鈴木このみ

鈴木このみ

【鈴木このみ インタビュー】
新しい自分をどんどん開拓して、
みんなを驚かせていきたい

歌っているとワクワクしてきて、
最後のほうはついニヤッとしちゃう

それでは、ここからニューシングル「Bursty Greedy Spider」の話に移っていきたいと思います。今回のシングルはヴォーカルの表現力が、これまでに増して上がっている印象がありますね。

実はですね、レコーディングしたのは術前なんです(笑)。レコーディング当日も“今日声が枯れて死んでもいい! 全部出しきってやる!”くらいのテンションでできたんですよね。“全部置いてってやろう!”という気合いでやりました(笑)。

12月に手術して2カ月休養と考えると、確かに術前にレコーディングしてないと5月発売は無理ですね(苦笑)。

休養期間を考えるとアニメの放送とか発売に間に合わないというところもあったりして、“じゃあ、術前の声を残そう”と手術する1週間前くらいに歌ったので、ほんと術前の最後のレコーディングですね。

そうしますと、「Bursty Greedy Spider」のテンションは手術に臨む前の鬼気迫る感じが出たとも言えるわけですかね?

そうですね。サウンドプロデュースを草野華余子さんにやっていただいたんですけど、ヴォーカルディレクションもやってもらって、その時に“多少、荒々しいくらいでもいいよ”って言っていただいたんでライヴ感がある感じで録れたんじゃないかと思いますね。いつもの自分だったら多分もっとスルッときれいに歌っていたところとかも、その日のテンション感のほうを大事に歌った感じがします。

“定番の歌い方にこだわってない”という言い方がいいのか分からないですけど、とにかく歌がカッコ良いんですよね。

めちゃ嬉しいです! 今回は打ち合わせでもよく言ってたんですけど、それこそ今ってアニソンシンガーと呼ばれる方がたくさんいらっしゃって、歌が上手な声優さんもたくさんいらっしゃるので、そのすごい競争社会の中、術後も逞しく歌い、生き抜いていくために歌う!という気持ちが強かったので、ガツンとしたものはできたんじゃないかと思いますね。それは綺麗事とかではなく、切に感じていたことなので。

先ほどお名前が上がりましたが、野華余子さんとご一緒したのは大きなポイントではないかと思います。草野さんはアルバム『Shake Up!』(2019年11月発表)収録の「あなたが笑えば」の作編曲、前シングル「Realize」(2020年8月発表)のカップリング曲「A Beautiful Mistake」の作詞を担当されていて、ここまで徐々に距離を詰めてきたような印象がありますが、鈴木さんは草野さんにはどんなイメージを持たれていましたか?

“すごい根性のある方だなぁ”って(笑)。コロナ禍前にご飯をご一緒させていただいて、そこで話していてもそうだし、曲やサウンドの仕上がりもそうだし、そのガッツ感が出ているというか。「あなたが笑えば」の時も「A Beautiful Mistake」の時も、制作前に私についていろいろ訊いて作ってくださったので、今回もTVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』のタイアップに寄りつつ、鈴木このみの新しい幕開けにもぴったりの曲を作っていただけたのではないかと思います。

今、“新しい幕開け”とおっしゃられましたが、録っていたのは術前とはいえ、ここから新たなものが始まるという意識は強かったですか?

それはとてもありましたね。手術が目前となった時にリモートで華余子さんとお話をしたりしたんですけども、“もちろん不安な気持ちも莫大にあって、“自分の声はどうなるんだろう?”とか“元に戻るんだろうか?”とか不安はあるけれど、それと同時にすごくワクワクしてます”ということもお伝えしたんですよ。4年間、自分の中に“これ(声帯結節)さえなければ、もっとできるのにな”という想いがまったくなかったとは言いきれない状態だったので、フルパワーの未来にワクワクするところがあったし、そういうところも華余子さんには話していて。アニメの原作を読んでも、主人公の蜘蛛子ちゃんも最初は小さな蜘蛛から始まって、いろんな敵を倒してどんどんレベルアップしていき、敵と戦うこと、生き抜いていくことに対して最初は必死に立ち向かっていくんですけど、徐々にワクワクしているような表情を見せたりしてたから、その気持ちが自分自身とリンクするとも思っていたので“そういうところもお願いします”と。未来の自分、新しい幕開けのワクワクと、“絶対に生き抜いてやるぜ!”っていう気持ちを歌いたいということだけをお伝えしました。

「Bursty Greedy Spider」の歌詞には《ここからが本番さ》と心機一転を感じさせるフレーズがありますよね? TVアニメの主題歌ですから、鈴木さんの喉の手術と関連づけるのはどうかと思っていたんですけれど、そこはまさに鈴木さん自身の気持ちと直結していると。実は歌詞には随所にそういうところがあって、『蜘蛛ですが、なにか?』は“転生モノ”であると思うんですけど、《一度しかない人生さ》や《二度とは来ない今日の日だ》という、“転生”しないようなフレーズもありまして、その辺が面白いと思いました。

