廣瀬智紀&北原里英「世界って、小さ
なところから伝染して変わっていける
モノ」 舞台『HERO』~2019 夏~

恋愛に不器用なふたりが「本当に失いたくないモノ」を知ったときに見つけた「自分にとってのHERO」とは──。“2年限定の恋人”、広樹と浅美をめぐるハートフルコメディー『HERO』~2019 夏~。そのビジュアル撮影現場で広樹役の廣瀬智紀と浅美役の北原里英を直撃、作品への思いを語り合ってもらった。
ーー始めに本作に出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
廣瀬:僕は7年前の初演に……今回とは違う役だったんですけど、出させてもらってたんです。その頃は役者としてまだもうホントに駆け出しで、いろんなことも知らずにただただがむしゃらでした。当時から脚本・演出の西条みつとしさんの作風も人柄も大好きで、生み出す世界観とかお客さんになにを届けたいのかっていう気持ちや考えを現場で共有できることが凄く幸せだったし、その熱意からもらうモノがとてもたくさんありました。ただ、じゃあ自分でそれを具体的に伝えるにはどうしたらいいのかってところは……表現の幅も引き出しもまだまだ少なかったもので、助けていただきました。そうやって昔お世話になった方とこうして同じ作品で、しかも主役を受け継いで、というのはとても意味がある再会だと思うので、自分としては恩返しとしても頑張んなきゃなって思いますし、求められている以上のパフォーマンスを舞台で表現できるようにしっかり稽古していきたいなって思います。
廣瀬智紀
ーー7年間の成長が試される?
廣瀬:「試される」とかすごく苦手なんですよ〜(笑)。でもこうしてお仕事を続けさせてもらっていく中で自分を取り巻く環境もだいぶ変わりましたし、それこそ小学校1年生から中学校1年生くらいまでの時間ですから(笑)。成長というか勉強というか、知識も経験も多少は積んで来られたと思いますので……今回は物語の軸としてちゃんと居られるように、今の年齢、今の役どころにふさわしい仕事を果たしたい。北原さんをはじめとする新たなメンバーでまたこの『HERO』の世界を生きられることが楽しみです。
北原:私は西条さんとご一緒するのは初めてですし、まだご本人とはお会いできていないんですけど……舞台の情報が解禁になったとき、周囲の方たちから「西条さんと舞台やるんだね」「絶対観にいく」「楽しみ」というような反応がたくさんあって、しかも舞台スタッフの方々から言われることがとても多かったんです。そこでもう「わ、この舞台、絶対面白いヤツだ!」と確信しました。それと、プロットを読んだときは「コメディーって聞いたけど、どういう風にこういうあったかい作品がコメディーとして成立していくんだろう」というところに大変興味がわきました。お稽古でどんな創り方をしていくのか、西条さんの演出がすごく楽しみです。
ーー誤解や行き違いの積み重ねで出来事がどんどん動き、混乱が面白さを生んでいくテンポの良い会話劇ですよね。
廣瀬:そう、とても緻密に組み立てられてるんですよね。でも実は僕、今回のバージョンのプロットにはまだ触れていないんですよ。自分の中には2012年のあの舞台の記憶が……細かいところはところどころ抜け落ちているところもあるとは思うんですけど、そのイメージがある。だからこそ今回は稽古に入って初めて台本と向き合い、改めて新鮮に物語を感じたいと考えてるんです。なので今はなるべく知らずにいたいなぁと。
ーーでは、広樹というキャラクターについては?
