【インタビュー】春ねむり、強いこだ
わりと独自の感性、唯一無二の魅力を
湛えた一作『春と修羅』

2016年10月にミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』でデビューすると同時に、大きな注目を集めた春ねむり。4月11日にリリースされた1stフル・アルバム『春と修羅』は、彼女のシンガーソングライター/ポエトリーラッパー/トラックメーカーとしての優れた手腕と音楽に対する強いこだわりや独自の感性などが相まって、唯一無二といえる魅力を湛えた一作に仕上がっている。春ねむりが創った音楽に触れて、彼女の人となりに興味を抱くリスナーは多いに違いない。春ねむりの本質に迫るべく、『春と修羅』を軸に、いろいろなことについて話してもらった。
■門戸は広くというか。なるべく開けた……

■私は性格が暗いので限度があるんですけど
――まずは音楽的なバックグラウンドなどを話していただけますか。
春ねむり:一番最初に好きになったバンドは、志村正彦さんが在籍していた頃のフジファブリックさんです。志村さんは私が中3の時のクリスマス・イブに亡くなってしまったんです。あの時は、すごく喪失感がありました。フジファブリックさんがすごく好きだったけど、私は音楽はあまり詳しくなかったんです。でも、仲が良かった女の子が思春期に入って音楽が好きになっていって、いろんなバンドを教えてくれるようになって。それで、その頃に流行っていた“ロキノン系”とかサブカルのバンドを聴くようになりました。高校生が終わるまでは、本当にサブカル女だったと思います(笑)。
――好みがはっきりしていたんですね。高校生の頃から、バンドもされていましたか?
春ねむり:ユニットをやっていました。私に音楽を教えてくれたのとはまた別の女の子と修学旅行の部屋が一緒で、テレビを見ていたら売れ始めた頃のクリープハイプさんが出ていて、カッコいいなと思って。その時に、二人ともバンドがやりたくなったんです。でも、「友達いないからメンバー集めるの無理じゃね?」という話から、最近は打ち込みというので音楽をやっている人がいるよねという話になって。二人とも朧げな知識で話をしていたんですけど(笑)。そんな風に、ノリと勢いとだけでユニットを始めたら、なんとなく曲ができたんですよ。私がトラックを作って、その子が歌メロを付けたんです。そうやって、トラックメーカーとしての第一歩を踏み出しました。
――誰かのコピーから入るのではなく、いきなりオリジナルを作られたんですね。そのユニットは、どんな音楽性だったのでしょう?
春ねむり:エレクトロ・ポップというか、シンセ・ポップみたいな感じです。友達がギターを弾きながら歌って、私は横でシンセを弾いていて、打ち込みのドラムとベースと上物が鳴っているという形態でした。高2くらいからユニットを始めて、大学2年生の時に、一度それを本気でやろうと思って。一生懸命取り組んだんですけど、空回りしてしまって、5年目くらいに2人で話し合いをしたんです。それで、「ちょっと長いこと一緒に居過ぎたよね。この辺で休もう」ということになって。私はその後も音楽活動を続けたいと思っていたけど、その子のことがすごく好きだったので、代わりのボーカルをホイホイ探すような気持ちにはなれなかった。だったら、自分で歌ってみようかなと思って。そこで、それまでやっていたようなメロディアスな曲を歌ってみたんですけど、ボーカリストとしての才能が皆無過ぎて(笑)。自分の中で、“こんなもん、人に聴かせるものじゃない。ダメだ!”みたいな感じになって。でも、どうしても音楽はやめたくなかったから、何か方法はないかなと考えた時に、ラップならできるかもなと思ったんです。ただ、ガチガチのラップとかは、あまり好きではなかったんですよ。どっちかというとキミドリさんとかが好きだったので、ポエトリー・ラップだったら自分に向いているかなと思って、そういう方向性の音楽をやるようになりました。
▲1st Full Album『春と修羅』初回盤
▲1st Full Album『春と修羅』通常盤


