バッファロー・ドーターが到達した新
たなモードとは?「自分たちなりの『
パーティー観』を表した」

(参考:細野晴臣が語る“音楽の鉱脈”の探し方「大きな文化の固まりが地下に埋もれている」)

 そして今回はオリジナル・ディスクに加え、国内外のリミキサーが全曲のリミックスを手がけたリミックス盤も同梱される。チボ・マット、まりんこと砂原良徳ゆらゆら帝国のプロデューサーである石原洋(これが凄まじい出来)、相対性理論の永井聖一、シャーロット・ケンプ・ミュールなどが参加している。常に新しい挑戦を忘れないバッファローの本領発揮ともいうべき多彩にして刺激に満ちた傑作の登場である。

・「日々いろいろ感じてることは言葉じゃなくて雰囲気で共有してる」(シュガー)

ーー去年ベスト盤が出た時に、新作の制作が進んでいることを話されてましたよね。そのキーワードが「ブロック・パーティー」であり「ディスコ」だとお聞きしました。そこから想像していたのは、明るくポップでオプティミスティックなものだったんですけど、実際にできあがってきたものを聴くと、必ずしもそうでもないような…。

シュガー:暗いよね。

ーーだよね(笑)。

大野:あはははは!

ーーそもそもどういう経緯で本作の制作はスタートしたんでしょうか。

大野:ピーターさんの展覧会があるから、その絵の前でライヴをやりませんかってオファーをいただいて、一回見に行ったんですよ。すごく広い部屋で、誰もいなくてしーんとしてて、ただ絵だけがすごい楽しげな感じで(笑)。週末になるとDJイベントとかパフォーマンスとかいろんなイベントをやってたらしいんですけど、その中でバッファローも演奏してくださいと。

ーー日本通の方なんですか。

大野:日本とイギリスのハーフの方なんですよ。

シュガー:日本とイギリスを行き来してて。

ーーその過程でバッファローを知ったということですかね。

シュガー:絵を描いてる時にバッファローをよく聴いてたらしいんですよ。それで実際にここでナマで鳴ったらいいのにな、と思ったのがきっかけだったらしいです。

ーー絵はCDのジャケットに使われているものですね。実際にその絵が飾ってある部屋で演奏したと。

大野:うん。お客さんもたくさんいる状況で。招待された人たちで、ほんとに老若男女。肩車されるぐらいの子供から、お年を召した方まで。いろんな人がいて。

シュガー:ふだんロック・コンサートとか行かないような人もいっぱいいて。

ーー反応はどうだったんですか。

シュガー:めちゃくちゃ良かったですね。みんな楽しそうで。ライヴ自体もすごく楽しかった。いろんな人たちがいて。まさにピーターの言ってたブロック・パーティーの楽しさってこれなんだなと。彼の絵が、彼が子供の頃経験したブロック・パーティーの楽しさーー年寄りから子供まで集まって、みんなで音楽を聴きながら踊ったり楽しく過ごしてるーーを絵にしたらしいんですけど、その感じがナマで再現できたかなって感じがあって。とにかく楽しかったんですよ。だからほんとはそういう気分で(アルバムを)作り始めたのよ。だけど…(笑)。

大野:あはははは!

シュガー:最後はああいうもの(暗いもの)になっちゃうのは…なんでかな。

ーーベスト盤の時点で制作はどれぐらい進んでたんですか。

大野:70%ぐらいかな。ベーシックはけっこう録れてた。

シュガー:けどその詰めはまだって段階。曲はあって、どれも悪くないんだけど、アルバムにしようとすると、どうもピンとこない。楽しく明るい方向で考えてたんですけど、うまくまとまらないんですよ(笑)。

大野:たぶんね、性格が明るくないんだなっていう…

シュガー:性格はね、明るいんだよたぶん。

大野:(笑)。そうなの?

