音楽座ミュージカル35周年の時が交わ
るライブに向けて~高野菜々×土居裕
子インタビュー

2022年に35周年を迎える音楽座ミュージカル。これを記念した公演が、今年続々と上演される。その第2弾として行われるのが、高野菜々のファーストアルバム発売記念ライブ『プリズム』だ。近年、音楽座ミュージカルのエースとして、数々の作品で大事な役どころを任されてきた高野。そんな高野が尊敬してやまない存在が、同カンパニーの大先輩である土居裕子である。
高野は記念すべきこの公演のゲストに、土居を招いた。憧れの人と一緒に歌う……。開催前に行った高野と土居の対談は、高揚感に満ちた、ワクワクの止まらないトークとなった。このライブの会場チケットはすでに完売してしまっているが、イープラスの「Streaming+」にて配信が決定している。音楽座ミュージカル35年の交わる時を、ぜひお見逃しなく。
ーー高野さん初のアルバム発売を記念したライブですが、昨年末に広島で先に行われましたね。
高野:ふるさとである広島では、2010年からほぼ毎年音楽座ミュージカルの公演を行っていたんですが、コロナの影響で2019年以降できていなかったんです。個人的に思い入れのあった最新作『SUNDAY(サンデイ)』も、実は広島での上演予定があったのですができなくなってしまって……。
今回、約2年ぶりにふるさとの人たちの顔を観ることができて、改めて私の原点はここだと実感しました。応援してくださる方々がいるから14年続けてこられたんだと、改めて感謝する時間にもなりました。
ーー高野さんと、このライブにゲスト参加される土居さんは、音楽座ミュージカルの先輩と後輩でいらっしゃいますが、演じてきた役の変遷が似ていますよね。
高野:私、音楽座ミュージカルに入ってから初めて経験した作品が『マドモアゼル・モーツァルト』だったんです。初舞台で主演をさせていただけるなんて、ほかでは絶対ありえないことだと思うんですけど(笑)。その時、映像で土居さんのモーツァルト役を余すところなく観ました。
私はそれまであまり演技の経験がなかったもので、音楽座でやっていくには土居さんを真似ることが一番だと思っていました。でも、やっていけばいくほど、やっぱり自分の中から湧き出るものがないとオリジナルキャストの方の素晴らしさには及ばず、ただのコピーにしかならないんです。
そんなことを感じている頃、2016年に音楽座ミュージカルの創設者で創立から亡くなる直前まで作品を創り続けてきた相川レイ子の追悼公演として『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』を上演することになりました。そして、土居さんがカーテンコールの「特別イベント」で同作品の中の「公園のシーン」をやってくださることになったんです。そのお稽古で、お佳代役を演じる土居さんを直接目にした時、「なんて自由なんだ!」って驚いたんです。
オリジナルキャストが作品を創り上げていく姿は何にも代えがたいものなんだなと改めて思いました。私も、土居さんに憧れると同時に、オリジナルミュージカルを創っているカンパニーにいるからこそ、「ゼロ」から様々な作品を作り上げていきたいなと思っています。
高野菜々
土居:いろんな変遷がありますしね。私にとって音楽座ミュージカルは育ててくださった場所ですから。「育ったのが音楽座ミュージカルでよかったな」といろんなお仕事をさせていただく中で感じています。東宝版の『リトルプリンス』をやっている時も、井上芳雄さんに「土居さんっていつも100%だね」って言われたんです。自分でもいつも言ってるんですけどね、「私は全力でやるしか、方法を知らないから」って。
私ね、音楽座にいる時はいつも「いつでも初日のような気持ちで、100%でやれ」と言われ続けていたから、それは今も心の中にあります。私が音楽座に教えてもらったことは、すべて後輩の皆さんが受け継いでる。井上さん、「この間『7dolls』を配信で観たんだけど、やっぱりみんな全力だった!」とも言ってましたから(笑)。これが、今も昔も音楽座の魅力なんですね。
ーー高野さんのアルバムには、そんな全力の音楽座ミュージカルさんが歌い継いできた名曲がたくさん詰め込まれていますね。
高野:音楽座ミュージカルに入団してから14年目にしてファーストアルバムなので、19歳で入団してからここまでの時間を、音楽座ミュージカルの楽曲を通してひとつの物語にしたいなと思って、並びも含めて選曲させていただきました。
土居:私も聞くのがすごく楽しみです。きっと、菜々ちゃんの想いが乗ることで、どれも菜々ちゃんらしい楽曲になっているだろうから。
高野:ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。私、スランプという迷いの森に入っていた期間が10年くらいあったんですよ。「これからどうやっていったらいいんだろう?」って、なかなか希望を見出せない時期が長くて……。そういう悩みも、転機も、楽曲や作品に入っているメッセージに乗せて、聞いていただいた方が「明日からもがんばろう!」って思っていただけるものにしたい。アルバムは、そんなコンセプトで作りました。
ーー今回のライブやCDで歌われている中で、お二人にとって特に思い入れの強い楽曲というと?
