ヴァイオリン成田達輝にきく『Best
of チャイコフスキー』 飯森範親&
日本センチュリー交響楽団によるオー
ル・チャイコフスキー・プログラム

ザ・シンフォニーホールで2023年5月13日(土)に開催される『Best of チャイコフスキー』は、飯森範親&日本センチュリー交響楽団によるオール・チャイコフスキー・プログラム。なかでも、近年、一柳慧の最晩年の「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」を世界初演するなど、現代音楽の演奏にも傾倒し、ますます個性的な活動を繰り広げている成田達輝の弾くヴァイオリン協奏曲は、特に注目である。
――今回演奏されるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲についてはどういう印象をお持ちですか?
とにかく難しいですね、体力的に。第1楽章が大変です。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の広がっていくところの全部のパートをヴァイオリン一人で弾くような大変さ(笑)。独奏ヴァイオリンが全部のパートを任されて、全部を背負い込んで、テンションを保ちながら運んでいかなければなりません。とにかくヴァイオリンは休みなくずっと弾いています。一方、第3楽章はテンポよくいけて、緩急をつけて楽しく弾けます。
チャイコフスキーでは同じフレーズを何度も繰り返して説得する音楽という意味合いが強いですよね。そういうことを意味論的に深くやろうとすると大変ですが、そうやることでチャイコフスキーの現代性が出るんじゃないかと思います。自分が目指しているのは作品自体が目の前に現れてくるような演奏です。
――ヴァイオリン協奏曲のどのようなところに魅力を感じますか?
まず、第1楽章のドイツ・ロマン派的な深淵なところでしょうか。チャイコフスキーのより芸術性の深いものにしようという取り組みが尋常ではありません。第1楽章には底知れない深さがあります。そして、第2楽章の歌心、第3楽章のトレパックの速くて楽しい快活なリズム、ですね。第2楽章のわかりやすさ、3楽章の楽しさなど、初めて聴くようなお客さんも楽しめるようにバランスをとって書かれているのではないかと思います。
――チャイコフスキーにはどういうイメージをお持ちですか?
チャイコフスキーは、ヨーロッパ音楽への整合性を図ろうとして、ヨーロッパ的な技術を身につけていて、でもそこに載っているのはロシアの民族的な要素、という感じがします。
ヨーロッパの現代的な書法で書いているけれど、そこに日本の心、日本的なタイトルや日本の間を入れている細川俊夫さんと似ていると思います。
チャイコフスキーは、現象学的な、1小節目があって、2小節目があって、その次が生まれるという時間の順番を満たす論理性があります。そして、ワーグナー的な半音階を使い続けて、何度も同じフレーズを繰り返して、引き伸ばして、長大なメロディを作っています。
――今回の演奏会で成田さんが伝えたいことは何ですか?
今、音楽がサブスクになって価値を失いかけていますが、コンサートに行って、生の音を浴びて、音のレトリックを理解してもらいたいですね。そしてチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のような古典的な作品は素晴らしいということ、良いものは時代と関係ないことを知ってほしいです。
やっぱりいい曲ですよ。第1楽章の独奏ヴァイオリンの出だしのメロディ(28小節目)、最初がシンコペーションですよ。次の小節はそうではない。リズム的によく考えられています。それをむげにはできません。そういうことを伝えたい。
――今回は、飯森範親さん&日本センチュリー交響楽団との共演ですね。
飯森さんとは17、18歳のときから共演しています。コンチェルトのときは、職人的な腕前で、ぴったりとソリストにつけてくださるという印象があります。ソリストにとってやりやすいマエストロです。再会が楽しみです。
日本センチュリー交響楽団とは、以前もチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演しました(2017年11月)。アラン・ブリバエルさんの指揮でしたが、リハーサルも含めて、すごく面白かったのを覚えています。
――最近は、昨年亡くなった一柳慧さんの「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」やデヴィッド・ラングのオペラ「note to a friend」の初演を手掛けるなど、現代音楽の演奏に熱心に取り組んでおられますね。
もともと同世代の作曲家が何を考えているのか、どんなクリエーションしているのかが気になっていまして、作曲家の山根明季子さん、梅本佑利さんとともに日本のポップアートと現代音楽を接続するための芸術団体を立ち上げ、坂本龍一さんに「mumyo」と名付けていただきました。「mumyo」は、清少納言の「枕草子」のなかに出てくる、女人たちが掻き鳴らしていた無名という琵琶から採られています。ヨーロッパの現代音楽の潮流にのっかるのではなく、ポップアート的な視点でミニマル音楽以降の流れを再解釈しようと思っています。1年に2公演を計画していまして、4月2日(公演終了)のコンサートのために8つの無伴奏ヴァイオリン曲を書いてもらいました。
――今回の演奏会への抱負をお聞かせください。
演出家の笈田ヨシさんともお話したのですが、表現者には2通りあって、一つは作品を通して自己表現する人、もう一つは作品のなかに入り込んで作品を体現する人。自分は後者でありたいと思いますが、人の心に残るものを作りたい。チャイコフスキーの書いた本来の音楽が、作品のみが、その場所に立ち上ってくるような演奏をしたいですね。

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