【インタビュー】ブリス・オブ・フレ
ッシュ「『神曲』の魅力は時代を超越
している」

フランスのブラック/デス・メタル・バンド、ブリス・オブ・フレッシュがニュー・アルバム『エンピリアン』をリリースする。ダンテの『神曲』3部作に基づいたコンセプト・アルバム…などというと妙な敷居の高さを感じさせるものの、『エンピリアン』の音楽性は単純明快だ。エンピリアンは至高天、簡単に言えば神様たちが住んでいる天国の最上階を意味している。そんな場所を荘厳に、しかし邪悪に不吉に描いたのが『エンピリアン』という作品だ。
ネキュラットはインタビューの中で「巨大なモノリス」と形容しているが、とにかくこのアルバムはスケール感が凄い。一方で、その聴きやすさ/とっつきやすさも際立っている。これはひとえに、これでもかと紡ぎだされるギター・メロの存在が大きい。時に美しく、時に不吉に溢れ出すメロディの洪水に、ブラック・メタル・ファンはもちろんエクストリーム・メタル・ファンもKO必至だろう。過去2作からも大きな飛躍を見せたブリス・オブ・フレッシュから、ボーカリストのネキュラットに話を聞いてみた。
――ニュー・アルバム『エンピリアン』は、過去の2作と比べてどんな仕上がりですか?
ネキュラット:何よりもまず、『エンピリアン』はアルバム全体が一まとまりになった、言うなれば巨大なモノリスのような作品だ。クワイヤにチェロなど、さまざまなアレンジを試行錯誤し、仕上げるのに長い時間が必要だった。過去の2作と比べると『エンピリアン』は、異なった音楽的フィーリングを持っていると思う。スタイルに縛られない自由さと言えばいいかな。よりブルータルでよりエピック、そしてよりプログレッシブになっているよ。作曲の仕方は変わっていないけれどね。つまり、俺たちは俺たちが聴きたいと思う曲を書くだけなんだ。人々にこういう曲を聴かせたい、というのではなくてね。
――『エンピリアン』はダンテの『神曲』に基づいた3部作のラストなのですよね?
ネキュラット:そう、『エンピリアン』で「地獄篇」と「煉獄篇」と続いてきた3部作を締めることになる。『神曲』に基づいた3部作を作るという巨大なプロジェクトは、俺の人生の一部でありバンドとしてのモットーにも密接に関係している。俺たちは、この3枚目のアルバムを、終わりとして見ていると同時に新たな誕生としても捉えている。これは啓示、そして闇を認め神性を拒絶するのか、それとも平穏に至る光に包まれるのかの最終選択なんだ。選択権は君たちにある。無論俺たちはすでに選択済みだ。アルバムの最後のトラックのタイトルは「リナンシエイション」(拒絶)だ。
――そもそもダンテの『神曲』に魅かれた理由は何なのでしょう。
ネキュラット:『神曲』の魅力というのは時代を超越していると思うんだ。俺たちの解釈はさっき言った通りだけど、もちろんこれで『神曲』の秘密をすべて解明したとは思っていない。リスナーには、アルバム3枚を通じて精神が上昇していくのを感じてほしいんだ。自分の弱さをきちんと認識し、3つのステップを通じた啓蒙…つまり『神曲』というのは人間の自己実現の道を示しているのさ。本当の自分になるためには、自分の弱い部分を見つめなくてはいけない。
――「地獄篇」にインスパイアされたエクストリーム・メタル・バンドというのは少なくないと思いますが、『煉獄篇』や『天国篇』を題材にするのは珍しいですね。
ネキュラット:苦しみに満ちた道を理解するためには、この3つを別々でなくひとつの存在として捉える必要があるからだ。俺たちは『神曲』を独自の解釈をしたわけだけど、それは歌詞だけでなく3枚のアルバムそれぞれの曲やアレンジメントにも表れていると思うよ。
――ニュー・アルバムではチェロやクワイヤを加えるなど過去になかった試みもなされていますが、これは何故ですか。
ネキュラット:チェロとクワイヤを使ったのは、特別な雰囲気を出したかったからなんだ。「天国」という神が住む場所、そして一方で憎しみという感情を表現したかったんだよ。チェロもクワイヤも友人に頼んでやってもらった。クワイヤは3人の男性と1人の女性という小規模なものだけどね。
――ブリス・オブ・フレッシュのスタイルはブラック・メタル、デス・メタル、それともその中間でしょうか。
ネキュラット:自分たちのスタイルなんて気にしたことないな。ブラック・メタル、デス・メタル。好きに呼んでもらえば構わない。俺たちはただブリス・オブ・フレッシュの曲を、ブリス・オブ・フレッシュのスタイルでプレイするだけさ。俺たちは結成当時から、ただ自分たちのやりたいようになってきた。ただそれだけのことだよ。
