降幡 愛が、2ndミニアルバム『メイク
アップ』に収録された6曲で描かれた
“80年代的な恋愛模様”の真実を語る

降幡 愛が2ndミニアルバム『メイクアップ』をリリースした。
降幡は今年9月、デビューミニアルバム『Moonrise』でアーティストデビュー。本間昭光をプロデューサーに迎え、自ら愛好している80年代歌謡曲、シティポップ全開のサウンドを作り上げ、音楽ファンの度肝を抜いた。好事家を中心に国内外で国産シティポップに注目が集まる今だからこそのサウンドを聴かせてみせた。
そしてこのたびリリースされた『メイクアップ』では、その自らの美意識やセンスをさらに深化。まさに80年代シティポップど真ん中なサウンドに、降幡一流の、ともすればラジカルな言葉を与えた刺激的な一作に仕上がっている。
果たしてこの力作はいかにしてできあがったのか? 彼女に聞いた。

――前回のインタビューのとき聞きそびれちゃったんですけど、自粛期間ってなにをなさってました?
今、私は弟と妹との3人暮らしなんですけど、家族の時間が増えたのでなんか生活リズムがキッチリしました。
――家族が揃うと生活リズムが整う?
弟と妹も自宅にいる時間が増えたから、3食みんなで一緒に食べるようになって。おかげで3人ともけっこう痩せました(笑)。あとは音楽制作の時間を取れたので、朝から夜までいろんなシンガーソングライターさんの歌詞や、松本隆さんみたいなプロの作詞家さんの歌詞を研究したりしながら歌詞を書く毎日を送っていた感じですね。
――降幡さんご自身はもちろん、全世界的に大変な状況にありながらも、ご自身なりにやるべきことや楽しみを見つけて暮らせていた、と。
そうですね。今、若い子のあいだで“ダルゴナコーヒー”っていう韓国発のコーヒーが流行っているという話を聞いたので、それを妹と一緒に作ってみたり、『あつ森』(Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』)をやってみたり、家にいながらも楽しめている気がします。
――もともと危機やピンチに動じないタイプでした?
ああ、どうなんでしょう? 自粛期間中は「とにかく家にいなきゃ」という思いが強かったので「じゃあなにができるだろう?」って考えていただけですし。そう考えるとポジティブなのかもしれないですね。
――自粛期間中は当然「アーティスト・降幡 愛」「声優・降幡 愛」の活動も制限されたわけですよね?
はい。
――その肩書きを外された状況にも不安は……。
あんまりなかったかもしれないですね。基本的には不安になりがちというか、心配性なんですけど、この期間はわりとポジティブでいられたというか。自分の考えや気持ちを見つめ直すこともできましたし。「こういうことがやりたい」とか「こういう音楽が好きだ」とか。
――実際、自粛期間中に聴いていた音楽って?
レコードで80年代の楽曲を聴いていました。最近も、竹内まりやさんの『バラエティ』を手に入れて聴いていました。
――名盤中の名盤だ。
ネット通販ではけっこう簡単に買えるのかもしれないんですけど、レコードショップではなかなか見かけなかったのに、ある日、立ち寄ってみたら置いてあって。正直、めちゃくちゃ高かったんですけど「私が子どもだったら手を出せない額だけど、今なら!」って買いました(笑)。
――よかったですねえ、大人で(笑)。
ホントに(笑)。歌詞カードやアートワークはすごくおしゃれだし、音楽自体も新鮮だったし「自分がやりたいことはこれだ!」っていうくらい刺激を受けました。
撮影:池上夢貢
「カバーしてほしい曲」リクエストで「みんなわかってるじゃん!」
――で、11月の初ワンマンライブでは『VARIETY』収録の「プラスティック・ラブ」をカバーなさったんですよね。
ライブの1週間くらい前にファンのみなさんに「降幡 愛にカバーしてほしい曲」のリクエストを募ったら、一番票が集まったのがあの曲だったんです。
