NakamuraEmi

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【NakamuraEmi インタビュー】
何か救われる部分が
あるものにしたいと、
やっと思えるようになった

2016年のメジャーデビュー以降、アルバムは全て“NIPPONNO ONNAWO UTAU”の名で統一してきたNakamuraEmiの新作アルバム名は“Momi”。コロナ禍を機に図らずもリセットを果たし、新たなスタートとなった作品にあるのは、聴き手に寄り添う力と自己肯定というメッセージだ。経験が形作った“己”を慈しむことを知った彼女の歌はやさしく、そして強い。

締め切りのない休日が突然やってきて、
いろんな部分がリセットされた

CDとしては久しぶりのリリースですが、なんと今作はアルバムなのに、タイトルが“NIPPONNO ONNAWO UTAU”ではないという。

“NIPPONNO ONNAWO UTAU”のシリーズは、ずっと続くものだと自分の中でも思っていたんですけどね(笑)。ただ、時代の流れもありますし、昨年の2月にベスト盤(『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』)を出して、どこか燃焼した部分があったんですよ。しかも、デビューから5年間ガムシャラにやってきたのが、ベスト盤のリリース後にコロナ禍で予定が全部なくなってしまって、締め切りのない休日が突然やってきた状態になったんです。もともとオフを取るのが下手な人間だから、そこで強制的にいろんな部分がリセットされて、次からは違うものに変えたいと自然に思えたんです。

では、動きが取れない焦りだとか追い詰められた感よりも、この機会にしっかりと休もうという想いのほうが強かったんでしょうか?

そうですね。あんまり私、焦らないんで(笑)。特に昨年の3月、4月あたりは何もできなかったから、本当に自分の好きなことを好きなだけやっていました。家の車庫がサビだらけだったんで塗装したり、野菜を育てたり、庭いじりをしたり。あとは、部屋を借りて、防音ルームを作ったりとかしていましたね。そうやってホッとできる時間を持てたことで、むしろ今までの5年間のほうが追い詰められていて、パンパンだったことに気づけたんです。

だからこそのリセットであり、今回のタイトル変更なんですね。“Momi”は日本語の“籾”と、ハワイ語では“真珠”のダブルミーニングだそうですが、ネーミングはどの時点で?

「曲が揃ってからです。今までアルバムタイトルを考えたことがなくて、ナンバリングが増えるだけだったから、レコーディングがほぼ終わった頃になって“どうする?”って(笑)。スタッフたちとあれやこれや話す中で、今まで“NIPPONNO ONNAWO UTAU”シリーズで歩んできたことが全部土台となり、種まきとなり、こうして実になって、籾になったなと。あと、もみの木にも“誠実、正直、永遠、時間”という花言葉があって、デビューから時間を経た今、こうして自分に正直なアルバムができたという点でも、その言葉たちとリンクするものを感じたんですね。さらに、エンジニアの女性に“真珠って貝の中に異物が入ってくると、それを自分で包み込んで真珠にするんですって”と教えてもらって、それも素敵だなと。このアルバムで今の大変な時を包み込めるように…という想いも込めて、“Momi”と名づけました。

分かります。アルバムを聴かせていただいて、とても聴き手に寄り添っている作品だと感じましたから。

確かに、そこは私にとって大きなテーマでしたね。今までって自分の思ったことを日記のように書いて、“はい、そのまま見てください!”という作り方だったんですよ。でも、自分も少し年齢を重ねたことで、ちょっとずつ周りが見えるようになったし。あと、自分はゆっくり休めたとはいえ、コロナ禍で医療現場で働く人たちが苦しんでいたり、家族を亡くした人がいたり、自分のお店を畳まなきゃいけない仲間がいたりと、みんなで助け合わないとやっていけない状況じゃないですか。だから、日記をそのまま見せるのではなく、ちゃんと受け手に分かるように伝えなくちゃいけないし、それぞれにとって何か救われる部分があるものにしたいと、やっと思えるようになったんです。