――インスピレーションは、どんなバンドから受けていますか?
ネキュラット:俺たちはそれぞれみな違ったスタイルのメタルのバックグラウンドを持っている。だけどそれはブリス・オブ・フレッシュの音楽には影響しないよ。俺たちはクソみたいなモノマネをする必要がないからな。
――メタル以外の音楽からも影響はありますか?
ネキュラット:アレンジに関しては、クラシックあるいはオーケストラ音楽のフィーリングからの影響を受けていると言えるかもしれないな。
――ブリス・オブ・フレッシュの音楽にはデス・メタルからの影響も色濃く感じられますが。
ネキュラット:デス・メタルは俺たちのギタリストがとても好きなんだよ。ギターの奏でるメロディは、ブリス・オブ・フレッシュにとって非常に重要なものだ。俺自身は、14歳の頃に初めて『Appetite for Destruction』を聴いて大きな衝撃を受けた。十代の頃は本当にこのアルバムが大好きで、よく聴いたね。それからMayhemやEmperorを聴くようになったんだ。ハードロックにせよヘヴィ・メタルにせよ、デスでもブラックでも自分に正直にプレイするというのはとても重要なことだ。だから俺がブリス・オブ・フレッシュのために歌詞を書いたりステージで吼えるときも、絶対に自分自身に嘘はつかないようにしている。評論家たちはブリス・オブ・フレッシュについて色々と言いたがるけれども、とにかく自分に正直であることが何よりも大事なんだ。俺自身、実はデス・メタルを聴くようになったのは、ブラック・メタルよりも後なんだ。Septicfleshなどを見つけてね。非常に興味深いバンドだよ。フランスのLoudblastやMassacraなんかもよく聴いたよ。あとはCarcassSlayerなどのスラッシュも聴いたね。だけどデス・メタルはブラック・メタルが持っている雰囲気やエモーション、メロディなどを欠いているので、好きではあるけれども個人的にはブラック・メタルほどの影響は受けなかったよ。Morbid Angelなどは、デス・メタルでありながらブラック・メタル的要素を持っていたと思うけれど。
――お気に入りのアルバムを3枚挙げるとすれば何ですか?
ネキュラット:古いのばかりになるけど、Mayhemの『De Mysteriis Dom Sathanas』。これは名作だよ、とても雰囲気があって。それからEmperorの『In the Nightside Eclipse』。これはシンフォニック・ブラック・メタルだけど、この作品の雰囲気も非常に印象深いよね。あとはGuns N' Rosesの『Appetite for Destruction』かな。ガンズは大好きなんだよ。この3枚は非常に俺にとって非常に重要なアルバムだ。
――ブリス・オブ・フレッシュというのは面白いバンド名ですが、何故この名前に?
ネキュラット:ブリス・オブ・フレッシュというバンド名は俺たちの信条にぴったりだと思ったんだ。撞着語が俺たちのスピリチュアルな欲求と、肉体への執着のパラドックスを強調しているだろう。
――では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ネキュラット:個人的には日本は世界で最も変態な国だと思う。素晴らしいことだよ。
――変態ですか!
ネキュラット:まあ俺の個人的な意見だけどね(笑)
取材・文:川嶋未来/SIGH

ブリス・オブ・フレッシュ『エンピリア
ン』

2017年8月23日 発売

【CD】¥2,300+税

※日本盤限定ボーナストラック2曲収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き

1.アセンション

2.ペニテント

3.アニュス・デイ

4.エンピリアン~ラスト・キングダム

5.エンピリアン~ミゼレーレ・メイ

6.アポスタシー

7.エクサーキトゥス・チェロールム

8.リナンシエイション

《日本盤限定ボーナストラック》

9.アポカリプティック・フィールズ(ライヴ・アット・ルメタフォン/フランス 2015)

10.パーリア(ライヴ・アット・モトカルター・フェス 2015)
【メンバー】

ネキュラット(ヴォーカル)

シッカーディナル(ギター)

パンデミック(ギター)

J.ポイズン(ベース)

フレッシュスティグマ(ドラムス)

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