――それってすごいですよね。確かに「プラスティック・ラブ」自体も売れたシングル曲だけど、初冬のライブなんだし、竹内まりや楽曲ならクリスマスソングであり、大ヒット曲である「すてきなホリデイ」なんかを選びそうなところなのに……。
「みんなわかってんじゃん!」って感じでした(笑)。集計してくれたレーベルのスタッフさんも「こんなにアーティストに寄り添ってくれるファンはそうそういない」っておっしゃってました。同じくライブでカバーした中原めいこさんの「Dance In The Memories」と杏里さんの「悲しみがとまらない」もファンの方のリクエスト曲なので。
――「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」や「CAT'S EYE」ではないあたりに降幡愛ファンの音楽偏差値の高さを感じます。
それが本当にうれしくて。しかもその一方でヒットしているJ-POPだったり、アニメソングだったりをリクエストする方もいらっしゃったので、みなさんの聴きたい音楽を知るという発見があって面白かったですね。
――降幡さんご自身は最近の音楽って聴くんですか? 他媒体のインタビューでNight Tempoを愛聴していると言っているのを見て「確かにシティポップリバイバル系、ヴェイパーウェイブ系のアーティストだけど、降幡さんは2020年の音楽なんか聴かないんだと思ってた!」ってビックリしたんですよ。
聴きますよ!(笑) King Gnuさんだったり、藤井風さんや崎山蒼志さんだったりも好きですし。
――また尖りまくった3組のお名前が(笑)。
ひと筋縄ではいかない感じ、クセのあるアーティストさんは好きですね(笑)。
撮影:池上夢貢
デビューが決まってからは止まらず歌詞を書き続けています
――そして、このたびご自身もひと筋縄ではいかない2ndミニアルバム『メイクアップ』をリリースしました。制作はまさに自粛期間中に?
というよりも、前作の『Moonrise』の延長線上という感じですね。アーティストデビュー当時からプロデューサーの本間(昭光)さんと「ずっと曲を作り続けよう」とお話ししていたので、「新しいミニアルバムを作るぞ!」と思い立って制作を始めた作品というよりも、曲を作り続けていった結果できあがったアルバムなんです。
――であれば、降幡さんは先ほどおっしゃっていたとおり自粛期間はもちろん、デビュー決定時から常に歌詞を書き続けていた?
今もですね。「作詞なう」です(笑)。
――前回のインタビューで詞先で曲を作るとおっしゃっていたから、降幡さんが歌詞を書かないことには曲ができないから。
そうなんです。で、歌詞ができあがったら本間さんに送って、本間さんがその詞から浮かんだインスピレーションでメロディを作って、アレンジしてくださるというのが、降幡 愛チームの定番になっています。
――なんなんでしょうね? 降幡さんのその汲めども尽きぬ創作意欲って。
なんなんでしょうね(笑)。
――「作詞、面倒くさいなあ」ってなったことは?
1回もないです。描きたいモチーフや、やりたい音楽のジャンルはわりとすぐに思い付くし、それを実際に言葉にしていくのはすごく楽しいですから。もちろん言葉が浮かばないことはあるけど、基本的にはデビューが決まってからは止まらず歌詞を書き続けています。
――言葉やモチーフが浮かばないことがプレッシャーやストレスになったことは?
全然ないです。「まあ、しょうがないよね」って感じでやり過ごしているというか(笑)。ほかの曲の歌詞を書き始めてみたり、ほかのアーティストさんの曲を聴いたりしながら、浮かんでくるのを待ってます。
――ホントに音楽活動が楽しそうですね。
自分の書いた言葉が歌という形になるなんて、こんなぜいたくな話はないじゃないですか。だからどんどん歌詞を作って、どんどん本間さんに曲を書いてもらいたいんです。
――じゃあ、ぼくはちょっと『メイクアップ』の聴き方を間違えていた気がします。
間違えていた?
