北尾亘×中村蓉×五十嵐結也が語る、
ダンスの未来と繋がる広場『DANCE×
Scrum!!! 2022』 まもなく開催

2016年に始まり隔年で開催される、新時代のダンスフェスティバルが4回目を迎える。Baobab PRESENTS『DANCE✕Scrum!!! 2022』が、2022年7月22日(金)~24日(日)あうるすぽっとにて行われる(オンラインプログラムは8月30日(火)に配信)。これまでの3回で総勢41組/150名を超えるアーティスト✕延べ1,000人以上の観客がスクラムを組んできたが、初の“夏フェス”となる今回は過去最多全20組のアーティストが登場。SPICEでは、ダンスカンパニーBaobab主宰で本公演のディレクター北尾亘、気鋭のダンサー/振付家として多彩に活躍する中村蓉、唯一無二のパフォーマーで“ふんどしダンサー”としてブレイクし、話題の舞台『千と千尋の神隠し』などにも出演する五十嵐結也による座談会を行い、『DANCE✕Scrum!!! 』の軌跡や今回の見どころ、日本のダンスの未来への展望を語らってもらった。
■『DANCE✕Scrum!!! 』で生まれた、横の繋がり
――お三方はディレクターの北尾さんを始め『DANCE✕Scrum!!!』の初回から参加しています。北尾さん、2016年に『DANCE✕Scrum!!!』を立ち上げた経緯をお話しいただけますか?
北尾亘(以下、北尾):2013年、僕はまだ20代半ばでしたが、当時のあうるすぽっとの制作の方から「Baobabさんの公演はどうですか?」とお声がけいただきました。その頃、Baobabのスケール的に何ができるだろうかと心配な部分もありました。それに、若手ダンスアーティストたちが作品を創作発表する場が少ないと感じていたので、それぞれの感覚や欲望が存分に発揮されるような、自由なフェスティバルが必要だと考えました。そこから、この指止まれ的にいろいろなアーティスト同士が出会い、お客様とも出会い、繋がる場を設けたいと思いました。
――中村さん、五十嵐さん、初回の印象はいかがでしたか?
中村蓉(以下、中村):亘さんは、チャンスを自分たちのためだけに使わない。その広い視野に感服しました。私だったら絶対に独り占めにすると思う(笑)。今できること、必要なことを見つめて『DANCE✕Scrum!!!』をやると聞いて、素晴らしいな、乗っかろうと思いました。そういう経緯を聞いていたので、安パイなことはせず毎回挑戦しています。
五十嵐結也(以下、五十嵐):凄い。立派ですね!
北尾:イガちゃんは、初回は公募の方にエントリーしてくれたんだよね?
五十嵐:フーちゃん(プロデューサーの目澤芙裕子)から「出してみない?」と声をかけていただいたの。それでエントリーしたんです。だから一応公募扱いではあります。
中村:そうなんだ!
五十嵐:僕は単純にお祭り好きなので、同世代の仲間が楽しいことやろうとしているとこに混ざりたいし、盛り上げたいし、皆で気持ちの良いものにしたい。そんな気持ちでしたし、新しく関係を広げられた良い機会でしたね。
北尾:最初は35歳以下という年齢制限を設けましたが、今は我々がそこに差し掛かっています。当時日本のコンテンポラリーダンスシーンに横の繋がりがあってもいいんじゃないかなと強く感じたんですね。世代ごと前進していくようなコミュニティがないと孤立していく気がして。本音を言えばBaobabがそういう状態だったんです。僕が大学時代にダンス部の活動とかをしていないというルーツもあったので横と繋がっていない。だから慌てて仲を深めました。
――初回時の手ごたえはいかがでしたか?
