INTERVIEW | Die, No Ties, Flyヒッ
プホップの“魔法の数字”を体現する
3人組。その不思議なバランス感覚を
探る ヒップホップの“魔法の数字”
を体現する3人組。その不思議なバラ
ンス感覚を探る

NYのヒップホップグループ・De La Soulはかつて、《Three, that’s the magic number(3、それは魔法の数字)》と歌った。このフレーズが登場する名曲“The Magic Number”は1989年にリリースされたアルバム『3 Feet High and Rising』に収録されているが、豊かなサンプリングから生まれた伸び伸びとした同作は初期のオルタナティヴヒップホップを象徴する一作だ。
そこから34年が経った2023年の年末。ここ日本で魔法の数字「3」人組のヒップホップグループが、またオルタナティヴヒップホップの新しい傑作を生み出した。Die, No Ties, Flyの1stアルバム『SEASONS』だ。メンバーはソロや〈VLUTENT RECORDS〉で活動するラッパーのVOLOJZA、ヤング・キュンと組んだラップデュオ・OGGYWESTでも知られるLEXUZ YEN、ビートメイカーのpoivre。千葉、東京、長崎と拠点も別々の3人はコロナ禍の2020年に集い、これまでに2作のEPを発表してきた。エレクトロニカやレゲエなど多方面に手を伸ばすpoivreのビートと、メロディアスなアプローチも織り交ぜてラップするVOLOJZAとLEXUZ YENのコンビネーションはそれぞれの別プロジェクトとは違った魅力を獲得。そこにはまさにこの3人だからこそ生まれる「魔法」があった。
SEASONS』では、その魔法がさらなるレベルアップを遂げている。poivreのビートはそれまで以上にヒップホップの枠を逸脱し、しかし2人のラップが乗ることでヒップホップとしか言いようがない形に結実。さらにOMSBにNeibiss、hikaru yamada、butaji、Lil’ Leise But Goldと多彩なゲストの助力も得て、混沌としながらもどこか整理されたポップネスを放つ作品に仕上げていた。その不思議なバランス感覚はほかでは味わえないものだ。そこで今回はDie, No Ties, Flyの3人にインタビュー。その魔法の秘密を聞いた。
Interview & Text by アボかど
Photo by Kazuki Hatakeyama
別々のシーンから集まった3人
―― 『SEASONS』のBandcampページ(https://poivre.bandcamp.com/album/seasons) にはpoivreさんがお2人に共作を提案したことから結成とありますが、Die, No Ties, Flyのスタートの経緯について詳しく聞かせてください。
poivre:自分がずっとVOLOさんのファンだったので、曲を一緒にやりたかったんです。コロナ禍で暇になったタイミングで、ビートを聴いてもらいたくてVOLOさんに送って。そうしたらVOLOさんが速攻で作って返してくれて、“2 Mask On”という曲ができたんですよね。そのちょっと前にコロナ禍でミュージシャンをサポートするオーディション企画『100byKSR』でOGGY(WEST)を知って、VOLOさんとも曲をやっていたので一緒にやれたらいいなと思っていて。自分も〈KSR〉のやつは応募していたんですけどダメで、悔しさも半分ありつつ。それでVOLOさんに声をかけてもらいました。
LEXUZ YEN:俺がインスタかなんかで「“2 Mask On”がいい」みたいなことを言ったのかな。その後VOLOさんから「poivreさんと3人でやってみませんか」ってDMがきました。
VOLOJZA:それで一緒にやることになって。poivreさんからビートが送られてきたとき、ちょうど奥さんが子どもと一緒に実家に帰っていて時間があるタイミングだったんです。確か次の日くらいに俺はもう書いたのかな。それで最初にできた曲が“MELODY FROM MEMORY”です。
LEXUZ YEN:VOLOさんが早すぎて、釣られて「やらなきゃ」って思いました(笑)。poivreさんがビートをたくさん送ってきてくれて、勢いで何曲か作ったら結構スムーズにいったんです。あんまりないグルーヴが出た気がして。それから継続的に作るようになっていきました。あのとき僕は音楽を作り始めてからそんなに時間が経ってなくて、この2人の先輩方に引っ張ってもらいながら制作するのは楽しそうだなって思ったんです。
VOLOJZA:“MELODY FROM MEMORY”以外のビートも結構いいタイミングで届いて、あまり途切れずに録り続けられたんですよね。あとコロナ禍で色々な物事が一度停止したので、何か新しいことをやるのに前向きな時期だったんです。いいタイミングが色々と重なってできたというか。
poivre:ミックスとマスタリングはLEXUZさん、アートワークはVOLOさんと、それぞれの役割が綺麗に分かれていたのもいい方向に作用したんでしょうね。ほかの2人は無理しているかもしれないですけど(笑)。
――役割も分かれていますが、皆さんは出てきたシーンも別々ですよね。VOLOさんはずっとヒップホップですが、LEXUZさんは確か前バンドをやっていたという話を聞いたことがあります。
LEXUZ YEN:そうですね。やっていたというか、本当に組んでいただけという感じなんですけど。あとはギターを使った宅録みたいなのをやっていました。ベッドルームポップと2010年代くらいに高円寺とかで流行っていた日本のフォークを合わせたみたいな感じでしたね。
poivre:僕はダブステップが音楽を作り始めたきっかけでした。その後ジュークを作っていたんですけど、コロナ以降は一回停止しちゃって。でも、ダブステップやジュークを作っていたときも並行してヒップホップやチルアウトっぽいビートは作っていましたね。その頃から色々とやっていました。
メンバーが考えるお互いの魅力
――制作において「これは自分がずっとやってきたジャンルとは違う発想だな」と感じることはありますか?
VOLOJZA:LEXUZくんというかOGGYがそうなんですけど、日本のヒップホップシーンにいるとできない言葉のチョイスが新鮮なんですよね。ヒップホップ特有の言葉ってあるじゃないですか、OGGYにはそれがないんです。かと言ってナードな感じでもなく、ちゃんと今っぽいヒップホップに沿いながらやっている。ある程度年齢いったからこそ書ける言葉を2人は書いていて、そこに影響を受けましたね。poivreさんはトラックの幅が広い。その幅があるから、俺とLEXUZくんでチョイスするトラックも違ってくるんですよ。
LEXUZ YEN:全然違いますよね。
――その違いがやりづらさに繋がることはありますか?