――『Moonrise』のときよりも収録曲がよりエッセンシャル……まさに誰もが頭に思い浮かべるだろう80年代歌謡的、シティポップ的なサウンドになっているな、と感じたんです。だから前作を制作したことで得た手応え、それから反省なんかも踏まえて作られたアルバムなのかな? と思っていたんです。
確かにそういう作り方ではないですね。『Moonrise』が完成したことで私自身なにか区切りを付けたわけではないので。
――常に曲作りをしていたわけですもんね。
だから単にそのときの私の旬や趣味が反映されたから『Moonrise』とはちょっと違う音感になっているのかもしれないですね。1曲目の「パープルアイシャドウ」を作るときは、亜蘭知子さんの『浮遊空間』っていうアルバムの「I'm in Love」という曲をよく聴いていたので「あの曲みたいにベンベンベンって感じのカッコいいベースラインを入れてください」って本間さんにお願いしたり、「RUMIKO」はなんだったかな? ……「石井明美さんの『CHA-CHA-CHA』みたいなサウンドがほしいです」というお話をさせていただいたり。だから作り方自体は『Moonrise』のときと本当に変わらないんですけど、そのときどきで私と本間さんのブームは変わっているんですよね。
――実際『Moonrise』よりダンサブルなナンバーが多いですね。
それは本間さんもラテン系の楽曲がお好きだっておっしゃっていた影響もあるんだと思います。あと「桃源郷白書」という曲には、自粛期間中にめちゃくちゃ聴いていた山口未央子さんというアーティストさんの影響がモロに反映されていて。山口さんのアルバムの中にチャイニーズっぽい楽曲があって、そこからインスピレーションを受けて、サビが〈我愛你〉で始まる歌詞を書けたので、本間さんにも「チャイニーズ系、どうですか?」というお話をさせていただいたら、「いいね!」というお返事をいただいたんです。そしてこの一風堂の「すみれ September Love」っぽい曲ができあがってました(笑)。
――その過去の名曲の参照のしかたに本当にセンスがありますよね。確かに「桃源郷白書」のBメロは「すみれ September Love」的なニュアンスが含まれているんだけど、感じるのはあくまでニュアンスだけ。一風堂とまんま同じことをしているわけではない。
確かに「本間さんにお伝えするのはあくまでイメージだけ」ということは心がけている気がします。私がよく聴いている楽曲そのまんまではなくて、あくまでその曲の音感やイメージを汲んでいただきたいな、って。だから実際に本間さんからいただいたデモが私の想像していたものとは全然違う上にカッコいいっていうことがたくさんあるので、この制作スタイルは面白いですね。私は石井明美さんや山口未央子さんの話をしているんだけど、本間さんは実は80年代のTOTOとか洋楽を参考にしていたりして。私は洋楽は全然知らないので、それはそれですごく勉強になりますし。
――石井明美的、山口未央子的サウンドとTOTO的サウンドがどこか重なっていたということは、実はJ-POPという言葉が生まれる以前の日本の歌謡曲って世界標準をにらんだサウンドデザインになっていたのかもしれないですね。
しかも今、それこそ韓国のNight Tempoさんとか海外の方が当時の日本のシティポップをベースにしているのがすごく面白いですよね。
――ただ、こうやってお話をしている印象では、降幡さんはトレンドを追っかけるタイプでは……。
ないですね。確かにシティポップにハマったのはアナログブームだからではあったんですけど、なにか心に引っかかるものがないと本当に興味を持てないタイプだし、飽き性なので。なのにレコードを探しに行くだけじゃなくて、自分でも歌ってみているということは、私はシティポップが相当好きなんだと思います(笑)。
撮影:池上夢貢
悲喜こもごもを妄想するのが面白いから「RUMIKO」や「桃源郷白書」を書いた
――一方、ミニアルバム収録の6曲ともに作詞は降幡さんなんですけど、歌の中の降幡さんはまあロクな恋愛をなさっていません。
あはははは(笑)。
――前回の取材でも聞いたし、愚問もいいところなんですけど、実体験では……。
ないですっ! これが実体験だったら、わたしの人生、大変ですよ(笑)。
――であれば、これらのモチーフはどこから生まれました? 「RUMIKO」と「桃源郷白書」は不倫の歌……しかも「RUMIKO」の歌詞の主人公は男性、それも人妻にいいように転がされている〈純粋な未成年〉です。
えへへへへ(笑)。
――そして「SIDE B」のヒロインはスゲー怖いし。
ストーカーの歌というか、ホラーですから(笑)。たとえば「RUMIKO」であれば、このRUMIKOさんは「パープルアイシャドウ」のヒロインなんです。だから「パープルアイシャドウ」のアンサーソングになっていて。RUMIKOさんと浮気をしている年下の男の子目線で彼女のことを歌ってみたら面白いかな、と思ったのと、テレビアニメ『みゆき』のオープニング主題歌っぽい曲がほしくて……。
――H2Oの「10%の雨予報」でしたっけ?
