【ライブレポート】ウリ・ジョン・ロ
ート、名曲・名演、そしてスリル

ウリ・ジョン・ロート、しかも中野サンプラザでの公演となれば、見に行かないわけにはいかない。しかも今回のツアーは、トリプル・アニヴァーサリーと銘打たれたもの。

とは言いつつ、一体何が「トリプル」なのだろうと不思議に思っていたのだが、ウリがMCできちんと説明をしてくれた。まず、スコーピオンズの歴史的ライヴ盤『Tokyo Tapes』発売40周年。言うまでもないことだが、この作品は40年前(厳密には41年前だが、そんなことはどうでもいい)に、ここ中野サンプラザで録音されリリースされたのだ。そしてウリは、『Tokyo Tapes』が発売になった1978年にスコーピオンズを脱退し、エレクトリック・サンをスタート。つまり、2つ目のアニヴァーサリーとは、エレクトリック・サン始動40周年のこと。3つ目は、ウリのライヴ活動50周年。彼が初めてライヴをやったのが1968年(当時まだ13歳!)のことなのだ。
そんなおめでたいツアーであるから、集まったゲストも実に豪華。昨年惜しくもこの世を去ってしまったウリの弟、ジーノ・ロートのバンド、ジーノでヴォーカルをとっていたマイケル・フレクシグ。『In Trance』や『Virgin Killer』でドラムを叩いていたルディ・レナーズ。そして、来日直前に急遽参加が発表されたルドルフ・シェンカー!いずれもウリに縁の深い人たちばかり。そんな中、ボン・ジョヴィのギタリストとして名を馳せるフィル・Xが名を連ねていたのは、少々意外であった。ドイツで対面する機会があったウリとフィル。そこで、スカイギターを手にしたとたん、いきなり弾きこなして見せたフィル。ウリは、その才能にすっかり惚れ込んでしまったのである。
スタート前、突如アンプからノイズが発生、止まらなくなるというアクシデントが勃発するが、ツアー・マネージャーが何とか修復。会場からは温かい拍手が起こる。ショウは2部構成。第1部は、エレクトリック・サンやジーノの曲を中心としたセットだ。「Indian Dawn」「Electric Sun」「Icebreaker」といったエレクトリック・サンの名曲に混じり、「Sun in My Hand」といったスコーピオンズの曲も披露されていく。

「実は今回、ジーノにも声をかけていて、彼も乗り気だったんだ。残念ながら彼は来ることができなかったけど、彼のスピリットはここにいるよ」というウリのMCとともに、ジーノが使っていたギターがライザーに飾られる。マイケル・フレクシグが登場しプレイされた「Don't Tell the Wind」「Eastern Sun」といったジーノの名曲の美しさには、思わず息を飲んでしまう。さらに「Starlight」、スコーピオンズの「The Sails of Charon」と美しすぎる曲が続いたあと、10分に渡る大曲「Enola Gay(Hiroshima Today?)」で第1部は終了。
15分の休憩をはさんで始まった第2部は、ウリのスカイギター、アコースティック・セットから。というか、ウリは「アコースティック・セット」と呼んでいたのだが、普通に電気増幅されていたような気も。私の認識が誤っているのでしょうか。ご存じの方、ご教示ください。途中ハチャトリアンの「剣の舞」や、今をときめくクイーンの「Bohemian Rhapsody」などを引用しつつ、神懸かり的なプレイを見せて行く(クイーンの引用は、映画の前に思いついていたそうですが。)
続いて「あらゆるギタリストにとって最も重要な曲であり、自らの初ステージでも演奏した」という「Apache」。1960年にザ・シャドウズがリリースし、大ヒットしたインストだ。そしてここでお待ちかね、ルドルフ・シェンカーが登場。フライトの関係で、リハもやっていないし一睡もしていないというルドルフだが、ステージに上がってしまえばそんなことはお構いなし。いきなり「We'll Burn the Sky」で、会場は興奮のるつぼに。2016年のラウドパークの感動がまざまざとよみがえってくる。続けざまに「In Trance」、さらにルディ・レナーズが加わって「Virgin Killer」、しかも「Virgin Killer」のメイン・ヴォーカルはフィル・Xというレアすぎるフォーメーション。もうすでに興奮をおさえられない状態であったが、ここからさらに「Pictured Life」「Catch Your Train」「Yellow Raven」「Top of the Bill」ですからね。正気を保つのに必死でしたよ。
そして、再びマイケル・フレクシグも登場し、まさかの「Send Me an Angel」!スコーピオンズの曲とは言え、1990年の「Crazy World」に収録されていた作品であるから、ウリはもちろん関わっていない。しかし、この美しい曲を「もし自分が在籍していた時代のスコーピオンズがやったらこうなるだろう」というコンセプトでプレイをしたとのことだ。でラストは、ボブ・ディラン/ジミ・ヘンドリックスのカバー「All Along the Watchtower」。
途中休憩を挟んだとはいえ、19時に開演し、終わったのは22時過ぎという長丁場。素晴らしすぎるメンバーに素晴らしすぎる楽曲。大満足という言葉以外思いつかない。これだけのメンバーが揃っているわけであるから、事前にきちんとリハーサルなどできたはずがない。ぶっつけ本番にならざるをえない部分も多かったことだろう。ツアー・マネージャーが持って来るギターを間違えたり、ウリ自身がゲスト・ヴォーカルを呼び込むのを忘れたまま曲をスタートしようとしたりなど、微笑ましいアクシデントも散見された。そういった面も含めて、というよりも、音楽、そしてライヴというものは、本来こういうスリルを含むべきものなのだろう。そしてそのスリルは、本物のミュージシャン、アーティストのみが体現できるものなのである。
取材・文:川嶋未来
写真クレジット:Takumi Nakajima

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