NakamuraEmi

NakamuraEmi

【NakamuraEmi インタビュー】
何か救われる部分が
あるものにしたいと、
やっと思えるようになった

“変わらなくちゃ”と思ってる人に、
そんな自分を抱きしめてほしい

コロナ禍が作品作りに大きな影響を与えるのは今の必然で、「投げキッス」は世の現状を一番ダイレクトに、ロックに表現してますよね。特に2番に書かれた嘆きは痛烈ですし、ギターも叫んでる!

あれはカワムラさんも“高校生の頃の自分が出てきた”って言ってました(笑)。エンジニアも今までずっと同じ方だったんですけど、この曲は椎名林檎さんとかもやってらっしゃる井上うにさんにお願いしていて。歌詞に関して言うと、コロナ禍の中で何かとSNSでバッシングされたりもあったじゃないですか。“みんながつらくて支え合わなきゃいけない時期なのに、なぜこんな悲しいことが起こってるんだろう?”という感情が、やっぱり出たんでしょうね。ただ、一番言いたかったのは…マスクを外してハグをしたり握手をしたり、以前のように自由に生きられる日がいつ来るかなんて、今はもう誰にも分からない状況じゃないですか。その日に辿り着くために自分たちができることって、治るか治らないかという瀬戸際で願いを込めて千羽鶴を織るような、そんな尊い気持ちをみんなで積み上げていくことしかないんじゃないかっていうことなんです。この曲で初めて“世界中”っていう言葉を使えたのも、今、世界が同じ悲しみを抱えて同じ立場にあるだからだし、そういうスケールの大きなものを自分の言葉で伝えたくなったのは初めてでした。

先ほど“聴き手に寄り添っている作品”と言いましたが、もうひとつ感じたのが“自分らしさを大事にしてほしい”というメッセージなんですよ。それが色濃く表れているのが「畑」や「1の次は」で、もしかしてNakamuraさんご自身に自分らしさを肯定できない気持ちが、これまであったんじゃありません?

そうだと思います。“自分を大事にしよう”って口では言っていても、実はすごく難しくて。昨年春の何も動けなかった頃、昔ライヴハウスで一緒にやってた子がテレビに出て大活躍してたり、自分との大きさの違いをコロナ禍だからこそ感じたんですね。そこで自分の位置とか、売れる・売れないとか、それまであんまり考えなかったことをいろいろ考えちゃったんです。でも、きっとその立場にいるからこそできないことも彼らにはあるだろうし、逆にここにいる私だからこそ見えるもの、動ける範囲もある。そう思えたので、“あんまり引け目を感じる必要はないな。それよりも周りにあるものを大事に見なくちゃな”と気づかされたんです。

「畑」なんて、まさしく“他人を羨むのではなく自分の周りに目を向けよう”というメッセージが込められていますよね。しかし、そんな自己否定から派生した曲でありながら、「1の次は」はテレビ東京系ドラマParavi『にぶんのいち夫婦』のエンディングテーマという華々しいポジションに来ているのが面白い。

ですよね(笑)。完全に曲が出来上がってから選んでくださったので、私たちもびっくりしました。いろんなものを経て、そういう偶然というか、新たな出会いが生まれたのは嬉しかったですね。

えっ! タイアップが決まったから、こんなボサノバ風の華やかなサウンドになったのかと思っていました。

実は違うんですよ。言ってることが実は深刻だったりするから、逆に明るいというか、軽快なアレンジを組んでいただいたんです。

なるほど。ただ「1の次」は解釈するのが難しくて、“1から2まで沢山数字が見えるの”とはどういうことなんでしょうか?

むしろ、そう感じてもらえるのが嬉しいですね。1の次は2で、3、4と続くのはもちろん分かっているけど、私は1.1、1.2…と細かく見ちゃうタイプなんです。だから、この曲をデモ段階でスタッフに聴かせた時は、やっぱり“意味が分からん!”っていう人もいたし、“俺は1から5に行っちゃうタイプだな”っていう人もいたんですけど、それはそれで良くて。“1の次が2じゃない人もいるんだ!?”とか“うちの奥さん、もしかしたらそういうタイプかもな”とか、何か心に触れるものがあればいいなと。で、私と同じように細かいことに気づきすぎてしまって、それをマイナスととらえて“変わらなくちゃ”と思ってる人には、“そこまで思い詰めなくてもいいよ”と伝えたい。そんな自分を抱きしめてほしいんです。

私はまったく真逆のタイプですが、気づきすぎてしまう人の苦労というのは傍から見ていても感じます。ラストの「ご飯はかために炊く」も、そんな細やかな気遣いができるNakamuraEmiだからこその曲というか。大切な人のために何かを気遣ったり、その人の影響を受けていくという、とても尊い気持ちが書かれていますよね。

自分の両親のことが大きくて、父が好き嫌い多かったから料理には魚とキノコが出てこなかったりしたんですね。あとは、私を拾ってくれた事務所の人とかの話を聞いて“あぁ、素敵だなぁ”と思うことが結構あったんです。この人がいて自分の世界が広がったっていう感覚とか、どんなに喧嘩しても次の日には仲直りできたりとか、死ぬ時には絶対にこの人がいるんだろうなって信じられたりとか。いわゆる長い目で見たパートナーとの話ですね。

ただ、かためのご飯が好きな相手のために、実はやわらかめが好きな主人公が“ご飯はかために炊きます”というオチには、私はゾワッとするものがあったんですよ。この気遣いがもし一方的なもので、片方が我慢するだけの関係性だったら哀しいなと。

そこは気づきませんでした! 確かにパートナーとの生活感がうまく合わなかったりすると、そう感じるかもしれませんね。正直言ってそこまで深く考えていなかったんですけど、そういう自分は気づけなかった意見を言っていただけるのはありがたいです。気づくことって人によって変わりますから。

だから、「1の次」みたいな曲が生まれるんですもんね。ちなみに、この「ご飯はかために炊く」を最後に持ってきた理由は?

そこはサウンド面ですね。サラッとした聴き心地の曲という。この曲と「一服」は実はデビューした年に書いた曲なんですよ。ゆっくりできる時間が増えた中で、例えばご飯を作りながらでも聴いてもらえる曲を増やしたくなった時に、当時のマインドが逆に今、ちょうど良くなってきたんです。それでボツ曲として溜まってた中から、今回、引っ張り出してきたんですよね。

2曲ともスローで、極限まで音数の少ない理由がわかりました。ちなみに、「いただきます」はDREAMBEERさんのお声がけで作られた曲ということですが。

担当の方が2年くらい前から普通にチケットを買ってライヴに来てくださっていて、“一緒に何かやりましょう”ということで作った曲ですね。家で飲める生ビール、クラフトビールをテーマに配送サービスをされている会社だから、このコロナ禍だからこそお家で、家族で楽しめるもの…という想いをリンクさせて書きました。あとは、グラスハープで鉄琴ぽい音を出したり、フライパンを3種類くらい叩いたりっていうのも自分でやって(笑)。どんなにつらい状況でもお腹は減るし、美味しいものを食べると元気になるっていう食のすごさをこの一年で実感したので、キッチンにある身近な音を入れたかったんです。

OKMusic編集部

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