世界のメジャーシーンで活躍するジャ
ズコンポーザー挾間美帆に聞く~2年
ぶりにフェニーチェ堺のステージへ

ニューヨークに拠点を置き、デンマークをはじめヨーロッパ各国へと活動の幅を広げ、作曲や編曲の依頼が絶えないジャズコンポーザーの挾間美帆(はざまみほ)。
2019年度グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされたことで、一躍メジャーシーンに駆け上がった挾間美帆が、2年振りにフェニーチェ堺で、関西としては唯一のコンサートを行う。
先ごろ、今年で三度目となる東京芸術劇場の人気企画「NEO―SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」を、プロデューサーとして見事成功に導き、日本での人気を一層確かなものとした挾間美帆に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。 
再び皆さまにお会いできるのが嬉しいです!(2019.10.フェニーチェ堺)  (c)飯島隆
―― フェニーチェ堺でのコンサートが近づいて来ました。2019年に続いて2度目です。
2019年、ホールグランドオープンのガラ・コンサートに呼んで頂きました。正直、誰も私たちの事など知らないだろうと思って行ったのですが、お客様が初めて会ったとは思えないフレンドリーさで接して頂き、気さくに話しかけて下さるのが新鮮で嬉しかったです。また堺に戻って来ますので、皆さまにお会い出来ると嬉しいです。
フェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)  (c)石川拓也
―― 今回のコンサートの聴き所を教えてください。
自分のグループ「m_unit」としては、これまで3枚のアルバムを出しています。前回は3枚目のアルバム『Dancer in Nowhere』の発売直後という事もあり、ガラ・コンサートの後に、小ホールで3枚目のアルバム曲に特化して演奏しました。「スターウォーズ何部作」ではありませんが、自分としてはアルバム3枚で一つと考えていますので、今回はそれぞれのアルバムから曲を選んで皆さんに聴いていただこうと思っています。東京以外で演奏する機会は少ないので、フェニーチェ堺でのコンサートは私達も楽しみにしているんですよ。
フェニーチェ堺でのコンサートが待ち遠しいです!   (c)Agnete Schlichtkrull
―― 「m_unit」の音楽を聴いていると、ジャズ喫茶などで聴く従来のビッグバンドのサウンドとは違った、イキイキとした心地よさを感じます。サウンドの秘密を教えて頂けますか。
私の頭の中で最初に浮かぶのは、オーケストラなんです。大学院の卒業リサイタルで発表する曲を作る時に、流石にオーケストラを持ち込む訳にはいかないので、少人数でオーケストラに近いサウンドを鳴らすには…と考えたのが、弦楽四重奏にピアノ、ベースにドラム。それにサクソフォーンを3本入れ、トランペットにフレンチホルン、そしてヴィブラフォンという13名の楽器編成だったのです。トロンボーンではなくフレンチホルンを用いたり、ティンパニーやパーカッション的な要素を出すためにヴィブラフォンを使ったのは、オーケストラサウンドを意識したものです。「m_unit」はこの13名による楽器編成ですので、ビッグバンドとは違って聴こえると思います。
「m_unit」のサウンドは新鮮に聞こえるはず。   (c)Agnete Schlichtkrull
―― グループ名を「m_unit」にされたのは、何か意味があるのでしょうか。
グループ名を、何々バンドや何々オーケストラとすると、メンバーが固定される印象があると思うのです。ユニットだと、メンバーや人数も比較的その時限り、流動的な感じに見えないかなと思って(笑)。以前、「m_unit mini」と謳って、「m_unit」の曲を、ピアノとベースと弦楽四重奏でやりました。現在、コロナで海外からメンバーを呼べない事もあって、今回のコンサートでは、レコーディングのメンバーではなく、日本人ミュージシャンだけで構成しています。こういう機会が無ければ一緒に出来ない、ずーっとやりたかったメンバーに連絡して集まってもらいました。そういう意味でも今回は、とても楽しみなコンサートツアーです。
―― 大変なご活躍ですが、どのように音楽を勉強されて来られたのでしょうか。
両親の影響で、小さい頃からジャンルに隔たり無くいろんな音楽を聴いて育ちました。小学生の頃から通っていたヤマハの音楽教室で、エレクトーンを使ってクラシックのオーケストレーションを勉強したことは、後々とても役立ちました。国立音大ではクラッシックの作曲を勉強しましたが、ビッグバンドのサークルに入り、ジャズに触れたことで人生が変わりました。ジャズをもっと勉強したいと思い、マンハッタン音楽院の大学院に留学し、ジャズの作曲を勉強しました。私以外の同級生は、全員ジャズの学位を持って大学院に来ているような環境。とても遅いスタートだったと思います。