あの曲ってアニメバージョンだと歌詞の中に「みゆき」って入ってるじゃないですか。あの曲を聴いて「あっ、名前をサビに入れたら面白いかも」って気付いて生まれたのがRUMIKOさんなんです(笑)。ちょうど「RUMIKO」の作詞をしているころ、本間さんに70年代の……曲名は忘れちゃったんですけど、女性ボーカルに男性が合いの手みたいなセリフを入れる曲を聴かせてくれて。それがめちゃくちゃ面白かったので〈「選んでほしい」〉とか〈「アイラブユー」〉っていうフレーズを入れてみました。「こういうことって歌じゃないと言えないよな」とも思ったので。
――確かにどんなに愛していようと、実際の恋人に面と向かって「アイラブユー」って言うかというと……。
まず言わないですよね(笑)。「だからこそ言ってみたら面白いかな」と思って作りました。
――ところで「パープルアイシャドウ」のヒロインであり、「RUMIKO」の主人公の恋する人であるRUMIKOさんになぜ不倫をさせようと?
面白いからかなあ……。
――いや、不倫ってたぶんあんまり面白くないと思うんですけど……。
そもそも不倫ってうまくいくわけがないじゃないですか。最終的には誰かが必ず不幸せになるわけだから。なのに不倫をしているときって一般的な恋愛をしているときよりもすごく楽しいと思うんです。
――秘密を誰かと共有するのってアガりますよね。
その悲喜こもごもを妄想するのが面白いから「RUMIKO」や「桃源郷白書」を書いた感じですね。
――となると、もしも、この手のインタビューにありがちな「今作でリスナーに伝えたいことは」と聞かれたならば……。
「世の中、そうそううまくいかないよ」(笑)。
――降幡さんご自身は声の仕事も音楽の仕事も充実しているし、さっきの話のとおり、新型コロナ禍にあっても自分なりの過ごし方を見つけている。「うまくやりやがって」とはもちろん思わないものの「スマートだなあ」という印象があるんですけど……。
ありがとうございます(笑)。でもだからこそ、80年代的なドロドロした恋愛模様に憧れがあるというか。妄想って憧れをきっかけに成り立つものだと思うし、妄想だけに自分の人生にはあり得ないことだから物語にするのが面白いんですよね。
――トレンディドラマや昼ドラみたいな、ややこしい恋愛はしたくないけど、見るのは好きっておっしゃってましたもんね。そしてそれがテレビドラマというエンタメとして成立しているということは、みんな「人の不幸は蜜の味」だと思っているというか。
しかも80年代の恋愛観って今見ると全然ダメじゃないですか。
――アンチジェンダーフリー的、男性と女性の社会的役割を明確に線引きしたがりますよね。
それがもう私の世代にとってはフィクション的、ファンタジー的なんです。
――じゃあ、降幡さんの歌詞は、ある意味、剣と魔法の世界を描いたライトノベルに似ている?
もうちょっとリアルではあるけど「昔はこうだったらしいよ」「おかしいね」「でも面白いよね」という感じではありますね。
――ところが、その降幡さんが体験したことのない「昔」を切り取る言葉が『Moonrise』のときよりもシャープになっています。
直接的な言葉が多いかもしれないですね。あと80年代的なボキャブラリーも『Moonrise』を作っているときよりも増えたし、自分でもそれっぽい言葉を思い付くようになっています。造語とかカタカナ語が浮かぶことが多いし、それを以前よりも盛り込んでいる気はします。
――韻を思い付いたらメモっておくラッパーがいるように、80年代的ワードが浮かんだらメモったりは?
