ブス会*待望の新作『エーデルワイス
』上演!ペヤンヌマキ&鈴木砂羽の特
別対談!

2010年に上演された『女の罪』以来、着実にファンを増やし続けるブス会*。ペヤンヌマキが作り出す舞台上で生きる女たちは、ユーモアとペーソスを、そして生半可な言葉では説明し尽せない美しさを内包している。4年ぶりとなる東京芸術劇場シアターシーストで、新作『エーデルワイス』の上演を控えている。「ミューズ募集」と謳ったオーディションに、なんと鈴木砂羽が参加し、主演の座を射止めた。強力タッグを組むふたりに話を聞いた。
◆鈴木砂羽、ブス会*オーディションを受ける!
――鈴木砂羽さんはブス会*に初参加ですが、オーディションに参加されたとか。どういう経緯があったのですか?
鈴木砂羽(以降:砂羽) 私が観たのは昨年の『男女逆転版・痴人の愛』なんですけど、それまでもブス会*の名前はいろんなところで聞いていたし、お芝居を観たあとでペヤンヌさんとも会いました。オーディションを知ったのはツイッターで見たからですね。新作のキャストを募集ということで、「じゃあ受けてみようかなあ」と思って。きっかけというのは、それはもうインスピレーションですね。だいたい、仕事を受けるのも理屈じゃなくてインスピレーションで「これをやりたい」と思うかどうか。まあ、あんまりそう思わなくてもやることはありますけどね、仕事だから(笑)。
――作品をご覧になって感じたことは?
砂羽 「女性性」ですね。物事の考え方は「男性性」と「女性性」に分かれると思うんです。私はこれまで男性性の考え方がどちらかと言うと優勢で仕事してきたんですよ。『男女逆転版・痴人の愛』は、女性の感性が全面に出ている作品でした。私もそのころ、男性性と女性性についてすごく考えていたし、自分の今後の生き方を模索していた時期だったんで、すごく興味を惹かれました。
ペヤンヌマキ(以降:マキ) そうなんですね。砂羽さんが男性性を持って仕事していたという話は興味深いです。『男女逆転版・痴人の愛』を観ていただいて、面白いと思ってくださったのはとてもうれしいです。でも、どこが砂羽さんに刺さっていたのかは今日まで知りませんでした。やっぱり、砂羽さんがオーディションを受けると知ったときはビビりました(笑)。「受けてくれるんだ!」と思って。
砂羽 安藤(玉恵)さんには事前に相談したんですよ。「私、受けてもいいかなあ」って。そしたら安藤さんが「いいと思う。ペヤンヌも喜ぶと思いますよ」と。じゃあ行ってみようかなって思った。
マキ ブス会*は、人ありきで公演しているんです。私、人間が好きなんです。役者さんのキャラクターからインスパイアされて「こういう役をやってほしい」と書き始めるほうなので、今回はさらに新しい出会いをもとめてオーディションをしました。そこにまさかの砂羽さん登場で(笑)。オーディションでは、男女5人ずつでちょっとした男女のもつれを描いたシーンを演じていただいたり、エチュードをやってもらったりしましたね。
砂羽 オーディションは面白かったですよ。25年この世界にいると、あまり意見も言ってもらえなくなってきているんです。映像は特に、予算と時間ありきだから、何度も試すことなくOKをもらえちゃう現実があって……。オーディションでは「違うアプローチをしてみて」という要求をされることがあって、興味深い体験でした。
マキ なんか、縁を感じますね。私は大学入学で長崎から上京してきた演劇好き少女だったのですが、そのころに観た映画『愛の新世界』が本当に面白くて。砂羽さん演じる主人公に、たくましさや生命力を感じた。砂羽さんは作品内でヌードになっていますが、すごく力をもらえる裸だった。大学を出たあと、いろんな流れでAV業界に入ったのも、どこかで影響を受けているかもしれないです。演劇を続けたことで砂羽さんに出会えたのはやっぱり縁ですね。
砂羽 そうだね。私も役者の仕事や自分のスタンスについて模索していた時期にブス会*を観たから、ちょうどいいタイミングだったし、そこに縁はあるよね。
ペヤンヌマキ (撮影:鈴木久美子)
◆葛藤のなかの「男性性」と「女性性」
――『エーデルワイス』というタイトルについて教えてください。
マキ  「高嶺の花とは、崖っぷちに咲く花。」というキャッチコピーがあるんですけど、それに尽きますね。一見して気高い存在が実は崖っぷちに立ってギリギリのところで踏ん張っている、そういう女性像を砂羽さんからイメージしたんです。
――砂羽さんは、『女のみち2012再演』の映像はご覧になりましたか?
