ファンの方への感謝を込めたお祭りの
ようなコンサートに 『東京チェロア
ンサンブル~15th ANNIVERSARY~』イ
ンタビュー

2008年に結成された「東京チェロアンサンブル」。2018年からはメンバーを10名に固定し、定期コンサートなどの活動を精力的に行っている。記念すべき15回目のコンサートに向けて、代表の三宅依子、清水詩織、中実穂、新倉瞳、堀沙也香、宮田大と、東京チェロアンサンブルが演奏する曲の多くでアレンジャーを担当している小林幸太郎に話を聞いた。
ーー改めて、チェロアンサンブルの魅力、「東京チェロアンサンブル」の魅力を教えてください。
清水:チェロアンサンブルには学生時代から慣れ親しんでいたので、すごく楽しいです。チェロという楽器は音域が広く、オーケストラでもここぞというときにいいメロディがくる。同じ楽器同士ならではの難しさもあるけど、チェロにしか出せないサウンドがあります。プロアマ問わず、そういった部分で“チェロアンサンブル”に魅せられているのかなと思います。東京チェロアンサンブルの魅力としては、個性を活かしつつ調和の取れる10名が集まっていること。フィットしたという言葉がピッタリかと思います。20代から一緒にやってきましたが、学生の頃から変わらない。普段はそれぞれが色々なフィールドで活躍しているけど、ここに戻ると家族だなと感じます。
中:個人的に、チェリストはみんなチェロアンサンブルが好きだと思う。単純に楽しいのが集まるきっかけだと思います。その中で私たちが続いてきたのは、メンバーの気持ちや三宅さんのリーダーシップ、幸太郎くんのアレンジあってのこと。結成から16年目でしたっけ。
三宅:東北大震災やコロナでやむを得ずコンサートができなかった年もあり、結成16年目ですがコンサートは15回目なんですよね。
中:結成した当初は、学生で駆け出しだったので、続けるうちにそれぞれの考えや大切にしたいこと、音楽で表現したいことなどが顕著に出てきたと思います。それによってアンサンブルにいい影響があり、自画自賛ですがこれからさらにいいアンサンブルになっていくだろうと楽しみにしています。
新倉:プログラムについてお話しすると、東京チェロアンサンブルは小林さんはじめ、様々な方にアレンジを頼んで挑戦を続けています。チェロが好きなメンバーが集まっているチェロアンサンブルは世界中にたくさんありますが、楽しいだけじゃ続かないと思っています。みんながやっていないところに果敢に挑戦しているのが、私たちの特徴になっているかなと。もちろんクレンゲルの「讃歌」など、チェロといえばという曲も10名用にアレンジして演奏していますが、今回で言うと世界初演の「動物の謝肉祭」だったり、過去に演奏した「ウエスト・サイド・ストーリー」や「レ・ミゼラブル」だったり、音楽にあまり触れたことがない方も聴きやすいプログラムになっています。めちゃくちゃ難しいのでヴァイオリンパートのメンバーはいつも大変な思いをして練習し、本番に臨んでいます。プロとしてというとキザですが、私たちが成長していく中で、きちんと提供していけるようにという意識が強くなっているかなと思います。
堀:東京チェロアンサンブルの強みとして、曲によってパートが変わることがあります。一つのコンサートの中でも、曲によって高音パートや低音パートを担当します。だからこそ、それぞれ曲のカラーがより変わる。曲によっては高音が難しいのですが、小林くんもチェリストなので弾けないものは書かないんです。
三宅:小林くんは最初から、「東京チェロアンサンブルさんだったら大丈夫」ってよくおっしゃっていました。
堀:音出しの時に小林くんが来てくれて、バランスを見ながら必要な手直しをしてくれるし、こちらから提案して変えてもらうこともある。そういうことをできる環境がオリジナリティにつながっていると思います。
宮田:チェロに限りませんが、歳を重ねると教えてもらえることが減っていく。教える立場になると、自分がどう演奏しているかわからなくなることもあるんです。そんなときに、アンサンブルがあるとみんなでアドバイスし合い、アイデアを出し合ってブラッシュアップできる。自分自身の演奏についてまた違った方向性が見えてきます。全員がチェロなので音の変化がつけづらい時がありますが、みんなで「ここはファゴットをイメージしよう」など話し合って重ねていけるので非常に勉強になります。また、今回のチラシには動物が描かれていますが、メンバーそれぞれのイメージになっているんですよね。
三宅:私が勝手にイメージして、「動物の謝肉祭」に出てくる動物に当てはめました(笑)。一匹だけ「動物の謝肉祭」には出てこない動物がいます! 見つけてください!(笑)