――自分が良いと思うものをやろうという姿勢が個性を生むことに繋がりましたね。では、そういったことを踏まえつつ1stフル・アルバム『春と修羅』について話しましょう。アルバムの制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?
春ねむり:1stフル・アルバムは、今まで聴いてくれなかった人も聴いてくれるきっかけになったりしますよね。なので、門戸は広くというか。なるべく開けた……私は性格が暗いので限度があるんですけど、自分の限界くらいまでは開いたものを作ろうと思っていました。あとは、私はトラックメーカーではあるんですけど、ルーツがロックンロールで、自分のことを助けてくれたものがそこなんですね。なので、1stアルバムは私なりのやり方で、そういうサウンドに聴かせないといけないという面があるかなと思って。それで、バンド感を活かした曲を中心にしました。
――生々しいバンド感とポエトリー・ラップの組み合わせが新鮮ですし、パワフルなナンバーも含めて、全体的にどこかドリーミィーな世界観になっていることも特色です。
春ねむり:ドリーム・ポップまではいかないけど、歪んだギターでめっちゃリバーブが掛かっているのとか、残響音を活かした音像とかが好きなんです。今回の『春と修羅』は、その感じはすごく出ていると思います。あと、トラックダウンの時もマスタリングの時も、キラキラさせたいので、この辺の帯域をもっと上げてくださいということを、エンジニアさんにめっちゃ言いました。
――ねむりさんはラッパーという肩書きですが、ヒップホップという言葉では括れない音楽になっていますね。
春ねむり:自分でも、これはヒップホップではないなと思っています。手法がポエトリー・ラップなので、できる範囲でヒップホップの何かに還元することが必要だと思っていますけど、自分のルーツじゃないし、そこは嘘をついてもしょうがない。なので、ヒップホップ的な側面に関しては、そこから派生して、こういう音楽をやっている人もいるんだなとリスナーに思ってもらえるくらいで良いのかなと思っています。自分の中には新しいことをやりたいという気持ちがあるし、ポエトリー・ラップだからといってポエトリーしかやっていなかったら、サビにサビ感がなかったりするんですよね。メロディーを徹底的に排除して、リズムでサビ感を創るというアプローチを採っています。そういう手法はパターンが少ないので、どんどん追い詰められていくんですけど、そうなればなるほど創作意欲を駆り立てられるというのがあって。なので、難しいことではあるけど、逃げずに向き合っています。
――たしかに『春と修羅』を聴いて、歌中のラップはヒップホップ色が薄いのに、サビがヒップホップっぽいというのも面白いなと思いました。
春ねむり:そう、サビはヒップホップの手法に則ったものになっているんです。でも、そこをスルーされることが多いんですよ(笑)。それで、私結構そこがんばっているんだけど…みたいな(笑)。売れているポエトリー・ラップや女の子のラップは、大抵サビで歌になるんです。私はそれはやらないと決めていて、そこにめっちゃプライドがあるんですけど、あまり触れてもらえなくて、もうちょっとそこを褒めてもらえないかな…という(笑)なので、拾っていただけて嬉しいです。
――個性的な音楽性に加えて、哲学的な香りを湛えた歌詞も大きな魅力になっています。歌詞を読んで、“瞬間の尊さ”を常日頃感じているような印象を受けました。
春ねむり:そこに関しては、私が感じる一瞬一瞬という単位は、人よりもすごく短い気がするというのがまずあって。それに、私は毎日生まれ変わりたいと思っているんです。毎日ちゃんと死んで、毎日新しく生まれ変わりたい。そのためにはすべての瞬間を大事にして、自分の生(せい)を生(い)ききらないといけない。そういう気持ちが歌詞に表れているというのはありますね。
――それに、瞬間の積み重ねが永遠に繋がるということも感じていませんか?