シュガー:明るくなくないと思うんだよ、あたしたち。だけど…なんだろうね、明るいものにしようとするとうまくいかない。ほんとはそういうものを作りたかったけど、作れなかった(笑)。

ーー昨今の社会状況とか…

シュガー:いやあ、あるでしょうそりゃあねえ。

大野:それはあります。

シュガー:毎日怒ってるじゃないですか。

ーーそれがアルバム作りに影響した。

大野:それは絶対ある。これ(新作)はやっぱり地震の影響とかもあったから。制作がちょっと途切れちゃったりとか。そこで心境の変化も絶対あるし。

ーー風営法問題について直接的に言及した曲もありますね(「Don't Stop The Music」)。

シュガー:そうですね。それはもう、はっきりとものを言おうと思って。今まであまりそういうのはなかったけど、これはもう、「この件に関しては、はっきり言わせていただく」みたいな気分はありましたね。ただ歌詞は日々の怒りみたいなものが反映されてても、曲はもっと楽しい感じだったんだけど、その楽しい曲も、どうも違うような気がしてきて。全然変えて暗い曲にしちゃったりとか。そういう作業を最後の段階でやって、結局暗いものになりました(笑)。

ーー「Vicious Circle」という曲が特にダークなムードですね。

シュガー:これこそが日々の怒りみたいなものが込められたりもするんですよ。でもそれだけじゃない。

ーーインストですけど、日々の怒りみたいなものは歌詞に直接に反映されるというよりは、サウンドで表現していく。

シュガー:自然とそうなりますよね。気分が演奏に反映されるじゃないですか。特にその曲みたいにスタジオのセッションから生まれてくると、その日の気分みたいなものが乗っかってくる。日々それぞれにいろいろ感じてることはあるけど、そこは言葉じゃなくて雰囲気で共有してるというかね。あえて喋らなくても。だからそういう音になる。

ーー前のアルバムがかなり怒りのテンションの高いものだったでしょう。

シュガー:うん。パキンパキンの音で。

ーーあのモードが続いてるっていうのとは、また違うんですか。

シュガー:あのモードは底辺にはあります。でももう一丁という感じでもないし。あれからもう4年もたってるから、いろいろ変わってくるし。

・「『コンニャク』にも『コニャック』にも聴こえる。それが面白い」(ムーグ)

ーー前作は非常にロック的なサウンドでしたが、今回音楽的にはエレクトロ色が強まってますね。

シュガー:そういう意識はなかったけど、前回に比べるとね。

大野:別にそれを目指したわけではないけど。最後の2週間でがらっと変わったのね。それまではわりとロックっぽい雰囲気かなって、私は思ってたのね。だけどあんまりピンとこないねって言って、いろいろ試行錯誤して、コードを変えてみたりとか。いろいろチャレンジして考えてたら、だんだんエレクトロっぽい…ロックだけじゃない部分がいろいろ出てきたような気がする。

ーー最後の2週間って、完パケの2週間前ってことですか。

大野:そうです。みんなから「まだやってるんですか」って言われて(笑)。

ーー何がピンとこなかったんですか。

シュガー:なんでしょうねえ…曲は悪くないのにアルバムとして面白くないって、自分たちで思っちゃって。

大野:何回聞いてもいいと思えなくて。

シュガー:悪くはないんだけど。

大野:うん、悪くはないんだけど、どうもしっくりこなくて、「ウーン」と悩んじゃうところがあって。

シュガー:悪かったらさっさと捨てるんだけど、悪くないんだけどどうしてかなあ、というのが多くて。なんか方法あるんじゃないのって試行錯誤して。そのままで出せなくもなかったけど、それだと自分たちの満足度が低いから。

ーーそもそも設計図を描いてその通りにやっていく、という作り方ではないですよね。

シュガー:ないですね。どう見てもね。

大野:最初はほんとにディスコってイメージがあったから、それに対して何曲か作っていって。ベーシックはそれでできてたんだけど、これは無理だなと思うようになってから、一個一個取り出していって、全部全然違うものに作り替えていったから。

ーー(笑)。ベーシックの意味がない。

大野:まあね。ほんとにないんだけど(笑)。でもちゃんと使ってるのよ、音は(笑)。

シュガー:ドラム全差し替えとかね(笑)。平気でありますよ。

大野:コード全部取っ替えたとかね。鳴ってる音は同じだけど、違うコードをかぶせて。

シュガー:テンポを変えるとかね。最近そういうことができるからいいですよね。

ーーポスト・プロダクションに手間をかけたってことですね。しっくりこなかった原因ってなんだったんですか。

大野:(制作開始から)時間が経ちすぎたんじゃないですかね(笑)。

シュガー:ピーターとやって、その時にすぐできていればもっと違うものができたと思うんだけど。

大野:たぶん「Oui Oui」だけがあんまり変わってない。

ーー「Oui Oui」のPVが先行公開されたでしょう。ああ、こういうポップな可愛い感じになるのかと思ってたら、アルバム聴いたらこの曲だけが違ってたっていう(笑)。

大野:あはははは!

