【インタビュー】シャイニングの音楽
は、「人々を精神的に落ち込ませるた
め」

10枚目のアルバム『X - Varg Utan Flock』を12月29日にリリースするスウェーデンのシャイニングは、1990年代の本当に危険だったころのブラック・メタルを21世紀に伝える数少ないバンドのひとつだ。「人々を精神的に落ち込ませる」ことを目的に作られたという作品を、ニクラス・クヴァルフォルト(Vo)に語ってもらった。
──ニュー・アルバム『X - Varg Utan Flock』のタイトルはどういう意味なのですか?スウェーデン語でしょうか。
ニクラス:スウェーデン語で、"Wolf without a Flock"(群れを持たない狼)という意味なんだ。
──前作と比べてどのような点が進化/変化していると思いますか?
ニクラス:前作は、シャイニングがバンドとして安定している中で作られた。シャイニングはとにかくメンバー・チェンジが激しいからね。ライブも2年くらいやって、その後に作ったアルバムだった。今回のアルバムの曲は、俺がスペインにいるときに書いたんだよ。とにかく俺の身辺にあまりに多くのことが起こりすぎてね。何と言ったらいいかな…つまりあまり精神状態が良くなかった。曲が書けずに転がり回るのでなく、20年で初めてものすごい怒りを感じた。ものすごい怒りと、再びすべてを失う悲しみをミックスした感じと言えばいいかな。だからこのアルバムは、非常に良い感情のミックスになっていると思うよ。
──歌詞はどのような内容ですか?
ニクラス:歌詞はスタジオに入って座るとスラスラと湧き上がって来て、あっという間に書きあがった。1曲目は、英語でいうと"Black Unstoppable Fire"という意味で、自らの相続財産、生まれながらの権利を否定することについてだ。炎を通じて、さらに強い存在へと生まれ変わるということだよ。2曲目は、"Gate of the Golden Bridge"という意味で、自分という人格をいかにコントロールするか、己の肉体の否定についてだ。一歩進んで理性の声を聞く。後戻りはない。一度眼を開けてしまえば、二度と閉じることはできないのさ。3曲目は"I am Your Enemy"という意味なのだが、これは怒りに満ちた曲。最初のフレーズは、「姉妹よ、兄弟よ、お前らは日和見主義者の寄生虫だ」みたいな感じだね。友情というものは、より良い人生を送るのに役立つとは思う一方、人を惑わすことにもなる。何度も何度も繰り返しね。「とにかくもうウンザリだ」ということが言いたいんだ。4曲目の歌詞は、一度書いたものをレコーディングの前の晩に全てボツにして、新しく書き直したもの。この曲は、俺がかつて抱えていた問題…アルコールやドラッグで引き起こされるセックス依存だよ。もう今は大丈夫だけどね。とてもオープンな内容だと言える。最後のパートはとてもシンプルで、「もし俺の人生を再び生きるチャンスがあったとしても、俺はまったく同じミスを犯すだろう。それも10倍悪く」というものだ。5曲目はインスト。
──6曲目「Mot Aokigahara」は日本人には非常に興味深いタイトルですが。
ニクラス:そうだろう(笑)。俺はゴールデン・ゲート・ブリッジとか自殺の名所にとても興味がある。まあ実際の歌詞は自殺についてではなく、ネガティブな感情についてなのだけど、アーティストとして、ネガティヴなものを建設的に利用したんだ。日本に行ったときには、青木ヶ原にはぜひ行きたかったんだけど…ね。この曲を書いたあと、非常に残念なことに樹海をテーマにしたアメリカでクソみたいな映画が作られたことがわかったんだ。『The Forest』(邦題『Jukai―樹海―』)というタイトルなんだけど、アメリカ式に作っちゃってさ。俺は映画が大好きで、現代ホラーについての本も書いているくらいだけど、青木ヶ原という題材は映画にするには最高のもののはずだよ。『Grave Halloween』(邦題『呪(のろい)』というアメリカ映画も、舞台は青木ヶ原だね。まあ日本人は楽しめるかもしれないけど。