北尾:企画自体がチャレンジでした。ステージプログラムもあればホワイエプログラムもある。今はコロナで難しいですが、ホワイエ空間がディスコに変わり、ドリンク片手に皆で踊ったり、会話をしたりして繋がれる。必死になって駆けずり回った記憶がありますが、開幕に向けてどんどん熱が高まり、開幕してからもその熱がどんどんと人を介して波及していく感じがしました。
――ホワイエプログラムはフラットな空間で行われるので観客と距離が近いですね。
北尾:あうるすぽっとの舞台に憧れはありましたし、今でも上演する時にワクワクします。でもホワイエプログラムが面白いと言ってくださる方は多いです。
中村:そう、面白いんだな~。
北尾:当初ダンスをもっと身近に感じてもらう意味でも、観客との壁を隔てないことが重要だと考えていました。アクティングエリアも、お客さんがどこに座るかも自由にしていました。クラブカルチャーに近いですね。フロアに音楽がかかっている中で、踊りたい人が踊って、自然に人がスペースを空ける。観たい人は観て楽しむし、ダンサーでなくても音楽を好きな人、ダンスが好きな人は介入できる。コンテンポラリーダンスは「敷居が高い」とか「芸術」「抽象性でしょ?」みたいに言われますが、それだけじゃないと思います。
五十嵐:「よく分からない」っていうやつだよね?
中村:言われがちですね。
北尾:そうではなくて、こちらからパフォーマンスを通して出向いて繋がる! これこそがスクラムの醍醐味です。
――中村さん、五十嵐さんは『DANCE✕Scrum!!!』ならではの面白さは何だと思いますか?
五十嵐:やはり、祭りってとこですよね。コンペティションみたいに堅苦しく無く、ギスギスも無いので、若い子含めそれぞれが伸び伸び自由なことをしていますし、それを快く皆で楽しみますし。僕はこういう企画でも無いと知り合えない人達もいらっしゃるので単純にそれも面白さの一つですね。
中村:私たちの世代の特徴として、割りと仲がいいというのがあります。私はイガちゃんに自分の作品に出てもらったりしますし、逆にBaobabの作品に出て亘さんと踊ったこともあります。でも、それは慣れ合いというよりも「あなたはあなたでいい、力が欲しい時は貸して」みたいな感じ。それって、上の世代にはあまりない気がするんです。年を取ってからではなく、現在進行形で頑張っている人同士がタッグを組む。私たちから下の世代もそういうのを受け継いでいるんじゃないかな。そういった流れに『DANCE✕Scrum!!!』はフィットしていると思います。
北尾:隔年開催だからこそ、慣れ合いにならないという所もあるかな。参加者アーティストを公募していますし、2年経つと繋がりのある同世代のアーティスト同士でも感覚が変化することもあります。だから、この企画はみずみずしく続いているのだと思います。
>(NEXT)初の“夏フェス”も新機軸でチャレンジ!
■初の“夏フェス”も新機軸でチャレンジ!
――4回目の今回は初の“夏フェス”です。北尾さん、コンセプトをお聞かせください。
北尾:『DANCE✕Scrum!!!』自体がチャレンジを更新していくことを目指してきました。2018年の第2回では、ステージプログラムは他ジャンルとのコラボを縛りにしました。2020年の第3回目では年齢制限を解除したんですね。コロナ禍でダンスの灯を絶やさないためには、年齢の縛りよりも活動を続けたいアーティストの情熱を汲み取ろうと考えました。またステージプログラムでも公募を開始し、オンラインプログラムを初めて実施しました。
今回はオンラインプログラムでも公募を行いました。コロナ禍で増えたオンライン配信によって、新たに創作の情熱を映像という媒体に見出した人がいるかもしれないし、東京以外で活動するアーティストにとって東京と繋がる、あるいは世界と繋がることができます。それに2020年だけオンラインに頼ったという一過性のものにしたくないというのが僕の切なる願いです。
北尾亘
オーディエンス賞の創設も新しいチャレンジです。ステージとホワイエとオンラインそれぞれから1つ作品賞が選ばれます。またステージとホワイエからそれぞれダンサー賞も選ばれる。副賞は次回2024年開催での上演・出演権利を予定しています。今はなくなってしまった「トヨタ コレオグラフィーアワード」で、僕はオーディエンス賞(2012年)をいただきました。だから、お客様によって未来へ向けて背中を押してもらえたという感覚が強くあります。また、ダンスはSNSとかの媒体も含めてもの凄く広がっていて可能性にあふれていると感じますが、その折に、お客さんの眼差し、“いいね!”を取りこぼしてはいけない。コロナ禍であることも含めて観客と繋がりたいと強く思ったんです。
五十嵐:素晴らしい!