砂羽 面白かったです。『男女逆転版・痴人の愛』とは反対の作品ですね。AVの現場に立つ女性たちの話でしょう。彼女たちは男性性を優位にしないと生きていけない状況。自分のなかの母性と向き合う『男女逆転版・痴人の愛』とは逆の視点なんだと思う。女性性というのは、リーダーシップをとっていても柔らかに見えることなんですよ。AV女優たちには「私が、私が」というような、男性的な精神性が強くなってくる。だから、あの作品は男社会の物語なんだと思いました。もちろんこれは精神の問題としてね。陰ながら応援する女性性とは違いますよね。
マキ そっか。砂羽さんが言う男性性と女性性がわかりました。
砂羽 世の中にふたつの種類があって、男と女だったり、陰と陽だったり、分けることができるじゃない。善と悪とかもそうだね。すべてはふたつの世界で成り立っていて、そのバランスの統合で作られている。AVって女性の世界に見えるんだけど、実は男性性が求められる場所だということがわかる。それってバランスがいびつになっている世界なんだなと思った。面白い演劇は、いびつな人がバランスを欠いたときの世界を描くことが多い気がするんだよね。
マキ 砂羽さんが男性性を優位にして生きてきたのは、自分の意思を貫くためにそうしてきたということなんですか?
砂羽 もっと無自覚だったかな。自分自身、気がつきたくはなかったというのがあるよね。自分の男性性みたいなものに気がついちゃうと、バランスが崩れてダメになると勝手に思っていて……。仕事でもプライベートでも「自分には何が足りてないの?」と思うくらい悩むことがあったけど、世の中をふたつの世界でとらえるということを知ってからは、だいぶ楽になったし、自分のなかに男性性があることも理解できるようになったかな。男性性と女性性という、自分のなかにあるものとの葛藤と闘うというのが、ペヤンヌさんの作品にもある気がするんだよね。
マキ すごい。鳥肌が立っちゃった。砂羽さんがおっしゃったこと、今まで私がずっと考えてきたことなんですよ。
砂羽 踏みとどまって、崖っぷちから落ちるのか咲き続けるのかは、そのバランスなんだよね。でも落ちたっていいと思うよ、それも人生なんだし。やり直すか、落ちたままでいるかは、そのあとの話だから。
鈴木砂羽 (撮影:鈴木久美子)
◆人生の劇場を俯瞰で眺める
マキ ところで、砂羽さんは過去を振り返りますか?
砂羽 思考のなかではね。
マキ 私、40代に入ってから20代のときを振り返ることが多くなってきたんです。
砂羽 わかるよ。過去の投影って、ある意味作家の仕事だと思うよ。でも、過去を振り返っているのも今の出来事なんだなって。そういうふうに考えると、人生の劇場を俯瞰で眺めることができるから。グッと入り込むんじゃなくて、そうやって見られる人は作家や演出家の脳になっていると思う。なんか、『エーデルワイス』がペヤンヌさんの新境地になるといいなと思うんだ。私もそれに加担したい気持ちです。
――ペヤンヌさんは40代に入ってから、仕事のスタンスなどに変化はありましたか?
マキ それはあんまりなかったかもしれないです。もともと私はスローペースな人間で、砂羽さんの話でいうと、男性性みたいな気持ちで生き始めたのは30代に入ってからです。20代のときはもっと男性に依存していたかなと思います。ブス会*を立ち上げるときは、自分のなかで男性性が湧き上がってきたと思う。そうすると、次第に男性とうまくいかなくなってくることもありました。もしも自分が20代のときの女性的な生き方のままだったらどうだろうと振り返るんですよ。もちろん後悔はしていないけど、たぶんそんなふうに考えを巡らせていることが作品に影響すると思います。
砂羽 私も40代に入ってからだね、男性性や女性性という言葉があるのを知ったのはつい最近。30代のころはもっと無頓着で、「オレがオレである限り!」みたいな生き方だった(笑)。この世はふたつの世界の統合なんだということは、別に突然そう思ったんじゃなくてだんだん気づいた感じだけど、チャクラが開いたんじゃない?(笑) こんなこと言うと、スピリチュアルだとかスピ子だとか言われちゃうけど、結局面白いんだよね、いろいろ考えてつながっていくのが。
マキ  「チャクラが開いてブス会*出演」って面白いですね。
砂羽 いいじゃん! 見出しになるよ、それ。でも要するに、精神性のほうにベクトルを向けたいということですね。チャクラが開いたとか言っても、私、全然悟ってないし(笑)。せっかくこの世に生まれてきたので、心だとか精神だとか、そういうことをもっと考えていいんじゃないかと思っています。
左からペヤンヌマキ、鈴木砂羽 (撮影:鈴木久美子)
取材・文/田中大介  撮影/鈴木久美子

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