐渡監督にお願いしたのも、細野晴臣さんの映画も作られているチームだからで。自分も細野さんの映画を観た時に、「細野さんのアルバムを聴いてるみたいやな」と思えたんですよね。それと同じような感覚を、自分たちの映画にも覚えました。
ーー個人的には森さんがコーラスをギャグ的に入れていて、おふたりがめっちゃ笑っているシーンが大好きでした。
森:悪ふざけじゃないですけど、思いついたことは全部やってみよう、という考えが今回はありましたね。それがこの映画全体の雰囲気に繋がってるのかなと思います。
(c)️2023「くるりのえいが」Film Partners
ーー食事のシーンも出てきますけど、家から通って、その日に自宅に帰るスタジオ作業では中々ゆっくりとした食事は無いですよね。
岸田:同じ時間をみんなで過ごしているので、実際にRECボタンが回ってない時も大事な時間というか、地続きというか。レコーディングが終わって、「お疲れ様! さよなら」じゃなくて、作品づくりをベースに3人とスタッフがずっと一緒にいるわけですから。寝る時以外の、ご飯を食べたりお酒を飲んでたり、あるいは休憩してみんなでどっか見に行こうかっていう時間も大切にしていました。
ーー1stアルバム『さよならストレンジャー』(1999年)の3人によるジャケット撮影が本当に凄く好きで、その時と同じカメラマンの佐内正史さんが今回の映画とアルバムジャケットを撮影されているのも歴史を感じて素敵でした。
岸田:佐内さんとは度々お仕事させていただいていて、あまり久しぶりって感じはなかったんです。空気感をどう撮るか凄く意識してらっしゃる方だなと思っていて、今回は3人ですが、自然な流れでいい感じにやっていただけました。しかも、『さよならストレンジャー』のコスプレから始めてみようかというところから、どれだけ逸脱するかを上手く捉えていただいたと思うので、凄く良いジャケットになりました。
佐藤:歴代で佐内さんに専属で撮っていただいてるわけではないんですけど、本当になにか自分たちの素を出すときというか……そこが大事になるものを作ってる時に御一緒することが多いなと、勝手に思っていて。今回もそういうタームだったなと、思いますね。
森:佐内さんの写真が、僕は凄く不思議で。パッと切り取った瞬間のものをその場で見た時は、まだちょっとわからないことが多いんです。だけど後から見直すと、「うわぁ……」と感動して。おそらく佐内さんの中では直感プラス、意味を持って撮ってらっしゃるんだなと。本当に素敵な写真撮ってもらえて嬉しいです。
(c)️2023「くるりのえいが」Film Partners
ーーそして、この映画で大変貴重なのは曲でいうと「In Your Life」ができあがるところを撮られていて。3人が濱野さんのMIXに対して心から喜んでいるシーンが、魔法といいますか、とんでもないものを観れたなと思いました。
佐藤:MIXでマジックをかける人って、例えば『TEAM ROCK』(3rdアルバム・2001年)の頃にお世話になってた高山徹さんは、自分たちが録った音を1から作り変えて、その人の理想を作るような、全然違うもんができあがって「なんじゃこれは!」と思うマジックだったんですよね。「In Your Life」のMIXは、本当に録った時の音をそのまま……というと語弊があるんですけど、本当にその時の感覚を、もう1度味わえたようなMIXだったんです。自分としてはアルバムの中で1番シンプルな曲だけど、その中でも色々とやってくれて。自分たちが良いと思う部分と、濱野さんが良いと思う部分の共通項がたくさんあって、そこをしっかりと残してくれたことが嬉しかったですね。
森:心も動くし、肉体的にも体が動く。言葉で言うと、ちょっとチープな感じになるかもしれないですけど、グルーヴというか。濱野さんはベーシストでもあり、ドラムもやられたりするし、僕らがやろうとしてる音楽、今回やろうとしてるロックンロールみたいな曲の持ってる根幹の良さを凄く理解してもらっていて。ドラムの音とかも面白い音なんですけど、そこをシンプルに力強く出してもらえたなと。できあがった時に本当に嬉しかったです。
ーーそして、何よりも、このアルバムからのツアーも森さんが参加されて。また、ツアータイトルの『ハードにキマる!つやなし無造作ハッピージェル』も森さんが付けられていますね。本当に楽しみにしています。
くるり
取材・文=鈴木淳史 撮影=河上良

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