「チームというより“家族”です」 
若きチェロの名手が集う『東京チェロ
アンサンブル』メンバー6人が語る第
13回公演“それでもチェロはうたう”

若きチェロの名手たちが毎年1回集まって演奏会をひらいてきた「東京チェロアンサンブル」。13回目の今回は、「それでもチェロはうたう」をテーマに、コロナ禍を越えて、モーツァルト(挾間美帆編曲)の「レクイエム」などの作品にチャレンジする。この日のインタビューには、10人のメンバーのうち、荒井結、中実穂、新倉瞳、堀沙也香、三宅依子、宮田大の6人が集まった。
――東京チェロアンサンブルとはどういう団体ですか?
三宅:東京チェロアンサンブルの代表を努めておりますが、主に雑用を担当している(笑)三宅です。もともと桐朋学園では高校生から大学生まで一緒に集まって開催するチェロ・アンサンブルの授業がありまして、7年間、仲間と切磋琢磨してきましたが、それが終わったときにこのままバラバラになるのはさみしいな、学校の授業で集まることが終わっても続けられないかなと、自分たちで演奏会を始めました。第1回の演奏会は、2008年3月26日にひらきました。最初は16人いましたが、2018年より今の10人にメンバーを固定し、アンサンブルの質を高めるようにしました。
三宅依子
宮田:チェロ10人のオリジナル作品はあまりないので、演奏したい曲を選曲して、編曲していただいて、いつも初演になるので、たくさんの練習をして、思いやパワーをつぎ込んできました。
新倉:打ち上げの楽しさは昔から変わらないですね(笑)。年々、質の高い演奏ができていると思います。
三宅:私がとても大切に思っていることは、練習時間の確保です。それぞれの曲に15時間から20時間かけないとコンサートでは演奏しないというように。
中:曲ごとに決める1チェロ(1番のパートを弾く奏者)の人が中心になって練習を進めるのが基本ですが、みんなしゃべる人なので、意見を出し合いながら練習しています。
荒井:それで、まとまらなかったりもしますね(笑)。
宮田:十人十色といいますが、演奏する曲が編曲で10人がうまくいろいろな高さを弾くように書かれていますね。
三宅:編曲の方に見た目にも10人がつながるようにお願いしています。
中実穂
――3月12日の演奏会のプログラムは、クレンゲルの「2つの小品」、ソッリマの「チェロよ歌え!」、シューベルトの「魔王」、モーツァルトの「レクイエム」(“ラクリモサ”絶筆まで)、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」ですね。プログラムはどのように決めるのですか?
中:プログラムはメンバーで会議をして決めます。コロナ禍中だったので、いろいろ考える時間もあり、挑戦的なものにしたいということになり、モーツァルトの「レクイエム」に決まりました。最初は「それできる?」という感じでしたが、こういうタイミングなのでみんなで挑戦したいという気持ちになり、敢えて、モーツァルトが書いたところまで(“ラクリモサ”絶筆まで)にして、それにみんなで弾いてきた「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で終わろうということになりました。
新倉:全体が「祈り」というテーマなので、今までも大切に弾いてきた「アヴェ・ヴェルム・コルプス」がいいと思いました。
三宅:今回は、新倉さんの紹介で、「レクイエム」の編曲を挾間美帆さんにお願いしました。
宮田:今回が世界初演ですね。
三宅:これまでにも『この曲チェロ10本でできるの?』という曲に挑戦をし続けてまいりましたので、今回の「レクイエム」もすごく楽しみです。