LEXUZ YEN:僕はありますね(笑)。僕のスタイルはどちらかといえばメロディアスな方なので、「ああ、難しい!」ってなって放っといて停滞しちゃうみたいなことはありました。例えば今回のアルバムに入っている“トレイン・トレイン”はすごい難しくて、逆に「俺やらなくていいんじゃない? ミックスやエディットで関われるし」と思って。VOLOさんと以前一緒にやっていたhikaru yamadaさんにサックスを吹いてもらいました。
――LEXUZさんはラッパーでもあるけど、このグループ内の役割としてはエンジニアでもありますもんね。
VOLOJZA:LEXUZくんのミックスとマスタリングでグッとレベルが上がるんですよね。
poivre:3~4割はミックスで仕上がったんじゃないかってくらい、LEXUZさんのミックスは重要です。
――皆さんお互いのどういうところがすごいと思ったり、刺激を受けたりしていますか?
LEXUZ YEN:VOLOさんはとにかく早くてクオリティが高い。ヒップホップをやるには早さってすごく大事だと思うんですよね。poivreさんに関しては、さっきVOLOさんも言っていましたが幅がものすごく広い。それなのに不思議と統一感があるから、Die, No Ties, Flyのグループとしてのカラーが保たれているんだと思います。
VOLOJZA:poivreさんは曲の幅もあるんですけど、やりすぎないところが俺はすごい好きですね。シンプルだしラップを乗せやすい。我が出すぎていないというか。それでいて個性的だし、いい意味で型にハマらない感じがある。LEXUZくんは「作曲」の力がすごいと思います。トータルで曲を仕上げていく、整えていく力がデカい。
LEXUZ YEN:VOLOさんが曲の方向性とかを決めてすぐに素地ができるから、それを時間かけてどうやっていくかみたいな猶予があるんですよね。
poivre:僕は2人それぞれ異なるメロディセンスがあるところが好きですね。LEXUZさんはテクニカルな感じでメロディを考えていると思うんですけど、VOLOさんはあまり考えずにめちゃくちゃいいメロディが出てくる感じがします。
LEXUZ YEN:VOLOさんのメロディの作り方は僕もビックリするときがあります。やっぱり全然考え方が違うんでしょうね。
VOLOJZA:僕はもう何も考えていないですからね。あくまでもKodak Blackみたいな「ラッパーが歌うメロディ」でしかないから、上手くはならないし。
「アダルト・オリエンテッド・ラップ」
――皆さんはおそらくリスナーとしての遍歴も全然違いますよね。重なる部分はどこになるんですか?
LEXUZ YEN:なんとなく僕の中ではロックなんじゃないかなって思います。VOLOさんはThe Velvet Undergroundとかもめちゃくちゃ好きじゃないですか。
VOLOJZA:好きですね。
LEXUZ YEN:ベルベッツは僕も好きだし、poivreさんはニューメタルとか好きですよね。
poivre:超好きですね。そうやってヒップホップ以外にも共通の好きなジャンルがあるのがいいんでしょうね。
――Die, No Ties, Flyの曲にはロックっぽさはそこまで表れていないような気がするので、そこは興味深いですね。
LEXUZ YEN:かといって、ヒップホップマナーでやっている感じもあまりないんじゃないかなと。
VOLOJZA:そうですね。そこはデカい。
poivre:AORってあるじゃないですか。アダルト・オリエンテッド・ロック。Die, No Ties, Flyはそのヒップホップ版、アダルト・オリエンテッド・ラップだと思うんですよ。ある程度ロックが円熟してきたからAORが生まれたんじゃないかと勝手に思っているんですけど、ヒップホップも50年の歴史があって、その50年のいいところを自分たちで掬っていったらこんな風になったんじゃないかと思います。
――アダルト・オリエンテッド・ラップ、いい言葉ですね。ちなみに、あえて影響を受けたヒップホップやシンパシーを感じるヒップホップを選ぶとしたら何になりますか?
VOLOJZA:Lyrical Lemonadeの曲は方向性が似ていると思います。“Fallout”とか。たぶんLyrical LemonadeのCole Bennettも、ロックもヒップホップも聴く郊外の音楽好きみたいな感じの人だと思うんですよね。やりたいことが近いんじゃないかなと、いつも思っています。
LEXUZ YEN:僕はDinner Partyですね。Die, No Ties, Flyではあまり我を出さないようにしているんですけど、Dinner Partyもみんなが我を出していない感じがあります。あとはLil Yachtyの去年のアルバム(『Let’s Start Here』)もよく聴いていましたし、「こういうことやっていいんだ」と驚かされました。
poivre:自分はDJ ShadowCut Chemistがめちゃくちゃ好きなんですけど、雑多なところから素材を集めてきて、それを組み上げていった結果、ヒップホップになった、みたいな感じに影響を受けているのかなと。あとはChance The RapperとそのクルーのSave Money。ジュークの流れでシカゴの音楽をずっと聴いてきたので、彼らがやっているようなゴスペルっぽいオルガンとかの音を自然と選ぶことが多いです。
3人だから成立するバランス
――「史上最高のヒップホップグループ」を選ぶとしたら何になりますか?
