ジャズ作家・挾間美帆、グラミー賞ノ
ミネートの前作から5年振りとなる待
望の新作『ビヨンド・オービット』に
込められた意思を紐解く

米ダウンビート誌「未来を担う25人のジャズアーティスト」、2019 年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」に選出されるなど、ジャズ作曲家としてニューヨークを拠点にワールドワイドな活動を続ける挾間美帆。これまでに山下洋輔坂本龍一鷺巣詩郎、NHK 交響楽団など多岐にわたり作編曲作品を提供する他、自身のジャズ室内楽団”m_unit”3作目となる前作アルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』は、第62回グラミー賞「最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門」にノミネート。2019年からデンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)の首席指揮者、2020年にはオランダの名門メトロポール・オーケストラの常任客演指揮者に就任するなど、その活躍ぶりはまさに目を見張るばかりだ。そんな挾間が9月13日(水)に、5年ぶりのm_unit第4弾メジャー・デビュー10周年記念アルバム『ビヨンド・オービット』をリリース、そして9月15日(金)からは日本国内でのツアーを控えている。リリース&ツアーを控え多忙を極める挾間に、本作『ビヨンド・オービット』についてじっくり語ってもらった。
──2012年にメジャー・デビューをされた当時は、10年後のビジョンみたいなものはしっかりとあったのか、それとも漠然としている感じだったのか、どんな感じでしたか?
10年前は……もうニューヨークに住んでいたので、そこで楽譜を書く仕事をしながら、時間があるときにm_unitをやっていくイメージだったかもしれないですね。今みたいな活動をしているとは、そのときはまったく思っていなかったです。
──当時はどんな状況だったんです?
アルバムを出したばかりの頃は、ニューヨークで仕事をするのが当たり前だと思っていたんですけど、あまりにもニューヨークにジャズミュージシャンの仕事がないことに驚きました。
──そうなんですか!?
アメリカにとって、ジャズってヘリテージ(遺産、伝統)なんですよ。ヨーロッパと比べて文化的な歴史が短いアメリカにとって、ジャズは貴重な文化のひとつなので、それをとても大事にせざるを得ないんです。そうなると、遺産化したものを存続することにお金は出すんですけど、それを新しいものに繋げていこうというところに国から大きなサポートがあるわけではないし、もしあったとしてもそれはアメリカ人のためのものだから、私みたいな“労働許可は出ているけどアメリカ人ではない人”のところまで回ってこないんですよね。だから、こういった種類の音楽で自分の仕事が成り立つのかどうか、非常に難しくて。デビューしてすぐ無職になっちゃったんです。
──いきなりですか……!?
今までは学校(マンハッタン音楽院大学院)に行きながら仕事をしていたから、仕事がない時期もすごく忙しかったんですよ。でも、学校がなくて仕事もないと、本当に何もないじゃないですか。そういう期間が4ヶ月ぐらいあって。その時期は人生で一番怖い4ヶ月だと今でも思っているんですけど。だから、スタートしたときはもう少し楽観的だったんですが、現実はそうではないことを思い知ったのがデビューしてすぐの頃ですね。でも、自分で自分に期待しすぎていたことに気づいてからは、着実にできることをやっていこうと思って、ある程度転機になったのが、2015年、2016年ころだったと思います。
──どんなことがあったんです?
