山縣美季「今の自分を100%出せるよう
に」 浜離宮朝日ホールで2年ぶりの
リサイタル開催

ピアニスト・山縣美季。2020年・第89回日本音楽コンクール第1位を受賞して以降、活躍を続けている彼女が、来年2024年1月7日(日)、東京・浜離宮朝日ホールでリサイタルを開催する。
前回のリサイタル以降、昨年のシャネル・ピグマリオン・デイズや、全国各地での公演など、東京藝術大学に通いながら様々な活動を続けている彼女。2022年にデビューリサイタルを開催した浜離宮朝日ホールで2年ぶりのリサイタルとなる本公演、この2年間での変化や、公演に向けた思い、そして今後の活動について聞いた。
山縣美季
——浜離宮朝日ホールでは2022年以来、2年ぶりのリサイタルとなりますね。
今回のリサイタルをやろうと決めたのには、正直に言って2年前の公演のリベンジをしたいな、という思いもちょっとありました。
そのリサイタルの前は本当に辛い時期で、色々悩みながらも、とりあえずリサイタルに向けて頑張るしかない、と無我夢中に走って辿り着いた感じで、公演自体にも色々な後悔がある演奏でした。
ですので、今回のリサイタルでは、絶対に後悔のないよう、今の自分を全部ぶつけるという思いで決めています。
——2年間の間でご自身の中に変化などはありますか?
この2年間は沢山本番をいただきつつ、やりたいプログラムも沢山ある2年間で、私自身、浮き沈みがある人間だと思っているんですが、やりたいこととやらなきゃいけないことでいっぱいいっぱいになることも多かったです。
リサイタルの前だけでなくその都度、どうしようって悩み続けてしまって、本当に音楽を辞めたい、というか、辞めてやる、というか、全部投げ出したくなる瞬間というのが何回もありました。
それでもその度に、音楽をやりたい、おばあちゃんになっても音楽を続けたい、と思い直すことができていて、この2年間で、音楽を続けること、音楽と共に生きることへの決意みたいなものがだいぶ固まってきたんじゃないかなと思っています。
今回のリサイタルでは、その2年間の苦悩を乗り越えてきた、今の自分を出せればと思っています。
——2022年のシャネル・ピグマリオン・デイズでは5公演の新しい演目を演奏しなくてはならない、という内容で、音楽面でもハードな内容でしたね。
そうですね、間隔が1ヶ月しかないところもあったりして、とにかくハードではあったんですけど、その1年間通してのプログラムを考えなくてはならない中で、やりたいことというのは次々に出てきて、何も浮かばないよりは遥かに幸せだと思って、追われながらもワクワクしていた公演でした。
—— 今回メインに演奏されるのはショパンの「24のプレリュード(以下、プレリュード)」ですが、どういった思いで選ばれましたか?
ショパンの「プレリュード」は小さい時からずっと弾きたい曲でしたけど、『金字塔』とも呼ばれるくらい、ショパンの作品の中でも一番手を出しづらくて、ちょっと背伸びして弾けるような曲じゃないので、演奏するにはまだ早い、とずっと思い続けていました。
そうして今大学を卒業するタイミングで、やるとしたら今だ、と思って、やっと挑戦した感じです。
いざ取り組んでみて、自分がこの曲で何を表現したいか、と思った時に、この2年間の自分とリンクする部分があったんです。各曲で浮き沈みが何回もあって、なんとかもがいて、という所にすごい共感というか、「この感じ、知ってる」と途中で気づいて。
これまで真っ直ぐに歩いてこられなかった2年間だからこそ、そうして色々考えながら過ごしてきた時間があったからこそ弾ける「プレリュード」があると思うので、そういうものを全部音楽に反映できたら、この2年間は無駄じゃなかったよ、って自分にも言ってあげられるかな、と思っています。
——「プレリュード」をこのタイミングで選曲されることは、2025年のショパン国際ピアノコンクールも見据えていらっしゃる部分もあるのかな、と勝手に思ったりもしました。
2025年のショパン・コンクールは目指したいと思っています。それに向けてレパートリーを増やさなきゃ、という使命感も勿論あるんですが、それ以上に、ここに挑戦するからには「プレリュード」をやっておきたい、という思いがありました。
今、このタイミングで取り組んでおくことで、ショパンへの理解をもっと深めて、コンクールへの準備を進めていけたらいいな、と思っています。
——思いの込もるショパンの「プレリュード」を後半に、前半はバッハ・ハイドン・フォーレを演奏されますね。
