指揮者 山田和樹と大阪4つのオーケ
ストラで、シューベルト交響曲全曲演
奏会を開催

住友生命いずみホールから、一人の指揮者が大阪の4つのオーケストラを相手に、5日間の期間中(内、1日はレクチャー・コンサート)に、シューベルトの交響曲全曲を演奏するというチャレンジングな企画が発表された。
これはコロナ禍において音楽界全体が疲弊している状況を受けて、「ホールとオーケストラが手を組み、大阪の音楽文化に再び明かりを灯したい。」という願いを込めて、住友生命いずみホールが企画。指揮をするのは、世界で活躍する山田和樹。住友生命いずみホールの音楽アドバイザー堀朋平と山田和樹が、企画の狙いや、聴き所などを語ってくれた。
住友生命いずみホール  (c)樋川智昭
山田和樹 当初、住友生命いずみホールとしては1年かけて、大阪の4つのオーケストラでシューベルトの交響曲全曲演奏をやろうと思われていたようで、指揮の依頼を頂きました。それ自体は面白い企画だと思ったのですが、ヨーロッパ在住の私には、その都度日本に戻ってくるのは無理なハナシ。どこかで1週間くらいにギュッとまとまった日程でならお受け出来るとお答えしたところ、奇跡のような調整をされて、今回のスケジュールとなりました。大阪の4つのオーケストラが連日、住友生命いずみホールでシューベルトの交響曲を競演する、何とも素敵な企画です。リハーサルも含めたスケジュールを考えると、どのオーケストラも無理をされている事は容易に想像が付きますが、そうしてでも実現しようと努力された関係者の皆様の姿勢が素晴らしいと思います。
その上で、住友生命いずみホールの音楽アドバイザー堀朋平さんが考えられたプログラミングと、それぞれのプログラムに付けられたコンセプトとストーリーが、シューベルトの人生や音楽観が見える魅力的なものになっていて、センスが光り輝きます。
指揮者 山田和樹  (c)YOSHINORI TSURU
堀朋平 シューベルトの交響曲を1番から順番に演奏していくか、テーマ性を持たせて組み合わせを考えるのか。プログラミングに関して私なりに考えた結果、このようになりました。
1回目は「開かれた扉」と題して、いきなり最もポピュラーにして、衝撃的な作品、交響曲第7番「未完成」と組み合わせる形で、交響曲第1番から始まります。もう一つの未完成、交響曲《ホ長調断章》は、本シリーズの目玉です。シューベルトが開いた音楽の扉は、生き物が脱皮する瞬間のようでもあります。山田和樹さんと初めての顔合わせとなる関西フィルが演奏するこのプログラムを、まずお聴き頂きたいです。
「奔流」と題した2回目は、シューベルト若書きの魅力を味わって頂きます。1番の交響曲が完璧なバランスで書かれているのに対し、2番は敢えてそれを崩し、どの楽章もびっくりするような挑戦に溢れています。4番はハ短調つまりベートーヴェンの調で書かれていて、自ら「悲劇的」と銘打っています。これに対してハ長調の6番は、南国の太陽が降り注いでくるみたいですが、グルーヴ感も凄い。第8番「ザ・グレート」に対して「小ハ長調」と呼ばれることも有りますが、シューベルトは「大交響曲ハ長調」と、自信満々のタイトルを付けています。ベートーヴェンの偶数シンフォニーは、古典的で守りに入ったイメージですが、シューベルトの偶数番号はとてつもないエネルギーに満ち溢れたものばかり。大阪交響楽団が演奏するシューベルトの音の奔流に浸ってください。
若書きの作品は「異界のしらべ」と題した第3回でも続きます。もっとも小規模にして人気の高い交響曲第5番をメインに据え、交響曲第3番と二つの序曲を組み合わせました。シューベルトが好んだ、若々しく駆け上がるニ長調の響きと、オペラ的なメルヘンの世界を、日本センチュリー交響楽団の演奏でお楽しみください。
そして、レクチャー・コンサートを挟んで、4回目は「永遠(とわ)の高みへ」と題して、演奏機会が少ないヴァイオリン小協奏曲と、ハ長調で書かれた奇跡のような交響曲第8番「ザ・グレート」をお聴き頂いて、このシリーズを締め括ります。演奏するのは大阪フィルハーモニー交響楽団。ヴァイオリン独奏は小林美樹さん。シューベルトのヴァイオリン協奏曲はまず演奏されませんので、それだけでも希少価値です。ぜひこの機会にどうぞ。シューベルトの交響曲全曲を通して聴いてみて、初めて見える景色が有ります。この機会を逃すと、こんな機会はまず無いはずです。ぜひ、4日間お聴き頂く事をお勧めします。
住友生命いずみホール音楽アドバイザー 堀朋平   写真提供:住友生命いずみホール
山田 本当なら、各回で指揮者が変わった方が、リスクも分散できると思うのですが(笑)、全部の回を一人で振らせて頂けることは大変光栄です。シューベルトは古典派の伝統を持ってロマン派への架け橋を紡いでいった作曲家。以前から興味を持っていました。これまでに1番以外は指揮した事がありますが、改めてシューベルトに特化した日々を過ごすことになりそうです。
大阪4オケとの共演も話題となることでしょう。関西に来る機会が少ないことも有って、関西フィルとは今回が初顔合わせです。首席指揮者の藤岡幸夫さんと会うたびに、振って欲しいと頼まれていたので、約束が果たせて嬉しいです(笑)。他のオーケストラとも少々ご無沙汰をしています。私が考える、それぞれのオーケストラの持ち味を生かし、そのオケにしかできないシューベルト演奏を目指したいと思っています。本番は一期一会の一発勝負。4つのオケの違いを楽しんで頂きたいですし、全4回を網羅すると、色々な発見もあると思います。このコンサートが大阪の住友生命いずみホールで行われる事に意味を感じます。大阪でシューベルトだけのこんなコンサートをやっているんだと、世界へ向けて情報発信しましょう。堀さんが担当されるレクチャー・コンサートも大変充実した内容ですね。
指揮者 山田和樹  (c)Zuzanna Specjal
堀 3回目と4回目の間に、1日空きがあるので、レクチャー・コンサート「シンフォニーは一夜にしてならず」を企画しました。シューベルトの面白い点は、たとえ交響曲のような絶対的ジャンルも、たえず言葉の世界から音楽を立ち上げたことです。シューベルトの全曲演奏をしている世界有数のシューベルティアン、ピアニストの佐藤卓史さんをはじめ、ソプラノの石橋栄実さん、テノールの福西仁さん、フルートの清水ナツキさんといった豪華なゲストを交えて、「未完成」と「大ハ長調(ザ・グレート)」の秘密を解き明かします。