──「Mot」というのはどういう意味ですか?
ニクラス:英語でいうと「Towards」、つまり「アオキガハラに向かって」という意味さ。
──この曲では「2017年12月に俺は死んだ」というつぶやきが出てきますが、これはどういう意味なのでしょう。
ニクラス:それは別に俺のことと限定しているわけではない。それに死と言っても、肉体の死とは限らない。精神的な死もあるからね。俺は基本的に何でもきちんと日時を決めないと気が済まないタイプなんだ。異常にキッチリしているところがあって、例えば掃除も毎日しないと耐えられない。まあ12月に本当に肉体の死を迎えるかもしれないね。わからないよ。だけどそうなったら、アルバムのリリース前に死ぬことになるな(大爆笑)。
──シャイニングはもともとブラック・メタル・バンドとしてスタートし、その後音楽性を広げていきました。ターニング・ポイントとなったアルバムはどれだと思いますか?
ニクラス:4枚目の『IV - The Eerie Cold』がきっかけだね。俺は常にポップ・ミュージックも大好きで、ジャズなども聴いている。実はもうあまりメタルは聴かないんだ。俺はおそらくアレンジメントの能力に秀でていると思うんだ。ベースラインを変えて、同じリフを面白く響かせたりとか。本当のターニング・ポイントは5枚目の『V - Halmstad(Niklas angaende Niklas)』だよ。同じ事ばかりやっているわけにいかないからね。しかし心の狭いブラック・メタル・ファンの反応っていつも同じだろう?「一番好きなアルバムはファースト・アルバムだ」ってすぐに言われたり。ファーストみたいな作品をもはや作ることはないんだよ。あれは20年も前の作品で、俺は20年前の俺とは違う人物なんだ。まあ中にはクソみたいに同じアルバムを何度も何度もリリースし続けているバンドもいるけどさ。他人の評価を気にして、自分自身を表現できなくなったらおしまいさ。いずれにせよ5枚目が大きなターニング・ポイントになってると思うよ。フラメンコ・ギターを取り入れたりて、「タカタン、タカタン」っていうリズムを入れたりしてね。やらずにはいられなかったのさ。やりたかった、だからやった。それだけのことさ。
──ブラック・メタルとの出会いはどのようなものだったのでしょう。あなたのお婆様がBurzumのアルバムを持っていたことがきっかけだったというのを聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。
ニクラス:本当さ。彼女はBurzumだけじゃなくて、いろいろな作品を持っていたよ。ガンズ・アンド・ローゼズとかさ。『Appetite for Destruction』は史上最高のブラック・メタル・アルバムだと思うよ(笑)。それからBurzumだけでなく、DarkthroneやSighも聴くようになった。当時はブラック・メタルのアルバムって少なかっただろ?だからブラック・メタル関連のリリースをすべて揃えることもできた。今みたいに1週間に200枚のアルバムが出るみたいな状況じゃなかったからね。
──現在のシャイニングの売りの一つはあなたの変幻自在のボーカルだと思うのですが、結成時はボーカルは担当していませんでしたよね。いつ頃からボーカリストとしての才能を自覚したのでしょう。
ニクラス:最初はボーカルをやる度胸がなかったんだ。ところがセカンド・アルバムの頃になると、俺こそがボーカルとして適任なんじゃないかと思い始めた(笑)。なかなか自分のボーカルというものを客観的に評価するのは難しいけれど、俺をボーカリストとして高く評価してくれるのはうれしいことだよ。色々とゲスト・ボーカルもやったし、友人に頼まれて普段自分がやっていることとはまったく違うことをやったりしたからね。普段やっていることと違うことにトライするというのは、芸術においてとても大切なことだ。俺は料理などにもとても興味があるんだよ。
──ボーカルのレッスンなどは受けていないんですよね。