ーーリード・シングルって普通アルバムの内容を代表するような曲を選ぶでしょう(笑)。

大野:あははは! でも最初はその予定だったんですよ。あの時点では。でも最後の2週間で全部変わっちゃったの。

シュガー:でも大丈夫。全部こじつけられるから(笑)。ちゃんと自分たちの中では納得できてるから。自分たちなりの「パーティー観」を表したものになってるからね。一曲めの「Hit-it-go-round : Party is about to beginーー」は、ブロックパーティーが始まる感をよく表してるでしょう。それ以外の曲だって、いろんな音楽がかかるじゃないですか、ディスコって。ダンス・チューンばかりじゃないし。そういう意味では「ディスコ」にしても「ブロック・パーティー」にしても「音楽ジャンル」じゃないのかなっていうね。

ーーなんでもアリで。

シュガー:なんでもアリですよ。

ーー今回ゲストがたくさん参加してるのも、なんでもアリな雑多な感じを表してますね。

シュガー:それがまさにアルバム・タイトル(「コニャクション」)ですよ。

ーー人と人とのつながり、ですね。

ムーグ:シュガーがアルバム・タイトルをつけたんですけど、「コンニャク」にも聞こえるし、フランス語だと「コニャック」。それがすごい面白いなあと思って。響きもいいし。

ーーポップですよね。

ムーグ:うん。でも受け止める人はさ、いろいろなタイプの人がいるので、そういうのも含めて、このタイトルがあってるんじゃないかなと。

ーー弾力性のある。

ムーグ:うん、そうそうそう。そういうアルバムなんです。

大野:でもそのタイトルも最後の2週間で決まったっていう(笑)。

シュガー:タイトルも先行シングルを出した時に決めなきゃいけなかったから決めたんだけど、その時はあまりゲストは入ってなくて。自分たちだけで完結しようとか、逆にゲストをたくさん入れようとか、そういう決まったアイディアがなかったからね。作りながら思いつきでどんどん頼んでいって、最終的にこうなったっていう。

ーーアルバム制作中にアメリカやヨーロッパをツアーして回ってたんですよね。それはなにか影響してますか。

シュガー:今回のアルバムが最終的に暗くなったのは、ちょっと影響してます。今作はフランスのレーベルからも出るんですけど、そのレーベルの人と話してる時に、「Oui Oui」みたいな曲を聴いて、「これも素晴らしい曲だけど、もっと違うバッファローが聞きたいな」って言われたのね。ライヴの感じのバッファローが聞きたいらしい。もっとサイケデリックだったりロックだったりね。「まだ聞いてないけど、そういう曲もあるんだよね?」って言われて。そうかあ、と思って。どうせうまくいってないんだし、そっちにシフトしますか!ってことで舵を切ったら、こうなったっていう(笑)。

・「アメリカとヨーロッパでは求められるものが違う」(大野)

ーーそういう外部の人の何気ない一言や意見で、ぱっと道が開けたり。今までもそういうことはあったんですか。

シュガー:ずっとそうなんですよ。それこそ『NEW ROCK』の時からそうだけど、あの時はマイク(・D。ビースティ・ボーイズのメンバーであり、かってバッファローが所属していたレーベル<グランド・ロイヤル>の代表)とかと話しましたね。うちの場合いろんな曲があるじゃないですか。それの組み立て方で聞こえ方が全然変わってくるから。マイクと話しあう過程で、ああいう風になっていったし、そのあとの『I』も『シャイキック』も、当時一緒にやっていたスタッフとのコミュニケーションの中で、方向性が見えてくることは当然出てくるし。

大野:私はその話にピンとはこなかったけど、ヨーロッパっぽい感じだなと。アメリカとは全然違う。

ーーバッファローに求められるものが違うってことですか。

大野:うん。いろんな見え方をしてるから、曲の選び方によってもライヴの見え方が違うし、もっとロックぽいポップな曲をやるのが多いのは、やっぱりアメリカのほうだし。ヨーロッパでは、もう少しプログレッシヴというか、落ち着いたトーンの曲とか、クラブ寄りの夜の感じの曲をやったほうがしっくりするような場が多いしね。そういう違いがあるのは肌で感じてわかってるから。言われて当然だろうなとは思った。

ーーそれでやってみたらしっくりきたと。

大野:私は最後まで「Oui Oui」を一曲目にしたほうがいいんじゃないかと思ってたけど、アルバムの、「Hit-it-go-round : Party is about to begin」が1曲目で、「Le Cheval Blanc」が2曲目にくる流れもありかなと、ギリギリで気持ちも変わって。うん。そういう並びで聴いてみたら、こっちのほうがいいかもって、自分の中でしっくりきたから。だから今は納得してる。