してます、してます。“東京タワー”とか“シネマ”とか“ロマンチック”とか。「ルバートには気をつけて!」の“ルバート”も本間さんからそういう音楽用語があるってうかがったのをメモしていたフレーズですし。
――基本的なテンポは決めておくんだけど、強調したいフレーズをタメて演奏したり、逆に速く演奏したりするという意味ですよね?
そういう波って人生にもあるんじゃないかと思ったんです。結婚しようとまで思った女性に急にフラれたりとかってこともあるよ、って(笑)。
――本当に人の不幸は蜜の味というか……。
80年代的な恋愛って私はもちろん、同世代の方にも心当たりがないだろうし、当時恋愛をしていた方ももう過去の思い出になっていると思うので、みんな「そんな時代もあったのか」「そんな時代もあったなあ」って思ってもらえるかな、と思ってます。
――あと『メイクアップ』における降幡さんの歌詞でもうひとつスゴいなと思ったのが、リスナーに想像の余地を意図的に残しているところで……。
ありがとうございます!
――たとえば「パープルアイシャドウ」の〈いい女になんてなれない〉〈雨が嫌いな私だから 今日は薄化粧で会いに行くわ それでも許してくれるかしら〉って、この記事のように文章で読むとまったく意味が通らないんですよ。
「雨が降ってると、なんで薄化粧になるの?」ってなりますよね(笑)。
――ところが本間さんのメロディに乗って降幡さんが歌うと、リスナーの頭の中にはそれぞれオーダーメイドの憂いのある美人……RUMIKOさんができあがるつくりになっている。
なるほど(笑)。「RUMIKO」の〈年上旦那に見せ付けたい〉の“年上旦那”もそうかもしれないですね。
――はい。ぼくの“年上旦那”はチョビひげを生やしてます(笑)。
逆に若い男性をイメージする人もいるかもしれないし、たしかにみなさんなりの旦那さんができあがるとは思います。ただ、作詞のしかたをあえて変えたとか、なにか明確なターニングポイントがあって変わったという自覚はないんですよね。
――『Moonrise』制作時からずっと書き続けているわけですもんね。そして先ほどもちょっと触れた「SIDE B」なんですけど……。
これは『Moonrise』に収録されていた「Yの悲劇」のアンサーソング。B面の人、別の女の人の歌なんです。
――しかも6曲入りミニアルバムの4曲目に入っているということは……。
「ここからB面が始まるよ」という意味も込めています。
――で、その「別の女の人」というのは「Yの悲劇」のヒロインに電話をかけまくったり、郵便を送り続けたりした人?
その人です(笑)。「ストーカーみたいな嫌がらせをする人にも人生があるんだよ」「それなりの理由があるんだよ」ということでこの曲は作りました。だから「親愛なるYさんへ」という意味で歌詞の中に〈DEAR Y〉って入れてみました。
――おおっ! 実は歌詞の中でちゃんと答え合わせができてたのか。
「私はB面の女だけど、Yに忠告するよ」「あなたと私が付き合っている彼にはいろんな意味で気をつけてね」という意味があって私はあなたに電話しているんだよ、という歌なんです。
――確かに「SIDE B」の〈彼〉ってヤバそうですよね。〈彼は手をあげる〉〈青あざを隠して〉ということは……。
DVしてますから(笑)。しかもその被害者はB面の女の人。主人公にはなれないんです。
――報われないなあ。
最悪ですよね(笑)。
――しかも厄介なのが、降幡さんの歌詞が『Moonrise』当時よりもリアルになっていることなんですよ。もしぼくが「RUMIKO」の〈年下僕〉だったら、歌詞とまったく同じことをしそうで……。
やった!(笑) そこについては自分でも成長を感じているというか、『Moonrise』のときよりも自分の中で歌詞に出てくるキャラクターがより鮮明に見えるようになった印象があります。
――だから歌詞で描かれる物語世界はとことんフィクショナルなんだけど、キャラクターにはリアリティがある、と。あとこのアルバムってすごくコンセプチュアルですよね。タイトルが『メイクアップ』で、収録曲の歌詞やタイトルに〈アイシャドウ〉〈薄化粧〉、それから“透明感のある”という意味のメイク用語・ファッション用語である〈シアー〉が散りばめられている。
ホントだっ!
