岸谷五朗、コテコテの関西弁でシェイ
クスピア喜劇に挑戦ーー『歌うシャイ
ロック』のおもしろさは「本家だけで
は味わえない」

数々のTVドラマや映画に主演する一方で、寺脇康文とともに主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」では、作家・演出家としても活躍している岸谷五朗が、14年ぶりに外部の舞台に出演。2月9日(木)を皮切りに、南座、博多座、サンシャイン劇場にて、鄭義信作・演出の音楽劇『歌うシャイロック』で主役のシャイロックを演じる。同作は、シェイクスピアの名作喜劇『ヴェニスの商人』を、悪名高きユダヤ人高利貸しのシャイロックの視点から描き出した作品。しかも全編関西弁で、歌も踊りも満載という、エンターテインメント性も高い世界になるそうだ。大阪にてプロモーションを行った、岸谷のインタビューが実現。取材前に行われた取材会での発言も交えながら、その声をお送りする。
岸谷五朗
■芯の強さやテーマが自然とあふれ出すのが、鄭義信作品の魅力。
──地球ゴージャス以外での舞台出演は、2008年の祝祭音楽劇『トゥーランドット』以来。そして出世作の映画『月はどっちに出ている』(1993年)からコラボレーションしてきた鄭義信さんと、舞台ではまだタッグを組んだことがなかったというのが、どちらも意外でしたね。
作・演出をしていると、俳優として表に出ている公演より何倍も時間がかかるので、スケジュールがパンパンなんですよ。だから時間が取れる時期にお話をいただけたのは、本当にラッキーでしたね。「やっとできる!」という思いもあるけど、すごく特別な緊張感もあります。義信さんとは、地球ゴージャスの『クインテット』(2001年)というオムニバス公演で、作品を書いてもらったことがあるけど、舞台でがっぷり組むのは本当に初めてです。
──岸谷さんを主演にしようと思った理由は、義信さんから聞いていますか?
いや、そんな話はしてないかなあ。「こういう芝居をやるけど、どうですか?」と言われたけど、久しぶりに会えたものだから、関係ない話ばっかりしていた(笑)。でも義信さんの作品がおもしろいことは、よくわかってますから。僕も義信さんも演劇の人だから、本来なら一番最初にタッグを組んでいるべき世界が、一番最後になったのはおもしろいなあ……という話になりましたね。
──『月はどっちに出ている』もそうでしたが、岸谷さんと義信さんの脚本には、不思議な相性の良さというか、他にはない相乗効果が生まれることが多いですよね。
義信さんの脚本は、個性的なキャラクターたちの会話によって生まれるコメディの要素が強いですよね。でもそれは、物語の外側を構築していく材料であって、最終的にはその中にある、芯の強さみたいなものがあふれ出てくる。それは多分、鄭義信の中にある強さで魅力なのだと思います。
──直接的に何かを主張するわけじゃないけど、ふとした瞬間に社会の闇とか、人間の普遍的な悲しみとか喜びとかがあふれ出てくるというか。
わかりやすく強い言葉を重ねなくても、作り出すキャラクターがその信念を持っている。そうすると自然と作品自体に、その強いテーマが現れて、どんどん濃くなっていく……という感じなのかな。長く付き合ってるから、その楽しさを僕は自然にわかっていると言っていいのかもしれないです。
──ちなみにシェイクスピア作品には、何か関わったことはあるのでしょうか。
20代の頃に新宿シアターモリエールという小劇場で『ハムレット』をやったことがあります。その時は(ハムレットの友人の)ホレイショーを演じたのだけど、最後にホレイショーが笑って勝つみたいな脚色をしていました。
岸谷五朗
──ホレイショー黒幕説! それは観てみたかったですね。シェイクスピアにはどういうイメージがありますか?
今回の作品もそうですけど、作り方や俳優の言い方ひとつで、その台詞の意味がまったく変わってしまうという、曲がり角がたくさんあるところですよね。だからおもしろいし、何回同じ作品を演じていても観ていても、飽きることがないのだと思います。今回は台詞を関西弁にしたことで、より滑稽さや親近感が感じられるようになったし、関西弁のリズムとかノリとかが、響きとして心地よくなっていると思います。
──高利貸しの人が関西弁というのは、リアルさが増しますよね。
『ナニワ金融道』とかね(笑)。以前NHK連続テレビ小説の『てるてる家族』(2003年)で父親役を演った時に、関西弁は相当特訓したから、今回はかなり楽ではあります。その時には使うことがなかった、コテコテの悪い関西弁がいっぱい出てくることが、今は楽しいですね。
──そういえば「音楽劇」ということですが、どれくらい歌われるのですか?