宮田:個性あふれるメンバーで、色々な動物が集まってやっています(笑)。収拾がつかない時もあれば、一緒になった時に1+1が100になる時もある。信頼性と結びつきがいい方向に向かっているのが東京チェロアンサンブルの魅力であり特性だと思います。
小林:僕はアレンジャーとしての視点からお話ししますが、同じ楽器でできるアンサンブルって珍しいんです。探せばサックスなどがあるけど、楽器の種類が違っていたりする。音域の広さや音色の豊かさで、チェロの万能性を感じます。アレンジの面でも、一般的な弦楽合奏だと、ステージ下手(客席から見て左側)が高音になる。低音楽器がメロディを演奏する時、高音はオブリガートやロングトーンやトレモロなど、音を薄くする作業が必要になるんです。でも、チェロのように音域の広い楽器のみで構成されたアンサンブルだと、それをやらずに配置の変換やメロディの交代ができる。さらに、チェロアンサンブルはカルテットや8名構成が多いですが、東京チェロアンサンブルは10名。選択肢の幅がすごく広いのがアレンジャーとして魅力でもあり頑張らなきゃいけない点でもあります。可能性と選択肢の多さが強みだと思いますね。
ーー15回公演のコンセプトについて教えてください。
三宅:毎回、コンサートが終わる前から次回公演の打ち合わせをする日程の調整を始め、メンバー全員で話し合ってプログラムを決めています。 もちろんメンバーが弾きたい曲が一番になりますが、今回は『お祭り・カーニバル』っぽくしたいという思いがありました。15回を迎えられたのは、私たちが楽しくてやっていたのもあるけどお客様の応援あってのこと。恩返しのつもりでお祭り騒ぎにしたいなと。「動物の謝肉祭」も実は毎年候補に出ていて、今回はチラシなどでもメインに据えています。
また、今回の新たな取り組みとして、アレンジャーの小林くんに「東京チェロアンサンブルがどんな曲をやったら面白いか」を聞きました。そこで前半のメインになっているピアソラの「ル・グランタンゴ」がいいと思うと即答され、小林くんに満を持して書いてもらう曲としてお願いしました。
ーー初演の曲だけでなく、過去に演奏した曲もプログラムに入っていますね。
三宅:バッハ(「主よ、人の望みの喜びよ」)や「ブラジル風バッハ第1番」、鷹羽(弘晃)さんの「蛍なすほのかに聴きて”日本の旋律による音風景”」などは以前も演奏しました。とても人気の高い曲です。
清水:でも、「蛍」の10人版は初めてですね。
三宅:「蛍」は14人のために書かれた曲ですが、鷹羽さんは私たちの学生時代の先輩にあたることもあり、今回の15回記念に合わせて10名用の再アレンジをお願いして選曲しました。
中:「蛍」は鷹羽先生が桐朋学園から依頼されて作曲したものです。2部に分かれており、前半は音取と言って雅楽そのもの。笙(しょう)や篳篥(ひちりき)、ししおどしなど、チェロじゃない音しか出さないんです。2部は「ほたるこい」がいろんな場所から聞こえてくる。かなり斬新に聞こえると思います。
三宅:補足すると、「国際学生フェスティバル」という、様々な国の学生さんたちが集まる場所で演奏する曲だったので、日本の特性を活かした「雅楽」や「ほたるこい」のメロディを使ったようです。
清水:すごく幻想的で魅力的な楽曲です。
宮田:ハーモニーもすごく綺麗だしね。
中:現代曲かと思いきや、日本人は馴染み深い曲。楽しんでいただけると思います。
三宅:照明でも工夫しようと思っています。
ーー新曲の編曲について教えてください。
小林:「ル・グランタンゴ」はピアソラが書いたチェロのための曲です。アニバーサリーなので、チェロのための曲を改めてチェロアンサンブルでという思いがあって選びました。ソリストありきの曲なので、これだけソロを弾かれる皆さんが集まったアンサンブルの中で、どう表現していただこうかワクワクしながら作りました。
三宅:初めての音出しを1月に行いましたが、かなり面白いです。
小林:お客さんもチェロ好きな方が多いので、みんな楽しめるんじゃないかと思います。
ーー「動物の謝肉祭」についてはどうでしょう。
三宅:ラバ以外全部弾きます。終曲はラバも含めて全部頑張る予定です(笑)。様々な楽器が登場しますが、全部チェロだけで。
小林:何度も会議を重ねて確認しました。書いた側からすると大変だと思います。アレンジについて、有名な「白鳥」は逆にプレッシャーがありましたね。
三宅:今までなら数小節のメロディを回していたけど、今回は1人の音をずっと聴かせたいなという思いもありました。みんなソロがあります。
宮田:白鳥は僕がソロですが、それよりも注目してほしいのはピアノのパートをどうアレンジしてどう弾いているか。
三宅:「象」を担当するのが宮坂(拡志)なんですが、音出しでは中々のコントラバス感を出していたので楽しみにしてほしいなと思います。
ーー個人的に注目して欲しいポイントはありますか?