廣瀬:どこまでも人間臭いというか、登場人物の中でも一番普通の人。基本、強い人間ではないと思うんですけど、自分が決めたことを貫き通す思いはしっかり持っていて……このへんはネタバレになっちゃうのが恐くてあんまり詳しくいえないんですけど(笑)。
(左から)廣瀬智紀、北原里英
ーーなぜか恋人とは「2年間限定でしか付き合わない」と決めている。偏った恋愛観を持っている人ではありますよね。
北原:ほんとですよね! だいぶ偏ってますよ〜(笑)。
廣瀬:女性からしたら「なんだコイツ」って思われちゃいますよね。
北原:そうですよね。でも「好きだからそれでもいい」っていう浅美はすっごくけなげだと思います。自分だったら……きっと、即、逆ギレしますね(笑)。
廣瀬:ハハハハッ(笑)。
北原:浅美は衣裳もこんな雰囲気でホントに女の子らしいんですけど、私自身はこういうキャラクターをあんまりやったことがなくて。この前までは舞台『どろろ』で少年を演じていましたし、それこそ今まで「汗は裏切らない!」みたいな舞台が多かったので、逆にこの設定に緊張しています(笑)。
ーータイプ的には正反対、と。
北原:たぶん私自身、女の子らしい部分が少なくて…。こういうパステルなピンクのお洋服もなかなか着ないんです……どちらかといえばショッキングピンクのほうですね(笑)。やわらかくて繊細な等身大の女の子をしっかり演じられるよう、頑張ります。まずはそのあたり、小さいかもしれないけれど、今回の挑戦だなと思っております。
廣瀬:なんとなくふたりのバランスはいいのかなぁって思います。広樹という役としてもそうなんですけど、自分自身、わりと優柔不断というかあんまり冴えないカンジがあるので、その分北原さんがしっかりしてくれているから……そういうのってたぶん出そうとしなくても出ちゃうじゃないですか、“人間の部分”。なので今回はもう頼っていこうかな、と。僕のほうが年上ですが(笑)。
北原:あ、でも……はい、大丈夫です(笑)。頼ってください!
北原里英
廣瀬:おお〜っ、心強いなぁ。
北原:廣瀬さんとは以前ドラマで一日だけご一緒したことがあるんですけど、今日の二度目ましてで改めて人の良さが滲み出ているなぁと思っているところです。あのときも一応恋愛モノだったんですよね。
廣瀬:うん。
北原:だから私的にはもう3年前に付き合うまでのプロセスは踏んでいる、準備は整っている、と思っているので(笑)、不安はないです。
廣瀬:そっか(笑)。よかった。
ーー廣瀬さんは以前「恋愛モノはまだちょっと苦手」とおっしゃっていて。
廣瀬:……でしたね。でもそこはちょっと乗り越えられたかもしれないです。照れずに「愛してる」が言えるようになった、気がする(笑)。それこそ『私のホストちゃん』とかでは──
北原:ある意味「愛してる」を……
廣瀬:言いまくってたよね(爆笑)。けどそれは営業じゃないな、ちゃんと誠意はあるけれどまた伝え方とか環境が違うというか。やっぱりひとりの人に対して「愛してる」って言葉を伝える重み、すべてを踏まえた上で言えるそのひと言って言うのはとても大切だからこそ、お芝居の中でもなかなかちゃんと言うのは難しいなと思ってたんです。でもラブストーリーの朗読劇をやったときにその世界を生きることができてるなと感じられる瞬間があって、愛の言葉を抵抗なく、ちゃんと口に出すことができた。
(左から)廣瀬智紀、北原里英
ーー心が整った?
廣瀬:ほんのちょっと、ほんのちょっと大人になれたのかもしれないですけど……。だから恋愛モノへの向かい合い方も大丈夫。もう、心配ないです。
ーー物語全体の印象はいかがですか?