そんなにたくさんは歌わないですね、僕は。でも舞台を観ていただくと「あ、『歌うシャイロック』はこんな意味なんだ」ということが、わかっていただけると思います。
■きちんと悪役でありつつも、時代の犠牲者に見えてくるように。
岸谷五朗
──『ヴェニスの商人』ではヒールのシャイロックを主役に据えたことで、どんな効果が生まれているのでしょう。
あの時代の英国では、ユダヤ人はひどい差別や迫害を受けていました。主人公のアントーニオという正義の味方すら、平気で差別的なことを言う。そんな状況で、シャイロックはこの仕事で生きるしかなかったということが、彼を主人公にしたことで浮かび上がってくる。「これだったら仕方ないだろう」という開き直りと、人生に対する憤りが、そのままエネルギーにつながっているのです。これだけ多面的な面白さは、原作だけでは楽しめないと思います。
──このシャイロックを演じる時に、押さえておきたいポイントはありますか?
悪徳高利貸しだという、その見え方は変わっちゃいけないと思っています。さっきも言ったように、シェイクスピア作品は作る人や演じる人によって何変化(へんげ)もするし、お客様のとらえ方も変化する。という時に、まずはきちんと「ヒール」という役割が見えた方が良い。そこを深く掘り下げていけば、シャイロックがより時代の犠牲者に見えてくるはずです。
──最初から「実は悪い人じゃないんですよ」オーラを出しちゃうと、作品がブレてしまう。
そうですね。あくまでもヒールとして同じ台詞を吐いた上で、その裏側にあるもうひとつのシャイロックをどう見せていくか? ということだと思います。あと原作ではそこまで描かれていない、娘のジェシカとの関係性も浮き彫りになっています。台本を読んだときには「なんて可哀想な親子なんだろう」と思いましたよ。
岸谷五朗
──2020年以降、いろんな舞台が中止になったり、あるいは波をくぐり抜けて上演されたりしましたが、岸谷さんの作品は中止が多かったという印象があります。
2020年から4作品に関わったのですが、コロナ禍が始まった頃にやっていた『星の大地に降る涙 THE MUSICAL​』は、東京の8ステージだけで中止になりました。翌年の『ザ・プロム』も大阪公演は大道具を建てた所で公演が出来なくなり、次の『クラウディア』も、東京公演が1週間ほど中止となりました。この前の(日本版演出協力、上演台本​を担当した)『キンキーブーツ』で、やっと全公演ができました。
──2年越しでようやく完走がかなった。
コロナが出始めた頃は「何がなんだかわからないから、公演を止めなきゃいけない」みたいな状況だったんですよね。毎日毎日「お客さんを入れていいのか?」と会議している状態が幻想のようでした。舞台は絶対に穴を開けない、絶対に続けるものだと教わって生きてきた我々が、公演を中止にするというのが「え、本当の話? これ今、夢見てるんじゃないの?」という気持ちでした。本当に悪夢です。
岸谷五朗
──そんな状況を経て、演劇への向き合い方が変わった点はありますか?
大千秋楽を迎えるというのは奇跡的なことだし、我々はいつも本当に貴重な時間を過ごしていたんだということを、再認識させられたというかなあ。昔はもっとその時間を、軽視していた気がします。一公演一公演だけじゃなく、稽古の一時間一時間が、本当にかけがえのないものであったということは、コロナが気づかせてくれたことですね。だからおのずと、「ああ、この人たちと芝居を作るんだ」と出会ったことの大切さを、もっとしっかり感じていかないともったいないなと思っています。
──観る側も「これが最後の公演になるかもしれないから、ちゃんと大事に観よう」と思いながら観るようになりました。
ですよねえ。「また劇場にいけなくなるかも」と思いますもんね。
──そんな思いも込めまして、観劇のお誘いの言葉をお願いいたします。
『歌うシャイロック』はもちろん喜劇ですが、シャイロックを主人公にすることで悲劇の側面も浮き彫りになるから、シェイクスピアをよりおもしろい角度から楽しめます。しかもそれが、音楽劇というエンターテインメント性も持っているという。まだ劇場に安心して来られる状況ではありませんが、笑って泣いて五感を揺さぶられて「やっぱり演劇はおもしろいね」と思ってもらえるように、我々は頑張って作りますので、ぜひ劇場にいらしてください。
岸谷五朗
取材・文=吉永美和子 撮影=高村直希

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