あははは。蜘蛛子ちゃんは必死で生き抜いているんですけど…私、この曲を歌う時はいつもちょっと笑っちゃうんですよ。ゴリゴリとした曲調だからずっとキメ顔で歌いたいんですけど、ライヴで初披露した時に思ったのは、この曲を歌っているとワクワクしてきて、最後のほうはついニヤッとしちゃうなって。“生き抜いていく”という切なる願いではあるんですけど、もがき苦しんでいるというわけでもなく、ただただ未来にワクワクしながら、“絶対にイケる!”っていう感じに背中を押されるんだと思います。

独特のユーモアセンスもありますよね? 特に《普遍性などクソ食らえですね》というのはすごいフレーズだと思って聴いてました(笑)。

(笑)。過去2回、華余子さんとご一緒させてもらって、いろいろと引き出していただいた中で、そう思ってくれたんじゃないかと思うんですけど、レコーディングの時に“ここすごい歌詞ですね?”と言ったら、“このみん、意外とこういうの好きかと思って”って言われて、“あっ、そうです!”みたいな会話がありました(笑)。基本的に私、普段はヤンチャなタイプではないし、“クソ食らえじゃあ!”みたいなことを言うことはないんですけど、歌だと気持ち良いですよね。普段言わないからこそ気持ち良い!

あと、Bメロでは語りっぽいところがあったりもしますし、ヴォーカルはいろんな表情を見せますね。

そうですね。そこではちょっとお茶目な感じがあったりとか、かと思ったらサビでガツンと持っていったりとか、自分の中のいろんな顔をフル稼働させた曲になっています。

サビのコーラスでは“Wow wow”と聴き手を煽るようなところもあったりします。

はい。私はライヴもすごく大事にしているので、今はコロナで声が出せないかもしれないけど、いつか来る未来のために、ライヴに映える曲を作っていただきました。

サウンド面でも勢いがありますよね。もちろん全部が全部そうだったとは言いませんけど、鈴木さんの過去の楽曲は、ハードロック、ヘヴィメタル寄りの重めのギターサウンドが中心だった印象があります。ただ、この「Bursty Greedy Spider」に関して言えば、そこまで重くはないというか、ちょっと雰囲気が違いますよね?

やっぱり鈴木このみの楽曲はゴリゴリしているところをいつも持っていると思うんですけど、この曲を初めて聴いた時に自分でも“新しい世界が来たな”って驚きました。でも、歌う前から“これは絶対に自分の声に合うだろうな。やっぱり華余子さんはすごいなぁ”っていう感覚があったりしました(笑)。

完全に2000年代以降のJ-ROCKな印象はありますね。

そうですね。8年間やってきて自分自身もどんどん変わっていきたいし、変わっていく姿を見せたいので、その一発目としてこのサウンドはすごくカッコ良いんじゃないかと思っています。

編曲は草野さんと岸田教団&THE明星ロケッツの岸田氏が手がけていらっしゃいますが、岸田さんの影響もあったりするんでしょうか?

それは絶対にそうですよね(笑)。今回、華余子さんから“編曲は岸田さんと一緒に”と提案をいただいて、自分も“おっ、いいんじゃないでしょうか!”って即答しちゃったんですけど、 “これはもう絶対にカッコ良いわ”っていう感想でした。

ギターがこれまでとは違っていて、岸田さんのギターはドシンとした感じというよりはエッジーで鋭いですよね。

これまで重いものも歌ってきているんですけど、自分自身の歌声で好きだと思うポイントって、“ワーッと声を張り上げた時にちょっと爽快感がある感じが好きだな”って最近思っていて、それがこのサウンドで活かされていると思いました。

これは私の感想ですが、「Bursty Greedy Spider」はTVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』のオープニングテーマですから、そこから入って聴く人が多いでしょうけど、そこから離れて聴いたとしたら、アニソンとは思わない人も多いのではないではないかと。

嬉しいです! いろんな人に聴いてほしい一曲になっているとは思います。それこそ家族にもすぐに聴かせちゃいました。“これ、カッコ良くない?”って(笑)。すごく自慢したい一曲になったと思います。

それは素晴らしいですね。「Bursty Greedy Spider」のサウンドからはアニソン自体が多彩になってきた見方もできるかと考えていたんですけど、先ほど鈴木さん自身がおっしゃられたように、何よりも“新しい鈴木このみ像”を作りたいという意識から導き出されたものだということはよく理解できました。

パワーヴォーカルというのが自分の武器だと思っているので、そこは大切に持っていきつつも、新しい自分をどんどん開拓して、みんなを驚かせていきたいんですよね。同じようなシングルを何枚も作っていくわけではなく。だって、年齢を重ねる毎に自分が感じることは変わっていきますし、ファンの人たちにはそういう姿を追ってほしいと思うので。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着