北尾:我々も本気で狙っていきます!
中村:獲りにいきますよ!
――中村さんは、ホワイエプログラムに池上たっくんと踊る自作『fマクベス』、MOSA/月面着陸として『Adama(Short ver)』(振付:Mario Bermudez Gil)を出しますね?
中村:私は小説や映画に着想を得て創作してきました。物語や登場人物に共感し、心動かされ、それを踊りにしたいという入り方でした。でも『fマクベス』では構造から作品を創り始めたいんですね。シェイクスピアの『マクベス』に「きれいは汚い、汚いはきれい」という言葉があります。英語で言うと「fair is foul、and foul is fair」ですが、fが多いと思ったんですよ。それで原文でfを探して読み始めたんです。すると物語だけを読んできた時とは違う質感とか、デコボコした身体性が湧いてきました。それを池上たっくんと一緒に体で探って創っています。
MOSA/月面着陸の方では、振付家のMarioさん――柿崎麻莉子さんの元同僚なんですけれど――のトリオの作品を私たちで踊ります。入れ替わり立ち替わり計6人、MOSA(柿崎麻莉子、小暮香帆、中村蓉)と月面着陸(真壁遥、Ikuma Murakami、土本花)という、世代が違う3人の組み合わせでやります。Marioさんは、スペインとイスラエルで踊っていた方なので日本とはまた違う感覚があります。砂埃みたいなものを感じる振付をやるというチャレンジをしています。
中村蓉
――五十嵐さんは開幕祭で縁起物を踊るそうですね。
五十嵐:爆笑の渦に巻き込みたいですね! アイツ馬鹿だなー!って楽しんでもらいたいんです。 ちょっと質の高い“宴会芸”という感じでやらせていただこうかな。この素晴らしい企画をお祝いとして盛り上げることができたらいいですね。できれば開幕1番目にやらせていただきたいです。祭りだから。
――北尾さんはステージプログラムでBaobab『或いは、熱狂。』Re:born vol.7を上演しますね。
北尾:もともとは『DANCE✕Scrum!!!』の初回で上演した作品です。昨年から始めたRe:born projectという、Baobabの過去作品を生み直すプロジェクトの中で、次に何を手掛けたいかを考えました。「人が集って熱狂するメカニズムとは何なんだろう」みたいなことを、コロナや様々な出来事によって一変した今、捉え直してみたい。そして今回はカンパニーメンバーとトライアルメンバーのみでRe:bornします。メンバーのみでこの規模は初めてなので、Baobabの新しい切り口になったらいいなと願っています。
>(NEXT)今ダンスをすることの意味、そして未来への展望
■今ダンスをすることの意味、そして未来への展望
――北尾さんはフライヤーに「沈黙しててもしょうがない。世界をダンスの興奮で埋め尽くそう。」と書かれています。今ダンスをすることの意味というか、お三方のダンスで生きる覚悟についてお聞かせください。
北尾:僕はワクワクすることの方が多いかな。『DANCE✕Scrum!!!』と絡めて話すと、蓉ちゃんとイガちゃんとは20代半ばくらいから一生懸命活動を続けてきた同志です。TABATHAの岡本優ちゃんも同世代で、この4人が初回からスクラムをともに育み守り抜いています。20代前半の頃はダンスを続けられるのかどうかも分からなくて、やみくもに場所を探したり、自分で居場所を創ったりをそれぞれに繰り返していたと思います。でも、その時に頑張って蒔いた種が、今どんどん芽吹き始めていると感じます。同志がいて、先輩も後輩も境なくいろいろな人と繋がれる機会が増えている。ダンスシーンの明るい未来を願うと同時に、まず続けられていることの喜びが強いですね。
だから僕らの世代で前進して地ならしたところを後進たちが踏み越えていってほしいですね。その時々の調子のいい人が、こういう企画を立ち上げることによって循環してシーンを機能させていくんじゃないでしょうか。種はいろいろな所に蒔かれているので、希望はあると思います。