ヨーロッパでもっと仕事を増やしていかないといけないなって思うようになって。例えば私の教授は、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードというジャズクラブで作曲をしたり、ピアノを演奏していた時期があって、そこからニューヨークを代表する作曲家としてヨーロッパに呼ばれ、いろんな新作を発表していくうちに、アメリカでは教える仕事が定着、というキャリアを歩んでいます。そのおかげで私は先生に習うことができたという流れなんですよね。有名な人でさえそうなのだから、自分も考えなきゃいけないなと思うようになりました。
──それで自分もヨーロッパで仕事を始めようと。
最初に思い浮かんだのは、メトロポール・オーケストラというオランダにあるジャズ管弦楽団なんですが、彼らと一緒に仕事をすることは夢でした。2011年に彼らが主催するアレンジャーズ・ワークショップに生徒として参加していたので、繋がりはあったんです。でも、編曲だけではなく、指揮者やディレクターやプロデューサーとして一緒に仕事をしたかったので、2015年からいろいろなプロジェクトの案を送ってはいたんですが、うまくいかなくて。
──とにかくアタックし続けたと。
でも、これはメールだけだと埒が明かないと思ったので、たぶん2016年だったと思うんですが、夏休みにマルタ島に行ったときに、「今ってリハーサルやってない?」ってオーケストラのプロデューサーにメールしたら、「ちょうどやってるよ」という返事が来たので、「じゃあ遊びに行く!」って、マルタからオランダに行く飛行機をとって、そのまま遊びに行ったんです。そのついでに自分がやりたいことをプレゼンさせてもらったら、やっぱりメールよりも話したほうがよくて。それで実現したのが、2017年にメトロポール・オーケストラのビッグバンドと廻った、セロニアス・モンクのトリビュート・コンサートだったんです。
──なるほど。
それとはまた別に、2017年の東京JAZZにデンマークのビックバンドが呼ばれることになり、そこに私も参加させてもらうコンサートがありました。それぞれ別のところから繋がったんですが、2015年ぐらいから少しずつ歯車が回り出して、2017年にその2つがステージ上で起こって。そこから大きく変わったと思いますね。
──現在挾間さんは、お話に出ていたデンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者と、メトロポール・オーケストラの常任客演指揮者を勤められていて。チャンスをしっかりモノにされたというのは、シンプルにめちゃくちゃかっこいいですね。
言われてみればそうなのかも。自分ではもうその時々で必死でしたから、(声を震わせながら)「なんとかできた……!」みたいな感じの現場だったので(笑)。ホントにいつも綱渡りですよ。
──いや、その機会をしっかり掴めるのは、簡単にはできないことだと思います。
ありがとうございます。ラッキーだと思います。でも、ラッキーなことも才能のうちというか。それをちゃんと掴むための準備が日頃からできていないと、ちゃんと掴めないので。それは必死に考えるようにはしていますね。
──チャンスを掴むための準備って、どんなことをされていたりするんですか?
うーん、何かをするというよりは精神論ですね。それこそ4ヶ月間仕事を失ったときに、それまで勉強したかったことをやればいいじゃんってそのときは思ったんですけど、無職になったことにびっくりしすぎて寝込んじゃったんですよ(苦笑)。病気ではなかったと思うんですけど、すべて面倒臭いみたいな感じになっていた時期があって。
──そうでしたか……。
それにはいろんな原因があったと思うんです。ニューヨークって、ずっと自分の尻を叩いていないといけない街で、そこに長く居すぎたこともあって。自分はこれもダメ、あれもダメ、あれもできない、これもできない。周りはなんでもできるのに、今日すぐ結果を求めなくてはいけないのに、私は何もできていない、みたいな。自分に対して劣等感や自己嫌悪がものすごく出てきて、負のループに陥るんですよ。で、“負のループに陥ったときに絶対にいてはいけない街ナンバー1”なのが、ニューヨークなんです(笑)。
──そんな街に住んでいたと(笑)。
そのときはニューヨークでの過ごし方みたいなものを全然わかっていなかったし、周りの人がどういうスピード感で動いていて、自分はどういうスピード感で何ができるのか。あとは自分のキャリアに期待しすぎていたりとか、いろいろなバランスが取れていなかったんですよね。でも、良い意味でも悪い意味でも、そこで一回挫けたことはすごく大きかったです。そのあとは、自分に期待しすぎず、恵んでもらえたチャンスには感謝して、目の前の仕事にどうすれば自分のベストを出せるのか。結果がすぐに求められる街において、焦らず地道に時間をかけてモノを作ることに対する覚悟ができた感じでしたね。
挾間美帆
──そこから様々なご活躍があり、メジャーデビュー10周年となる今年、アルバム『ビヨンド・オービット』をリリースされます。m_unitとしては第4弾、前作「ダンサー・イン・ノーホエア」から約5年振りのアルバムになりますが、このタイトルはどんなところから出てきたんですか?
アルバムの中に、モントレージャズフェスティバルから委嘱を受けた「エクソプラネット組曲」という曲があって。その1曲目が「エリプティカル・オービット」というタイトルで、“楕円形の軌道”という意味なんですけども、その曲はアルバムの中でも、自分にとっても大事な曲になりましたし、今までのタイトルは時間や時の流れを可視化するというか、わりと抽象的なアルバムタイトルが多かったので、ここで現時点での等身大の自分を発表することによってこれまでの自分の軌道の先に繋がるような、それを超えていけるような可能性を秘めた作品になってほしいという願いから、このタイトルにしました。
──お話にあった「エクソプラネット組曲」ですが、モントレージャズフェスティバルからの委嘱って、何か具体的なオーダーがあるのか、それともざっくりしているのか。どんな感じなんですか?