春ねむり:永遠ということに関しては、思春期というのはセカイ系で言われるような永遠みたいなものに憧れる時期だと思うんですよ。そういうところに逃げ込みたい…みたいな感じだと思うんですけど、それは倫理的じゃない気がしていて。だから、一瞬一瞬を積み重ねたうえに永遠があるんだよということを言いたいのは、そういうところから来ているんだと思います。ただ、私は物事を決めつけたり、自分の考えを押し付けたりはしたくない。積み重ねている一瞬一瞬が、たとえば私にとってはロックンロールとロマンスだけど、それは人によって違うだろうし、いろんな形の永遠があると思う。だから、どんな人生を生きても良いけど、それを自分で選択したと言って欲しいというか。永遠を選んだのか、永遠を捨てたのか、一瞬を選んでいるのかといったことは、自分で決めるべきだと思っているんです。神様とか、親とかに決められるものじゃないから、“選択した”と思えるような思想の土壌を音楽で創ってあげられたら、生きやすくなる人もいるんじゃないかなと思って。そういう想いのもとに歌詞を書いています。今回のアルバムも全体を通して伝えたいのは、その一点なんです。新しい思想の土壌を与えられる選択肢の一つで良いし、気に入らなかったら、自分はこういう生き方はないなと思ってくれれば良い。でも、私はその選択肢の一つになるために、私の全部を懸けるよ…という。私は別にそれで良いんです。
――直接的なメッセージや心情は書かずに象徴的な情景や言葉を描いた歌詞でいながら、裏側にそういう骨太な思想があることで、胸に響く歌詞になっています。
春ねむり:ありがとうございます。私は直接的な情景の描写が元々あまり得意じゃないし、あまりそういう曲も好きじゃなかったので、そういう歌詞はずっと書いていなくて。今回のアルバムを作っている時に、一つくらいあったほうが良いのかなとすごく思ったんですけど、あまりそういうところで音楽を創らないほうが良いし、一生懸命書いたからきっと伝わると思って書かなかった。だから、響くと言ってもらえて良かったです。あと、歌詞に関しては、サビは特にそうですけど、先にリズムを決めていることが多いので、そのリズムにはめた時に美しくない言葉は使わないようにしています。聴いた時にシックリこないというか、気持ち悪い言葉をはめるのは嫌なんですよね。それに、喋るリズムと喋らないリズムということもめっちゃ意識していて、喋っているように聴こえる中に、どうしても目立たせたい言葉を、絶対にこのアクセントでは言わないだろうというアクセントに敢えてする。そういうことも大事にしています。
――サビのキャッチーさは、そういうことも大きいんですね。それに、等身大で歌っていることを感じさせるボーカルや、リーディングを多用していることなども印象的です。
春ねむり:私はオケに埋もれてしまうというようなことを経験したことがない声質なんですよ、幸いなことに。なので、ちゃんと歌詞が聴こえるように歌うということをずっと意識して歌ってきたら、こうなったという感じです。歌唱力で圧倒したい…みたいな気持ちはないですね。それに、私が作る曲は音程があまりないので、私が歌ったものが正しいという安心感がすごくあって。だって、これに関しては私が正しいし…という。だから、そこに関しては誰に何を言われても全く気にならないというのがあって、自分が本当に気持ち良いとか、自分がカッコいいと思う聴こえ方をする歌い方をしようと思って今回も録りました。
――それも響く要素になっていますし、強く訴えかける激情系の歌は圧巻です。
春ねむり:そういう場所を録る時は、そこに一人の人がいるつもりで歌うようにしています。そういう歌を歌う時は本当に顔とかヤバいので見られたくなくて、周りから見えない状態にして録りました(笑)。リーディングに関しては、私はどの歌詞も朗読に耐えうるものでないと芸術ではないと思っているので、朗読する時は朗読でありつつリズムをすごく意識しています。普通にオケ無しで朗読してもそのリズムになるし、それが一番美しい読み方であり、息遣いであると。そこは、すごく大事にしています。
――だからリーディングの言葉のはまりが良くて、楽曲から浮くことがなく、耳に心地好いものになっているんですね。
春ねむり:そう、意外とはめているんですよ。でも、それも中々気づいてもらえないという(笑)。
■「春と修羅」はギターのところはワクワクしながら作りました