高野:どの曲も土居さんの歌声を聞いていて、好きになって……という曲ばっかりで。選べないんですけど、ひとつ挙げるならば『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』の「ドリーム」でしょうか。私は2009年の初夏にやらせていただいたんですが、それが久しぶりの再演だったんですよね。私、土居さんのお芝居を拝見した時から「どうしても『ドリーム』が歌いたい」と思っていたんです。「ドリーム」というタイトルのとおり、私の夢を象徴しているようですごく思い入れがあります。
土居:そうだなあ……。どの作品も、音楽座ミュージカルのみんなと「ああでもない、こうでもない」とドロドロになりながら作っていったものであるから、どれも平等に愛おしい曲です。最近やらせていただいた『リトルプリンス』でも、「シャイニングスター」は一曲取り出しても誰もが「いい曲ね」と言ってくださるんですが、そのほかの小さな場面の曲もいいものがいっぱいあったなあと、やっていて思い出しましたね。
ーー高野さんは、土居さんとずっと共演したいという夢もお持ちだったとか。
高野:はい。前代表の追悼公演で、土居さんと同じステージに立つ機会はあったんですが、一緒にお芝居ができたわけではなかったんです。でも、どうしても面と向かって心を通わせていただく時間を持ちたい! と願い続けていました。
このライブを開催するにあたって「心からお会いしたいと思っている人は誰なの?」と聞いてもらったので、真っ先に土居さんと、夜の部のゲスト畠中祐さんのお名前を挙げさせていただきました。ゲストをお招きするのも初めてだし、そこでの化学変化を自分自身としても楽しみたいなと思っています。
土居:そんな風に言ってもらえてすごく嬉しいし、きっと上手くいくというのは、なんかもう分かってるんです(笑)。
ーー土居さんにはソロ1曲、デュエット2曲でご参加いただくんですよね。
高野:はい。そして実は……少しですが、一緒にお芝居もさせていただきます。
ーーお芝居も! どの作品から抜粋されるシーンですか?
高野:土居さんが出てくださることになって、真っ先に頭に浮かんだのが『ホーム~はじめてテレビがきた日~』という作品の中で、坂本いずみ先生と教え子の広子が河べりで話をしているシーンでした。このシーン、私はどちらの役も演じたことがあるのですが、自身の“生きる糧”になりました。
土居さんの演じたいずみ先生を映像で拝見した時も、無常を感じる中でも生きていく強さなどを画面越しでも強く感じたので、どうしてもそのシーンを一緒にやっていただきたいと思い、お願いしました。
土居:『ホーム~はじめてテレビがきた日~』は、この作品をやったあとに音楽座ミュージカルが一旦クローズすることが決まっていたので、私も1回しかやっていないんですよね。だけど、なかなか好きな作品だったなという想いがずっと残っていました。菜々ちゃんとお芝居をすることが決まって改めて台本を読んだら、いろいろ思い出しました。菜々ちゃんとの年齢の開き方も役と合っている気がするし、一緒にやれることがとても嬉しいです。
土居裕子
ーーほか2曲も教えていただけますか?
高野:『マドモアゼル・モーツァルト』からは「朝焼け」を一緒に歌っていただきます。音楽座ミュージカルの作品の中で、女性二人で歌う楽曲ってあまりないんですよね。だから外せないなと思って。もう一曲は『リトルプリンス』から「シャイニングスター」です。やはり、今一番聞きたい曲だと思って選ばせていただきました。
土居:「シャイニングスター」は、今、唯一ちゃんと歌える楽曲かも(笑)。
ーー高野さんは、コンサートのあとに文化庁の令和3年度新進芸術家海外研修員として、1年間ニューヨークに行かれることが決まっていますよね。
高野:私、音楽座ミュージカル以外の作品に出演した経験がないので、音楽座ミュージカルって「食べる」とか「寝る」のと同じぐらい、生きる上で大切なものになっているんです。そして、物語の中に生きていると、自分自身も生きてる実感が持てて。ニューヨークに1年間行かせていただく日が近づいている今、音楽座ミュージカルの中に生きられないんだなと思うと正直ちょっと不安です。寂しいというよりも……食べ物がなくなってしまうぐらいの感覚で。
でも、行く前にこのコンサートがあることは、すごく大きいです。ニューヨークでは、しんどいこと、つらいことをできる限り経験してこようと思っています。なるべく自分を崖っぷちに追い込もうと思って。そのためにも、これまで出会ってくださった方、今応援してくださってる方々にコンサートを通じて感謝をお伝えしたいなという思いがあります。
土居:菜々ちゃんもきっと、ニューヨークでいろんなことを経験して、すごく頼もしくなって帰ってくるんだろうなと思ってます。技術がめちゃくちゃ伸びるとか、そういうことももちろんあると思うけど、経験って心の栄養であり何にも代えがたい宝だから。私自身もここまで生きてきてすごく思うの。
高野:ありがとうございます……!
土居:そして、菜々ちゃんが帰ってきたら『SUNDAY(サンデイ)』をもう一回上演してもらいたいですね。
高野:ニューヨークに行くにあたって、何か目標、ミッションを自分の中で持たないといけないなと思っていて。もっと大きくなって帰ってこれるようにがんばります!
ーーこのライブはすでにチケットが完売してしまっているのですが、配信が行われるということで、たくさんの方に高野さんの晴れ姿と、音楽座ミュージカル35年の時が交わる瞬間を観ていただきたいですね。
高野:35周年の始まりは、『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』という音楽座ミュージカルの物語を集めて再構築した作品から始まるんですが、その次に控えているのがこのライブです。音楽座ミュージカルの基礎を作ってきてくださった土居さんとご一緒させていただくのは奇跡であり夢のようであり……。そのスパークする瞬間をぜひ映像からも感じていただけるよう、真心込めて歌いたいなと思ってます。
土居:まずは、菜々ちゃんのありのままをお客さんに楽しんでいただきたいですね。そして、何十年かの時を越えて、彼女の母のような存在の私が一緒のステージに立たせていただけることも素晴らしい出会いになると思います。私もコツコツと続けてきた甲斐があったな~と。音楽座ミュージカルのさらなる発展もお祝いしながら、昔のお客様も、今のお客様も、昔からずっとのお客様も、初めて見てお客様になろうとしてる人たちも、みんなに楽しんでいただけるようなコンサートにしたいですね。
(左から)高野菜々、土居裕子

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