ニクラス:受けてないよ。ギターに関しても習ったことはない。その方が良いと思うんだ。訓練自体が悪いとは言わないけれど、少なくとも俺にとっては妨げになってしまうと思うんだ。俺は音楽理論も全く知らない。俺はただ自分のやりたいようにやっているだけだ。何も知らない俺が書いたリフというのは、レッスンを受けて自覚的に曲を書いている人のものとは違うものになっていると思うんだ。
──レーベル(Season of Mist)の資料では、シャイニングの音楽は「スーサイダル・メタル」(自殺を誘発するメタル)と表現されていますが、これは?
ニクラス:12歳のときに他のバンドとは違うカテゴリーが欲しいと思い、「スーサイダル・ブラック・メタル」という呼称を考えたんだ。そのコンセプトを完璧に説明するのはとても難しいのだけど、リスナーが自らを傷つけるような影響を与える音楽、というつもりだった。ところがシャイニングがファースト・アルバムをリリースするや否や、「スーサイダル・ブラック・メタル」というのがサブジャンルになってしまった。しかもコンセプトは完全に誤解されたまま。俺は、バンドを武器みたいに思っていた。俺自身の体験を使って、人々を精神的に落ち込ませるようなものさ。ところが「俺はとても落ち込んでるんだ。いつも泣いているよ。お金がない。生活費が欲しい」みたいな奴らが大量発生してしまった。俺は自己憐憫みたいのが大嫌いなんだ。誰でも気持ちが落ち込むことなんてある。「スーサイダル・ブラック・メタル」なんていう言葉を考え出したことを、恥ずかしく思うことすらあるよ。「恋人と別れたからブラック・メタルのレコードを作ろう」とかさ、本当にムカムカくるね。レーベルは「スーサイダル・メタル」と呼んでるけど、俺はただ「ダークネス」とだけ呼びたい。まあレーベルがジャンルを必要とするのは分かるけどさ。
──最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
ニクラス:前回日本に行ったのは、俺の人生の中でも最高の体験だったよ。日本という国は、ロシアともヨーロッパともアメリカとも全然違う。特に気に入ったのは、やっぱり食べ物だね。俺は異常にキチっとしているところがあるから、そういう点でも日本の文化というのは俺の性に合っている。俺にとっては、西洋の文化って変に感じる部分があるのさ。ライブも本当に素晴らしかった。ニュー・アルバムも出るので、ぜひまた日本でプレイしたいよ。ヨーロッパのファンみたいにライブでベロベロに酔っ払っているのではなくて、日本のファンは音楽を楽しんでくれるからね。アルバムにサインを求められたりして、とてもリスペクトを感じたよ。俺がこんなことを言うと変に思うかもしれないけど、とてもハッピーな体験だった。ぜひまた日本に行きたいね。
シャイニングの音楽が「ダークネス」であるというのは、決して比喩でも誇張でもない。何しろニクラスの抱える心の闇を、そのまま具現化したものなのだから。それはまさに「人々を精神的に落ち込ませる」ことを目的に作られたもの。聴くときは十分に注意しよう!
取材・文:川嶋未来/Sigh

Photo by Spela Bergant

シャイニング『X-ヴァーグ・ウータン・
フロック』

2017年12月29日日本先行発売予定

【CD】¥2,300+税

日本語解説書封入】

1.スヴァート・オストバール・エル

2.ユーレネ・ポータナス・ブロー

3.ヨ・アル・ディン・フィエンデ

4.ハン・ソム・ルラー・イノム

5.トルヴトゥセン・トレティエット

6.モット・アオキガハラ

《ボーナストラック》

7.イン・ザ・コールド・ライト・オブ・モーニング

8.クライ・リトル・シスター
【メンバー】

ニクラス・クヴァルフォルト(ボーカル)

マルクス・ハマシュトロム(ベース)

ピーター・フス(ギター)

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