■入り口で苦労したけど骨格ができてからは楽しかったです
――続いて、『春と修羅』の楽曲について話しましょう。アルバムに向けて曲を作っていく中で、自分の中でキーになった曲などはありましたか?
春ねむり:やっぱり、「春と修羅」ですね。今回のアルバムを“春と修羅”というタイトルにすることは最初から決めていたんです。フル・アルバムだし、最初の作品だからタイトル・トラックがあったほうが良いと思うとマネージャーに言われて。ちょっと考えてみようと思って、このアルバムで私が言いたいことは何なんだろうとか、タイトル・トラックになるにふさわしい音像って何だろうとか、すごく考えて……結構作るのがツラかったです(笑)。リズムをどうしようとか、どれくらい展開させようかなとか考えて、最初に展開をなんとなく決めた時は、中間のところはギター・ソロにしていたんですよ。でも、ギター・ソロだと普通なんだよなと思って、どうしようかなぁ…と考えた時に、早回しにしてみようと思ったんです。アルバムを要約している曲だから、ここでめっちゃ長いことを言って、それが途中から“キュルルルッ”と早回しになったら、これが纏まりの曲なんだよということが伝わるんじゃないかなと思って。で、「春と修羅」だから「春と修羅」を朗読したのを録って、“キュルルルッ”として、4分くらいの曲にしよう…みたいな。それを思いついてからは、結構早かったです。
――中間の展開は、驚きました。そこも含めて、「春と修羅」はタイトル・トラックにふさわしく、この曲を聴くと春ねむりさんが、どういうアーティストなのかが分かる曲になっています。
春ねむり:ここに着地できて良かったなと思います。この曲は、私が好きなギタリストに弾いてもらったんですけど、後半の“俺は一人の修羅なのだ”と言った後に“ピィーッ!”とギターが入ってくるところとかは、その人がどんな風に弾いたらカッコいいかなとか考えて。吉田ヨウヘイgroupというバンドの西田(修大)さんという人なんですけど、大学のサークルのOBで、大学生になってライブを観にいった時に、“あっ、カッコいい”と思ったんです(笑)。ギターヒーローって、こういうことだ…と思った人だったので、「春と修羅」はそういうことを感じさせる曲にしたくて。あの時私が夢中になったものを思い起こすような感覚で作らないと、みんなにそう思ってもらえないから、ギターのところはワクワクしながら作りました。そんな風に「春と修羅」は入り口で苦労したけど、骨格ができてからは楽しかったです。今回、西田さんには「MAKE MORE NOISE OF YOU」と「鳴らして」「春と修羅」「ロストプラネット」を弾いてもらっています。私は西田さんの尖った部分が好きなので、尖った曲をお願いしました。
――西田さんはプレイはもちろん、音もすごくカッコいいですね。良い意味で“悪い音”というか、ファット&ダーティーさが最高です。
春ねむり:「音はこういうイメージにするので、こういう風に弾いてください」といって、西田さんにはドライの音でもらって、それをエンジニアさんに投げて、プラグインを挿してもらいました。その時に、もっと歪ませてください、もっと歪ませてください…と言いました(笑)。
▲1st Full Album『春と修羅』初回盤
▲1st Full Album『春と修羅』通常盤