委嘱の内容は、m_unitという13人編成で、25~30分ぐらいの曲をモントレージャズフェスティバルのために作るということだけなんです。なので、何をどのように作ってもいいんですよ。そこで私が考えたのは……2020年の9月に初演できるように考えを練り始めたのですが、パンデミックでフェスが1年延期になってしまって。それこそニューヨークはロックダウンされ、私は狭いアパートの中でそれを経験しなければならず。あと、2020年は(アメリカ)大統領選挙や、ブラック・ライヴズ・マターもあって、アメリカが社会的に分断された上で、しかもロックダウンで情報元がネットしかないという、ものすごく恐ろしい環境に放り込まれたんです。それで、なんかもう地球のことを考えるのが嫌になっちゃって。
──(苦笑)。それで“エクソプラネット=太陽系外惑星”なんですね。
社会的なメッセージを込めた曲を作る方向性にもできたと思うんですけど、私はそれをあまり音楽に込めたくないという、作曲家としての姿勢が自分の中にあるので。だから、自分が考えていることの気晴らしになるような、光のある作品にしたいと思ったんです。それで地球のことを考えるのをやめたときに、小さい頃から星とか月とか宇宙の神話がものすごく好きだったので、そういうのを眺めているうちに、おもしろいアイデンティティを持つ惑星を見つけたんです。それが2曲目の「スリー・サンライツ」で、3つの太陽を持つ小惑星と言われていたんですが、どうやらそれは誤発表だったらしくて(苦笑)。残念なんですけど、その当時はそれにインスピレーションを受けて書きました。
──でも、なぜまた宇宙が好きだったんです?
なんででしょうね? 子供の頃からプラネタリウムに行くことが好きでしたけど、理由はわからなくて。でも、本能的に好きです。宇宙のことを知って、なんて自分はちっぽけなんだろうって考えるのがすごく好き。なんかすごく寂しいこと言ってますね(笑)。
──そんなことないですよ(笑)。
でも、そういうことを考えると、小さいことがどうでもよくなるじゃないですか。自分に専念できるようになるというか、フォーカスの仕方を整えられるのもあって、星を眺めるのは好きです。
──「エリプティカル・オービット」には、ゲスト奏者としてクリスチャン・マクブライドを招かれていますけども、どういう経緯だったんです?
この曲を作るきっかけになったのが、クリスチャン・マクブライドのライヴで聴いた彼の演奏だったんですよ。コントラバスって最低音がミの音なんですけど、彼がバーン!って鳴らしたその音を弾いたときに、衝撃の稲妻が走って。この音を演奏してもらえる曲をいつか書こうと、そのときに思ったんです。それで、この曲はベースラインから始めたかったので、うまくハマるんじゃないかなと思って、あの最低音だけを思い浮かべながら書いていって。初演はクリスチャン・マクブライドではなかったんですけど、録音するときに、せっかく彼がインスピレーションの源だったのだから、実際にやってもらおうと思ってお願いしました。
──一緒に仕事をしてみていかがでした?
いやぁ、もう説得力が全然違うんですよ! いつもレコーディングのときは何テイクか録って、私がひとりで選ぶんですけど、彼のソロが本当に素晴らしすぎて。これまでアルバム3枚作りましたけれど、初めてテイクが良すぎて選べなかったんですよね。どれもコード進行は全部同じなんだけど、演奏している内容もアプローチも全然違う。でも全部すごい。どうしよう……!って。初めてメンバーにアンケートを取りました。
──アンケートの結果って結構分かれたんですか?
おもしろいことに、「迷うけど私はこれかな」と思うものがひとつあったのですが、5人の内の4人はそれを選び、いつもレギュラーで弾いているベーシストだけが違うテイクを選んだんです。
──へぇー!
