asayake no ato × SAKANAMON 敬愛
するバンドとともに鳴らした新たな始
まり

asayake no ato pre.“羅針盤の指す方へ” 2022.3.13 下北沢ERA
京都発の4ピースロックバンド・asayake no atoの自主企画「asayake no ato pre.“羅針盤の指す方へ”」が、3月13日に下北沢ERAにて開催された。本公演は、柳澤澄人(Dr)の正式加入を記念した2マンライブで、asayake no atoのメンバー全員が憧れていたというSAKANAMONを迎えて行われた。同年代の仲間や後輩ではなく、尊敬する先輩バンドとライブをしたい――メンバーの脱退が続いたことにより、一時は「バンド解散」も覚悟していたというasayake no ato。それでも諦めずに、真摯に音楽を鳴らし続けてきた今の彼らが抱いているのは、満ち溢れんばかりの気合と向上心だ。この日は、そんな彼らの想いの詰まった、決意表明とも言えるイベントとなった。
SAKANAMON
asayake no atoからの熱烈なオファーに応えて出演を快諾したというSAKANAMONは、初っ端から「花色の美少女」、「ぱらぱらり」と続け、心地好いダンスビートに乗った、抜けの良いメロディと藤森元生(Vo/Gt)の歌声が、オーディエンスのハンズアップを誘う。森野光晴(Ba)の「皆さん、お手を拝借!」の掛け声と、木村浩大(Dr)が繰り出すどっしりと構えたビートで始まる「ケセラセラ」を経て、いざ次の曲……と待っていると、なんとここで、asayake no atoの「羽化」のサビのフレーズを披露するというサプライズが! なんて粋なバンドなんだ、SAKANAMON!と、驚くのはまだ早い。今回のSAKANAMONのセットリストは、asayake no atoのメンバーが、彼らの3rdアルバム『あくたもくた』を愛聴しているとの話を聞いた上で組まれたそう。初対面だとか先輩後輩だとかは一切関係なく、愛が溢れる純粋な声に対して全身全霊で応えるというSAKANAMONの姿を見て、彼らが結成15年を目前とした今に至るまで、多くの人から愛され続けている理由が垣間見えた。
さらにここから、<何でも出来たなら/誰もがシュビデゥバ/シャバダバシュビデゥバ>という独特の語感を持つフレーズを、ポップかつ、ちょっと切なく聴かせる「アイデアル」と、力強いボーカルが胸を打つロックチューン「東京フリーマーケット」を続けてプレイ。SAKANAMONは、「聴く人の生活の肴になるような音楽を作りたい」というバンドのコンセプトを体現するかのように、自身の生活の中にあるのに見落としがちな心情や景色の描写を、時にクスっと、時にハッとさせるような言葉で描き出す。例えば「東京フリーマーケット」の<まぁ慣れりゃ住み心地も良い/寧ろ期待外れなのは自分>という歌詞には、心を見透かされたような気持ちにさせられる。そうしたシニカルな歌詞と、ユーモア溢れるメロディとの融合が、なんとも気持ち良い。
そうした音楽性を築き上げてきた先輩バンド・SAKANAMONの藤森は、「最近特に、SAKANAMON のことを好きだと言ってくれる後輩たちが世に出始めていてね。asayake no atoのみんなも、センスいいよね」と話し、それを受けた森野が「asayake no atoも、さぞかしセンスのいいライブをしてくれることでしょう!」と、エールを贈る。そこから新曲「幸せな生活」の披露を経て、ラストスパートをかけるように「クダラナインサイド」、「ミュージックプランクトン」、「TSUMANNE」を連続で届け、会場のテンションを一気に高めていくと、ラストには「紆余曲折を経て今があると思うので、素敵な旅立ちをしてほしいと思っております。頑張ってください。苦しいこともあったけれど、それらがあったからこそ今があるんだと、全てを肯定して生きていきたい。そんなことを歌った曲です」と、最後に「テヲフル」をじっくりと歌い上げた。<全てが間違いじゃ無かっただろ>と歌うこの曲は、様々な迷いの中で生きる人にとっても、asayake no atoにとっても、これ以上ない励みになっただろう。
SAKANAMONから最高のバトンを渡された、asayake no ato。完璧に仕上がった会場に満を持して登場した、神社宏行(Vo/Gt)、鴨下支音(Ba)、柳澤、サポートメンバーの佐久間智也(Gt)の4人が1曲目に届けた楽曲は、「クライマー」。<失うものなんて何も無い/ただ登るだけ/呼吸は辛いけどそれでもまだやれるはず>という歌詞と、窓を開けた時に吹き抜ける風のような爽快感を持ったメロディは、リスナーのみならず、asayake no atoというバンド自身をも励まし、鼓舞し続けてきたように思う。次に演奏された「軌跡」の中でも歌われているが、これまで紆余曲折あった彼らをここまで突き動かしてきた原動力は、「自分たちはまだ進んでいける」という向上心だ。エモやポストロックの系譜を受け継ぎつつ、透明感と逞しさが共存する神社の極上の歌声とバンドが持つタフネスを共存させることで生まれる、美しさと熱量。その結晶をライブで堂々と発揮させる彼らの音楽性は、そうした前向きな歌詞に説得力を寄与する。
MCでは、神社が感極まった様子で「ずっと好きで、憧れだった先輩であるSAKANAMONの胸を借りて、柳澤の加入記念企画という門出の日を多くの人と共に迎えられたこと、本当に嬉しいです」と感謝を言葉にする中で、柳澤が抜群の間合いで合いの手を入れて場を盛り立てる。こうしたMCやライブ中の存在感からも、今回、柳澤が加入したことによって、asayake no atoが本来持っていたエンジンが目に見えてパワーアップしたことは明らかだ。そのコンビネーションの良さは、「花たち/旅」や「指板の海」、「追想と未来」で感じられるような、歌詞の中で描かれる世界観がもたらす叙情性と、柳澤と鴨下が築くボトムのしなやかな躍動が織りなすコントラストとして発揮される。何度も聴いてきた楽曲だとしても、明瞭度が上がると見える世界も変わる。バンドとは人なのだと、心底思い知らされる。
ギターのアルペジオが導くバラード「夏のレプリカ」や「瞬き」が、会場に静けさをもたらすと共に、シンプルなメロディに乗る神社のボーカルとしての力を改めて感じさせる。よく伸びるハイトーンと、感情が乗ったからこそ生まれる揺らぎが、言葉に人間らしい温もりを与える。そんな心地好い空気の中、3人体制で進んでいくことになったasayake no atoから、5月に新作をリリースすることが発表となった。さらにこの日、その最新作から、リード曲となる新曲「ユーレカ」を最速披露! 「活動を始めて10年経つ中で、色々形が変わっているし、こんな世の中になるとは誰も分からなかったと思うんです。そうした移り変わりの中でも、音楽への情熱や、asayake no atoで叶えたい夢、応援してくれる人の気持ちに応えたいという気持ちは変わっていません。そういう気持ちを歌った曲です」と紹介されたこの曲は、エネルギッシュなサウンドの中でギターの繊細な絡み合いが輝く、asayake no atoがこれまで育ててきた芯なる部分を、一層強固にさせた上で昇華した、まさに「バンドの更なる前進」を誓う楽曲だ。
その想いは、ラストに「これからのこと」、「羽化」からもひしひしと伝わった。<サナギから変わる羽根がきっと/未だ見ぬ場所へ連れていってくれる>――自らに抱く期待、そしてオーディエンスが抱く期待。それらを一身に背負い、asayake no atoは、更なる高みを目指して羽ばたいていく。

取材・文=峯岸利恵

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