本堂誠が伝える、バリトンサックスの
豊かで温かい音色

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.9.30ライブレポート
クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。9月30日に登場したのは、バリトンサクソフォンの演奏家として活躍している本堂誠だ。
東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業し、同大学院に入学した年に渡仏し、パリ国立高等音楽院に入学。サクソフォン科、並びに室内楽科を最優秀の成績で修了した本堂誠は、在学中、アムステルダム音楽院への短期交換留学等でも研鑽を積み、2013年第7回スロヴェニア国際コンクール、2014年アドルフ・サックス国際コンクール(仏)ソリスト部門、2015年第2回アンドラ国際サクソフォンコンクールの3つの国際コンクールで優勝。2017年第34回日本管打楽器コンクール第1位、および内閣総理大臣賞、特別大賞、聴衆賞を受賞と輝かしい受賞歴を誇り、ソロ演奏と共に室内楽においても、ブルーオーロラ サクソフォン・カルテットのバリトン奏者として活躍するなど、幅広い活動を展開している。
そんな本堂が、発売したばかりのデビューCDアルバム『BARITONISM─ロシア・チェロ作品集─』に収録された楽曲を含めたプログラムでサンデー・ブランチ・クラシックに初登場とあって、夕方から台風接近の報が流れる中にも関わらず、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGには大勢の観客が集まっていた。なかには、きっとサックスを学んでいるんだろうな、という楽器ケースを抱えたお客様の姿も。
そこに本日共演の、東京藝術大学、同大学院、パリ・スコラカントルム音楽院、モーリス・ラヴェル音楽院伴奏科等で研鑽を積み、アンサンブルピアニストとしても高い評価を得ているピアニストの弘中佑子と共に本堂が登場。熱い拍手の中、演奏がはじまった。
本堂誠(B.Sax.)、弘中佑子(ピアノ)
チェロと音域を同じくするバリトンサックスの管楽器ならではの魅力
1曲目はフランスの作曲家ドゥメルスマンの「ファンタジー」。自身がフルート奏者であり、フルートの為の楽曲はもちろん、サックスという楽器を考案したアドルフ・サックスの友人で、音楽史上初めてサックスの為の楽曲を作曲したことで、非常に重要な存在である、ドゥメルスマンがアルトサックスの為に書いた楽曲。華やかで力強いピアノの前奏が世界観を創る中に、本堂のバリトンサックスが、太く魅力的な音色で豊かなメロディを響かせる。迫力のあるパートのあと、低音域のゆったりしたパートでは、どこか懐かしいような温かみを感じさせ、一転非常にテクニカルで華やかなパートを一気呵成に聴かせ、大きな拍手が贈られた。
本堂誠
本堂誠(B.Sax.)、弘中佑子(ピアノ)
「台風が接近する中ありがとうございます!」と爽やかに挨拶した本堂は、今日は是非バリトンサックスの魅力を聞いて欲しい、バリトンサックスはチェロと音域が同じなので、チェロ曲を演奏することが多いです。
と解説しての2曲目はサン= サーンス の「白鳥」。まさしくチェロといえば真っ先に思い出すという楽曲だが、なるほどバリトンサックスのしみじみと滋味深い音色との親和性が抜群。更に管楽器ならではの息遣いが、歌心を感じさせ、まるで言葉のない歌を聴いているような心持になる。弘中のピアノも実に繊細な響きで寄り添い、演奏が終わると共にしばしため息のような感嘆がeplus LIVING ROOM CAFE & DININGを包んだ。
本堂誠
感動が広がる中本堂は「サックスにはジャズのイメージが強いと思いますし、更にバリトンサックスはクラシック音楽の中では狭い世界で、ソロで演奏するというのはとても珍しいのですが、そこで頑張ってやっています」とのことで、特に高音域もまろやかな音が出るのがバリトンサックスの魅力なので、それをお伝えできる曲を、とリリースされたばかりの自身のアルバム『BARITONISM─ロシア・チェロ作品集─』に収められた楽曲から、ショスタコーヴィッチ の「チェロ・ソナタ Op.40より 第2楽章」。勢いとスピード感にあふれた旋律が奏でられる。バリトンサックスの力強い迫力の音色と、ピアノの高音のキラキラした音色との掛け合いが美しく響き合い、迫力が迫力を生むフィニッシュに歓声が湧き起った。
そのまま続けて演奏されたのが、ラフマニノフの「チェロ・ソナタ Op.19より 第3楽章」。一転して哀愁を感じさせるメロディーの切なさ、ロシアの広大な大地を思わせる旋律が滔々と奏でられる。太く力強い低音、深い中音、まろやかな高音すべてに、温かさと一本筋の通った芯の強さがあり、バリトンサックスの音域の広さと、そのすべての音域での魅力が感じられる。ピアノと共に遠ざかっていくメロディが美しい余韻を残す演奏となった。
楽器の持つ多彩な表情が楽しめる民族舞曲
「30分は短いですね」と率直な感想を述べた本堂は、もう次が最後の曲です。とのことでバルトークの「ルーマニア民俗舞曲 」を。12月5日に開催される本堂のソロリサイタルでも演奏が予定されているそうで、元々はピアノ曲用の小品集だが、バルトーク自身の手で小管弦楽用に編曲されていることもあって、サックスで演奏される機会も多い。本堂のサックスは第1曲「棒踊り」にエキゾチックさと同時にコケティッシュさ。第2曲「帯踊り」のテンポの速さに低音の魅力がたっぷり。第3曲「踏み踊り」は馥郁とした高音を聴かせ、改めてバリトンサックスの表現力の豊かさを感じさせる。第4曲「角笛の踊り」はゆったりとしたベールを使うような踊りを連想させる。第5曲「ルーマニア風ポルカ」は次第に激しさを増し、弘中のピアノも呼応して迫力たっぷり。そして第6曲「速い踊り」はその名の通り速いテンポで激しくかつ軽快に、高音のラストまで走り抜け、大歓声と大拍手がeplus LIVING ROOM CAFE & DININGを揺らすように贈られた。
本堂誠
弘中佑子

