“ダーク・ヒロイン”ビリー・アイリ
ッシュは、日本の音楽シーンでも受け
入れられるのか?

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2019年4月、<コーチェラ・フェスティバル>のYouTubeライブ配信を観ていて、チャイルディッシュ・ガンビーノ、アリアナ・グランデといったヘッドライナーと並ぶほどに衝撃を受けたひとりの女性アーティストがいた。17歳、今世界中のティーンエイジャーを熱狂させている、ビリー・アイリッシュだ。

■ビリーが描き出すダークな世界

ビリーのブレイクのきっかけは、兄のフィニアス・オコンネルが書き下ろした「Ocean Eyes」を彼女が歌い、SoundCloudにアップしたのが始まりだった。当時、彼女は13歳の若さだった。

その後、ビリーはメジャーレーベルとの契約を決め、瞬く間にスターダムへとのし上がる。「Ocean Eyes」はSpotifyで2億回以上の再生回数を記録し、2019年3月に満を持してリリースしたデビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、Apple Musicにて80の国と地域で1位を獲得。日本でも2018年にいち早く<SUMMER SONIC>に出演を果たし、2019年4月より開催の大規模な全米ツアーは即完売…と、数字や実績で彼女の存在感を伝えるのは簡単だろう。

しかし、ビリーが同世代のティーンを中心としたファンを惹きつけてやまない理由のひとつは、そのダークでセンセーショナルな表現にある。例えば、アルバムのリードシングルとなった「bury a friend」のリリックは、自身に潜むモンスターの視点から、愛や恐怖、憎悪、葛藤を描いている。同曲のMVも、光の点滅を繰り返す中、ビリーが服を剥ぎ取られ背中に大量の注射器を刺されるといった衝撃作だ。
また、2018年、女子高生の自殺を巡ったNetflixのドラマ『13の理由』にて、カリードをフィーチャリングした楽曲「lovely」が使われたことも、彼女の人気を加速させた要因のひとつだろう。ドラマと密接にリンクした憂鬱や不安状態からの脱却の難しさを歌った歌詞は、多くの若者の共感を集めることとなった。このように、時代の“闇”を真正面から描ける表現者として、今やビリーは必要不可欠な存在となっているのだ。

■今、世界が“ダーク・ヒロイン”を必要としている?

ダークな世界観の表現や作品は以前から存在し続けているが、その数は世界規模で徐々に増えてきているように思える。例えば、音楽シーンでは奇抜なビジュアルと音楽性でダーク・ポップ界を牽引するイヴ・トゥモア。ヒップホップアーティストで挙げれば、2018年に20歳という若さで亡くなったXXXテンタシオンは、その危うさ・生々しさが熱狂的な支持を集めていた。映画作品では、アメリカンコミック『スーサイド・スクワッド』に登場するバットを持った女悪党ハーレイ・クインを主人公とした『バーズ・オブ・プレイ』が2020年に米国で公開予定と、男性のみならず“ダーク・ヒロイン”と呼ぶべき女性キャラクターもまた、ポピュラーな存在として受け入れられつつある。


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女性のダークな表現に限って言うなら、ここ日本では、自身の人生を包み隠さず歌詞とパフォーマンスに投影する大森靖子、インディーズ時代『貴方解剖純愛歌 ~死ね~』のタイトルで鮮烈なデビューを飾ったあいみょん、「大人からの抑圧に対抗する自我の芽生え」という楽曲テーマを歌った「サイレントマジョリティー」でアイドルの固定概念を打ち破った欅坂46が、ある種のダークな表現を担っていると言える。特に欅坂46は、AKB48乃木坂46といった王道のアイドル像へのカウンターでもあり、そういった立場から地位を築いていった不動のセンター・平手友梨奈は、現代を生きるティーンの象徴に他ならない。

