Noismの井関佐和子&山田勇気が語る
、新体制と金森穣 演出振付による新
作『Der Wandererーさすらい人』

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する、日本初の公共劇場専属舞踊団 Noism Company Niigata(Noism)が、2023年1月20日(金)~2月26日(日)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈スタジオB〉、世田谷パブリックシアターにて、新作『Der Wandererーさすらい人』(演出振付:金森穣)を上演する。Noismでは2022年9月より新体制が発足。2004年の設立以来芸術監督を務めてきた金森穣が芸術総監督に就任し、国際活動部門芸術監督を井関佐和子、地域活動部門芸術監督を山田勇気が担う。井関と山田に新体制や新作について聞いた。

■2022年9月から新生Noism始動!
――井関さんはこれまでNoism副芸術監督の任にありましたが、このたび国際活動部門芸術監督としてプロフェッショナル選抜メンバーによるNoism0とプロフェッショナルダンスカンパニーNoism1の事業企画を担当し、国際的視座に立った舞台芸術製作および国内外のツアー公演等の芸術面の責任を担います。就任への思いをお聞かせください。
井関佐和子(以下、井関):記者会見でもお話ししましたが一度お断りしました。穣さんがやってきたことは、あまりにも偉大すぎる、荷が重すぎると感じていたからです。しかし穣さんと私は違います。目指す方向は理解した上でやり方は「違っていいんだ」と腑に落ちたので引き受けることにしました。でも大変ですね。舞踊家たちと向き合った責任が最終的に自分にかかってくるプレッシャーに日々押し潰されそうです。そうした中、スタジオ内に同じNoism0の山田勇気がいてくれる心強さも感じていますね。スタジオ外ではスタッフに本当に助けられています。
井関佐和子
――山田さんは地域活動部門芸術監督として、研修生カンパニーNoism2を率いて、市民向けオープンクラスや学校公演、市内イベント参加といった活動を通して地域に根差した活動を進めていきます。Noism2専属振付家を経てNoism2、そしてNoism1のリハーサル監督を務めていましたが、現在のポジションに就かれての印象はいかがですか?
山田勇気(以下、山田):僕は時間をかけて段階的にここまできました。以前までの活動の中で地域活動の可能性を感じていたので、地域活動部門芸術監督のお話をいただいたときは「やってみます!」という感じでした。地域活動が活発になり、Noism2が町のお祭りやイベントへの出演が増えることは、地域の活性化や踊りを広く知ってもらうためにも大切ですが、彼らにとってもいい経験になります。それとともに、踊りを体験してみたいという人たちに向けたワークショップを開いたり、オープンクラスをしたりすることによって、様々な出会いが生まれ、僕たちがこれまでの活動で見出した身体知を広くいろいろな方に伝え、共有することができるようになりました。加えて、視覚障がい者の方など、これまでは出会うことがなかったような方々と踊りを通じて触れ合うことで、相互に身体や社会に対して学びがありました。
山田勇気
――金森さんが芸術総監督として構えていて、国際活動部門の井関さん、地域活動部門の山田さんが部門監督として両輪。図にするとトライアングルの関係で支えていくのですね?
山田:そうですね。ただ何よりもまず舞踊家としての信頼があるのだと思っています。もし活動をする中でちょっと疑問に思うことがあったとしても、一緒に踊ってきたという身体的な共感があるので、そのうえで意見を伝えたり、任せたりすることができます。
井関:身体的な共感がベースにあるからこそ部門を超えて信頼しています。
山田:僕は日本でしか踊っていないし、もともとバレエもやっていませんでした。ただ大学でダンスを始めて、地域のイベントやお祭りに出たりしていました。僕がNoismで具体的にどのように貢献できるかというと、地域の人たちや踊りをあまり知らない人たちに対して、わかりやすく面白くその魅力を伝えることなのかなと。いっぽう佐和さんは僕からみると凄い存在で、国際的に活躍してきた舞踊家です。言葉のいらない舞踊って国際的なものだと思うんです。そういう人が新潟を拠点にして何かを創る。それぞれのよさを活かせるといいのだと考えます。
【2022/9/1 Noism Company Niigata 新体制会見】
――金森さんは会見の際、「世界の中で金森穣の芸術性およびその芸術的活動について誰よりも理解している二人なので」と井関さん、山田さんへの依頼理由を説明しました。金森さんの芸術と活動を引き受けた上で、Noism=金森穣とは違う方向性を探るのですよね?