後半が「プレリュード」なので、前半に置ける曲は結構限られる中でしたけれど、純粋に、思い出のあるその特別なステージで何を弾きたいか、と考えて選んだ3曲でした。
フォーレの「バラード」はこれまでにも色んな機会で弾いている大切な曲ですが、バッハの「最愛の兄の旅立ちに寄せて」と、ハイドンのピアノソナタ第58番は最近演奏し始めた曲です。これまで弾いてきた曲とはちょっと違う曲として、もっと自由に音楽を楽しめたらいいな、と思って選んだ2曲です。
2曲はここ数年の間にコンサートで聴く機会があって、その際に「音楽ってこんなに楽しいものなのか」と、「音楽ってこうありたいな」と思った曲でした。バッハはアンドラーシュ・シフ氏のリサイタルを、ハイドンはジャン・クロード・ペヌティエ先生のリサイタルで聴いて、「あ、やりたい」と、どっちもときめいちゃった感じです。
そのイメージがついてしまって、自分が弾いてそれに近づけないときはすっごいもどかしいんですけど、そうやって思わせてくれる作品もなかなか多くはないので、お近づきになれていなかった作曲家として、ときめきを少しでも開拓できたらいいなと思って選びました。
——ハイドンを聞かれたペヌティエ先生にはマスタークラスで今回演奏されるフォーレの「バラード」も習われていましたね。
あのマスタークラスは本当に感動的でした。1音も弾かれないのに何であんなに変われるのだろうと思うような、言葉一つ、動き一つから美しいものが聞こえてきて、イメージもどんどん広がって。すごい不思議な体験でした。
その際に仰っていた言葉って結構覚えていて、「いくら悩むことがあっても、意外と急に目の前にある音楽の扉が開けたりするんだよ」など、それこそ悩んだ時にパッと思い出したりして「まあ大丈夫か」と思えたりしています。
マスタークラスを通してペヌティエ先生の考えていることの端っこの部分だけでも見えた感じがありました。
——今回は同じプログラムを京都・バロックザールで演奏されてからの東京公演となりますが、京都での演奏はいかがでしたか?
やっぱり「プレリュード」は不思議な作品、特別な作品だなと思いました。
バロックザールでの本番前から何回も、全体通して演奏していたはずなのに、本番で24曲を通してみると、今まで見えなかったものが見えてきたりして。
壮大な物語だとは思っていたんですけど、それが膨れ上がって、すごいエネルギーになって、弾いている自分にすら押し寄せてくる感じがあって。ステージで「プレリュード」』を弾くということはすごい事だ、と改めて思いました。どんな曲でもそのはずなんですけど、「プレリュード」はつくづく本当に、本番1回きりなんだな、と。
演奏後は本当に疲れて、動けなくなってしまうような感じでしたが、もう一度リサイタルでこの曲を弾くのが1ヶ月後にできる、と思ったら、もっといい演奏をしたい、でもまた全然違う演奏になるんだろうな、と思って、そんな1ヶ月間が楽しみになりました。
——今後どのようなピアニストを目指してゆきたいですか?
身近なことで言えば、国際コンクールに挑戦や海外留学など、とにかく今の自分のままでいたくない、新しい環境に足を踏み入れて変わりたい、という思いがありますけど、今の一番の大きな目標というか夢は、「おばあちゃんになっても音楽と共に楽しく生きていきたい」という思いです。
お気楽なことにも聞こえるかもしれないですけれど、この2年間でさえ何回も悩みがあった人間として、今、音楽を続けられているのは色んな巡り合わせが全部うまくいってのことだったんだな、というのをすごく考えます。今21歳で、これからあと何十年もある人生で音楽を続けていくために、自分が音楽を愛しているんだ、という気持ちだけは絶対に忘れたくない。おばあちゃんになっても音楽を愛して、楽しく生きていられたらいいな、というのが今の目標です。
それは自分で音楽を楽しむのもそうですけれど、それを聴いていただきたい思いもあります。倒れる直前までコンサートをやりたいと思っているぐらいなので、そのためにも一歩ずつ頑張っていかないといけないと思っています。
——最後にご来場いただくお客様に一言いただけますか?
2年前のリサイタルに来てくださった方も、最近知っていただいた方も来てくださるかもしれないですが、今まで色々なことがありながら生きてきて、音楽を続けてきた今の私を、100%ステージにぶつけられたらと思っています。「プレリュード」もその日限りの音楽になると思います。今の自分だからこそできる音楽を、みなさんと共有できたらと思っていますので、楽しみにしてお越しいただきたいです。

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