――えっ!? このアルバムタイトルと歌詞の符合は偶然?
完全に偶然です(笑)。『Moonrise』とはまた違う、いろんな歌詞、いろんな楽曲ができあがって。その曲たちの主人公にはいろんなキャラクターたち……男性もいて、それに寄り添って歌えるってすごく幸せなことだな、と思って付けたタイトルですから。いろんな楽曲を身にまとって着飾ってっていう意味にしたくて、「ドレスアップ」か「メイクアップ」かで悩んで『メイクアップ』にしました。
――前回のインタビューでもおっしゃってましたもんね。スッピンの感情を歌うことは……。
できないです、できないです(笑)。だからこの6曲には素の私の感情は1ミリも含まれてなくて、この人たちの生きた時代への憧れみたいなものしかないんです。
――最後はちゃんと「真冬のシアーマインド」という、かわいいラブソングで締められていますし。
あっ、すみません。そう聴いていただいたなら夢を壊すようで申し訳ないんですけど、たしかに〈一目惚れなんてして〉って感じでピュアでかわいい歌い出しの曲ではあるものの、この子の〈一目惚れ)は今回が初めてじゃなくて……。何回も一目惚れを繰り返す浮気っぽい女の子……もっと言っちゃうと尻軽な女の子の歌なんです(笑)。
――今、本当に夢を壊されました……。
すみません(笑)。実際の人物であれ、物語の中のキャラクターであれ、その人のバックボーンが気になるタイプなんです。「なんでここでこのセリフを言ったんだろう?」とか「なんでこう動いたんだろう?」とか「過去になにがあったんだろう?」とか。だからアニメ本編も好きなんですけど、そのOVA版が大好きなんですよ。
――本編のサイドストーリーや前日譚、後日譚が描かれるから。
そういうところに注目すると「この人はこういう経緯でこういうことを言っていたのか」というつながりが生まれて、それに気付けると「おーっ!」ってなれるんです。だから「真冬のシアーマインド」は、あえてそのバックボーンを隠した曲……なんて言えばいいんだろう? 「人間を表面だけで判断するなよ」?(笑)。
――気をつけますっ!(笑) で『Moonrise』に続いて、このたび『メイクアップ』という力作・傑作を完成させた今、なにか野望ってありますか?
本当の理想を言えば海外の人に会ってみたいですね。このあいだ、SNSでフォロワーさんから質問を受け付けたんですけど、メキシコやペルーみたいな南米の方から(降幡のデビュー曲)「『CITY』を聴いてます」というコメントをいただいたり、「Yの悲劇」の〈YADA・YADA・YADA・YADA〉を引用したコメントをくださるアメリカの方もいらっしゃったりして「〈YADA〉って万国共通なのか」なんて思ったりもしたので(笑)。状況が状況だから安易なことは言えないんですけど、もっと世界の人と交流できたらいいな、とは思っています。
――Night Tempoがそうであるように、海外の音楽マニアのあいだで日本のシティポップに対する注目が集まっている今だからこそ、降幡 愛作品にハマる人は多そうですしね。
YouTubeの「CITY」のMVにも海外の方がたくさんコメントをくださったりしているので、刺さるんじゃないのかな? という気はしています。
――あと来年2月18日と19日には、念願だった六本木・Billboard Live TOKYOでのライブ『Ai Furihata “Trip to BIRTH”』が待っています。
そうなんですよ! Billboard Live TOKYOってステージのうしろの壁が開いて、六本木の夜景をバックに歌えるじゃないですか。ライブの日は誕生日前日と当日だから本当に楽しみにしているので、もし『メイクアップ』のことが気に入ったなら遊びに来てもらいたいです。あと、4月に全国のZeppを回るツアーをやるんですけど、そのバースデーライブをやったことで見えてきた表現したいこと、やりたいことが盛り込まれた内容になると思うので、本当にいろいろ期待してもらえたらいいな、って思っています。
撮影:池上夢貢
取材・文=成松 哲 撮影:池上夢貢

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