My Hair is Bad「最愛の果て」は、アラサー女のための恋哀歌だった

My Hair is Bad「最愛の果て」は、アラサー女のための恋哀歌だった

My Hair is Bad「最愛の果て」は、ア
ラサー女のための恋哀歌だった

恋心を赤裸々につづったドキドキする歌詞と、今にもかみついてきそうな激アツなライブパフォーマンスで、注目度が急上昇。今や各地のフェスでも引っぱりだこのスリーピースバンド、“マイヘア”ことMy Hair is Bad

メンバーは新潟県上越市出身で、中学・高校の同級生。3人とも、20代前半の男の子だ。
若者ならではの恋や、日常、思い出のみずみずしさ。そして、時に煩悩が噴き出すような激しく圧倒される歌詞で、当然ながら若者からの支持が厚い彼ら。
でも、それだけじゃない。My Hair is Badはアラサー以上の女性にもささるバンドだと、私は思わずにいられない。
「若いバンドだし」「恋愛の感覚が違うかも」…そう考えると、踏み出しにくいのも確か。でもちょっと、この「最愛の果て」の歌詞を見てみてほしい。
そこには、女性の心の中で常にぐるぐると渦巻いている感情が、あると思うのだ。
マイヘア 「最愛の果て」
この「最愛の果て」という曲は、一見するととても優しい。メロディーもそうだけど、歌詞がとにかく優しい。
例えば仕事や人間関係がうまくいかなくて、暗い気持ちのとき。「もう 大丈夫だよ もう充分 頑張ってるんだしいいよ」なんて慰めのセリフを言われたら、心がほどけて涙がこぼれてしまいそうな気がする。
そして、社会人になって、仕事上のミスや修羅場を何度もくぐってみるとわかると思うけど、こういうセリフは自分で自分に言い聞かせるのでは効果がない。人に言われなきゃダメなのだ。
この曲には、そんな女性にとって“しみる”言葉がちりばめられている。
彼らに“毒”を求めていたいちリスナーとしては、拍子抜けな気もしたけど、これはこれで新しいな…なんて思って聴いていた。
でも、リピートしていてある時ハッと気づいた、この曲の裏にあるもの。
「最愛の果て」の“果て”は、冒頭の歌詞が思わせるような“究極のやさしさ”とは、まったく逆のところにあるんじゃないか? この歌詞って実は、女性が陥りがちな“重い恋愛”について歌っているんじゃないのか?
…そんな思いが頭から離れなくなったのだ。

例えば、この曲の主人公が女性だとして。彼女は、相手のすべてを受け入れられるやさしい女性だ。
「朝起こしてあげる」「覚えていなくていいよ」「無理にやらなくていいよ」という、あたたかい言葉から、そんなイメージがわいてくる。
AM4:00に泥酔の相手を起こすのは、正直、至難の業かもしれない。それでも相手を許し、献身的に尽くす。それは、彼の幸せが彼女自身の喜びでもあるからだ。
それに、1節目に引用した歌詞の「隣りにいてあげる」「頑張ってるんだしいいよ」「甘えん坊でいいよ」もそう。まるで男性を寛大に許す、許しすぎてしまう、経験を積んだ女性のよう。若い頃はなかなか真似ができないことだと思う。

でも、このあたりから雲行きが怪しくなってくる。「目を逸らしてあげる」って、いったい、何から?
優しさの中によぎる、一抹の不安。
”目を逸らす””前を向く””許す”これらの言葉が意味するところは…もしかしてこの男、浮気をした?という想像。そう考えると、俄然、話が重苦しくなってくるのだ。

その上で彼女が「許してあげるよ」と言っているのを、さらに深読みしてみる。
「あげるよ」というのが何だか押し付けがましいし、恋愛ではケンカして不満をぶちまけてこそ、わかることもあるはずだ。何をしても許されたり、受け入れられすぎるのって、ちょっと気持ち悪い。
「今夜、帰ってくるなら」なんて、行動の制限付きで許されたくもないし。
それに、30年近く生きていると何となくわかってこないだろうか。「許してあげる」と口では言ったとしても、女性は決して心から許してはいないということ。好きであればあるほど、忘れることはなかなか難しい。
”好き”の反対は”無関心”とよく言うけれど、愛や憎しみがある限り、その相手に無関心にはなれないから。
つまり。この曲に出てくる思いやりにあふれる女性は、相手にとって最初は安らぎかもしれない。けれど時が経つにつれて、“干渉ばかりしてくる”“重い”存在になってしまう…。しかも、かけた時間と労力の量だけ、相手に執着してしまうのだ。

それでも彼女は言う。“一緒に答えを見つければいいじゃない”“もっと、ずっと、一緒にいようよ”。もしかしたら、彼は彼女のその態度こそが重くて、浮気をしてしまったのかもしれないのに…。
例えばカフェの一角で、恋愛末期らしきカップルがもめている。
「私ばっかり我慢してた」と、泣きじゃくる彼女。うんざりした彼は、「誰も頼んでないよ。そっちが勝手にやってたんじゃん」と、投げやりに一言。
そんな場面に、この曲はとてもしっくりくると思う。
曲の後半の一カ所だけの和音の歪みも、この裏ストーリーを象徴しているように思えてならない。

アラサー世代以上に共感
アラサー世代以上の女性の方は、思い当たりませんか? 若かりし日の、こういう”やり過ぎた感”。私は思い出して胸が痛くなった。現在進行形の恋愛とは、全然別の意味で。
”最愛の果て”が、どこに行きつくのかは、人それぞれだ。でも、この曲ではその“果て”は、”愛して愛されて幸せ!”というハッピーな状況では、必ずしもない。「最愛=愛しすぎてしまった状態」の「果て=終わり」は絶望的。
初めての恋ではなく、いろいろなものを超えてきたからこその、そんな実感。
マイヘアの曲に漂うのは、確かに若い男性の恋愛に対する想い、というのが多い。でも、それは予想以上に女々しくて、全部がハッピーエンドじゃない。
そして、こうして時々、女性の暴かれたくない心境を逆撫でしてきたりもする。

でも、夢物語ばかりの恋愛ではないからこそ、甘くて、苦くて、心を預けてしまいたくなるような深みがあると思う。
そう、特にアラサー以上の女性にとっては、My Hair is Badの裏に隠された恐ろしさこそが、魅力的なのだ。

アーティスト

UtaTen

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