『白日』の下に晒されたKing Gnuの音楽的知性

『白日』の下に晒されたKing Gnuの音楽的知性

『白日』の下に晒されたKing Gnuの音
楽的知性

封印された奇抜さ 放たれた美しさ
King Gnuに対して私が今まで持っていたイメージは、“拡声器、派手なPV、ツインボーカル”である。
常田大希(Gt,Vo)の楽曲はとにかく独自のセンスに溢れた中毒性の強いもの。それを高い実力で存分に表現するメンバーと、さらにそれを彩り魅せるPV。そこに魅了されるファンも多いのではないだろうか。
 
しかし、今回の『白日』は井口理(Vo,Key)のファルセットから始まる。それを支えるのは優しい旋律のピアノ。彼の声はそれを既知のファンだけでなく、初めて聴く者をも惹き付ける。
ドラマの内容に寄り添った歌詞には、きっと誰もが思い当たる事があるだろう。序盤から聴き手の心に突き刺さりハッとさせるのだ。
「白」い雪と「日」の光
▲『白日』/ King Gnu
『白日』とはなかなか日常生活では使用しない単語だが、やはり「白日の下に晒す」という慣用句のイメージが強いのではないだろうか。
歌詞にも表されている「罪」「過ち」「後悔」などのキーワードを彷彿させる、ドラマの内容にも寄り添ったタイトルだ。
暗く重く訴えかけるようなバラードになりがちに思えるが、バンドらしいグルーヴ感と、 新井和輝(Ba)、勢喜遊(Drs.Sampler)によって生み出されるリズムは、決して聴き手の心を深く沈ませることはない。
 
今回のPVは全編モノクロとなっている。楽曲のタイトルに合わせた白色が印象的な映像だ。

 
曲中に多用されている「雪」という単語に楽曲のイメージカラーともいえる「白」を重ねてしまいがちであるが、歌詞を読むと決してネガティブで冷たいイメージだけではない。
自分の過去の罪に気づき、絶望している人の人生に光が差している感じられる部分もある。
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「真っ新に生まれ変わって」
「朝目覚めたら」
「生きて行く」
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これらは少しだけ前向きな心境を感じさせてくれる。
曲中の主人公はおそらく、どんなに大きな罪を犯そうとも、どんなに後ろ向きに過去を懺悔しようとも、人は前を向いて生きていくしかないのだということを悟っている。
この大きな苦しみは自分の力で乗り越えて、これから先も生きていかなくてはならない。そうしていつか時が流れたら、“自分の罪も許される時が来るのではないか”という願いが感じ取れる。そうして前向きに生きようとする彼には光が降り注ぐのだ。
歌詞をしっかり噛み締めながらこのモノクロのPVを観たとき、貴方が映像に感じる「白」は、冷たい雪だろうか。それとも暖かく差す日の光だろうか。
忘れたい過去を雪に委ね、そのまま包まれ消し去ってしまいたいという願い。そんな願いを光が優しく受け入れ、今よりも少しだけ良い未来を感じさせてほしいという希望。そんな人の思いを、シンプルな言葉で繋いだ歌詞と複雑なメロディーに、彼らの音楽的な知性を感じさせる。
懺悔と希望 二面性をもつツインボーカル
今までの楽曲において常田と井口による歌い分けはあくまで楽器の一部というか、楽曲のメロディーや歌詞を表現するのにふさわしい声の方がそのパートを歌う、というシンプルな歌い分けの印象があった。
今回の歌詞は、井口のパートがどことなく悲壮感があるのに対して、常田がメインになるパートはそれよりもほんの少し前向きな明るさを感じさせる。
井口のパートは自分の罪を嘆き、自責の念に苦しめられる様子を表現したものが多い。
常田のパートは決してそれを否定することはないが、責め立てることもない。それぞれのパートは掛け合いとも対話とも少し違う。
おそらく同じ人物の感情ではあるのだが、常田の歌は弟を導く兄のような、友人を諭し慰める時のような暖かさを感じられるのだ。主人公の2つの感情のせめぎ合いが感じ取れる歌い分けになっている。

終盤は、井口の歌うパートも 投げやりながらほんの少しだけ前を向いたような印象を与えさせる。決して答えが出たわけではない。人が罪を犯してしまったとき、どうしたらよいのか。その問いに正解なんてないのだ。
 
人は誰だって過ちを犯す。罪を犯す。それをどんなに後悔しても過去には帰れない。それでも前へ進み生きていくしかないのだ。そんな冷たくも暖かい、この世の摂理が表されている。
TEXT 島田たま子

アーティスト

UtaTen

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