ピチカート・ファイヴの『東京は夜の
七時』で主人公は「あなた」に「逢え
た」のか?

1993年の楽曲です。様々なアーティストにカバーされている東京のお洒落なイメージを強調した名曲。アイドルフェスでも歌われています。

1990年代、「渋谷系」という音楽のムーブメントがありました。今もまだその名残がありますが、当時の渋谷は流行の最先端。「渋谷系」とは、当時の渋谷で推されていたピチカート・ファイヴ小西康陽野宮真貴)、ORIGINAL LOVE田島貴男)、フリッパーズ・ギターらの音楽スタイルを指します。
実は「渋谷系」というのは定義が曖昧です。アーティスト本人達がそう名乗っていたわけではなく、当時の渋谷で流行していたような音楽スタイルやCDジャケットやファッションを漠然と指す言葉。

例えば渋谷系ってどんな音楽?と聞かれたら、『東京は夜の七時』はあげられやすいタイトル。漠然とお洒落な雰囲気が漂っているし、「東京」という単語があるからです。



何度も繰り返される「トーキョーは夜の七時」のフレーズ。「トーキョー」と表記することで、東京のPOPなイメージを強めています。

「早くあなたに逢いたい」のフレーズ。「会う」ではなく「逢う」を使用。「集会」「会合」の「会う」ではなく、男女が二人であう「逢瀬」の意味を持つ「両方から来て一対一であう」意味の「逢う」。恋人と早く逢いたいという思いが漢字からも強調されています。




夜の七時の街がネオンで輝いている。それに対し自分はまだ「あなた」に逢えてないので寂しい。それを繰り返します。「輝く街」と「寂しい」自分を対比。

“待ち合わせの レストランは もうつぶれてなかった”
待ち合わせのレストランがつぶれてもう存在しない=待ち合わせ場所が変更になったのでまだ逢えてない!

“ぼんやり風に吹かれた タクシーの窓を開けて”
タクシーで向かっているがぼんやり風に吹かれているぐらいなので、まだ逢えていない!

“留守番電話が 突然ひとりで廻り始める ひと晩中喋り続ける トーキョーの夜はフシギ”
留守番電話が喋り続ける=メッセージを沢山残しているけれど逢えていない!
「トーキョーの夜はフシギ」と歌い、ここで「七時」と「フシギ」で韻を踏んでます。
「不思議」をカタカナにしているのはなぜでしょう?これは真に不思議だと思っていない=現実を感じているんですね。

“交差点で信号待ち あなたはいつも優しい 今日も 少し 遅刻してる”
さらに信号待ちで遅刻していてやっぱりまだまだ逢えてない!

具体的なフレーズが並んでますがこれらの共通点は、全て「逢えて」いないということなんですね。

“バラの花をかかえたまま あなたはひとり待ってる 夢で見たのと同じバラ”
そして「あなた」はバラの花をかかえたまま「ひとり」で待ってる。
実はこの曲は「ひとり待ってる」「ひとりで廻り始める」「ひと晩中」「世界中でたったひとり」と「ひとり」という単語が多いんですね。「とても寂しい」を更に強めています。

最後まで「あなた」に「逢えて」いないからこの曲はずっと好かれているのです。この曲の中では永遠に「逢えて」いない。

一か所「夢で見たのと同じバラ」をもし「夢で見たのと同じバラを現実でも見ることができた!」と解釈すると、歌詞の主人公は「あなた」を目にするところまでは行っている。けれども互いに「逢えて」はいないんですね。

夜の七時の東京という舞台で、高揚感の中、実は「孤独」を歌っている。この曲がもしラストに二人逢えていたらこの曲はここまで好かれることはなかったと思います。
お洒落で可愛くてPOP。でもその本質は「寂しい」から、この曲は好かれるんですね。

TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)

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