――ということは、ギターの音も完全にねむりさんの好みなんですね。
春ねむり:そうですね。もちろん弾いてくれた西田さんのニュアンスがあってこそなんですが、エンジニアさんと相談しながらどんな音にするか、とか、どれくらい歪ませるか、とかは時間をわりとかけたところだと思います。デモを作る時も、ギターはソフトシンセで打ち込むので、そこまで音色とかを作り込まなくて良いと思うんですよ。でも、エレピを歪ませてギターの音っぽくして、そこにディストーションを2つぶち込んだりするという(笑)。そういう無駄なデモの作り込みをするのが大好きなんです。
――無駄ではないと思います(笑)。『春と修羅』はタイトル・トラック以外にも注目曲が沢山あって、たとえばリード・トラックの「せかいをとりかえしておくれ」は、翳りを帯びたアルバムの中にあって明るい曲ですね。
春ねむり:元々は「鳴らして」をリード・トラックにしようと思っていたんですけど、その後「春と修羅」というタイトル・トラックを作って。それで、リード・トラックをどうしようかなと思っていたら、レーベルの担当に人に、もう少し明るい曲も書けませんか…みたいなことを言われたんです。最初は“えっ?”と思ったけど、家に帰って自分で作った曲を聴いていたら、たしかにフル・アルバムにしては暗いかもしれないと思って(笑)。暗いというのも自分の音楽の好きなところではあるんですけど、もうちょっと開けたというか、分かりやすさというか、明るさという面があることで人が聴いてくれるというのはたしかにあって。そういう曲がちゃんと1曲あることによって、多分アルバムが名盤と呼ばれるものになるなと思って。
――そういう経緯があったんですね。とはいえ「せかいをとりかえしておくれ」も世界観は深いですし、無理しているような雰囲気はありません。
春ねむり:明るい曲を作ることになったので、自分がこのアルバムで言っていることとか、言いたいことを強く感じた瞬間の中で、一番明るかったことは何かなと考えました。いろんな物事が本当にツラ過ぎて、めちゃめちゃ夜中に号泣した後に朝が来て、ドアを開けたら太陽の光がきれい過ぎて、もう一回泣くということがあったんです。めっちゃ泣いて、めっちゃ考えた結果、多分こうだなという答えみたいなものが出た後に見た景色がきれい過ぎて。そこにあるのは何でもない、いつもの家の前の景色なんですけど。その時に、“ああ、私は今日新しく生まれたんだ。私が生まれた日は、こういう風に泣いたんだな”と思ったことがあって。多分それが一番明るい体験かなと思って、それをベースに“存在するということとは?”とか“産み落とされるということは?”といったことを考えた結果、「せかいをとりかえしておくれ」は、こういう曲になりました。
――明るい曲を書くからといって、“じゃあ、夏のドライブのことでも書くか…”というようなスタンスではないというのが良いですね。
春ねむり:夏にドライブとかに行ったことがないんです(笑)。
――えっ? ……なんか、すみません(笑)。
春ねむり:いえ、問題ないです(笑)。この曲はサビを一番最初に作って、これは絶対にみんな歌えるなと思って。なので、この曲は2回サビをやった後、落ちサビが来るんですけど、ライブの時はそこでマイクを客席に向けて、みんなに歌ってもらおうと思っています(笑)。「せかいをとりかえしておくれ」をライブで歌う時は、私は観ている一人一人に向けて歌っていて、観ている人も歌ってくれたら、私とお客さんの間に循環ができますよね。その循環はカッコいいので、絶対に歌ってもらえるようにしたいと思っています。
――ライブも楽しみです。突然少年とコラボレートした「ロックンロールは死なない」も注目の1曲といえますね。
春ねむり:「ロックンロールは死なない」は私の1stミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』(2016.10.12)に入っていた曲で、いつか絶対に生演奏で再録したいと思っていたんです。それで、どのバンドに一緒にやってもらおうかなと考えた時に、「ロックンロールは死なない」は、ロックンロールが自分のことを掬いあげてくれたみたいに、誰か一人の手を掴めたら良いなと思いながら作った曲なので、そういう風に私のことを生き延ばしてくれたバンドとやりたいなというのがあって。突然少年さんはそういうバンドだったので一緒にやってもらいたいなと思って、お願いしたら快諾してくれました。(マネージャーに向かって)快く、引き受けてくれたんですよね?
マネージャー:うん。
春ねむり:良かった。今話をしながら、少し不安になりました(笑)。
――安心しましたね(笑)。「ロックンロールは死なない」は、打ち込み感のあるギター・リフとリアルなバンド感、ダイナミクスを効かせたラップなどが相まって、他にはないロック・チューンに仕上がっています。
春ねむり:アレンジは、全部突然少年さんがしてくれたんです。どんなものが来るかなとすごく思っていたら、ギター・リフを私が作ったみたいな感じになっていて、ビックリしました。
――えっ、あのギター・リフは指定ではないんですか?
春ねむり:違うんです。しかも、突然少年さんは音符が長めのギター・リフは結構あるんですけど、こういうリズミカルで、ハネた感じのリフはイメージになかったので、すごい汲み取ってくれたんだなと思いました。すごくカッコいいリフで、嬉しかったです。それに、最後にメロディーになるところを突然少年の大武(茜一郎)さんが一緒に歌っているんですけど、それも彼が歌いたいと言ってくれたんです。歌詞も書いてきてくれていて、「えっ、ラップするの?」みたいな(笑)。結局サビだけ歌うことになったんですけど、メロディーも考えてきてくれていて。私は突然少年さんのファンだし一緒に歌って欲しいなと思って、録りの現場で曲のサイズを変えて歌ってもらうことにしました。この曲の録りは、本当に楽しかった。一発録りだったので、ドラムの子が頭を振り過ぎてヘッドフォンが落ちた“カチャン!”という音とかも全部入っているんですよ。「ライブ感があるから、これも入れとこう、入れとこう」みたいな(笑)。そういうことも含めて、すごく楽しかったです。