ベーシストから見たベースソロって、またちょっと違うと思うんですよね。実際に「ベーシストとして、これはとんでもないことをやってる」というコメントをしていたから。でも、音楽的にはこっちのほうがピンとくるかもしれないというのが、4人の意見だったと思うんです。結局、4人が選んだほうにしちゃったんだけど、別テイクを選んだメンバーに「ひとりだけ違うの選んでるよ」って言ったら、「Oh, No!」と反応していました。でも、どれもよかったらこの話になっているわけであって、全然「Oh, No!」ではないんですけどね(笑)。
──「全部最高なんだけど、どれがいい?」ですからね(笑)。
そう。すっごい贅沢な会話してる。
挾間美帆
──もう1曲、ゲスト奏者を迎えているのが「フロム・ライフ・カムズ・ビューティー feat. イマニュエル・ウィルキンス」。
この曲は企業のキャンペーンソング(資生堂 150周年キャンペーンムービー使用曲)として委嘱を受けたんですが、瑞々しいのに違う世界に連れていってくれる存在みたいなものが、すごく頭の中にあって。イマニュエルは、日本ではまだあまり知られていないけど、アメリカではとんでもないライジングスターになっているので、「イマニュエル・ウィルキンスはどうですか?」って、プロジェクトのプロデューサーに聞いたら、そういうことにすごく理解のある、世にも珍しい方で(笑)。それですごく幸運なことに、イマニュエル・ウィルキンス、BIGYUKI、ケンドリック・スコット、中村泰士というとんでもないメンバーで曲を書かせていただき、レコーディングもさせてもらって。そこにコーラスとストリングスとフレンチホルンを加えたのが原曲だったんですよ。
──なるほど。
自分でもすごく気に入った作品になりましたし、せっかくならm_unitでもやってみたいなと思ったときに……m_unitのレギュラープレイヤーはスティーブ・ウィルソンなんですけど、彼の燻した感じのアルトサックスだけでは瑞々しさが足りない、ここは瑞々しさと年季の入った演奏で、新しいケミストリーが生まれないかなと思って。
──それこそサックスの掛け合いがめちゃくちゃエネルギッシュでエモーショナルでした。
後から聞いたのですが、イマニュエルがジュリアード音楽院に通っていたときの先生がスティーヴだったそうなんです。私、そのことを一昨日知ったのですが(笑)。
──本当につい最近じゃないですか(笑)。
そうなの(笑)。先生だったから、練習室ではいっぱい一緒に演奏していたんだけど、ライヴとかレコーディングで演奏するのはそれまで一度もなくて、レコーディングのときが初めてだったと言っていました。そんな2人の初共演がこの曲っていうのも、なかなか熱いなと手前味噌ながら思っております。
──間違いなく熱いです。あと、アルバムには毎作カバー曲を収録されていて。レディ・ガガ、ア・パーフェクト・サークル、ジョン・ウィリアムズと来て、今作はアース・ウインド&ファイアーの「キャント・ハイド・ラヴ」をカバーされています。挾間さんが生まれて初めて買ったCDが、アース・ウインド&ファイアーのベストアルバムだったそうですね。
そうなんです。10周年だから原点回帰だ!と思って、小学校4年生のときにお小遣いで買ったアルバムの中から選びました。まだ持ってます。もうボッロボロなんですけど。
──いまだに手元に置いているんですね。
ところがね、中身紛失中。
──はははははは!(笑)
車の中にあったりするのかな。ケースだけでもいいから持って来ようと思って。
──でも、幼ながらに、アースのどんなところが好きだったんです?