VOLOJZA:ベタですけど、自分はやっぱりWu-Tang Clanですね。個性の塊みたいな感じが大好きで、すごい影響を受けました。それしか考えられないですね。
poivre:自分はサウンド的にはInvisibl Skratch Piklzです。DJ Q-BertとかMix Master Mikeとかがいた全員ターンテーブリストのクルーなんですけど、ターンテーブル六台とか使ってバンドみたいなことをやっていて。『SCRATCH』っていうドキュメンタリー映画を観てQ-Bertを好きになって、「こういうのもヒップホップなんだ」って衝撃を受けました。
あと、ライブ面ではThe Rootsですね。昔バルセロナの音楽フェス『Sónar』で観たんですけど、一時間くらいだと思っていたら2時間半くらいやってめちゃくちゃ盛り上げていて。自分の予想を大きく超えるパフォーマンスだったんですよね。さらに自分の好みだとJurassic 5も選びたい。
LEXUZ YEN:僕もWu-TangとJurassic 5ですね。個性の乱立で言えばWu-Tang、一体感で言えばJurassic 5。Outkastとかも好きなんですけど、2人だとグループって感じじゃないかなと。A Tribe Called Questも考えたんですけど、Q-Tipが強過ぎちゃって。総合的に考えてWu-TangとJurassic 5かなと。リアルタイムだったこともあって、Jurassic 5の方がグループとしては好きですね。
poivre:あと 次点でBeastie Boysも挙げたいですね。あの3人は何でもできる感じが好きです。
――Die, No Ties, Flyと同じですね。
VOLOJZA:やっていて思ったんですけど、3人ってすごくいいんですよ。2人だとどうしてもどちらかにイニシアチブが傾くけど、3人だと強いリーダーがいなくても成立するし、いたとしてもほかの2人で徒党を組める。そうやって尊重し合えるんですよね。あとアイデアもそこまで深くは出さなくてもいい感じがある。
poivre:Die, No Ties, Flyは単純に「3人でいい曲作ってみよう」みたいな空気が流れていますよね。
――皆さんそれぞれ別々の活動もやっていて、Die, No Ties, Flyはどちらかといえばイレギュラーなプロジェクトなのかなと思っていたんです。EPをたまに発表する、みたいな動きをしていくのかなと自分は思っていたので、フルアルバムがリリースされたのは少し予想外でした。
VOLOJZA:僕はそういった感じでもいいのかなと思っていたんですけど、結果的にアルバムは作ってよかったなと思いますね。
poivre:EPを2作リリースして、ありがたいことに「アルバムで聴きたい」「4曲じゃ足りない」みたいな意見を多く頂いたんですよね。
LEXUZ YEN:僕はアルバムを作るのが好きなので、いずれ作るんだろうなとは思っていました。前のEP『THE FLY』が出た直後くらいには、「アルバム作っちゃいます?」っていう話になっていたと思います。でも僕がめちゃくちゃ停滞させていて。“燃えかす”とか“このまま”とかは2年前くらいにはできていた曲ですよね。
VOLOJZA:2年前、僕のアルバム(『其レハ鳴リ続ケル』)のリリパですでにその2曲は披露していましたからね。
poivre:あと2~3曲くらいボツになった曲があるので、6曲くらいはありました。
LEXUZ YEN:制作は6~7割くらいはVOLOさん発なんですよ。poivreさんが送ってくれたビートにVOLOさんが乗っけて、そこに僕が入るみたいな流れが多いんです。でもアルバムとなると「LEXUZ発の曲もあった方がいいんじゃないか」という話になって。そこでめちゃくちゃ時間がかかりました(笑)。
VOLOJZA:でもLEXUZ発の曲がめちゃくちゃよくて。自分発の曲でもボツにした曲はやっぱりボツにしてよかったと思うし。
母体、エンジン、パイロット──3人の役割
――どれがLEXUZさん発の曲なんですか?
LEXUZ YEN:“貪るように”と“FOMA”……あと何でしたっけ?
poivre:“SWIM”もですね。
――なるほど。“貪るように”と“FOMA”もそうですが、今回のアルバムはゲストの参加も多いですよね。
LEXUZ YEN:今回色んな人をフィーチャーできたのはすごい嬉しかったですね。僕とはシーンが異なるOMSBさんとか、住んでいるところも違えば歳も10以上離れているNeibissの2人とか。butajiさんとLil’ Leise But Goldさんはそもそもラッパーじゃなくシンガーでスタイルも違うし。Lil’ Leiseさんに関しては僕は会ったこともないのに、デュエットをしているという(笑)。
“貪るように”はbutajiさんにビートを渡して、僕と2人でスタジオに一緒に入って作りました。サビのメロディをbutajiさんが考えてきてくれて、「どうやってラップを入れたらいいですかね?」って相談したり。そうやって作ったものをVOLOさんに送って完成させた曲です。あとルアンちゃん(電影と少年CQ)っていうアイドルの子にコーラスを入れてもらったりとか。ルアンちゃんのレコーディングは締切日の前日しかスケジュールが調整できなくて、本当にギリギリでした。でも入れてよかったなと思いますね。
VOLOJZA:そこがやっぱりLEXUZくんのいいところで、最後まで凝ってクオリティを上げてくれるんですよ。俺はすごいラフだから。
LEXUZ YEN:VOLOさんがエンジンでpoivreさんが母体みたいな感じですよね。
poivre:それでLEXUZさんがパイロットみたいな。どの曲もミックスで2~3割くらいよくなったんですよ。めっちゃリッチになっているというか。あとはルアンさんのコーラスでアルバム通してのクオリティが1~2割くらい上がったと思います。3人だけじゃできなかったことが、ゲストの方たちのお力とLEXUZさんのプロデュースで、想像を余裕で超えるクオリティになりました。
――役割分担が明確な分業体制が功を奏している感じがありますね。
VOLOJZA:僕は大きな負担にはなっていなかったですね。でもLEXUZくんは大変だったかもしれない。
poivre:一番大変だったんじゃないですか?
LEXUZ YEN:いや、でも僕はやっぱりそういうのが向いているんですよ。作業的には結構キツかったんですけど、産みの苦しみよりも調整の苦しみの方が楽なんです。三者三様、向いているところが違うのがいいんじゃないかと思います。
これまでの縁が紡いだ客演陣
――今ってプロデューサー同士で共作することもよくあるじゃないですか。Die, No Ties, Flyは全員がビートを作れるけど、そこが完全に分業制なのはおもしろいですよね。
LEXUZ YEN:実は“FOMA”だけは俺がエディットしています。
poivre:最初はワンループのビートだったんですけど、LEXUZさんが「そこにメロディを付けたらどうか」って言って、エディットしてくれたんです。それがめちゃくちゃよくて、やっぱり詰めていくのが上手いなと思いましたね。あと、“FOMA”はLil’ Leiseさんに参加してもらったこともあって、ビートの尺が足りなくなったんですよね。そこでLEXUZさんが「ビートを足したらどうですか」って提案してくれて、VOLOさんが乗せる部分を新しく作って付け足しました。
VOLOJZA:あの曲は雛形をLEXUZくんが作ってくれていて、客演の人が乗せてから考えようっていう、いつもとは逆のパターンの曲でしたね。
――Lil’ Leiseさんは以前VOLOさんと同じイベントに出ていましたよね。その縁で決まったんですか?
VOLOJZA:そうですね。1曲女性アーティストに入ってほしいなって考えていて、色々な人に相談してはいたんですけどなかなかいい巡り合わせがなくて。以前共演したLil’ Leiseさんにダメ元でお願いしたら承諾してくれて。
LEXUZ YEN:あのヴァース、すさまじいですよね。よすぎる。
poivre:お酒飲んでいるときに聴いたら泣いちゃいますね。
――ほかの客演の方々も縁がある人が中心ですよね。Neibissも以前、poivreさんがhyunis1000さんのソロ曲のリミックスを作ってましたし。そういう意味でも、これまでの集大成感がありました。
poivre:Neibissはリミックスもあるんですけど、LEXUZさんがたまたまイベントで一緒になったんですよね。
LEXUZ YEN:一昨年の11月くらいに、僕と一緒にポッドキャスト番組『クレイジーラブ』をやっているアカツカのバンド・South Penguinがトリのパーティがあって。そこにNeibissが来ていたんですよ。そこでお願いしました。
――なるほど。LEXUZさんも色々やっていますよね。先ほどもお話が出ましたが、スタジオも作ったそうですね。スタジオができたことは今回の作品に何か影響を与えましたか?