――レコーディング中のちょっとしたハプニングなどを、そのままパッケージするのもロックンロールといえますよね。
春ねむり:そう。私は“ロックンロールとは、どういうことか?”については、地球で5本の指に入るんじゃないかというくらい考えているんじゃないかと思います。
――今度、ぜひロックンロール談義もさせていただきたいです。『春と修羅』は生々しいバンド感を活かした曲を軸としつつEDM感を活かした「アンダーグラウンド」や「夜を泳いでた」「ナインティーン」なども収録されていますね。
春ねむり:ずっとトラックメーカーをやって来たので、自分がして来たことの積み重ねというのがあって。あとは、シンセしか入っていなくても、ギターが入っている曲に負けないくらいパワフルなシンセがすごく好きなので、アルバムにそういうものも入れ込みました。シンセのパワフルなリフを思いついた時は、めっちゃテンションが上がります(笑)。「夜を泳いでいた」はリフをギターに置き換えても良かったんですけど、敢えて打ち込みを活かしたんです。
――ギターはこういう音、ピアノはこういう音といった先入観に捉われていないことや、世界観創りが好きなことなどが分かります。
春ねむり:世界観創りは、めっちゃ好きです。そのために必要な音を作るのも好きです。たとえば、エレピをエレピ本体で全開まで歪ませたうえに、ディストーションのエフェクターを掛けたりするのがすごく好きだし、ハウリングとかもすごく好きなんですよ。ディレイをプラグインにめちゃめちゃ入れて、全開にして、ハウリングが起こったところだけ残す…みたいな(笑)。鍵盤は一応弾けるといえば弾けるんですけど、そんなに上手なわけじゃないし、パソコンでずっと作っているから、パソコンだから出ちゃった音とかがあって。絶対こんな曲に、こんなプラグイン挿さないとか、こんなエフェクター挿さないみたいなものを挿して出来ちゃった音とかが、めっちゃ好きなんです。
――音フェチといえますね。
春ねむり:私は、音の雰囲気と言葉の雰囲気が気になるタイプなんです。だから、音色にはこだわるし、シンセでリフとかを作る時はシンセの音に合わない言葉は絶対に乗せません。私は、普通に音楽を聴いていて気になるんですよ、“なんで、こんなにシリアスなことを歌っているのに、4つ打ちなの?”とか。もちろん4つ打ちでも良い曲はいっぱいありますけど、“せつない歌詞なのに、なんでチャイナ的な愉快な雰囲気を感じさせるコード進行なの?”とか。そういうことがとにかく気になってしまって、“うわっ!”ってなってしまうと、もうそこで聴けなくなるんです。
――そういう感性も、ねむりさんの楽曲の世界観の深さに繋がっていることを感じます。そういったいろいろな要素が重なって、EDMテイストを活かした曲も他にはないものになっていますね。
春ねむり:「ナインティーン」はEDM的な盛り上がり方をするのに、暗いという(笑)。作った後に、“こんなにEDMなのに、こんなに暗いってどういうこと?”と思いました(笑)。自分で作った曲だけど、ちょっとウケる…みたいな(笑)。
――EDMなのに暗いというのが最高です。それくらい作り手の個性が出ている音楽のほうが、実は受け入れられるような気がしますし。
春ねむり:私は、万人受けするタイプではないと批評によく書かれるんですけど、それは自覚がある。自分の創る音楽が人の目にはすごく触れて欲しいけど、それは何故かというと、100人の人に聴いてもらって1人にめっちゃ響くのであれば、1000人の人に聴いてもらえば10人の人に響くかもしれないという気持ちがあって。だから、とにかく聴いてもらわないと始まらないし、沢山の人に聴いて欲しいんです。誰もが楽しめる音楽ということを徹底してやっている人はカッコいいと思うけど、自分の音楽がみんなが分かって、みんなが楽しめるものには別にならなくて良いと思っています。
――そうあって欲しいです。『春と修羅』を聴いて、これは好きになる人は深く好きになって、長く聴くアルバムだなと思いましたので。
春ねむり:ありがとうございます。今の時代はエンターテイメントとして音楽をやる人がすごく多いと思うんですけど、私は芸術がやりたいんです。芸術的な側面と商業的な側面が合わさって、文化の歴史の中でこういう音楽があったんだよと、100年先の人に聴いてもらいたい。商業的な側面もちゃんとしないといけないと思ってはいますけど。でも、私の中には譲れないものがある。なので、私が嘘にならないくらいのキャッチーさを追求しながら、やりたい芸術をやるということの現状地点がここ…というのが『春と修羅』という作品です。
――その言葉通り、アーティスティックでいながら、キャッチーなアルバムになっています。『春と修羅は』注目の一作ですし、アルバムのリリース後はイベントなどに多数出演されるとのことで、ライブも楽しみです。
春ねむり:ライブは、ぜひ観て欲しいです。今は1DJ/1MCという形態でやっていて、そう言うとおとなしいライブを想像する人が多いと思うんですよ。でも、私のライブは、完全にフィジカル系です。めっちゃシャウトしています(笑)。ライブでは感情を開放して欲しいとか、叫んで欲しいという想いがすごく強いんですよ。しかも、決められたやり方ではなくて個々のやり方で、あなたが楽しみたいように楽しんで、踊りたい時に踊って、別に興味ないなと思ったら帰って良いと思っている。帰っても良いし、一緒に歌いたくなかったら歌わなくて良いという条件のうえで、お客さんが帰らずに、夢中で観たり歌ったりしてくれるライブがしたいんです。お客さんが本当に楽しんでくれている時はめっちゃ感情をぶつけてきていることが分かって、それがすごく好きなんです。それはちゃんとライブをすることでしか創れない空間なので、そこは絶対に嘘なく、誠実に一生懸命やりたいと思っています。
取材・文●村上孝之
リリース情報


