L→R Hina、Mona

L→R Hina、Mona

【Kitri インタビュー】
この曲たちがいるってことが
自分の中の強みになる

新しいところに足を踏み入れた
覚悟のいる制作期間

続いて、礒部 智さんと制作された2曲ですが、まず「左耳にメロディー」は礒部さんが作った短いトラックにピアノを重ね、それを繰り返すという変わった制作方法だったそうで。

Mona
はい。「NEW ME」(2021年4月発表のアルバム『Kitrist II』収録曲)でも同じような作り方をしていて、それ以来でしたね。リズムだけが入った短いトラックに曲をつけていったので何のプランもなく、最後まで展開が読めなかったです。ピアノと歌だけになる静かなところは制作の後半までなかったパートで、もうひと声捻らせて入れてみました。普段だったら先になんとなくの設計図があるんですけど、それがないからこそ自由にできたと思います。

歌詞は電車の中で起きていることが描かれていて、自然とその場面が思い浮かぶショートドラマのような仕上がりでした。ふたりの登場人物の間で何かが始まりそうな予感がありながらも、パッと終わってしまう締め括りにはリアリティーも感じます。

Hina
曲調にメロディアスな部分が少なかったので、歌詞でドラマチックにしたいと思っていました。テーマ決めには苦戦して、たくさん案があった中で、Monaと相談して電車の中で起きていることに絞っていって。
Mona
Hinaは1番の歌詞を9種類も書いてきてくれたんですよ。なので、相当悩んでいたんだなと(笑)。もっと大きなテーマで、真面目なトーンで描いている印象があったので、限定的な場面にしてもいいかなと思ってここに辿り着きました。

これまでにもHinaさんがたくさん案を出し、Monaさんの意見とかけ合わせてひとつに絞る作り方はありましたが、9種類はすごいですね。

Hina
イメージがたくさん湧くメロディーだったので、今まで一番多いです(笑)。その中に“好きな歌”というテーマがあったので、それをフックにして舞台を電車の中にしました。

Hinaさんの発想力、Monaさんのメリハリを付ける力が合わさった一曲ですね。あと、リーディングが入っているのも新鮮でした。

Mona
「目醒」(2019年7月発表のEP『Second』収録曲)で短いフレーズをリーディングっぽく入れているのはあったんですけど、ここまで長く入れるのは初めてでしたし、もともとはメロディーをつけて歌っていたんです。でも、しっくりこないというか、もっと他に方法がありそうだと悩みながら、レコーディング中にボソボソと歌詞を呟いていたら“意外と呟くほうが面白いのでは?”と。Hinaやスタッフはリーディングに賛成だったんですけど、私はリーディングとKitriが結びつかないところがあって、“これは作品にして大丈夫なのだろうか?”と最後まで不安だったんですけど、みなさんの意見を信じて決めました。
Hina
メロディーに乗せた状態でも個性的な曲だったんですけど、リーディングにすることでより新しさがあったので、私は絶対に“こっち!”と思ってました。
Mona
またひとつ殻を破った曲になりましたね。この曲は異質さがあってもいいんじゃないかと思ったので、リーディングは感情的にならずにクールに読んでみました。

この曲での《Tempo=100 イントロダクション~》というリーディング部分は、「踊る踊る夜」で《フェルメール ボス ゴッホ セザンヌ~》と作家の名前を連ねる呪文っぽさ少し似ていて、EPの中での雰囲気がフワッとつながるのもお洒落です。「左耳にメロディー」な高揚感もありますが、「悲しみの秒針」は切なさがど真ん中にあるような、ムード歌謡チックのしっとりと哀愁が漂う曲でした。

Mona
他の3曲で今までやったことのない挑戦をしているとしたら、「悲しみの秒針」ではKitriの根底にある切なさや悲しみを全面に出した曲もいいなと思ったんです。私自身も悲しさをたっぷりと感じられる曲が好きで。

失恋をした瞬間のような、時間で言ったらほんの数分くらいの出来事を目に映る景色や動揺する気持ちを込めてじっくりと描いているので、小説を読んでいる気分になりました。

Mona
いつもは漠然とした表現で歌詞を書くことが好きなんですけど、この曲では衝撃を受けたり、ドキッときたその瞬間だけに限定して書いてみました。息をするのも悲しいような、立っていられないくらいの気怠いムードを出したかったので、体験したことがなくても想像できるシーンを思い浮かべて。
Hina
ここまで悲しみに浸る曲は今までのKitriにはなかったですね。細かいところでいろいろな解釈ができる歌詞になっていると思いました。例えば《泣いてはいないけど/雨のせいで濡れる袖》っていうところは“泣いているのかな?”と想像できたり。

この曲でもピアノやヴォーカルで感情表現をされていますが、「左耳にメロディー」のリーディングの部分も“歌詞を読む”と言ってもいろんな読み方がある中で“無”を表現されていて、どんどんKitriの楽曲にお芝居っぽい要素が入ってきているように思います。

Mona
新しいところに足を踏み込んでしまった…という覚悟のいる制作ではありました。自分たちの声質がどちらかと言うとドライなので、それを活かせるような曲を意識していたんですけど、だんだん曲によって歌い方が変えられるようになってきていると思います。
Hina
曲で描かれている感情はすごく意識して歌っています。「悲しみの秒針」ではマイクに乗せた時に“自分の声は合わないな”と思ってアンニュイさを出すように工夫しました。

『Bitter』はKitriの殻を破り、おふたりが自由な発想で作ったことで味わい深い4曲が揃いましたね。

Mona
この曲たちがいるってことが自分の中の強みというか、制限なく作ってみたらいろんな世界観が生まれるってことが再確認できました。
Hina
自分で聴いていて思わず笑みがこぼれるような自信作です。

こうして次々と新しいKitriを提示するのは、おふたりにとってどんな感覚なのでしょうか?

Mona
いろんな方と一緒に音楽を作る中で衝撃を受けたり、“こんなやり方があったのか!?”とある種の悔しさというか、“自分にはなかったな”という気持ちもあって。自分の中で作っている壁をもっと取っ払わないといけないんだと、日々成長させてもらいながら開拓している感覚です。
Hina
音楽だけに限らず、例えば流行っているお店があったら“何でここは人気があるんだろう?”とふたりで話して、普段からアイディアを引っ張り出して音楽に還元するというのは無意識でやっているように思います。その延長で作りたいものができることもあるので、次作以降も私たちの頭の中にあるものをKitriの音楽として表現していきたいです。

取材:千々和香苗

配信EP『Bitter』2022年3月11日配信 BETTER DAYS
    • ※配信先の詳細はオフィシャルHP等をチェック
Kitri プロフィール

キトリ:幼い頃よりクラシックピアノを学んでいた姉のMona(モナ)とHina(ヒナ)によるによるピアノ連弾ユニット。ふたりが大ファンだと公言する大橋トリオの手に自主制作音源が渡ったことをきっかけに、大橋が手掛ける2016年公開映画『PとJK』の劇伴音楽に参加。19年には大橋がプロデュースしたEP『Primo』でメジャーデビューを果たした。その後、同年リリースの2nd EP『Secondo』、20年リリースの1stアルバム『Kitrist』に続いて、21年4月には2ndアルバム『Kitrist II』を発表。Kitri オフィシャルHP

「悲しみの秒針」

「実りの唄」

「踊る踊る夜」MV

OKMusic編集部

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