宮田大

新倉:「ボレロ」を演奏したときも、編曲について話題になりましたし、「カルメン」「レ・ミゼラブル」も十人十色の魅力が生かされたアレンジでした。
宮田:「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はチェロに合っていますね。新倉さんは演奏しながら涙を流していましたが、演奏家も浄化されます。
三宅:演奏会のはじめには、チェロ・アンサンブルのオリジナル曲で、お客様に気持ちを調和していただきたいと思い、クレンゲルの「2つの小品」を4人(清水詩織、中、三宅、宮坂拡志)で演奏します。
堀:ソッリマは、もともとが2つのチェロと弦楽アンサンブルで、チェリストであるソッリマ自身のチェロ・アンサンブルへの編曲があります。
宮田:ソッリマでは、髙木慶太さんといい意味でのバトル、競演となります。髙木さんとは弦楽アンサンブル版で演奏したことがありますが、チェロ・アンサンブルでの演奏は一期一会になります。チェロの良い音の出る音域で書かれているのでみなさんに語りかけるように演奏したいですね。
三宅:今回は「それでもチェロはうたう」というテーマで、コロナ禍での祈りや歌う気持ちをこめて、歌曲である「魔王」をプログラムに入れました。
堀沙也香
宮田:「魔王」は、東京チェロアンサンブルのアレンジャーである、小林幸太郎さんに編曲をお願いしました。「魔王」に登場する4人の人物を、8人に配分し、サラウンド効果もあるように編曲をしていただきました。
三宅:編曲は、観ても聴いても、お客様に面白く楽しんでいただけるように、お願いしています。
――東京チェロアンサンブルで印象に残っていることや思い出を教えてください。
宮田:みんな若い気持ちでいますが、一緒に年を重ね、経験を重ねて、みんなでチェロ・アンサンブルでしかできないサウンドを熟成させていることでしょうか。
三宅:演奏をすることだけでも大変ですが、自分たちで、手作りで開催し続けているコンサートです。やめてしまいたくなることもありましたが、本番ごとに、続けていて良かったと思います。
荒井:東京チェロアンサンブルは、自分にとってとても大切なものです。同じ世代で刺激し合える仲間がいることが心の支えとなっています。一番の思い出は、2018年に私の地元である福井のハーモニーホールふくいでコンサートができたことですね。追加公演があるほどの大盛況でした。

荒井結

堀:私も10回目のときの福井公演が印象に残っていますね。公演の他に、アウトリーチで小学校にも訪問し、1週間程、福井に滞在しました。同じ時間を長く共有することにより、私たちは、『チーム』というより、『家族』だなと思いました。10年、一区切りで、少し大人になれたのかなと思いました。コロナ禍になり、それまではなかなかみんな集まれなかったのが、オンラインで集まれるようになり、この1年が一番10人で密に話をすることができました。最後は飲み会になるのですが(笑)。
中:学生のときは、自分で精一杯でしたが、大人になり、コロナ禍があり、それぞれの人の人となりが身近に感じられるようになりました。Zoom会議で話しているときも、正直に意見を言える仲間は本当に貴重だと思います。そういうことができるメンバーになるのは、結成時(2008年)には想像していませんでした。
新倉:私も福井での出来事がダイレクトに残っています。3.11を経て、コロナ禍に遭い、演奏会をどうしようと、毎回、話し合っているし、いろんな価値観がありながらも、同じ方向を向いているというのは稀有なこと。みんな違うけど、認め合える。アンサンブルを始めた頃より、みんなのことが好きだし、自分のことを信頼してもらえているかなと思います。
新倉瞳
――3月の演奏会に向けて、メッセージをお願いいたします。
宮田:10人のチェロ・アンサンブルというのは珍しいので、プロのアンサンブルとしての活動を続けていきたいですね。寄せ集めのサウンドではなく、10人でしか出せないサウンドを聴いていただきたいです。
三宅:変異株などで世の中、どうなるかわかりませんが、生の音をお届けしたい、絶対に成功させたい!という気持ちが強いです。みなさまの心のやすらぎになるよう、来てよかったと思っていただけるような演奏会にしたいと思います。
荒井:毎年楽しみにしてくださっているお客さまにも、新しくチェロを聴いてみようというお客さまにも、人の声に近いチェロのアンサンブルの魅力がダイレクトに伝わればいいと思います。
堀:音楽はなま物なので、2度と同じものにはなりません。当日の私たちの思いを音にのせてみなさまにお届けしたいと思っています。
中:自分たちにとって挑戦的だと思っている今回のプログラムを、多くのお客さんに受け取っていただきたいですね。
新倉:10人同じ楽器なのにやっていることが違う。それぞれのチェロ畑で収穫してきたものを持ち寄って東京チェロアンサンブルの畑でまたみんなで作る、そんなところを楽しみにしていただけたらと思います。
(前列左から)荒井結、堀沙也香 (後列左から)宮田大、三宅依子、中実穂、新倉瞳
取材・文=山田治生 撮影=鈴木久美子

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