1st Full Album『春と修羅』

2018年4月11日(水)発売

初回盤 PMFL-9001 \3000 (税別) CD+DVD

通常盤 PMFL-0008 \2500 (税別) CDのみ

●CD収録曲 ※ 通常盤、初回盤共に同じ曲を収録。

1. MAKE MORE NOISE OF YOU

2. 鳴らして

3. アンダーグラウンド

4. 春と修羅 (リード曲)

5. zzz

6. ロストプラネット

7. せかいをとりかえしておくれ(リード曲)

8. 夜を泳いでた

9. zzz

10. ナインティーン

11. ゆめをみよう

12. zzz

13. ロックンロールは死なない with 突然少年

14. zzz

15. 夜を泳いでた(Nemu remix)

16. アンダーグラウンド feat.NERO IMAI(shnkuti remix)

17. 鳴らして(長谷川白紙 remix)
●初回盤限定 LIVE DVD

2017.10.26 春ねむりワンマンライブ『ぼくを最終兵器にしたのはきみさ』@武蔵野公会堂ホール

DVD収録曲

1. Intro

2. 怪物

3. 東京

4. ぼくは最終兵器

5. ロストプラネット

6. アンダーグラウンド

7. ロックンロールは死なない

8. Bonus Track

 「ロックンロールは死なない with 突然少年」 レコーディングドキュメンタリー映像
ライブ・イベント情報


◆5/12(土) 東京・下北沢ERA(深夜)【Pick Up】

春ねむり 1st Full Album「春と修羅」リリースパーティー“ ねむりりぱ! vol.4 ”

NERO IMAI、春ねむり、quon6、kuroyagi、Kaine dot co、bridge、J平、No Gimmick Classics、沈黙を語る人、HAYATO DELAROSSA

4月11日(水)発売、春ねむり『春と修羅』(PMFL-9001/ PMFL-0008)を当日ご持参 or 会場にてご購入頂いたお客様に、先着でサイン入りポスター(非売品)をプレゼント!

EVENT OFFICIAL SITE http://www.diffusy.com/nemurelepa4
◆5/19(土) 大阪・心斎橋FANJ

ゼノ 2nd single. 「寄生」release レコ発「毒を流し込め。」

ゼノ、春ねむり、代代代
◆5/27(日) 東京・吉祥寺複数会場 「MiMiNOKOROCK FES JAPAN」

春ねむり、AJISAIリアクション ザ ブッタ山田将司(THE BACK HORN)、ナードマグネット、and more…
◆6/8(金) 茨城・勝田STORMY MONDAY

ILL take U pre.「ME NOT DAY 1」

春ねむり、AliA with clown、カミツキ、KISADORI、and more...
◆6/9(土) 茨城・勝田STORMY MONDAY

ILL take U pre.「ME NOT DAY 2」

春ねむり、KISADORI、quon6、No Gimmick Classics、yuhei miura、DJ OTO、and more...
◆6/26(火) 東京・渋谷 CHELSEA HOTEL【Pick Up】

春ねむりpre.「ロックンロールは死なない」

春ねむり、突然少年、and more…
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