■“誰にも媚びない”アーティスト像

「サイレントマジョリティー」から8作連続グループのセンターを務める欅坂46の絶対的エース・平手友梨奈。彼女をセンターに据えた「サイレントマジョリティー」のダンスには、「民衆を導く自由の女神」がイメージされており、マイノリティが多数派に立ち向かう姿は、絵画が示すように美しく、観るものを鼓舞させる。“抑圧に反抗する”というグループに通底したテーマは、「不協和音」や「黒い羊」にも表れているメッセージだ。
一人の表現者としても活躍する平手は、平井堅のバックダンサーとしてソロダンスを披露し、SEKAI NO OWARIの「スターゲイザー」MVでは満月をバックに感情的なダンスを見せる。そうして一挙一動、一言一句に注目が集まる彼女が対峙したのは、“笑わない”というパブリックイメージだった。

しかし、それが徐々に自己の表現の軸へと変化していったのもまた事実だ。“誰にも媚びない”といったアイデンティティーは、奇しくも同じ2001年に生まれたビリーと通ずる部分でもあり、彼女のキャラクターがこの先日本でも受け入れられる可能性を感じさせてくれる。

■ビリー・アイリッシュは、宇多田ヒカルの再来でもある?

同じく10代にしてカリスマ的支持を集めた女性アーティストとして、忘れてはならないのが宇多田ヒカルだろう。1998年「Automatic」でデビューを飾ったのは15歳の頃。翌1999年、1stアルバム『First Love』で邦楽史上最高セールスの金字塔を打ち立てる彼女は、R&Bを日本に確立させた変革者でもある。日本語と英語を綺麗に織り交ぜたバイリンガルならではの「最後のキスはタバコのflavorがした ニガくてせつない香り」という「First Love」の歌い出しは、20年以上が過ぎた現在でも色褪せることはない。

時代や音楽性は異なるものの、若くしてその才能を見出され、ベースミュージックやトラップを基軸としたサウンド、メランコリニックなリリックを持ってして新たなポップアイコンの在り方を確立させたという意味では、ビリーの登場を「宇多田ヒカルの再来」として捉える見方もできるだろう。
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■ビリーが日本でもブレイクできる2つの理由

ビリーの才能が海外の著名アーティストたちに評価されていることは言うまでもないだろう。例えば、ニルヴァーナのドラマーを務め、現在フー・ファイターズのボーカリストであるデイヴ・グロールの「今の彼女は、1991年のニルヴァーナと同じだと思う」という発言は、彼女のダークな一面がポップネスに変化することを肯定しているかのようだ。

そんな世界の音楽シーンを先導するビリーが巻き起こす熱狂を、初めて目の当たりにしたのが、先日の<コーチェラ・フェスティバル2019>でのYouTube中継だった。ライブの幕を開ける「bad guy」で、ファンはビリーに合わせ縦ノリで飛び、大合唱する。デビューアルバムが大作であることは理解してはいたが、正直ここまでとは度肝を抜いた。

しかし、日本国内でもSNSで彼女のパフォーマンスが話題になってはいたものの、能動的に中継を観るコアな音楽ファンによる反応がほとんどで、まだまだ本国と日本の熱量の差は大きい。その一方で、星野源が6月12日放送の『星野源のオールナイトニッポン』で、「bad guy」を流すなど、巨大なインフルエンサーをきっかけにビリーの存在が伝播する流れもある。もし、ビリーが2019年も再び<SUMMER SONIC>に出演していたら、どのくらいの盛り上がりを見せているのだろうか?

世界規模でダークな表現が受け入れられている“現在”。宇多田ヒカルや欅坂46といった時代を変革する女性アーティストが求められてきた“過去”。この2つの事実が、ここ日本でも訪れつつあるビリーのブレイクをさらに確信させる、何よりの証明となるはずだ。

文:渡辺彰浩

ビリー・アイリッシュ『ホエン・ウィ・
オール・フォール・アスリープ、ホエア
・ドゥ・ウィ・ゴー?』

1.!!!!!!!
2.バッド・ガイ
3.ザニー
4.ユー・シュッド・シー・ミー・イン・ア・クラウン
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14.グッドバイ
15.カム・アウト・アンド・プレイ(日本盤ボーナス・トラック)
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