LEXUZ YEN:やっぱりミックスがよくなったのはあると思います。以前はヘッドフォンでミックスをやっていたんですけど、スタジオを作ってモニタースピーカーで作業したら、当たり前ですけど全然違って。あとは来た人に聴いてもらって、直接反応をもらえるようになりました。
poivre:アルバム最後の“Feel The Pain”はLEXUZさんとVOLOさんが一緒にスタジオに入って作った曲なんですよ。
エゴを出さないことで生まれる別プロジェクトとの違い
――楽曲制作はpoivreさんがビートを送るところから始まることが多いとのことでしたが、お2人から「こういうビートを作ってください」みたいな相談はありますか?
poivre:“このまま”はLEXUZさんの「甘いトラップを作りたい」って要望を受けて作りました。「どんなビートを聴きたいですか?」と自分から聞いて、フォークっぽい曲を作ったりもしましたね。あとはレイジのビートも作って、レコーディングまでいったんですけど、賞味期限が短そうだと思ってボツにしました。
LEXUZ YEN:今は〈Opium〉(Playboi Cartiが立ち上げたレーベル)とかの影響でまたレイジが流行っていますけど、1年くらい前は賞味期限的にもう厳しいかもしれないって全員の意見が一致したんですよね。それでトレンドとかに左右されないようなビートを選ぶようになりました。
――トレンドといえば、VOLOさんとpoivreさんでジャージークラブの“HARURANMAN”というシングルも出していましたよね。
poivre:あれはジャージーが盛り上がっていたときに、「なんかジャージーっぽいのできた」みたいな感じでポストしたらVOLOさんが反応してくれて。すぐにラップを乗せて返ってきましたね。ビートができてから完成まで一週間くらいでした。
VOLOJZA:いいなと思ってすぐ返しました。
poivre:ミックスとマスタリングはLEXUZさんにお願いして。Die, No Ties, Fly用ではなかったんですけど、結局Die, No Ties, Flyみたいになりましたね(笑)。
――やっぱりそこで上手く回っているんですね。VOLOさんのソロ曲の話の流れで聞きたいんですけど、去年リリースされたVOLOさんのソロアルバム『割れた鏡が見た何か』も、OGGYのアルバム『무섭다(ムソプタ)』もダークな印象がありました。その2作とDie, No Ties, Flyのアルバムでは雰囲気やカラーが大きく異なると思うのですが、そこは何か意識した部分があるのでしょうか。
LEXUZ YEN:僕からするとOGGYは完全にエゴでやっているんですけど、Die, No Ties, Flyは各々のエゴをあまり出さずに完成させる感覚なんです。なので、あまりOGGYと同じヴァイブスを出さないようにはしていました。
VOLOJZA:僕のソロもOGGYも自分たちが主導権を持って動いているので、やっぱりどうしてもエゴが出てしまう。良くも悪くも個人的なものになって、外に開けるというよりかは、どちらかというと内々に向かっていく。一方でDie, No Ties, Flyだと、自分の想定外のアイディアの方がよく思える。それが外に向けた作風に繋がってるんだと思います。
LEXUZ YEN:内と外っていうのはすごいわかりますね。OGGYは完全に内なので。それは3人の距離感の話でもあると思うんですよ。
VOLOJZA:それはあるよね。昔からの知り合いじゃないからこそ、できているのも絶対にある。だからこそバランスが取れるし人間関係も尊重し合えて、なあなあになりづらい。そこがいいのかなと思う。
――ルームシェアも親密な友人同士じゃない方が上手くいくという話を聞いたことがあります。
LEXUZ YEN:それに近い感じはありますね。お互いに干渉し過ぎず、それぞれやることは責任持ってやるというか。
VOLOJZA:そうそう。だからこそ客観的に見ることができたり、自分たちが普段作っている作品よりも広がりが生まれるんだと思う。そもそも、そういう作品を作ろうっていう意識もあったしね。だから僕は自分のソロでやるようなラップラップしてる言葉遣いはDie, No Ties, Flyでは意識的に避けてます。
Die, No Ties, Flyだからできること
――お話を聞く限り、Die, No Ties, Flyだからできること、みたいなものが結構ありそうですね。
poivre:まさにそうですね。自分もビートを作るとき、「このジャンルのこういうビートを作ろう」じゃなくて「ありそうでないようなビートを作ってみよう」とトライできる部分があるんです。2作のEPで2人だったらどんな曲でも乗せられるとわかったので。だから今回の10曲はそれぞれ曲調が違って、「ジャンルは何なの?」って聞かれても何とも答えられないような作品になりました。
VOLOJZA:僕もあんまりガンガンに押し出すようなヒップホップを作ろうとは思わなかったし、それが自分的には挑戦でもあった。新しいことができてよかったです。今回のアルバムを作って、自分から離れたリリックを書けるようになったんですよ。それまでは「俺」っていう主語がめちゃくちゃ強いものばかりを書いていたんですけど、Die, No Ties, Flyのアルバムでは自分じゃない誰かに当てはまるようなスタイルで書けるようになったと思います。
poivre:反響を見ていても、そういう部分で共感してくれる人も多いみたいで。
LEXUZ YEN:僕の場合、普段OGGYではできないようなコラボや構成にトライできたのがよかったですね。
――なるほど。今回のアルバムはこれまでの集大成的な側面もあったかと思いますが、今後グループとしてやってみたいことはありますか?