井関:Noismにとっての課題は「Noism=金森穣を打破しないといけない」ということなのです。新潟にNoismがあるということは、私たちが個人的にやりたいからやっているというのではなく、「この国に、レジデンシャル制度に則ったカンパニーが存在し継続していくことができる」ということを明確に示していかなくてはならない。そのためにはNoism=金森穣を打破しない限りは進めないのです。今やっとその一歩を踏み出した感じはありますね。
山田:難しい問題ではあります。一人の人間に頼ることによる限界もあるし、どうしようもなくなる時がくるかもしれません。でも、その時に「終わり」とならないようにしておかないと、この国では劇場専属舞踊団は消えてしまって、結局何も残らないんですね。
『DerWanderer-さすらい人』/井関佐和子インタビュー
――新体制になって、カンパニーの日々に変化はありますか?
井関:穣さんに変化があると思います。今度の作品『Der Wandererーさすらい人』は、一人ひとりにソロを創ることから始まっています。これまでの芸術監督としての立場ではなく、演出振付家としてどのように彼らと向き合えるかという挑戦です。そういう考え方が出たこと自体が変化です。ただし舞踊家たちは引き続き「穣さんが見てくれている」という安心感が強いので、そうではない危機感を作っていけたらなと私自身思っています。
山田:僕から見ても変わってきたと思います。スタジオの中でも、今までは穣さんが振付家として芸術監督として前に一人いて、それと対峙する舞踊家がいるという感覚が強かった。でも、いまはいつも佐和さんが前にいて、穣さんは振付家としての役割を徹底したいという意識をもってやっているように見える。そういう体制のバランスは変わってきていますね。
Noism 19thシーズン(2022/2023)メンバー
――それぞれのカンパニーのダンサーとの関係に関しても変化はありますか?
井関:私は公私ともに穣さんと一緒なので、これまではメンバーたちに「私に話をしに来てね!」といってもどこか遠慮して来にくかった部分があると思うんです。でも体制が変わってからは、悩んだりしたことを聞いてくる子が増えました。私自身も新しい立場になり、アドバイスを思った時にするようになっています。私は本質的には父親的な性格なので、本当は母親的なリハーサル監督がいたらとも思うんですけれど。とはいえ、穣さんや振付家と舞踊家の間に立つ役割ですので、私の性格には少ない母親的な部分を少しずつ出していければと思っています。
山田:前よりも話しやすい雰囲気になっているところはあると思います。部門芸術監督という役割が付いたことで、僕たちも一歩踏み出していい状況になったというのはありますね。
>(次は)注目の新作『Der Wandererーさすらい人』を語る!