ーーアメリカとヨーロッパってライヴやっててお客さんの反応って違うんですか。

シュガー:違いますね。今大野が言ってたみたいに、見てる場所が違う。今回はアメリカ・ツアーを最初にやって、そのツアーの感じでいろいろ掴んでアルバムを完成できるかなと思ってたんだけど、いまいちピンとこなかったんですよね。でイギリスに行ったら、なんとか考えがまとまったんですよ。アメリカも見てイギリスも見て、気持ちの整理ができたのかなと。それまでに貯めてた曲の中から仕上げようと思ったら、アメリカモードで行くよりはヨーロッパモードでいったほうが、うまく落ち着けたっていう。

ーー結果的にポスト・プロダクションを重視した作り方になったってことですか。

シュガー:そうなんだけど、それまでに録ってた曲が、ポスト・プロダクションを重視しなきゃいけないような作りの曲ばかりだったから。

ーーバンドで一発ガツンとやって、それで終わりって曲じゃないですよね、どれも。

シュガー:そういう曲じゃなかったんですよ。

ーーそもそも今回、本格的な海外ツアーって久しぶりですよね。以前お話をお聞きした時には、もう2度と海外ツアーはやりたくない、というようなことをおっしゃってましたけど。

大野:チームワークがすごく良くなってたから、楽しく終われたというのがあるかな。前はほんとにケンカばかりしてたから、ほんとに大変で。今回はそれを教訓にして、仲良くやらなきゃいけないって心から思ってやってるから(笑)。

ーーまた海外で本格的にやっていきたいって気持ちはあるんですか。

シュガー:うーん、そもそも日本だけでやってても地味すぎるバンドなんで(笑)。

大野:あはははは!

ーーそんなことないでしょ。

シュガー:日本のフェスにもそれほど出ないし…ちょっと居心地悪いんですよね。ああいうところは。そういう意味では自分たちの自然な活動範囲として海外が合ってるんじゃないかなっていう。

ーー気持ちよく演奏できる場所を求めていくと、日本を飛び出してしまう。

シュガー:日本だけだとちょっと煮詰まっちゃうかな。

ーー今年の夏フェスはフジロック?

シュガー:と、8月にウラジオストックでやりますね。

ーーすごいところでやりますね。おそらくバッファローのことを知ってる人は…

シュガー:ほとんどいないでしょうね。

ーーそういうところで演奏するのはどうなんですか。

大野:いやもう、全然(気にならない)。いつもやってる通りって感じよ(笑)。

シュガー:基本的にそんなに知られてるバンドではないので、どこへ行ってもアウェーだから(笑)。

大野:アウェーは慣れてる(笑)。

ーー以前言ってましたよね。曲に対して歓声があがったり反応があるとかえって戸惑うって。

シュガー:ああ〜そうですよねえ(笑)。だってそういうバンドじゃないし。なんか…そう(客の期待に応える)しなきゃいけないのかなって思うと、引く、みたいな。

ーー共感されることを前提として曲を作ったり、客を乗らせることを意識して演奏するとか。そういうのとは逆の立場ですよね。

シュガー:ですよねえ…。

大野:でも聴いてて自然に踊ってくれる人とかはいるから。それは全然見てて楽しいし。

シュガー:だからピーターのところでやって楽しかったのも、向こうは何の先入観も期待もなく見てるんだけど、演奏してるうちにみんな楽しくなっていく。みんながハッピーになっていく。そうすると私たちもハッピーになっていく。そういうのが楽しいなと。そういう気分は今作にも受け継がれてると思う。

ーー完成した作品はもっと多面的なものですけど、それはブロック・パーティーの本質でもありますよね。ダークなものも包含しつつ。

シュガー:まあでもそれは聴く人が思うことでね。私たちは「多面性がある」とか、そんな風には思わない。ただ一生懸命作った作品だっていうだけです(笑)。

大野:時間かかったもんね。ピーターの展覧会で演奏したのは2011年の9月で、そこから始まったんだけど、曲はもうちょっと前からあったんだよね。2010年ぐらいから作り始めてるのもあって。

シュガー:いやもう、やっと終わったと思って。この解放感は久しぶりだったね。

大野:うん。

シュガー:もう速攻、神宮球場ですよ(笑)(注・シュガーは東京ヤクルト・スワローズのファン)。
(取材・文=小野島 大)

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