VOLOJZA:Die, No, Ties, Flyとして今できることは今回のアルバムに詰め込んだと思うので、今度は逆に違うことをやってみたいタームに入っています。今、すごいラップっぽいラップをめちゃくちゃ書いてるんですよ。そうやって循環して、またいいタイミングがきたら3人でまとまった作品を作りたいですね。
poivre:今回は制作が長かったので、とりあえず今はリリースできてホッとしています。
LEXUZ YEN:僕もそんな感じですね。次のことは考えていない。
VOLOJZA:やっぱり無理して作るっていう感じはあまり合っていないと思うんですよね。Die, No Ties, Flyでできることの枠ってめちゃくちゃ大きいと思うんですけど、そこを真っすぐに突き詰めるのも違うのかなって感じがする。各々が活動していく中で、きっとDie, No Ties, Flyでやりたいことが溜まってくるタイミングがくると思うんですよ。
poivre:たしかに。そもそも今回のアルバムは、コロナ禍で溜まっていたフラストレーションを、Die, No Ties, Flyとして形にしたという感覚もありますし。
LEXUZ YEN:ゆっくり2ndアルバムを作れたらいいなと思っています。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://linkco.re/S1yvxbc9)
■VOLOJZA: X(Twitter)(https://twitter.com/volojza) / Instagram(https://www.instagram.com/volojza/)
■LEXUZ YEN: X(Twitter)(http://twitter.com/88lexus_) / Instagram(https://www.instagram.com/88lexusoggywest/)
■poivre: X(Twitter)(https://twitter.com/poivre0529) / Instagram(https://www.instagram.com/poivre0529/?hl=ja)
NYのヒップホップグループ・De La Soulはかつて、《Three, that’s the magic number(3、それは魔法の数字)》と歌った。このフレーズが登場する名曲“The Magic Number”は1989年にリリースされたアルバム『3 Feet High and Rising』に収録されているが、豊かなサンプリングから生まれた伸び伸びとした同作は初期のオルタナティヴヒップホップを象徴する一作だ。
そこから34年が経った2023年の年末。ここ日本で魔法の数字「3」人組のヒップホップグループが、またオルタナティヴヒップホップの新しい傑作を生み出した。Die, No Ties, Flyの1stアルバム『SEASONS』だ。メンバーはソロや〈VLUTENT RECORDS〉で活動するラッパーのVOLOJZA、ヤング・キュンと組んだラップデュオ・OGGYWESTでも知られるLEXUZ YEN、ビートメイカーのpoivre。千葉、東京、長崎と拠点も別々の3人はコロナ禍の2020年に集い、これまでに2作のEPを発表してきた。エレクトロニカやレゲエなど多方面に手を伸ばすpoivreのビートと、メロディアスなアプローチも織り交ぜてラップするVOLOJZAとLEXUZ YENのコンビネーションはそれぞれの別プロジェクトとは違った魅力を獲得。そこにはまさにこの3人だからこそ生まれる「魔法」があった。
『SEASONS』では、その魔法がさらなるレベルアップを遂げている。poivreのビートはそれまで以上にヒップホップの枠を逸脱し、しかし2人のラップが乗ることでヒップホップとしか言いようがない形に結実。さらにOMSBにNeibiss、hikaru yamada、butaji、Lil’ Leise But Goldと多彩なゲストの助力も得て、混沌としながらもどこか整理されたポップネスを放つ作品に仕上げていた。その不思議なバランス感覚はほかでは味わえないものだ。そこで今回はDie, No Ties, Flyの3人にインタビュー。その魔法の秘密を聞いた。
Interview & Text by アボかど
Photo by Kazuki Hatakeyama
別々のシーンから集まった3人
―― 『SEASONS』のBandcampページ(https://poivre.bandcamp.com/album/seasons) にはpoivreさんがお2人に共作を提案したことから結成とありますが、Die, No Ties, Flyのスタートの経緯について詳しく聞かせてください。
poivre:自分がずっとVOLOさんのファンだったので、曲を一緒にやりたかったんです。コロナ禍で暇になったタイミングで、ビートを聴いてもらいたくてVOLOさんに送って。そうしたらVOLOさんが速攻で作って返してくれて、“2 Mask On”という曲ができたんですよね。そのちょっと前にコロナ禍でミュージシャンをサポートするオーディション企画『100byKSR』でOGGY(WEST)を知って、VOLOさんとも曲をやっていたので一緒にやれたらいいなと思っていて。自分も〈KSR〉のやつは応募していたんですけどダメで、悔しさも半分ありつつ。それでVOLOさんに声をかけてもらいました。
LEXUZ YEN:俺がインスタかなんかで「“2 Mask On”がいい」みたいなことを言ったのかな。その後VOLOさんから「poivreさんと3人でやってみませんか」ってDMがきました。
VOLOJZA:それで一緒にやることになって。poivreさんからビートが送られてきたとき、ちょうど奥さんが子どもと一緒に実家に帰っていて時間があるタイミングだったんです。確か次の日くらいに俺はもう書いたのかな。それで最初にできた曲が“MELODY FROM MEMORY”です。
LEXUZ YEN:VOLOさんが早すぎて、釣られて「やらなきゃ」って思いました(笑)。poivreさんがビートをたくさん送ってきてくれて、勢いで何曲か作ったら結構スムーズにいったんです。あんまりないグルーヴが出た気がして。それから継続的に作るようになっていきました。あのとき僕は音楽を作り始めてからそんなに時間が経ってなくて、この2人の先輩方に引っ張ってもらいながら制作するのは楽しそうだなって思ったんです。
VOLOJZA:“MELODY FROM MEMORY”以外のビートも結構いいタイミングで届いて、あまり途切れずに録り続けられたんですよね。あとコロナ禍で色々な物事が一度停止したので、何か新しいことをやるのに前向きな時期だったんです。いいタイミングが色々と重なってできたというか。
poivre:ミックスとマスタリングはLEXUZさん、アートワークはVOLOさんと、それぞれの役割が綺麗に分かれていたのもいい方向に作用したんでしょうね。ほかの2人は無理しているかもしれないですけど(笑)。
――役割も分かれていますが、皆さんは出てきたシーンも別々ですよね。VOLOさんはずっとヒップホップですが、LEXUZさんは確か前バンドをやっていたという話を聞いたことがあります。
LEXUZ YEN:そうですね。やっていたというか、本当に組んでいただけという感じなんですけど。あとはギターを使った宅録みたいなのをやっていました。ベッドルームポップと2010年代くらいに高円寺とかで流行っていた日本のフォークを合わせたみたいな感じでしたね。
poivre:僕はダブステップが音楽を作り始めたきっかけでした。その後ジュークを作っていたんですけど、コロナ以降は一回停止しちゃって。でも、ダブステップやジュークを作っていたときも並行してヒップホップやチルアウトっぽいビートは作っていましたね。その頃から色々とやっていました。
メンバーが考えるお互いの魅力
――制作において「これは自分がずっとやってきたジャンルとは違う発想だな」と感じることはありますか?
VOLOJZA:LEXUZくんというかOGGYがそうなんですけど、日本のヒップホップシーンにいるとできない言葉のチョイスが新鮮なんですよね。ヒップホップ特有の言葉ってあるじゃないですか、OGGYにはそれがないんです。かと言ってナードな感じでもなく、ちゃんと今っぽいヒップホップに沿いながらやっている。ある程度年齢いったからこそ書ける言葉を2人は書いていて、そこに影響を受けましたね。poivreさんはトラックの幅が広い。その幅があるから、俺とLEXUZくんでチョイスするトラックも違ってくるんですよ。
LEXUZ YEN:全然違いますよね。
――その違いがやりづらさに繋がることはありますか?