北原:この舞台のタイトル『HERO』って、“誰かを大事にしたい”という思いを繊細に取り扱っていくようなお話で、自分的にはファンキーモンキーベイビーズさんが歌っているようなヒーローのイメージなんですよね。ものすごーく、愛あるお話。
廣瀬:ああ〜。
北原:そこがすごく好きです。
廣瀬:誰もが誰かのヒーローである。支えて支えられて、結局人はひとりじゃ生きられないっていうのは、本作の大きなテーマのひとつ。僕は今こそこういう作品を観て欲しいなって思うんです。
北原:誰もが誰かのヒーロー、か。私は道を聞かれてこたえられたときに「自分はヒーローかも」と思ったことがあります……(笑)。
廣瀬:うん、それもヒーローだよ。なんかそういうのって、いいなぁ。このお話はそういう人間として大事にしたいことが詰め込まれている、西条さんならではのあったかい作品。思いやり、優しさ、人として大事にしたい気持ち……ここに描かれているそういういろいろが、絶対観た方の明日の活力になるはず。きっかけひとつで「明日あの人にちょっとやさしくしてあげよう」って気づけたりできれば、それだけでその人の世界もひとつ広がるし、世界ってそういうちっちゃなところから伝染して変わっていけるんだとも思うので──大きいこと言っちゃえば、そうやって日本がどんどん大きく柔らかく優しい世界になっていったらいいなって思います。みんな抱えているモノ、もがいていること、たくさんあると思うけど、君だけじゃないよ、みんながんばってるんだよってことがね、ここから発信できるメッセージ。だって……僕もね、ふっと思うんです。自分なんかがお芝居を通じていろんな人に感動を与えたりとか楽しんでもらえたりとかっていうその事実が、すごく不思議だなって。
北原:その感覚、すごくわかります!
廣瀬:わかる!?
北原:はい。すっごく。
廣瀬:全然すごくもない自分なんですけど、こうして板の上に立たせていただき、いろんな方の支えの中で今回なんて主役をやらせていただいてる。ホントに僕なんて全然すごくないんです。でもそんな自分でもこんなことができてるんだっていうそのこと自体もお客様に届けたいというか……観る人が「そうか。そんなに大したことない廣瀬でもこんなことできてるんだ。じゃあもしかしたら私にもワンチャンあるかも」って(笑)。
(左から)廣瀬智紀、北原里英
北原:ええー!(笑)。
廣瀬:いや、わかんないけど(笑)、でもね、そこで自分は「そうですよ! 廣瀬でもできます。みんなできるんです」っていう背中の押し方をしたいなっていう思いもどこかにあって。
北原:(大きく頷く)。私は自分の“なにもなさ”にはよく絶望するんですけど……ホントに「なにもないな」と思う日々の連続で。でもそれこそ、そういう人たちでも一生懸命やってたり、誰かになにかを思う気持ちを持ってたら、素敵なことが起きるんだよ、ということが伝えられるのがこのお話なんですよね。
ーーお客様の日常にもストレートに影響を与えられるような物語。
北原:特に舞台はそこを直接伝えられるので、とても好きで、楽しいです。作品としてはまだどんなふうになっていくのかはわからない部分も多いんですけど……絶対に心になにかが残る作品になると思うので、心を洗う感覚で観に来てもらえたら嬉しいな、と思います。私自身の準備も、日常のお話ということもあり、お稽古が始まる日まで、まずは真っ当に生きて行けたら大丈夫なんじゃないかなと思っています。人間らしく、ちっちゃないいことや普通の日々をちゃんと積み重ねていけば、それでいい。いろんな感情を大事に毎日を過ごしていきたいです。
廣瀬:僕は……自分自身が持つヒーロー像をもう一度見つめ直してみようかな。広樹のヒーローへの憧れは物語のキーにもなっているので、子どもの頃の気持ちを思い出してちょっと過去に戻ってみる時間なんかも作りたいですね。男だし、自分自身が誰かのヒーローになりたい気持ちもありますけど、それは大げさなことじゃない。人のために思いやりを持てるようになれるのがヒーローの条件だし、誰もがそうなれることを気づかせてくれる作品になっていると思うので、自分自身もですけど、より一層“他人のために”なにかやれることを見つけられるような作品になるんじゃないかな。すごく広く、“人間の成長”に繋がる作品にしていきたいなって思いますね。
ーーそうやって舞台上と客席とが手を取り合っていけたら素敵ですね。
北原:いやぁ……今日のお話を聞いて、やっぱりそういうふうに考えている廣瀬さんが座長ならもう大丈夫だ! と思いました。
廣瀬:イヤイヤイヤ、大丈夫じゃないから(笑)。そのうちわかるから(笑)。何回か不安になることもあると思うよ〜。なのでそのときはぜひ、僕のヒーローになってくださいね。
北原:はいっ(笑)。
廣瀬:(笑)。
(左から)廣瀬智紀、北原里英
取材・文=横澤 由香 撮影=ジョニー寺坂

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着