■金森穣の新作『Der Wandererーさすらい人』に向けて
『Der Wandererーさすらい人』フライヤー表面
――新体制での第1弾が、先ほど話題になった金森さん演出振付による新作『Der Wandererーさすらい人』です。シューベルトの歌曲を扱い、出演者それぞれにソロが用意されているそうですね。井関さん、山田さんはNoism0として出演します。まず井関さん、国際活動部門芸術監督という立場として、上演の狙いをお聞かせください。
井関:就任前にさかのぼりますが、穣さんはスタジオの小さい空間で創りたいという話をしていました。当初は新作の会場としてりゅーとぴあの劇場を押さえていたのですが、急きょスタジオ公演に変更するために制作に動いてもらいました。今回の作品にはどこかに金森穣の夢や希望みたいなものが込められている気がします。一人ひとりがプロの舞踊家として舞台に立ち、本当に一人で踊る時、お客様とどう向き合えるのか。新潟では11公演あるので自分が成長していく過程も見えますし、穣さんも客席側で観ていて分かると思うんですね。何かが成功した、失敗した、という風な表面的な事柄ではなく、彼らには舞台に立つ人間の儚さや脆さや尊さを感じ取ってもらいたいです。
シューベルトの歌曲に関していえば、穣さんは全編を歌曲でいくことに迷っていました。もっと実験的な音楽との2部構成も良いかもしれないと。しかし私は「全曲歌曲でいいんじゃないですか?」と言いました。今までとは違う立場だからこそ率直に言えることがあります。私は金森穣という芸術家が、彼自身何か制約があるときに突き抜けるのを見てきました。演出振付家が上手くいく方法を見つけるのではなく、危ういギリギリのラインでも本当に創りたいものを創ってもらえる環境にしたいです。今回はそこに関しては、少なくとも国際活動部門芸術監督として振付家の背中を押せたかなと自負しています。
そして穣さんには「必ずしも舞踊家全員を使う必要はないですし、必要のないシーンはカットしてください」とはっきりいっています。「作品が芸術的に優れていて、観ている方々にベストを見せられる状況を作ってください」と。Noismとしては質と作品の芸術性が担保されていることが凄く重要です。私も舞踊家なのでメンバーたちの頑張りや痛みは分かりますが、「みんなのために」というのは、お客様からわざわざお金をいただいてやることではありません。
『DerWanderer-さすらい人』/金森穣インタビュー
――シューベルトの歌曲に関して、たとえばどういう曲を使うのですか?
井関:「野ばら」「魔王」のようなおなじみのものありますし、公演名の「さすらい人」も入っています。曲目はウェブサイトに載せているのでご覧ください。
山田:男声の曲もあれば、女声の曲もある。同じ曲で同じ女性の声でも、重たいものや軽いものもある。リハーサル中に曲を変えてみて「その人の踊りに、この声は合うかな?」みたいなトライもありました。
井関:私のあるシーンでは、もともとソプラノの声でやっていたんです。それをある日のリハーサルであえてテノールに変えてやってみたら、さすがに合わなさ過ぎてスタジオ中から爆笑が起こりました(笑)。
『Der Wandererーさすらい人』リハーサル Photo:Ryu Endo
――11人それぞれに1曲はソロがあるということですよね。それに加えて皆さんがさまざまに絡んだりするのですか?
山田:そうです。ソロをつなげただけではなくて、ソロが大きな要素になってはいますが、あくまでNoismという集団としての作品になっています。その中で、"さすらい人"ですから、”一人でいる“というのが一つテーマだったりします。
井関:あくまでも想像ですが、シューベルト自身がさまざまな人に出会っていった人生という目線で追うと観やすいかもしれません。そこに世界で起こっていることや鎮魂がテーマとしてあります。前半が愛にあふれているのに、後半になると死が近くなっていく。初めての通し稽古を観た浅海侑加(Noism1メンバー、Noism2リハーサル監督)が「人生そのものですね」みたいなことをいいましたが、まさにシューベルトの人生そのもの。観終わった時に感じる人の一生の流れや、誰かに思いを馳せることを感じられると思います。

『Der Wandererーさすらい人』リハーサル Photo:Ryu Endo
『Der Wandererーさすらい人』リハーサル Photo:Ryu Endo
――これだけ歌曲で踊る機会は珍しいですね。
山田:そうかもしれません。それにしても歌で踊るって凄いですね。深いところまで入って共感しないと、音楽と一緒に踊ることができない気がします。声って直接的なんですよね。身体が楽器なので、より感情的な部分に触れていったり、共鳴したり。そういう難しさがあります。
井関:私は最近、結構歌で踊っていることに気が付きました。『夏の名残のバラ』(2019年)や『Near Far Here』(2021年)、『お菊の結婚』(2022年)どれも歌曲です。勇気がいったように、歌曲で踊ると一段と深いところに入っていけるので楽しいです。音楽と舞踊家の次元とはもう一つ違うというか、3人で踊っているみたいな感じなんですね。自分が音楽にのせて気持ちよくなっていく変な感情の繋がりみたいなものを歌が切ってくれる。そして、歌が聴こえてきて一体になりそうな時には音楽がそれを切ってくれる。そのバランスが三角関係でおもしろいんですね。あと声って、強弱が凄いですね!