LEXUZ YEN:僕はありますね(笑)。僕のスタイルはどちらかといえばメロディアスな方なので、「ああ、難しい!」ってなって放っといて停滞しちゃうみたいなことはありました。例えば今回のアルバムに入っている“トレイン・トレイン”はすごい難しくて、逆に「俺やらなくていいんじゃない? ミックスやエディットで関われるし」と思って。VOLOさんと以前一緒にやっていたhikaru yamadaさんにサックスを吹いてもらいました。
――LEXUZさんはラッパーでもあるけど、このグループ内の役割としてはエンジニアでもありますもんね。
VOLOJZA:LEXUZくんのミックスとマスタリングでグッとレベルが上がるんですよね。
poivre:3~4割はミックスで仕上がったんじゃないかってくらい、LEXUZさんのミックスは重要です。
――皆さんお互いのどういうところがすごいと思ったり、刺激を受けたりしていますか?
LEXUZ YEN:VOLOさんはとにかく早くてクオリティが高い。ヒップホップをやるには早さってすごく大事だと思うんですよね。poivreさんに関しては、さっきVOLOさんも言っていましたが幅がものすごく広い。それなのに不思議と統一感があるから、Die, No Ties, Flyのグループとしてのカラーが保たれているんだと思います。
VOLOJZA:poivreさんは曲の幅もあるんですけど、やりすぎないところが俺はすごい好きですね。シンプルだしラップを乗せやすい。我が出すぎていないというか。それでいて個性的だし、いい意味で型にハマらない感じがある。LEXUZくんは「作曲」の力がすごいと思います。トータルで曲を仕上げていく、整えていく力がデカい。
LEXUZ YEN:VOLOさんが曲の方向性とかを決めてすぐに素地ができるから、それを時間かけてどうやっていくかみたいな猶予があるんですよね。
poivre:僕は2人それぞれ異なるメロディセンスがあるところが好きですね。LEXUZさんはテクニカルな感じでメロディを考えていると思うんですけど、VOLOさんはあまり考えずにめちゃくちゃいいメロディが出てくる感じがします。
LEXUZ YEN:VOLOさんのメロディの作り方は僕もビックリするときがあります。やっぱり全然考え方が違うんでしょうね。
VOLOJZA:僕はもう何も考えていないですからね。あくまでもKodak Blackみたいな「ラッパーが歌うメロディ」でしかないから、上手くはならないし。
「アダルト・オリエンテッド・ラップ」
――皆さんはおそらくリスナーとしての遍歴も全然違いますよね。重なる部分はどこになるんですか?
LEXUZ YEN:なんとなく僕の中ではロックなんじゃないかなって思います。VOLOさんはThe Velvet Undergroundとかもめちゃくちゃ好きじゃないですか。
VOLOJZA:好きですね。
LEXUZ YEN:ベルベッツは僕も好きだし、poivreさんはニューメタルとか好きですよね。
poivre:超好きですね。そうやってヒップホップ以外にも共通の好きなジャンルがあるのがいいんでしょうね。
――Die, No Ties, Flyの曲にはロックっぽさはそこまで表れていないような気がするので、そこは興味深いですね。
LEXUZ YEN:かといって、ヒップホップマナーでやっている感じもあまりないんじゃないかなと。
VOLOJZA:そうですね。そこはデカい。
poivre:AORってあるじゃないですか。アダルト・オリエンテッド・ロック。Die, No Ties, Flyはそのヒップホップ版、アダルト・オリエンテッド・ラップだと思うんですよ。ある程度ロックが円熟してきたからAORが生まれたんじゃないかと勝手に思っているんですけど、ヒップホップも50年の歴史があって、その50年のいいところを自分たちで掬っていったらこんな風になったんじゃないかと思います。
――アダルト・オリエンテッド・ラップ、いい言葉ですね。ちなみに、あえて影響を受けたヒップホップやシンパシーを感じるヒップホップを選ぶとしたら何になりますか?
VOLOJZA:Lyrical Lemonadeの曲は方向性が似ていると思います。“Fallout”とか。たぶんLyrical LemonadeのCole Bennettも、ロックもヒップホップも聴く郊外の音楽好きみたいな感じの人だと思うんですよね。やりたいことが近いんじゃないかなと、いつも思っています。
LEXUZ YEN:僕はDinner Partyですね。Die, No Ties, Flyではあまり我を出さないようにしているんですけど、Dinner Partyもみんなが我を出していない感じがあります。あとはLil Yachtyの去年のアルバム(『Let’s Start Here』)もよく聴いていましたし、「こういうことやっていいんだ」と驚かされました。
poivre:自分はDJ ShadowやCut Chemistがめちゃくちゃ好きなんですけど、雑多なところから素材を集めてきて、それを組み上げていった結果、ヒップホップになった、みたいな感じに影響を受けているのかなと。あとはChance The RapperとそのクルーのSave Money。ジュークの流れでシカゴの音楽をずっと聴いてきたので、彼らがやっているようなゴスペルっぽいオルガンとかの音を自然と選ぶことが多いです。
3人だから成立するバランス
――「史上最高のヒップホップグループ」を選ぶとしたら何になりますか?
