柴田英里(撮影/武馬怜子)

柴田英里(撮影/武馬怜子)

現代美術家〈柴田英里〉インタビュー
:彼女が“暴論”を吐き続ける理由【
後編】

柴田英里氏ーーポリティカル・コレクトネス(政治的な公正さ)に関する“炎上”が勃発している中で、異色の存在感を放つ現代美術家だ。時に暴論めいた問題提起を行い、“良識派”とされる人々の反感を煽り続ける彼女は、いったい何を思って挑発を続けるのか。【後半記事】
(※このインタビューは2021年4月に行われたものです)
【前編記事「現代美術家〈柴田英里〉インタビュー:彼女が“暴論”を吐き続ける理由【前編】」はこちら】
杉田水脈議員の生産性発言について――日本における#Metooの先駆けである伊藤詩織さんを敵視するスタンスで、「LGBTは『生産性』がないのです」という発言で炎上した自民党所属・杉田水脈議員にも、独自の評価をされていますよね。
柴田英里(以下、柴田) 杉田水脈みたいな、ああいう屈折は、当事者の領域でもある種「くそレズ」的価値観としてあります。あの人って女子校出身で、かっこいい女性の先輩に憧れもしたけど、「私は女なんだから男の人と結婚して、子どもを作らないといけない」って必死にがんばって思い込んで今の道に行ってる人だから、あの人が「男同士、女同士はおかしい」って言うたびに、非ノンケ的くそレズしぐさだなって(笑)。燃えるのもわかってて、あえてアレを言わざるをえないっていうのも、クイア(※4)だと思うんですよね。
――ご本人に「クイアですね」っていったら顔を真っ赤にして怒りそうですが……。
柴田 「社会に貢献したい」とか「生産性を向上させたい」っていうマイノリティも、そこまで多いのかは疑問です。もちろん餓死したり、補償を受けたいのに受けられないのは、社会的な問題として是正されたほうがいいと思いますけど、もともと社会の生産性なんてクソくらえって思ってる人もいて、彼彼女らに、「あなたたちは可哀想な存在じゃないですよ! 怒れ!」って言ったところで、「そうですね、生産しないですね、フリーライダーですみませんね」で終わる話。杉田発言が無条件に燃えることが親LGBTなのかは考えた方がいい。
――自覚的か無自覚かはさておいて、人々が杉田水脈を叩く本意も、実は別のところにあるのではないかと。
柴田 広告批判なんかも、まさにそうだと思っていて、実際には不愉快だから撤去してほしいだけなのに、ジェンダーを都合よく利用してる。「宇崎ちゃん」の献血ポスターだって、キャッチコピーとしては下手くそで、広告的に見れば不愉快でしょうけど、それをジェンダーの問題にすり替えちゃってる人がいる。あれ、よぼよぼのオジイサンが言っていても、反感を買いますよね。
――そういうことを言うと、男女差別に日々憤慨しているフェニミストの方たちの怒りの矛先が向かってきそうですが、「名誉男性」とレッテルを張られることについてはどう思いますか?
柴田 「名誉男性って、どのような基準で決めてるのか教えてください」って言っても、誰も教えてくれないんですよね。それこそが客観性じゃなくて、自分の認知の上で主観性で他者を判断してる証明だと思うので、「イエーイ、名誉男性です」って言いたくなっちゃう(笑)。

インセルとフェミニズムの共通点――強い……一方で、ミソジニックな女性差別主義者の男性たちから、柴田さんの発言を利用されるのも、それはそれで不本意だったりしませんか?
柴田 正直、なんとも思わない。実はインセル(※5)の主張なんかは両義的で、表面的には女性差別言説でしかないんですけど、逆走してフェミニズムみたいになってるところがあるんですよ。かつてフェミニズムは、一対一の異性愛の規範的な家庭を、ラディカルに壊そうと闘っていた頃があったんですが、インセルの「すべてのモテない男に女をあてがえ」っていうのもラディカルな破壊です。だって、「人間としてやっていくことはどうでもいいんだ、俺は動物として繁殖したいんだ」って、もはや「人間」であることからの撤退ですよ(笑)。この人たちの意見を100パーセント尊重すると旧来の社会規範は壊れるし、「動物」的欲望も無視できない。
――一部のフェミニストが、男性性の被害者という立場で、インセルを敵視していることについてどうお考えですか。
柴田 いまの権力の非対称性でいうとインセル側のほうがどう考えても小さい。彼らはツイッターで過激につぶやいて、たまに凍結されるくらいじゃないですか。かたやフェミニズムは、ハフポストやバズフィードみたいなメディアをはじめ、日々トレンドワードとして出てくるものです。いま、フェミニズムが必ずしも弱いかと言ったらそうじゃない。各自治体に女性センターはあるし、自民党の政権でも女性活用とか男女平等がアジェンダとして入っていて、政府や学校や会社で“正しいこと”として動いている。組織力も財源だってある。それって権力側に入ってることじゃないですか。
――「気持ち悪い」に代表される感情論や被害者意識、いわゆる「お気持ち」が、ポリコレ的ジャッジメントのベースになっていることに対して反発していると。では、そんな柴田さんが「気持ち悪い」と思うものを教えていただけますか。
柴田 気持ち悪いと思うのは、日曜日にディズニーランドに行ってる家族。「この人たちは、セックスとかしてることを隠しながら、健全な家族っていうパッケージを運営されてるんですね」って。仲人みたいな人も嫌ですね。勝手に人と人をくっつけようとしたりとか、あれのほうがよっぽど社会のハラスメントっぽいよな。あとは、ナラティブっていうんですかね。勝手に物語的に、「ほら、こんなかわいそうな人がいた」って掲げて、社会を良くしようと思ってる人は、わたしの敵なのかもしれないと思うし、それを推し進めるメディアは気持ち悪い。「政治的にこれが正しい、これで誰かを叩ける」って、これまでフェミニズムとかが蓄積していた財産を、メディアが一部都合よく切り取りながら拡散していく状況はすごく短絡的だし、嫌だなと思います。
【前編記事「現代美術家〈柴田英里〉インタビュー:彼女が“暴論”を吐き続ける理由【前編】」はこちら】
取材・構成/大泉りか撮影/武馬怜子初出:実話BUNKAタブー2021年7月号(※4)「クイア」……もとはセクシャルマイノリティに対する侮蔑語として使われていた言葉だが、近年、旧来の性規範に違和感を覚える立場から、マイノリティ自身によって自己肯定的に使われる言葉となった。(※5)「インセル」……望んでいるのに恋愛やセックスのパートナーを持てず、自身が性的な行為に至れない原因は、対象である相手側にあると主張するインターネット上の人々のこと。PROFILE:
柴田英里(しばた・えり)
現代美術家(彫刻中心)・文筆家。1984年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻領域修士課程修了。著書に『欲望会議「超」ポリコレ宣言』(千葉雅也、二村ヒトシとの共著。KADOKAWA刊)。主な論考に「いつまで“被害者”でいるつもり?──性をめぐる欲望と表現の現在」(『早稲田文学増刊女性号』筑摩書房刊)など。
Twitter @erishibata

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