なっちゃんのこと ~私立恵比寿中学
武道館公演の三日後に〜 ロマン優光
連載3

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第3回「なっちゃんのこと ~私立恵
比寿中学武道館公演の三日後に〜」

 なっちゃんという人は生真面目で融通が効かず、偏屈な頑固者である一方で、ふざけること・楽しいことが非常に好きな人でもあり、特典会のステージの裏側で突然ハイテンションに一人で陽気に踊り出したり、他のメンバーとふざけあったりしている光景を良く見かけたものです。「なっちゃんが誰かとか説明するのめんどくさいので自分で調べろよ」とも思うのですが、そういうわけにもいかないので説明をすると、4月15日の武道館公演をもってスターダスト・プロモーション所属のアイドルグループ・私立恵比寿中学から転校することになった、杏野なつさんのことです。そうそう、私立恵比寿中学ではいわゆるグループからの〝卒業〟のことを〝転校〟と称することになっています。
 昔の…中学2年生くらいのなっちゃんは握手会の苦手な人で、つらそうな表情を浮かべるのをよく見ました。特に男性との握手が苦手で、握手の体勢にはいって直ぐに、なっちゃんから手を引っ込めてしまうという光景が、度々あったのを覚えています。私はやられたことないですけどね。なぜなら、なっちゃんより早く手を引っ込めていたからです。思春期の女の子が知らない男の人たちと握手するのが苦手なのは当たり前で、そうとうなプレッシャーがあったのだと思います。ただ、なっちゃんは握手は苦手でもお喋りは好きな子なので、馴れてきた人と女の人とはすごくお喋りしてた記憶があります。私も、なっちゃんの好きな漫画や小説の話や、学校の楽しかった行事のことを沢山聞かせてもらいました。塩だ、塩だとよく言われ、実際あまり人気も高いほうではなかったのも事実です。ただ、私はなっちゃんとの会話では、楽しかった思い出しかないです。しゃべり出したら止まらない子で、全体握手で流されて私はすでに隣の子の前にいるのに、ずっと話かけてきてくれたことも何度かありました。ある握手会で最後がなっちゃん、みれいちゃん(星名美怜)の並びの時、みれいちゃんの前に流れてもまだ話しかけてくれていて、最終的に握手列から流されてもまだ話しが終わらず、さすがにびびりました。自分の後ろで連番してたガガキライズの吉澤くん、DJエピタフさん、ほんとにすいませんでした。
 あの頃のなっちゃんは体力があまりなく 、夏場の野外でのイベントは本当につらそうで、よく死にそうな顔をしていたのを思い出します。歌やダンスに関しても本人は悩んでいたようですが、わたしはなっちゃんの素直な声とまっすぐなダンスが好きでした。機嫌がいいと、悲しい曲なのにニコニコ顔になってしまう間抜けなところも可愛らしかったです。こういう話をしだすときりがないのでやめときますね。

相次ぐ転校で決めた覚悟

 もともと、なっちゃんはアイドルを目指していたわけではなく、女優志望で事務所に入って、事務所の方針でアイドルグループに加入することになった子で、「本当にこの場所はあってないのではないか」とも思ってました。私はなっちゃんのつらそうな様子を見たり、現状に悩んでる様子を感じてしまうたび、「この子はエビ中を辞めてしまうのではないだろうか。いつ、その日が来てもおかしくない。次に辞める(その頃のエビはメンバーの転校がわりと頻繁にありました。りおたんが突然転校した時のショックはでかかったです。)としたらなっちゃんだ。」と思い、常に最悪の事態に対して覚悟するようにしてました。だから、リーダーだった宮崎れいなさん(キリッとして冷たいようでいて凄く優しい素敵な女の子でした。)がいきなり転校してしまうことが発表された時、予想外すぎて凄くショックで一週間ぐらいまともに寝れなかった覚えがあります。れいな転校より時間的には遡りますが「今の自分の中の精神的な距離感で、なっちゃんが辞めてしまったらきっと自分は耐えられない。徐々に距離を空けていかなければ」と思い、あちこちのライブを見に行くようになり、そこで佐々木あきさんという自分が今まで生きてきてライブを見てきたアイドルやバンド全てをひっくるめた中で、最も凄まじいライブパフォーマーを目撃することになるのですが、それはまた別の話です。エビのイベントにはいくようにはしていたのですが、自分のライブが何故か頻繁にエビのイベントとぶつかるようになり、そうこうしてるうちにエビは凄く売れてライブのチケットも取りにくくなっていき、自分のお金と時間の都合でかなり疎遠になってしまいました。イニーミニーマニーモーという、新しい自分の大切な場所、まみちょんという何故好きなのかわからないけど、何故か滅茶苦茶大好きな子もできました。そんな中での転校の知らせでした。