VOLOJZA:ベタですけど、自分はやっぱりWu-Tang Clanですね。個性の塊みたいな感じが大好きで、すごい影響を受けました。それしか考えられないですね。
poivre:自分はサウンド的にはInvisibl Skratch Piklzです。DJ Q-BertとかMix Master Mikeとかがいた全員ターンテーブリストのクルーなんですけど、ターンテーブル六台とか使ってバンドみたいなことをやっていて。『SCRATCH』っていうドキュメンタリー映画を観てQ-Bertを好きになって、「こういうのもヒップホップなんだ」って衝撃を受けました。
あと、ライブ面ではThe Rootsですね。昔バルセロナの音楽フェス『Sónar』で観たんですけど、一時間くらいだと思っていたら2時間半くらいやってめちゃくちゃ盛り上げていて。自分の予想を大きく超えるパフォーマンスだったんですよね。さらに自分の好みだとJurassic 5も選びたい。
LEXUZ YEN:僕もWu-TangとJurassic 5ですね。個性の乱立で言えばWu-Tang、一体感で言えばJurassic 5。Outkastとかも好きなんですけど、2人だとグループって感じじゃないかなと。A Tribe Called Questも考えたんですけど、Q-Tipが強過ぎちゃって。総合的に考えてWu-TangとJurassic 5かなと。リアルタイムだったこともあって、Jurassic 5の方がグループとしては好きですね。
poivre:あと 次点でBeastie Boysも挙げたいですね。あの3人は何でもできる感じが好きです。
――Die, No Ties, Flyと同じですね。
VOLOJZA:やっていて思ったんですけど、3人ってすごくいいんですよ。2人だとどうしてもどちらかにイニシアチブが傾くけど、3人だと強いリーダーがいなくても成立するし、いたとしてもほかの2人で徒党を組める。そうやって尊重し合えるんですよね。あとアイデアもそこまで深くは出さなくてもいい感じがある。
poivre:Die, No Ties, Flyは単純に「3人でいい曲作ってみよう」みたいな空気が流れていますよね。
――皆さんそれぞれ別々の活動もやっていて、Die, No Ties, Flyはどちらかといえばイレギュラーなプロジェクトなのかなと思っていたんです。EPをたまに発表する、みたいな動きをしていくのかなと自分は思っていたので、フルアルバムがリリースされたのは少し予想外でした。
VOLOJZA:僕はそういった感じでもいいのかなと思っていたんですけど、結果的にアルバムは作ってよかったなと思いますね。
poivre:EPを2作リリースして、ありがたいことに「アルバムで聴きたい」「4曲じゃ足りない」みたいな意見を多く頂いたんですよね。
LEXUZ YEN:僕はアルバムを作るのが好きなので、いずれ作るんだろうなとは思っていました。前のEP『THE FLY』が出た直後くらいには、「アルバム作っちゃいます?」っていう話になっていたと思います。でも僕がめちゃくちゃ停滞させていて。“燃えかす”とか“このまま”とかは2年前くらいにはできていた曲ですよね。
VOLOJZA:2年前、僕のアルバム(『其レハ鳴リ続ケル』)のリリパですでにその2曲は披露していましたからね。
poivre:あと2~3曲くらいボツになった曲があるので、6曲くらいはありました。
LEXUZ YEN:制作は6~7割くらいはVOLOさん発なんですよ。poivreさんが送ってくれたビートにVOLOさんが乗っけて、そこに僕が入るみたいな流れが多いんです。でもアルバムとなると「LEXUZ発の曲もあった方がいいんじゃないか」という話になって。そこでめちゃくちゃ時間がかかりました(笑)。
VOLOJZA:でもLEXUZ発の曲がめちゃくちゃよくて。自分発の曲でもボツにした曲はやっぱりボツにしてよかったと思うし。
母体、エンジン、パイロット──3人の役割
――どれがLEXUZさん発の曲なんですか?
LEXUZ YEN:“貪るように”と“FOMA”……あと何でしたっけ?
poivre:“SWIM”もですね。
――なるほど。“貪るように”と“FOMA”もそうですが、今回のアルバムはゲストの参加も多いですよね。
LEXUZ YEN:今回色んな人をフィーチャーできたのはすごい嬉しかったですね。僕とはシーンが異なるOMSBさんとか、住んでいるところも違えば歳も10以上離れているNeibissの2人とか。butajiさんとLil’ Leise But Goldさんはそもそもラッパーじゃなくシンガーでスタイルも違うし。Lil’ Leiseさんに関しては僕は会ったこともないのに、デュエットをしているという(笑)。
“貪るように”はbutajiさんにビートを渡して、僕と2人でスタジオに一緒に入って作りました。サビのメロディをbutajiさんが考えてきてくれて、「どうやってラップを入れたらいいですかね?」って相談したり。そうやって作ったものをVOLOさんに送って完成させた曲です。あとルアンちゃん(電影と少年CQ)っていうアイドルの子にコーラスを入れてもらったりとか。ルアンちゃんのレコーディングは締切日の前日しかスケジュールが調整できなくて、本当にギリギリでした。でも入れてよかったなと思いますね。
VOLOJZA:そこがやっぱりLEXUZくんのいいところで、最後まで凝ってクオリティを上げてくれるんですよ。俺はすごいラフだから。
LEXUZ YEN:VOLOさんがエンジンでpoivreさんが母体みたいな感じですよね。
poivre:それでLEXUZさんがパイロットみたいな。どの曲もミックスで2~3割くらいよくなったんですよ。めっちゃリッチになっているというか。あとはルアンさんのコーラスでアルバム通してのクオリティが1~2割くらい上がったと思います。3人だけじゃできなかったことが、ゲストの方たちのお力とLEXUZさんのプロデュースで、想像を余裕で超えるクオリティになりました。
――役割分担が明確な分業体制が功を奏している感じがありますね。
VOLOJZA:僕は大きな負担にはなっていなかったですね。でもLEXUZくんは大変だったかもしれない。
poivre:一番大変だったんじゃないですか?
LEXUZ YEN:いや、でも僕はやっぱりそういうのが向いているんですよ。作業的には結構キツかったんですけど、産みの苦しみよりも調整の苦しみの方が楽なんです。三者三様、向いているところが違うのがいいんじゃないかと思います。
これまでの縁が紡いだ客演陣
――今ってプロデューサー同士で共作することもよくあるじゃないですか。Die, No Ties, Flyは全員がビートを作れるけど、そこが完全に分業制なのはおもしろいですよね。
LEXUZ YEN:実は“FOMA”だけは俺がエディットしています。
poivre:最初はワンループのビートだったんですけど、LEXUZさんが「そこにメロディを付けたらどうか」って言って、エディットしてくれたんです。それがめちゃくちゃよくて、やっぱり詰めていくのが上手いなと思いましたね。あと、“FOMA”はLil’ Leiseさんに参加してもらったこともあって、ビートの尺が足りなくなったんですよね。そこでLEXUZさんが「ビートを足したらどうですか」って提案してくれて、VOLOさんが乗せる部分を新しく作って付け足しました。
VOLOJZA:あの曲は雛形をLEXUZくんが作ってくれていて、客演の人が乗せてから考えようっていう、いつもとは逆のパターンの曲でしたね。
――Lil’ Leiseさんは以前VOLOさんと同じイベントに出ていましたよね。その縁で決まったんですか?
VOLOJZA:そうですね。1曲女性アーティストに入ってほしいなって考えていて、色々な人に相談してはいたんですけどなかなかいい巡り合わせがなくて。以前共演したLil’ Leiseさんにダメ元でお願いしたら承諾してくれて。
LEXUZ YEN:あのヴァース、すさまじいですよね。よすぎる。
poivre:お酒飲んでいるときに聴いたら泣いちゃいますね。
――ほかの客演の方々も縁がある人が中心ですよね。Neibissも以前、poivreさんがhyunis1000さんのソロ曲のリミックスを作ってましたし。そういう意味でも、これまでの集大成感がありました。
poivre:Neibissはリミックスもあるんですけど、LEXUZさんがたまたまイベントで一緒になったんですよね。
LEXUZ YEN:一昨年の11月くらいに、僕と一緒にポッドキャスト番組『クレイジーラブ』をやっているアカツカのバンド・South Penguinがトリのパーティがあって。そこにNeibissが来ていたんですよ。そこでお願いしました。
――なるほど。LEXUZさんも色々やっていますよね。先ほどもお話が出ましたが、スタジオも作ったそうですね。スタジオができたことは今回の作品に何か影響を与えましたか?
