「勝手に人の客を濡らしやがって!」
クリープハイプ、雨の中で魅せた『ク
リープハイプの日2022大阪』

9月8日。クリープハイプの日。大阪城音楽堂。3年前のクリープハイプの日である9月8日も、大阪は泉大津フェニックスで開催された野外イベント『OTODAMA~音泉魂~』の大トリとしてライブをしている。クリープハイプの日と大阪の野外ライブは馴染み深いなと呑気に想っていたが、当日は生憎の雨…。楽しみしていた日だけに残念に想っていたが、そんな憂いは尾崎世界観が登場して最初に言った言葉でどうでもよくなった。『雨の野郎、勝手に人の客を濡らしやがって! 俺が濡らそうと思っていたのに!』本人たちだって当たり前だが決して気分は良くないわけだが、どんな状況でも何か魅せようとしてくれる。その流れから1曲目『キケンナアソビ』のイントロが鳴った瞬間、自然と客席からざわめきが起きる。2曲目『月の逆襲』ではベースの長谷川カオナシが歌い、いつも以上に自由な展開を感じて嬉しくなった。観客も野外で雨に打たれながら観るのは大変なはずだが、嬉しそうに観ながら、サビでは手も上がっていく。たった3年でコール&レスポンスというライブでは当たり前の出来事が無くなってしまったわけで、それもクリープハイプにとって本来は痛手のはずである。『HE IS MINE』での例の観客からのアレも聴けなくなって随分経つ。

尾崎世界観
『言わなくてもわかってると思うけど無音の爆音のアレお願いします』曲前にそう尾崎は言ったが、確かにコロナ禍になってからも何度かライブで、この曲を聴いてるが、アレが無くて物足りないと思った事は無いし、尾崎が物足りないと思わないように導いてくれているのだなと改めて感じた。そして盛り上げるだけが全てじゃない事は、『5%』の様な緩やかでスローなナンバーを聴くとより理解できる。この日は雨なのもあるのか、いつも以上にしっとりしたナンバーが沁みた。盛り上がる曲にしても、沁みる曲にしても、とにかく曲が良い、それが全てだろう。
小川幸慈
その曲の良さは、『久しぶりの歌を』と言って披露された『TRUE LOVE』でも際立った。大阪出身のラッパーであるチプルソとのコラボナンバーだが、そのチプルソももちろん登場。チプルソのラップと相まって、尾崎のポエトリーリーディングともいえるラップもたまらない。尾崎も言っていたが、チプルソが袖からの登場も袖へのはける時も特に何も喋る事は無く、出番が終われば、さっと去っていく姿はかっこよかった。歌の後ろで、同期による音と尾崎の語りが不穏な空気を生み出す『なんか出てきちゃってる』も曲の良さは際立つが、『TRUE LOVE』と同じくロックバンドの枠をはみ出しているところに驚かされる。
長谷川カオナシ
『雨ずっと降ってるね。風邪ひかないで欲しい、こういう御時世だしね。でも、ずっと雨降ってるとどうしようもないよね。せめて精一杯歌います』本当に雨が降ってるのはどうしようもないのだが、そこで何かしら観客が不自由に観ている事も本当であり、そこを常に気遣うところにも漢気を感じる。でも、『俺がMCすると必ず雨強くなる。何でだ!』なんていう茶目っ気にも惹かれるわけで、そりゃ、この人はみんなから愛されるよと納得してしまう。
気が付くと13曲を超えていたりするのだが、前夜9月7日夜8時のとあるつぶやきが気になる。クリープハイプの日のネタバレを含むので、閲覧にご注意くださいと注意書きがあった上で、いわゆるセットリスト的な書き方で『M-20.愛のネタバレ』と書いてあった。既に『愛のネタバレ』という新曲がラジオで初オンエアされる事や、それにちなんだネタバレ企画が始まる事も発表されていた。いつも以上に丁寧に真剣に曲を数えてる自分がいたし、年越しカウントダウンに近いドキドキがある。でも、『泣き笑い』も『チロルとポルノ』が聴けた!、『イノチミジカシコイセヨオトメ』も聴けた!とか、後半戦になってきても、1曲1曲歌われる度にワクワクし続けられて、良い意味で20曲目のドキドキを忘れさせてくれたりもする。
小泉拓
『今フェスシーズンだから、各地夏フェスに出てるけど、毎回セットリストがおなじだとか、少し変えただけで、凄い変えてきたとか言われて、うるせーな!と思ってたから、今日は色々な曲が出来て嬉しいです』それこそ20曲目前の19曲目のMCで語られていたが、今年の夏フェスでも観ていて素晴らしかったが、ワンマンだからこその曲順の振れ幅や多様性があって、全くもって飽きる事が無く、ずっと楽しめた。この後、何気にカオナシが発した下ネタ的MCに対して、そういう事は自分が言う役割だからと話しつつも、30過ぎて下ネタMCをしてる事にイタイとか言われてると、ずっとグチグチTwitterのつぶやきについて言うのも、個人的には大好きだった。やはり、こういう執着をもって表現を作り続ける人は信頼できる。
いよいよ20曲目『愛のネタバレ』がきた。予告先発的というより、予告ホームラン的なビッグサプライズ感があった。本邦初公開であるわけだし、記念すべき日に立ち会えている。この曲がラジオではどう聴こえるのか、今後ライブでどう聴こえていくのか、そんな楽しみも増えた。その後の『ナイトオンザプラネット』は去年発表されたばかりの曲だが、もはや特別な曲な感じが本当に強い。最初に尾崎が薄暗い青の照明で照らされて、ハンドマイクを持ちアカペラで歌う場面は美しさしかなかった。厄介な御時世な上に雨降りの日だが、そんな憂鬱を浄化してくれる力を感じた。22曲目『ex ダーリン』を前に、来年3月25日・26日にコロナ禍で流れてしまった大阪城ホールのリベンジ公演が決定した事が、尾崎の口から告げられる。その前々週の3月11日・12日には同じくコロナ禍で流れてしまった幕張メッセでのリベンジ公演の決定も告げられた。

『新曲も出してないのによくやるよなと思うけど、忘れ物があるので、しっかりやりたいと思います』忘れ物を取りに行くという表現は凄くロマンチックだし、我々もしかとその姿を見届けたいと強く想う。本人が言う通り、フェスも良いんだけど、やはりワンマンには代え難い素晴らしさがある。その想いが募ったのか、『ex ダーリン』で終わろうと思っていたものの、もう1曲だけという素敵な流れに。完全終わりの雰囲気であったし、それで充分に大満足もしていたのだが、でも、どこか名残惜しさがあっただけに喜ばしかった。
再度、雨の中でのライブについて申し訳ないと伝えて、絶対に風邪をひかないようにと気持ちを込めて、ラストナンバーが歌われる。『もう大丈夫だから』という歌詞で〆られる『大丈夫』。相変わらず厄介な御時世だし、今日は雨も降ってしまったが、それでも僕らにはクリープハイプがいたら大丈夫だと心から想えた。来年は3年の時を経て、遂に実現されるホール公演もある。屋内の大きな舞台で観れるクリープハイプが楽しみでならない。

取材・文/鈴木淳史 写真/関信行

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