ジャズへの取り組みは、随分遅いスタートでしたね。   (c)Agnete Schlichtkrull
―― 性別や国籍など、色んな意味で差別なんかもあったと思います。そんな中で今のポジションを掴まれた要因は何ですか。
自力で何かを開拓しようと努力してきた事でしょうか。オランダのオーケストラとどうしても仕事がしたかったので、突然訪ねてリハーサル見学させてもらい、その場でやりたい事をプレゼンしたり、レコーディングでジョシュア・レッドマンに吹いて欲しいと、会ったこともないのにメールをしたり…。結果を考えず恐れることなく、やりたいと思ったことに対して正直に行動するという事と、与えられた仕事はしっかりこなす事を、心がけてやって来ました。人種と性別については、あまりに色々あり過ぎて、とても語り切れません(笑)。ジャズの世界においては、女であることもアジアンであることも、相当特殊なので、もはや気にするレベルではありません(笑)。あまり深く考えずに、ポジティブにやって来ました。
―― 挾間さん待望の新作『イマジナリー・ヴィジョンズ』は、今年(2021年)9月末の発売ですが、2019年から首席指揮者を務められているデンマーク・ラジオ・ビッグバンドを指揮されたアルバムです。彼らとの出会いは、2017年の東京ジャズだとお聞きしていますが、もう少し詳しく教えて頂けますでしょうか。
彼らの初の日本公演を、直接会った事もない私が指揮する事になりました。私も不安でしたが、メンバーはもっと不安だったと思います(笑)。色々と大変だったのですが、結果として失敗しなかった事が、彼らには相当インパクトが強かったようです。それがきっかけでデンマークに呼んでもらえるようになって暫くして、現在のポジションに就くことになりました。
2019年からデンマーク・ラジオ・ビッグバンドの首席指揮者です。   (c)Agnete Schlichtkrull
―― 挾間さんの活動は、ジャズが持つイメージや置かれたポジションを、変えていっておられるように思います。ジャズとはどんな音楽ですか。
日本でジャズと言えば、暗いイメージを持つ人が多いのかもしれませんね。日本特有と言いますか、敗戦国で、ジャズの入り方もかなり特殊だったので仕方ない部分もあると思います。元々ジャズは、色々なジャンルの音楽や、歴史・文化的な背景によって変化、発展を遂げて来た音楽です。音で会話する事、即興する事は、ジャズには不可欠な要素ですが、それ以外はとても柔軟性を持った音楽です。今20代のミュージシャンが、色んな音楽を混ぜて、即興しながら新しいシーンを創造しています。とても楽しく、素敵な傾向だと思っています。
―― ジャズのイメージが変わって来るのと併せて、クラシックとジャズの位置関係も変わって来ているように思います。
音楽におけるジャンル的なものは、自分の中では完全にボーダレスになっています。ジャズだから、クラシックだからでは無く、好きなものは好きだし、興味のないものは興味がない(笑)。自分がジャズ作曲家を名乗っている理由は、即興という部分が大きいかもしれません。即興する人がバンドの中にいないと私の音楽は成立しないと言いますか、即興を想定して作曲していることが多いですね。 
音で会話する事、即興する事は、ジャズには不可欠な要素です。  (c)飯島隆
―― 挾間さんはこの後、どうしていこうと思われているのでしょうか。
デンマーク・ラジオ・ビッグバンドは国営ですが、私は現在そこの首席指揮者という立場です。同じく国営放送局のオーケストラ、デンマーク放送交響楽団の首席指揮者がファビオ・ルイージだと言うと、クラシックファンの皆さまに、私の立場を理解して頂けるかもしれませんね。これまでは、自分のやりたい事に集中して生きて来ましたが、現在のポジションに就いてからは、オーケストラの未来を考えたり、メンバーの生活や家族を守らねばならない、と云った責任が出来ました。それがここ1、2年で、大きく変わったことです。時間はあっという間に過ぎて行きます。この1年は、コロナで動けなかったのですが、ボーっとしていたら何も出来ずに終わるのではないかという危機感を感じています。自分のためだけではなく、自分以外に果たすべき責任が存在する事に対する愛情とか意気込みみたいなものを、しっかり育んでいくというのも、私にとって新しい挑戦だと思っています。
今後とも「m_unit」の活動にご期待ください!   (c)Agnete Schlichtkrull
―― 挾間さん、長時間ありがとうございました。今後のご活躍を祈っています。
取材・文=磯島浩彰

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