髙木雄也が8役、清水くるみが6役に挑
む二人芝居『東京輪舞』プレスコール
&初日前会見レポート

PARCO PRODUCE 2024『東京輪舞』が、2024年3月10日(日)に東京・PARCO 劇場にて開幕する(28日まで、その後、福岡、大阪、広島を巡演)。
オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラーが1900年に発行した『輪舞』(La Ronde)は、19世紀末の世相を背景に男女の情事前後の会話をリレー形式で描写した作品で、上演を巡っては法廷論争まで引き起こした問題作だったが、人間の普遍的な関係性と欲望を描いており、時代が変わっても支持され続けてきた。
『東京輪舞』はこの問題作を「現在」「東京」に翻案し上演する作品で、台本を山本卓卓、演出・美術を杉原邦生が手掛け、髙木雄也と清水くるみが様々な登場人物を演じ分ける二人芝居として上演される。
初日に先立ち行われたプレスコールと初日前会見の様子をお伝えする。
プレスコール
公開されたシーンは3つ。1つ目は、10代の若い女(清水くるみ)と配達員(髙木雄也)のエピソードだ。女が頼んだフードデリバリーを、配達員が公園に運んできて2人は出会う。若さゆえの無鉄砲さで奔放にふるまう女を、清水が弾けるような輝きで見せ、そんな女に振り回される配達員を、髙木が人のよさそうな柔らかさで表現している。
舞台『東京輪舞』プレスコール
2つ目は、先ほど登場した配達員(髙木雄也)とフィリピン出身の家事代行(清水くるみ)のエピソードで、2人はクラブハウスで出会う。出会ったばかりの男女のリアルな駆け引きの中、お互いの欲望や猜疑心で揺れ動く様が繊細に描かれている。
舞台『東京輪舞』プレスコール
3つ目は先ほど登場した家事代行(清水くるみ)が仕事で高級マンションのダイニングキッチンにいると、その家の息子(髙木雄也)がやってくるというエピソード。真面目に仕事をしながら生きているのに、拭えない卑屈さを抱え続けている女と、金持ちの家に生まれて何不自由なく暮らしている様子で、尊大さも垣間見える男の対比が鮮やかだ。格差社会や外国人労働者など、現代社会の問題が縮図のように現れている。
舞台『東京輪舞』プレスコール
いずれのエピソードも、情事の前と後で変化する関係性が興味深い。東京を舞台にしていることもあり、人間関係のドライさが根底にある分、“濡れ事”の後でもお互いにどこか乾きをキープし続ける様がかえってエロスを漂わせる。性を取り扱った作品だが、山本による「現在」をリアルに反映させた見事な翻案と、杉原によるスマートな演出から、“性”というよりも“生”の営みであると感じられた。