その喝采に応えてのアンコールは、グラズノフの「スペイン風セレナーデ」こちらもCDに収められている楽曲で、バリトンサックスの優しいメロディとピアノの高音の水の流れのような音との掛け合いを聴かせたあと、ひと際印象的な美しいメロディが歌われる。そこから更に短調の味わい深い低音から、まろやかな高音域へと移りゆく対比が抜群の、心に深く残る演奏となった。
バリトンサックスの広い音域と豊かさを感じさせる35分だった。
本堂誠(B.Sax.)、弘中佑子(ピアノ)
本堂誠(B.Sax.)、弘中佑子(ピアノ)
様々な活動を通じてバリトンサックスの魅力を伝えていきたい
演奏を終えた本堂にお話しを伺った。
ーー今日、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGで演奏されての、手応えや感じた雰囲気はいかがでしたか?
台風が来ているという状況の中にも関わらず、あれだけのお客様に来ていただけたのがすごく嬉しかったですし、雰囲気もとても良くて、気楽に演奏することができました。
ーー夕方からは交通機関も止まる見込みというところでしたから、そこはやはり心配でしたが、大勢のお客様が演奏を楽しまれていましたよね。
そうですね! 本当にありがたかったです。
本堂誠
ーーそんな中で、今日のプログラムの選曲の意図はどのようなところにあったのでしょうか。
バリトンサックスの魅力を伝えたいというのが、僕の活動の骨子としてずっとあるので、まずそれが伝わるようにを念頭に置いて選曲していきました。ドゥメルスマンのテクニック的なところとか、サン=サーンスの歌えるところなどは、特に意識しました。そしてせっかくの機会なので、ソロで出させていただいたCDに入れた曲も聴いていただきたいという思いや、次に控えているコンサートで演奏する予定の曲も少し早出しでお聞かせするなど、様々な方向性からプログラムを組んで、バリトンサックスの魅力をお伝えしたいと思いました。
ーーソロで演奏される機会がさほど多くないというお話を、演奏の途中にもされていらして、そういう意味でも貴重なコンサートでしたが、本堂さんご自身が演奏していらして感じるバリトンサックスの魅力を、改めて言葉にしていただくとすると?
演奏中にもお話ししましたが、バリトンサックスは高音域の音色が温かくて、まろやかで、ふくよかな楽器なんですね。さらに低音域はとても力強いのがなんといっても1番の魅力かなと思います。
ーー聴かせていただいていて、こんなに音域が広いんだ! という感動もありました。
そうなんですよ! その幅の広さが魅力ですし、様々な可能性を感じて頂ける楽器だと思います。
ーー特にサックスは学校の吹奏楽で初めて接するという方が多い楽器ではないかと思いますが、本堂さんの楽器との出会いというのは?
僕もまさに吹奏楽からはじめたんです。小、中、高と吹奏楽でずっとサックスを吹いていて、高校生の時に個人的に先生について指導していただくようになって、ソロ演奏家としてやっていきたいと考えはじめたのも、やはり高校生の時です。
本堂誠
ーーそうだったんですね! それは今吹奏楽でサックスを演奏している学習者の方達にとって、励みになるお話ですし、本堂さんのソロ活動に憧れる方たちも多いでしょうね。
そういう存在になっていけたら良いなと思います。
ーーそういう楽器の魅力を伝えようと、CDの発売やソロコンサートなど積極的な活動を展開していらっしゃいますが、今後の活動をどのように広げていきたいか、などの夢やビジョンはありますか?
今行っていることの延長になっていくかと思うのですが、引き続きバリトンサックスの魅力を伝える活動を続けていけたらなと思っていますし、今はチェロの作品の編曲ものを多く演奏しているのですが、元々サックスの為に書かれた作曲ですとか、ピアノ以外の楽器とのアンサンブルの形にも様々なものがあるので、そういうところとのコラボレーションもしていきたいです。また、やはり現代音楽はサックスにとても必要なところなので、今を生きている作曲家の人たちへの委嘱活動もやっていきたいと思っています。
ーー新作の初演にも取り組んでいかれるのですね。そんな活動を広げていかれる中で、また是非サンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!
こちらこそ、是非また演奏したいと思いますので、よろしくお願いします!
インタビューの中で、共に演奏したピアニストの弘中佑子に対して「実は今回外で演奏するのはほぼ初めてなのですが、数々の伴奏をされている方なので、全幅の信頼が置けてとても演奏しやすかったです」という言葉があり、弘中からは「バリトンサックスを極めていこうとされている方で、ソロ演奏の機会が少ないというお話でしたが、それだけに本当に他にはない歌心をお持ちの演奏家で素晴らしいと思います。導いてくださるので、とても楽しく演奏させていただけました」の感想も聞かれ、二人の抜群のコンビネーションの演奏を裏付ける信頼感が伝わってくる内容だった。
(右から)本堂誠、弘中佑子
取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

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