斉藤和義

斉藤和義

【斉藤和義 リコメンド】
デビュー30周年記念盤で考える
斉藤和義のアーティストとしての本質

どれもこれもこのメンバーでしか
出せないものばかり

 それでは、なぜ斉藤和義にとってライヴはなくてはならないものなのだろうか?(馬鹿みたいな物言いで恐縮だが)それは彼がライヴ好きだからに他ならないと思われる。本作『ROCK’N ROLL』のM1「Cheap & Deep」になずらえれば、この歌詞に出てくる《青いザリガニ》に似たものと想像してもいいのかもしれない。この歌詞の主人公が《「オレはコイツを捕まえたい」》と思ったことと同じく、“オレはライヴがやりたい”ということに尽きるのだろう。幸いにもライヴは《三日もするとあっけなく》死ぬこともないし、仮に《みんなもすぐに忘れた》なんてことになっても、レコードにしておけば思い出してもらうこともできる。まぁ、《青いザリガニ》の例えはやや強引にしても、これに続くM2「Are you ready?」の歌詞にある《エキサイトする心臓》を得られるもののひとつが、彼にとってはライヴであることは間違いなかろう。《さよなら/欲まみれのガラクタ》という歌詞もあるが、これを引用すれば、数多の役に立たない物質よりも、ハートが興奮する場を欲して彼はライヴを続けていると言えるだろうか。

 また、M2では《思い出してごらんよ あの日のロックンロール》《声が枯れるまで ボクは歌うロックンロール》とも歌われている。どこまで意識してアルバムタイトルをつけたのかは分からないけれど、M2の歌詞と本作のタイトルである“ROCK’N ROLL”が直結しているのは偶然でも適当でもなかろう。

 斉藤和義がライヴ好きというのは(たぶん合っていると思うが)筆者の推測に過ぎないけれど、とりわけバンドサウンドが好きであることは、本作からはっきりとうかがえる。1998年から弾き語りでのツアーを行なっているし、前述したライヴアルバムにしてもその弾き語りツアーを収録したものが何作もあって、そんな彼が今回選んだのがバンドスタイルであるからして、“何を当たり前ことを!?”と呆れ気味のツッコミもあろうが、斉藤和義のバンドサウンド好きを確信するのは、そういうことばかりではない。何よりも本作に収められた音像である。ここで鳴らされているのは、どれもこれもこのメンバーでしか出せないものばかりであると断言していい。

 分かりやすいところで言うとM7「わすれもの」。9thアルバム『NOWHERE LAND』(2003年3月発表)収録版では、ストリングスが奏でる印象的なメロディーが楽曲全体を引っ張っているが、M7ではそれを斉藤和義自身がピアノで弾いている。シーケンサーを使うこともできるだろうし、それこそミュージシャンを追加することもできただろう。でも、それをせずに、同じメンバーで、あくまでも人力でやっているところに斉藤和義の嗜好を感じるのである。

 アコギ基調のオリジナルとは異なるキレキレのエレキギターで迫るM3「ジレンマ」。オリジナルのようにホーンセクションを重ねていないぶん、ギターが凶暴さを増したようなM5「ポストにマヨネーズ」。これらのようにはっきりと初出音源とのサウンドの違いが分かるナンバーもまたバンドならではの妙味だが、そこまでの差異はなくとも、このメンバーならではのテンションを感じ取れるナンバーもある。

 注目したのはM10「幸福な朝食 退屈な夕食」とM11「COLD TUBE」。M10はライヴアルバム『Golden Delicious Hour』にも収録されており、それと聴き比べてみると面白い。『Golden~』版は明らかに“走っている”。それもまたライヴならではと言えるだろうが、この『ROCK’N ROLL』版は初出である5thアルバム『ジレンマ』(1997年2月発表)版を踏襲している印象だ。決して落ち着いているとかそういうことではなく、この楽曲が本来持っている内に秘めた感情を見事に表現しているようなテイクである。スタジオ一発録りの良さが出たと言えるのかもしれない。

 一方、M11は有観客ライヴ演奏さながらの熱の入った演奏を確認できる。聴きどころはアウトロで間違いない。初出の7thアルバム『COLD TUBE』(2000年3月発表)版も一発録りと思しきテンションの高い音像だが、M11はそれを凌駕する勢い。各パートが活き活きと演奏している様子が伝わってくるような音であり、それらフリーキーな演奏が絡み合っていく様子は、まさにバンドサウンドの極みと言えよう。メンバーそれぞれの演奏が合わさって起きる化学変化。それを本作においても求めていたことを圧倒的に感じざるを得ないM11である。

OKMusic編集部

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