そのせいか、今回の歌詞は想いをダイレクトにぶつけるのではなく、一回濾されて、より普遍性のあるものとして抽出されているような印象を受けました。1曲目の「drop by drop」も恋の終わりを歌った曲でありながら、実は自分の気持ちに素直になって一歩を踏み出す勇気を歌っていたり。

聴いた人それぞれのところに落とし込んでもらいたかったんですよね。苦しい時や悲しい時に聴いて、頑張れる気持ちになる曲が今まで多かったけれど、そうじゃない時でも寄り添える曲を作れるようになりたいっていう気持ちがあったんです。例えば「drop by drop」だったら、根本にあるのは“自分の中にある純粋なものがちゃんと出せたら、それに敵うものはない”っていうイメージですね。

それってすごく普遍的なもので、どんな状況にある人でも自分に落とし込めるものですもんね。一方で「私の仕事」では新しいスタートにあたっての決意表明が歌われていて、アルバムに先立つ配信シングルの第一弾になったのも納得です。

第一弾であり、この曲が一番早く完成したんですよ。コロナ禍になって周りでも仕事のことで悩む人が増えた時に、私自身はお金が稼げなくて、これで食べていけなかったとしても、音楽はずっとやっていくと確信できた部分があったんです。ベスト盤後の1曲目だったから、今まで聴いてくださった方たちの中には“『NIPPONNO ONNAWO UTAU VOL.7』の始まりだな”って思ってくださった方もいたんですけど、自分たちの中ではこの曲から新しいNakamuraEmiがスタートしていて。ずっと一緒だったレコーディングメンバーもいろいろ変わりましたし、今までは“NIPPONNO”と言ってたから日本にこだわっていたのが、この曲ではマスタリングをマンディー・パーネルというイギリスの方に初めてお願いして、曲の広がりとかもバーッと変わったんですよ。外に開けるような感じを新しい一歩として、まずはこの曲で出したかったんです。

シンプルなバラードなのに実はいろんな音が入っていて壮大に広がっていく、とても透明感のあるバラードですよね。この曲に限りませんが、今作では男性と聴き違えるような低音コーラスも随所に入っていて、そこも新しいところだなと。

今まではヴォーカルもズドンと刺さっていく感じが多かったんですけど、とにかく“広がり”のあるものにしたかったんです。それで高音で歌うやさしい部分でも、1オクターブ低い声を添えてふくよかな部分を作ったんですよね。

なるほど。尖ったものがストレートに突き刺さるのではなく、もっと丸いイメージなんですね。

はい。それに伴って、今まではとにかく歌詞が大事で“メロディーはどうでもいいから、とにかくこれを書く!”みたいな感じだったのが、ちゃんとみんなが気持ち良く聴けるものにしたいという想いも強くなったんです。なので、歌詞メインというのは変わらないけど、メロディーに合う歌詞をめちゃくちゃ探したんで、たったの5文字の部分に2週間かかったりもしました。“実はミュージシャンって、みんなこうやってたのかな?”って思うところもありますけど(笑)。

いえいえ! 言葉が弾丸のようにメロディーやサウンドを突き抜けるのではなく、ちゃんと乗っかっているから、聴き心地も明らかに変わりましたよ。それも聴き手に寄り添えるものでありたいといういう気持ちの表れでは?

そこはプロデューサーのカワムラヒロシさんとも、ずっとリモートで打ち合わせしたところですね。“今はみんな疲れていて、言葉が刺さってこられてもキツいだろうから、ちゃんと音に乗って心地良く届くものを頑張って作ろう”ってことになって、そこでも新しい部分に行けたと感じているし、いろんな意味で新しいスタートを切れましたね。そして、ここからまたいろんなものを取り入れていきたいと思えたアルバムになりました。
NakamuraEmi
アルバム『Momi』【CD】
アルバム『Momi』【LP】

OKMusic編集部

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