舞台『東京輪舞』プレスコール

演出の杉原が手掛けた美術も印象的だ。「東京」「トーキョー」「TOKYO」など文字情報としてここが東京であることを主張し、「RONDE」のアルファベット型の舞台装置が場面転換では輪舞のように舞台上をクルクルと動き回る。基本的には二人芝居だが、髙木が8役、清水が6役を演じることに加え、美術の存在感と、場面転換時に登場するステージパフォーマーたちが良いアクセントになって、舞台上が賑やかに感じられる。とはいえ、東京らしいクールさや無機質さも同居した不思議な質感の舞台だ。
舞台『東京輪舞』プレスコール
プレスコールで公開されたのは、本編に登場する10の情事のうち3つのみ。あと7つの情事がどのように繋がっていくのか、そして山本が切り取り描いた現代の東京を、杉原がどのように舞台上に立ち上げるのか、期待が高まった。髙木と清水が見せたのはそれぞれ2役ずつ。残りの役でどんな表情を見せるのか、こちらも楽しみである。
舞台『東京輪舞』プレスコール
初日前会見
会見には、出演者の髙木雄也、清水くるみ、作の山本卓卓、演出・美術の杉原邦生が登壇した。
初日を迎えるにあたっての意気込みを聞かれた髙木は「みんなで一丸となって作り上げて来たので、ようやく皆さんにお披露目できるのか、という思いと、早かったなという思いと、ドキドキとワクワクの50/50状態ですが、自分ができることは100%でやってきたつもりなので、早く皆さんに見ていただけると嬉しい」、清水は「1ヶ月強稽古してきたが、あっという間で「もう初日だ」という気持ち。舞台稽古でセットが組まれた中でやって、これは見ごたえがあるんじゃないかな、とセットにまずワクワクしたし、2人でそれぞれ8役と6役やらせていただいて、きっと面白いものになっているんじゃないかなと思うので、精一杯頑張りたい」、山本は「みんなの力が合わさって、日本の演劇史に残るような問題作になっているんじゃないかなと思う。最高!」、杉原は「2人の俳優の魅力を十二分に堪能していただける作品になっていると思う。挑戦的な作品なので、お客様にどのように受け止めてもらえるのか僕らも想像できていない部分もあるが、明日の開幕が楽しみ」とそれぞれ語った。
舞台『東京輪舞』初日前会見 髙木雄也
台本を書くにあたり杉原とはどのような話をしたのか、またどんな思いを込めて書いたのか、と質問された山本は「原作を翻案して欲しいと依頼されたときに、現代の東京に置き換えて、僕の作家性を殺すことなく書きたいものを自由に書いてくれ、と言われた。原作は100年以上前に書かれたもので、当時法廷論争にもなったようなセンセーショナルな部分を大切にしつつ現代の東京に置き換えて、というオーダーを受けた。原作だと男性と女性の二元論で書かれているけれども、これは“今”ではないのではないか、という話を杉原さんからされて、僕も全くそうだと思っていたので、それにとらわれることなく、今東京にいる人たちを描いた」と述べた。
山本の台本を読んでどう思ったか、また稽古で2人の俳優から感じたことについて問われた杉原は「台本を読んで、刺激的で面白いなと感じた。原作を元にしながら、きちんと卓卓くんなりの解釈で、原作を踏襲しながら彼にしか描けない愛とコミュニケーションの物語になっているところがいいな、と思った。第一稿からブラッシュアップしていく中で、稽古が始まってからも稽古場によく来てくれたので、俳優と僕と4人でディスカッションしながら作品を組み立てて行けたことがとても楽しい作業だった。稽古では2人とも飾り気がなくて素直に稽古場にいてくれた。髙木くんは本当にこのまま。芝居していても稽古の休憩中でもずっとこのままで、シームレスに芝居と普段を行き来できる稀有な存在だと思う。くるみさんは思っていることを素直に伝えてくれるので、今どこに悩んでいるのかとか、どういう気持ちで役に挑もうとしているのかということが直に伝わってくるので、2人と作業していてやりにくいところがなかった」と語った。
舞台『東京輪舞』初日前会見 杉原邦生
この作品ならではの難しいところや、相手役について思ったことについて聞かれると、髙木は「8役にチャレンジすることになって、最初は経験がなかったのでどう変えればいいのかわからなかった。声を変えたらいいのかな、とか考えていたら杉原さんが、そういうことは気にしないで入り込んでいけば声とかもその役に近づいていくから、と初期の段階で言ってくださったので、心配せずに自分が思うようにその人で生きてみて、今に至ったという感じ。8役といっても相手をする役がひとつだけではなく組み合わせがいくつかあるので、8役の倍の役があるという感覚でやっていてそこが大変。くるみちゃんは「あそこ、嫌!」とか何でも言ってくれる(笑)。稽古をやっていて楽しかった」、清水は「ひとつの作品で何役かやったことはあったが、6役を1役1役ちゃんと見せるということはあまりなかったので、切り替えがすごく難しいと思った。役をやっているときに一瞬違うキャラが出てきたり、自分が出てきたりしてしまう。二人芝居で基本的に2人しか出てこないのに、8役と6役の差があるのは何でだろうと思っている方も多いと思うが、そこも見どころ。髙木さんはすごくフレンドリーな方で、何でもお互いに言える関係性だと思っている。嫌、と言ったのは山本さんの書いたセリフをちょっと変えていたのが嫌だったから(笑)。そういうコミュニケーションを取れるのがいいなと思う。ずっと喋っていて現場の空気感を作ってくださったので感謝している」とそれぞれ述べた。
舞台『東京輪舞』初日前会見 清水くるみ
髙木と清水の魅力について質問が飛ぶと、山本は「髙木さんは稽古をやればやるほど自分で発見していって、昨日と違う声の響きだったりとかを新鮮に感じながら楽しみながら作業していらっしゃるところに感動した。清水さんはここに行きたいというポイントがあって、そのためにひたすら努力する、という対照的な2人でそのコントラストが魅力」、杉原は「くるみさんは本当に素直にぶつかっていくタイプの俳優さんで、そこが信頼できる。髙木さんはこんな俳優と出会ったことがない(笑)。休憩中にしゃべっているとそのままのテンションで芝居に入っていくから、すごいなと思った。年末にHey! Say! JUMPのライブを見に行ったら、ふとした瞬間に“そのへんを歩いている髙木くん”でステージ上にいて、この感じで東京ドームに立てるんだったら、PARCO劇場のサイズなら絶対に自然体で芝居をしてくれるなと思った」とそれぞれ述べた。
舞台『東京輪舞』初日前会見 山本卓卓
美術のコンセプトについて聞かれた杉原は「今回は東京が舞台で、しかもまず東京のど真ん中の渋谷で上演するということで、舞台上に僕らと地続きの東京の街並みというものをどういうふうに出現させようかと思い、とにかく『ここは東京だ』と言いまくる、ということでデザインした。文字の情報というものが現代社会にはあふれている、というところもイメージできたらと思った。RONDOの文字とかパネルが次々に出てきてシーンを構成していくが、輪舞のように踊りながら空間を構成していくようにできたらと思った」と答え、清水は「一見賑やかだが、ちょっと孤独も感じるセット。この作品が終わって暗転になった瞬間、すごく寂しい気持ちになる。いっぱい人がいるし、いろんな人がいるんだけれども、いい意味でも悪い意味でも孤独を感じるのが“東京”だな、と思っていて、それが台本にもセットにも現れている」、髙木は「セットが動いていくときに、別の物になったり別のシーンになったりするが、でも結局全部一緒な感じが綺麗にまとまっていてすごくいいなと思う」と述べた。
最後にメッセージを求められた髙木は「年齢とか過ごしてきた環境とか今の気持ちとかで、もしかしたら見え方が変わってくるのかなと思うが、今の等身大の自分が見たときにどう感じるかということを大事にしながら見てもらえたら嬉しいなと思います。ぜひ遊びに来てください」と述べ、会見を締めくくった。
舞台『東京輪舞』初日前会見 (左から)山本卓卓、清水くるみ、髙木雄也、杉原邦生
取材・文・撮影=久田絢子

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