LEXUZ YEN:やっぱりミックスがよくなったのはあると思います。以前はヘッドフォンでミックスをやっていたんですけど、スタジオを作ってモニタースピーカーで作業したら、当たり前ですけど全然違って。あとは来た人に聴いてもらって、直接反応をもらえるようになりました。
poivre:アルバム最後の“Feel The Pain”はLEXUZさんとVOLOさんが一緒にスタジオに入って作った曲なんですよ。
エゴを出さないことで生まれる別プロジェクトとの違い
――楽曲制作はpoivreさんがビートを送るところから始まることが多いとのことでしたが、お2人から「こういうビートを作ってください」みたいな相談はありますか?
poivre:“このまま”はLEXUZさんの「甘いトラップを作りたい」って要望を受けて作りました。「どんなビートを聴きたいですか?」と自分から聞いて、フォークっぽい曲を作ったりもしましたね。あとはレイジのビートも作って、レコーディングまでいったんですけど、賞味期限が短そうだと思ってボツにしました。
LEXUZ YEN:今は〈Opium〉(Playboi Cartiが立ち上げたレーベル)とかの影響でまたレイジが流行っていますけど、1年くらい前は賞味期限的にもう厳しいかもしれないって全員の意見が一致したんですよね。それでトレンドとかに左右されないようなビートを選ぶようになりました。
――トレンドといえば、VOLOさんとpoivreさんでジャージークラブの“HARURANMAN”というシングルも出していましたよね。
poivre:あれはジャージーが盛り上がっていたときに、「なんかジャージーっぽいのできた」みたいな感じでポストしたらVOLOさんが反応してくれて。すぐにラップを乗せて返ってきましたね。ビートができてから完成まで一週間くらいでした。
VOLOJZA:いいなと思ってすぐ返しました。
poivre:ミックスとマスタリングはLEXUZさんにお願いして。Die, No Ties, Fly用ではなかったんですけど、結局Die, No Ties, Flyみたいになりましたね(笑)。
――やっぱりそこで上手く回っているんですね。VOLOさんのソロ曲の話の流れで聞きたいんですけど、去年リリースされたVOLOさんのソロアルバム『割れた鏡が見た何か』も、OGGYのアルバム『무섭다(ムソプタ)』もダークな印象がありました。その2作とDie, No Ties, Flyのアルバムでは雰囲気やカラーが大きく異なると思うのですが、そこは何か意識した部分があるのでしょうか。
LEXUZ YEN:僕からするとOGGYは完全にエゴでやっているんですけど、Die, No Ties, Flyは各々のエゴをあまり出さずに完成させる感覚なんです。なので、あまりOGGYと同じヴァイブスを出さないようにはしていました。
VOLOJZA:僕のソロもOGGYも自分たちが主導権を持って動いているので、やっぱりどうしてもエゴが出てしまう。良くも悪くも個人的なものになって、外に開けるというよりかは、どちらかというと内々に向かっていく。一方でDie, No Ties, Flyだと、自分の想定外のアイディアの方がよく思える。それが外に向けた作風に繋がってるんだと思います。
LEXUZ YEN:内と外っていうのはすごいわかりますね。OGGYは完全に内なので。それは3人の距離感の話でもあると思うんですよ。
VOLOJZA:それはあるよね。昔からの知り合いじゃないからこそ、できているのも絶対にある。だからこそバランスが取れるし人間関係も尊重し合えて、なあなあになりづらい。そこがいいのかなと思う。
――ルームシェアも親密な友人同士じゃない方が上手くいくという話を聞いたことがあります。
LEXUZ YEN:それに近い感じはありますね。お互いに干渉し過ぎず、それぞれやることは責任持ってやるというか。
VOLOJZA:そうそう。だからこそ客観的に見ることができたり、自分たちが普段作っている作品よりも広がりが生まれるんだと思う。そもそも、そういう作品を作ろうっていう意識もあったしね。だから僕は自分のソロでやるようなラップラップしてる言葉遣いはDie, No Ties, Flyでは意識的に避けてます。
Die, No Ties, Flyだからできること
――お話を聞く限り、Die, No Ties, Flyだからできること、みたいなものが結構ありそうですね。
poivre:まさにそうですね。自分もビートを作るとき、「このジャンルのこういうビートを作ろう」じゃなくて「ありそうでないようなビートを作ってみよう」とトライできる部分があるんです。2作のEPで2人だったらどんな曲でも乗せられるとわかったので。だから今回の10曲はそれぞれ曲調が違って、「ジャンルは何なの?」って聞かれても何とも答えられないような作品になりました。
VOLOJZA:僕もあんまりガンガンに押し出すようなヒップホップを作ろうとは思わなかったし、それが自分的には挑戦でもあった。新しいことができてよかったです。今回のアルバムを作って、自分から離れたリリックを書けるようになったんですよ。それまでは「俺」っていう主語がめちゃくちゃ強いものばかりを書いていたんですけど、Die, No Ties, Flyのアルバムでは自分じゃない誰かに当てはまるようなスタイルで書けるようになったと思います。
poivre:反響を見ていても、そういう部分で共感してくれる人も多いみたいで。
LEXUZ YEN:僕の場合、普段OGGYではできないようなコラボや構成にトライできたのがよかったですね。
――なるほど。今回のアルバムはこれまでの集大成的な側面もあったかと思いますが、今後グループとしてやってみたいことはありますか?
VOLOJZA:Die, No, Ties, Flyとして今できることは今回のアルバムに詰め込んだと思うので、今度は逆に違うことをやってみたいタームに入っています。今、すごいラップっぽいラップをめちゃくちゃ書いてるんですよ。そうやって循環して、またいいタイミングがきたら3人でまとまった作品を作りたいですね。
poivre:今回は制作が長かったので、とりあえず今はリリースできてホッとしています。
LEXUZ YEN:僕もそんな感じですね。次のことは考えていない。
VOLOJZA:やっぱり無理して作るっていう感じはあまり合っていないと思うんですよね。Die, No Ties, Flyでできることの枠ってめちゃくちゃ大きいと思うんですけど、そこを真っすぐに突き詰めるのも違うのかなって感じがする。各々が活動していく中で、きっとDie, No Ties, Flyでやりたいことが溜まってくるタイミングがくると思うんですよ。
poivre:たしかに。そもそも今回のアルバムは、コロナ禍で溜まっていたフラストレーションを、Die, No Ties, Flyとして形にしたという感覚もありますし。
LEXUZ YEN:ゆっくり2ndアルバムを作れたらいいなと思っています。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://linkco.re/S1yvxbc9)
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