中村:コンテンポラリーダンスって、体感できる、グサッとくる早さが魅力的で広告とかにも向いているし、地域おこしにも向いている。ノンバーバルなので強いんです。私自身もオペラの演出・振付だったり、各地や学校でのワークショップだったり、ダンスの可能性を掘り起こし続けています。可能性が見つかって、何か引っかかるという「うれしい」の連続でここまできているので、人生がいくつあっても足りないですね。でも、満たされない自分もいる。そこがアーティストを長く続けていられる人の条件なのかもしれません。マクベスは野望に走ってしまいますが、そうならないように(笑)。なので『DANCE✕Scrum!!!』という、野望も可能性も健全に出せる場があるのは有難いです。
五十嵐:僕は20代後半、「俺って本当にダンサーになりたいのかな?」ってモンモンとしてた時期があったんです。自分が好きなダンスカンパニーや海外の振付家作品のオーディションとか技術が足りなくてよく落ちてたんですけど。自分の骨格とか動き方、キャラクターって、自分が興味を持っているダンスの世界ではノイズになるなと感じることが多く。それだったら、持って生まれ培ってきた「五十嵐結也」というキャラクターを世にアプローチしてったほうが楽しんじゃないか?と思ってからは、“五十嵐”というキャラクターと技術で飯を食ってくぞ!!!っていう覚悟はできましたね。未だに自分の可能性は広がるばかりなので、楽しんでいきたいと思います!
五十嵐結也
――今後に向けての抱負・展望をお願いします。
北尾:いっぱいあるよね?
中村:ありますね!
北尾:『DANCE✕Scrum!!!』は、どこかで僕やBaobabの手を離れていったらいいなと思っています。いい意味で、どんどん散らかして利用してもらっていい。そうすればまた次の景色も見えてくるし、未来に繋がる。『DANCE✕Scrum!!!』がいろいろな人を介して、羽ばたいて、遠くまでいってくれると、その先の未来がより楽しみになります。
中村:私や亘さん、イガちゃん、TABATHAに関しては「今見逃すと、乗り遅れるよ!」と言いたい。侮るなかれ。と言いつつ私も感謝の気持ちを持ち始めているので、「今逃すと取り残されるけれど、でも私たちは頑張り続けるから、いつでも見てね!」という意思表示になればいいな。今回初めてご一緒するフレッシュなメンバーをご覧になれば先物買いになります。亘さんはそこも考えて選んでいると思うので、今までよりもずっと視野の広いフェスになるはずです。こういうことを言ったからには明日からきっちりと頑張ります!
五十嵐:とにかく新しい人たちに共演者として出会えることが楽しみです。
中村:6年前のイガちゃんと何が違う?
五十嵐:キャラクター“五十嵐結也”としての力がついてきたかな。ダンスの他にもCM出演とか、映画、芝居などやらせていただいたりしてきましたが、僕は自分のキャラクターを特化させることばかり考えていたんで、エンターテイナーというかパフォーマーとして生きる志向がより強いものになった感じですかね。
北尾:蓉ちゃんの言葉を借りれば、今のイガちゃんを『DANCE✕Scrum!!!』が逃して関係が途絶えてしまってはいけない。その思いがあって参加してもらいます。
五十嵐:宴会芸みたいな出し物で大変恐縮ではありますが(汗)。
北尾:初回から継続して観に来てくださっているある方が言うには「毎回危なっかしい所がある。だから面白いよね!」と。それはコンテンポラリーダンスの魅力でもあるので、最高の誉め言葉です。「なんだその発想は?」みたいな人や必死に投げられた凄い剛速球に出会えたという実感が得られたりする。ダンスって直観的で、そういう可能性があります。今回もフレッシュな方々に集ってもらうので、ぜひ立ち会っていただきたいです。

★おまけ写真あり!すべての写真は【こちら】

取材・文=高橋森彦 撮影=鈴木久美子

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