山田:アナログの極みみたい。
井関:歌っている人の声の太さが変わったりする瞬間が楽しくて、それを身体化できないかなと。舞踊と音楽だけだとBGMになってしまうことがあるんですね。逆に歌が入ると、そちらが主役になってBGMにはならないんですよ。でも、歌の方に持っていかれてしまうので、そうすると舞踊である意味がなくなってくるのがあからさまに見えてしまう。
山田:たしかに歌にのっているときに、ピアノとかが水を差してくるんですよね。リズムのないところに急にリズムが生まれることで、ハッとさせられたり。
井関:シューベルトが普通の作曲家とは違うという意味を、身をもって体験しています。
>(次は)さらなる今後に向けて
■さらなる今後に向けて
『Der Wandererーさすらい人』リハーサル Photo:Ryu Endo
――新体制初年度が始まってまだ日は浅いですが、先を見据えてのビジョンを練っておられるかと思います。それぞれが統括する部門の今後の目標・展望をお聞かせください。
山田:Noism2は地域の人に愛されるカンパニーになれたらいいなと思っています。メンバーは現在9人なんですけれど、できればもう少し人数を増やしたいのと、男性も入って欲しいですね。層が厚くなるので上の責任感も強くなります。もう少し大きくして、個々がこの環境で何ができるかを考えて行動できるような集団にしていきたいですね。
あとアウトリーチの場を増やし、新潟市の福祉施設や障がいのある方とのワークショップもしていきたいですね。普段踊りを体験するのが難しい、劇場に来るのが難しい人たちにもダンスを楽しんでもらったり、体験してもらったりすることが、もっとできるといいなと思っています。
それから学校公演を続けていけば、Noismを観て知っている子たちが増えていきます。それがNoismや舞踊、劇場文化にいい影響をあたえてくれるのではないかという希望があります。
井関:夢はNoism0のメンバーが10人いることです。心身ともにNoism0くらいの成熟した舞踊家が複数いることが、プロの集団には重要だと思います。日本ではプロの舞踊家の本質が何なのかが根付いていません。言葉で簡単に語れるものではありませんが、環境を含めまだまだ成熟しているとはいえません。うちのメンバーは皆とても真面目で努力家ですが、プロの舞踊家として踊り続けていくためには「頑張っている」以上のものが必要になる世界です。だからこそ、それに向けて組織を強くしていきたいのですが、国際活動部門という名前には正直まだ負けています。身体も心も磨いて、舞踊家たちが皆この国でプロの芸術家になることが、目下一番大事です。
Noism0『夏の名残のバラ』(2021)  Photo:Kishin Shinoyama
――最後に部門芸術監督と言う立場を離れての質問をさせてください。お二方はこれから一舞踊家として、どのように過ごしていきたいですか?
山田:まだまだ成長していきたいです。身体的にはあきらめなければいけない部分が出てきているのは確かなんですよ。でも音楽の聴き方とか、舞台に立ったときの居方、感じ方みたいなものは、自分のなかで変わってきて、ここ1、2年で成長したのではないかと。Noism0に入って成長した部分もあるんですね。穣さん、佐和さんという凄い二人が先にどんどん行くので、付いていくうちに一緒になれたところがあるんですね。舞踊家としてはまだまだ勉強中です。僕にしかできない表現を見つけていけたらいいなと思います。
井関:若い頃は「有名になりたいです!」「頑張ります!」と答えたり、同僚をライバル視したりしましたが、年齢とともに自然にそうじゃない方向にいくんだなと感じています。戦うライバルでなく、刺激をもらうライバルがだんだん増えていく。勇気がいったように、実際にNoism0として舞台に立っていて、どんどん研ぎ澄まされてきているのを感じます。舞台に立った時の掌握の感覚みたいなものが出てきています。それを、もうちょっとはっきりと掴んでみたいですね。
取材・文=高橋森彦

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