これからのなっちゃん

 悲しい? 実はそんなこともないのです。私は至って平穏な気分でいます。寂しさはあります。でも悲しくはありません。れいな転校からメジャーデビューの流れの中で、なっちゃんは確実に強くなりました。メジャーデビューすると言うことは、今まで以上に過酷なスケジュールと、莫大な数の知らない人を相手にしなければいけない過酷な握手会が待ってるということです。私は正直心配でした。しかし、それは杞憂にすぎませんでした。大勢の新しいファンに対して、いつも笑顔でにこやかに対応するなっちゃん。厳しい夏の暑さに耐えれるようになりました。歌パートも増え、声の魅力もいっそう増しました。私は『未確認中学生X』という曲のラスト近くの「もしかして~」というなっちゃんパートが本当に大好きです。ダンスも長く伸びた手足を生かしてダイナミックになりました。メジャーデビューに会してなっちゃんはそうとうな覚悟があったと思います。自分の将来の夢である女優に向かって進むため、そこに向かうための知名度なりなんなりの、ステップアップの過程として「アイドル」をやり遂げるという覚悟が。実際、なっちゃんは素敵なアイドルになりました。最近のエビのライブに行くということは、なっちゃんの魅力が増していくところを確認しにいくのと同じ意味でした。私はなっちゃんが恋の歌を歌うのが大好きです。この子はいったいどういう素敵な恋を、どんな切ない失恋をしていくのだろう。それを見ることなんてできるわけないのですが、想像するだけで幸せな気分になります。私は『誘惑したいや』という曲が大好きです。なっちゃんがメジャーデビューの時にエビに残留したことも、今回のなっちゃんの転校も、なっちゃんのブレなさを伝えてくれます。契約更新にあたり、今のエビのスケジュールでは、なっちゃんのもう一つの夢である大学進学も難しいだろうし、年齢的にも若手女優として活動を始めるには大切な時期であると思うのですが、エビを続けながらそちらに進むのも難しいのは想像できます。なっちゃんはエビ中のことが大好きな人です。転校を決意するのはつらかったことでしょう。でも、なっちゃんはエビ中を続けてきたのと同じ理由で、転校を決意したのだと思います。自分の夢に向かって。つらいから辞めてしまうのではないか、向いてないから辞めてしまうのではないかという私の考えが、いかにヲタクの浅はかな考えに過ぎなかったか。女の子の真摯な覚悟の前では、キモヲタの想いなど何の意味もありません。なっちゃんが、つらいから、いやだからエビ中を辞めるのではなく、自分の夢のために転校していくことを私はとても嬉しく感じています。なんという幸せな会えなくなり方でしょう。

 いや、私は何か終わったとかいうことは全然感じてないです。なっちゃんがエビ中としての最後のスピーチで「これからもよろしくお願いします」と言ったのだから、よろしくされるに決まっているじゃないですか。私の中で、なっちゃんはこれからも続いていきます。あの日々がある限りというか、あの日々は既に切り離せない私の一部なのですから。エビも緩やかな感じで見に行きたいなと思います。武道館のライブは本当に素晴らしかったし、ぁぃぁぃという人が大人になっていく過程で、『ぁぃぁぃ』という自分と、これから芽生えていく女性性との葛藤を、どう乗り越えていくのかをできれば見ていきたいなと思ったので。
 そういえば、私はなっちゃんに一度も名前を名乗ったことがありません。私はどう認識されてたのでしょう。まあ、それを知る機会は永遠にないでしょうけど。なっちゃんがなっちゃんらしくあるということを考えると、私は幸せな気分になります。それは私のたいして先の長くない糞くだらない人生を、多少は価値があるのかなと思わせてくれます。なっちゃんがなっちゃんらしくあることは私にとって、とても嬉しいことです。たとえ二度と会うことがないとしても。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っている。好きなアイドルは、イニーミニーマニーモー。

オススメCD:『盗んだバイクで天城越え』 [Cd+Dvd, Limited Edition](ミュージックマイン)/ロマンポルシェ。
4枚目のオリジナルアルバム。ミュージカル「CATS」風のジャケが目印です。

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