住友生命いずみホール音楽アドバイザー 堀朋平  (c)樋川智昭
山田 音楽の根本は歌です。楽器演奏の最大の目標は、歌うように、人間の声のように奏でること。稀代のメロディーメーカー歌曲王シューベルトもそのことを意識しています。長調の中で短調を歌い、明るさの中で憂いや哀しみを歌う。音楽の中に光と影が共存し、短調で歌っていても、いつか必ず明るくなるという期待を裏切らない作曲家がシューベルトです。シューベルトの音楽を大阪4オケの皆様と共に楽しもうと思っています。2022年9月、世界中でここ大阪だけが、シューベルトの音楽で溢れます。ぜひ住友生命いずみホールにいらして下さい。
指揮者 山田和樹  (c)Zuzanna Specjal
―― 最後に、大阪の4つのオーケストラからのメッセージを添えておこう。

「やっと巡りあえたマエストロ山田! 熟知した「未完成」の新たな感性に会えるのが、この上なく楽しみ!」 関西フィルハーモニー管弦楽団 楽団長 大野英人
関西フィルハーモニー管弦楽団  (c)樋川智昭
「担当するのは演奏機会の少ない偶数シンフォニー。とてもエネルギッシュなこれらの曲の魅力を、山田マエストロと共に皆様にお届けいたします。」 大阪交響楽団 事務局長 赤穂正秀 
大阪交響楽団  (c)飯島隆
「センチュリーの編成や持ち味が存分に活かせる4曲が並びました。山田マエストロとお届けするシューベルトの魅力をどうぞお楽しみください。」 日本センチュリー交響楽団 楽団長 望月正樹
日本センチュリー交響楽団  (c)Masaharu Eguchi
「大阪フィルの勝負曲「ザ・グレート」で久しぶりに山田和樹さんとご一緒できることが楽しみです。壮大なチクルスのラストを飾れることを誇りに思います。ご期待ください。」 大阪フィルハーモニー交響楽団 演奏事業部長 山口明洋
大阪フィルハーモニー交響楽団  (c)飯島隆
取材・文=磯島浩彰

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