宮田:一回限りのコンサートなので聞き逃さないでほしいなと思います。
清水:年1回の自主公演なので、その年に聞いたらその後なかなか聞けないんですよ。お客様からの「また聞きたい」という要望は多い。
新倉:みんなが楽しんで役割分担し、刺激しあい、支え合ってやってきています。盛り上がるほどにきちんとしたい部分が出てくるので、大切な節目を迎えられたからこそ、原点に立ち返る気持ちは持っていたいです。何があっても大丈夫と思いながらステージに出られる環境は大人になると減っていくけど、この10名はお互いのいいところを尊重し合えているので、安心して弾いていられますし、刺激を受けられます。そこは演奏中の表情ひとつとっても皆さんに伝わっているんじゃないかなと。個々が毎年成長しているのを感じるので、帰ってくる場所があるのは幸せなことだと思います。
堀:普段、“今の自分たちにしかできないアンサンブル”というモットーを掲げています。今回も15年だからできることを。自主公演だから自由にできるけど、だからこそ真剣にみんなが取り組んでいる。それが会場に来てくださる方にも伝わるといいなと思うし、きっと伝わるだろうと思っています。
ーー15回記念ということで、これまでの活動を振り返って印象的なこと、特に思い出深いことを教えてください。
宮田:違う話になってしまうんですが、今回のコンサートも終わった後の打ち上げをすごく楽しみにしています。
一同:(笑) 。
宮田:コロナ禍で打ち上げできないのはきつかったです。今回、きっとお客さんもコンサート後に美味しいご飯やお酒を楽しみたくなると思います。
清水:みんなよく飲んでよく食べるんですよ。
新倉:リモートで「キャラバンの到着」を演奏したのも楽しかった。あれによってみんなの気持ちが集結できた。最初は少しだけ「リモートか……」という気持ちがあったけど、やって良かったし自分自身も救われた感じがしました。
清水:2018年の公演がこの10名になるきっかけでした。荒井(結)さんが福井出身というご縁でホールに呼んでいただき、私たちにとって初めての地方公演をして。寝食を共にし、ずっと一緒にいたのにずっと喋っていました。そこでさらに絆が深まったと思います。
堀:毎回印象に残っているけど、楽器を弾いていない時間も共有していますね。みんなよく食べて飲むって話も出たけど、例えば半端な数でお肉が出てきたら誰が食べるかじゃんけんするとか(笑)。それを楽しんでいるのも10人になってからかも。
中:ノリが同じ感じだよね。
宮田:お客様もちゃんとついてくださり、アンケートもたくさん書いてくださっている。それは一人のお客様が「すごく良かった」と周りに紹介してくれるから。その積み重ねで16年続けてこられたんだと思います。
ーー20周年に向けて、挑戦したいことがあったら教えてください。
清水:個人的には、とにかく体調管理(笑)。
三宅:クレンゲルの「讃歌」などを10名にアレンジしてもらって、今はいつも同じパートをやっています。例えば次の5年はパートの入れ替わりをしたりして、東京チェロアンサンブルの違う音を見つけていくのも面白いのかなと思っています。
宮田:アンケート用紙にお客様から「こんな曲をやってほしい」と書いていただくんですが、10名のアンサンブルは既存曲が少ないぶん自由度も高い。色々な曲に挑戦してレパートリーも増やしたいですね。
三宅:残念ながら2025年は自主公演ができないことが決まってしまっているので、東京チェロアンサンブルの第16回公演は2026年になってしまいます。でも、曲会議はシーズンごとにしっかりやっていこうと思っています。
堀:5月に15回目を迎えたらまた違う目標が出てくるのかなと。一つひとつの公演ごとにテーマを決めているので、どんどん更新されて20年を迎えるのかなと思っています。今は20年に向けて活動していくのが楽しみです。
新倉:今は10人で音を出すことを大切にしているけど、2人編成とかもやってみたいなと思っています。10人まとまって気持ちが揃っているからこそできる新しい編成に挑戦したい。以前「三文オペラ」ではピアニストのゲストを迎えたりもしました。でも、ゲストというよりは、このメンバーの中で今までと違う流れのことをしてみたいという思いがあります。
中:個人的には、今も充分にみんなとのアンサンブルから刺激を受けているけど、もっとさらにいいアンサンブルのグループになっていたいな。自分たちがもっと強く自負できるアンサンブルになっていきたいなと思います。
三宅:海外でコンサートをしてみたいですね。「レ・ミゼラブル」も海外の方が結構見てくれているので、そういうところに向けた発信もこれから続けていかないとと思っています。
小林:いろいろなやりたい曲が出てくるのかと思ってハラハラしてお話を聞いていました(笑)。東京チェロアンサンブルにオリジナルの曲を作ってみたいですね。
三宅:ぜひよろしくお願いします!
ライター:吉田沙奈

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