「レッツ・グルーヴ」のグルーヴが、なぜか分からないけど大好きなんですよ。ちょっと間違えると、すごくダサくなるテンポとグルーヴだけど、それが大好きで。なんか、日本人の盆踊りみたいなものに通じるのかなって思うぐらい、本能的に好きなんです。だからもうとにかくあれを一生聴いていたいと思った時期があって、あの曲が入っているCDを買ったらアース・ウインド&ファイアーのベスト盤でした。
──でも、今回は「レッツ・グルーヴ」を選ばなかったんですね。
それこそあのグルーヴに固執しすぎていて、原曲を超えることができないと思ったんです。自分の固定観念も愛情も強すぎて、なんかもう気持ち悪い彼女みたいになってるから(笑)。やっぱり束縛しすぎることって音楽には何の特にもならないので、もうちょっと客観的に愛している曲にしようと思って。あのアルバムは小学校4年生からずっと熱唱していたので、どの曲も大好きなんですけど、自分の音楽観とm_unitの世界を合わせたらおもしろいことができるかなと思って、選びました。
──原曲で印象的な“タッタッタッタッ”という4音は意地でもストレートにやらない、みたいな印象もあったんですが。
いや、実はやってるんですよ。倍音のハーモニーを足しているから、音響設計上、違う音に聴こえているだけで。ラヴェルの「ボレロ」の途中で、ピッコロの変な音が上で流れているところがあるんですけど、それと同じ原理ですね。メロディはいるんだけど、上に変なのがいるっていう。
──そうだったんですね。失礼しました(苦笑)。
まぁ、変態アレンジですからね(笑)。アレンジをするときって、いつもはクライアントからのオーダーがあるけど、m_unitでカバーをするときは、ハメを外してもいいというアプローチでやってます。
──それこそ最後にハメを外してますよね。カーニバル的な感じになって。
そうそう。「キャント・ハイド・ラヴ」なんだから、隠せなくなっちゃったってことでいいじゃん!って。歌詞も「僕への愛をどうせ隠しきれないんだろ?」みたいな、結構オラオラ系な感じなんですよ。隠しきれないよ! じゃあ隠さないでやるよ!みたいな、売られたケンカを買っちゃった結末というか(笑)。
──(笑)。でも、聴き直してみると、ピアノを裏拍で入れていたり、ドラムにちょっと南国的な感じもあって、実は布石があったんだなと思って。
この曲の有名なフレーズって、結局は全部裏打ちじゃないですか。それをそのまま曲で続けることができるなと思ったのと、そうするとブラジルのショーロっていう音楽っぽくなるなと思って。ショーロで行くなら、最後にブラジルのクレイジー系でいこうと思って、サンバにした感じでした。
挾間美帆
──そんなアルバムの発売と、10周年を記念したツアーを日本国内で開催されます。どういうツアーにしようと考えられていますか?
一番大事にしたいのは、やはり今回のアルバムの曲達ですね。リリース直後のコンサートですし、それこそパンデミック中に作った曲で、演奏できなかったものがほとんどですし。このアルバムを日本のメンバーと演奏するのも初めてになるので、それがすごく楽しみですね。
──リハーサルはこれからだと思いますが、いつもどれぐらい入られるんですか?
やっぱり人数が多いし、忙しいメンバーばかりなので、1日だけしか取っていないのですが、行った先々で、その会場のサウンドに慣れるためだったり、修正したい点を細々と毎回変えたりしているので、大きいリハーサルは1回だけだけど、毎回手直ししてますね。
──毎公演ごとに磨き上げていくという。
やっぱりそれがツアーの醍醐味ですよね。これだけ入り組んだ曲だと、初演のときは初演のスリルがあって、緊張感があるんですけど、最後のほうになると、そこまで修正してきたものに加えて遊びもだんだん出てきて、楽しむ場所が変わってきたりもするので。それがすごく楽しいです。
──そうなると、ツアーの前半戦と後半戦でそれぞれ観たくなりますね。
そういうこと!だからみんな観に来てください!
──前半と後半でかなり印象が変わるでしょうし。
自分がそれを楽しみにしているぐらいですからね(笑)。それをお客様に観てもらえたらもっと嬉しいですけども。
──最後にお聞きしたいんですが、デビューから10周年経った今、10年後のご自身はどうなっていると思います?
ジャズ作曲家になりたいという気持ちは、デビューした時点からすごく強かったんですよ。それがどういうふうに仕事になるのかはわからなかったけども。ただ、10年かけてジャズ作曲家として生き延びることができた感が、今はすごくあって。ここからはこの10年の軌道をどういうふうにまた超えていくのかということになってくると思うんですが……デビュー当時に「ジャズ作曲家」と宣言しているので、兎にも角にもそこは変わらず。じゃあジャズ作曲家として何ができるのかとなったときに、そこで変な欲や俗っぽさが出るのはすごくダメなことだというのを、この10年でよくよくわかっているので、本当に華のない答えで申し訳ないのですが、今できることを、地道にいい形にしていくということになってしまいますね。
──基本的にはこの先も変わらず、一歩一歩着実に進んでいこうと。
もうそれで精一杯です(笑)。この5年で責任も増えてきたしやることの規模も大きくなってきて。それは自分が充分に恵まれてきた証拠だなと思っていますし、それをいい形に持っていくことによって、また次に繋がっていく、それこそ“ビヨンド・オービット”になることがあるかもしれないから。ただ、最初から狙ってそうするのではなく、それが入ってくる環境を整えるためにも、いまできることを粛々とやっていこうと。もう本当にそれだけですね。

取材・文=山口哲夫 撮影=Dave Stapleton

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