藤井道人監督

藤井道人監督

【インタビュー】映画『ヤクザと家族
The Family』藤井道人監督「綾野剛
さんと話したこと、一つ一つの中にヒ
ントがあった」気鋭の映画監督が30代
の今、思うことは

 綾野剛、舘ひろしら、豪華キャストが集結した『ヤクザと家族 The Family』が1月29日から全国公開となる。本作は、やくざの世界に足を踏み入れた山本賢治の波乱の生きざまを、1999年から2019年にわたる日本の世相を背景に描いた骨太なドラマだ。監督・脚本を務めたのは、多数の映画賞を受賞した『新聞記者』(19)で注目を集めた気鋭の映画監督・藤井道人。本作にも通じる30代の映画監督としての思い、初顔合わせとなった主人公・山本役の綾野の印象などを聞いた。
-この映画は「やくざ映画」に分類される作品ですが、それだけにとどまらず、今の日本の社会全体を見つめるような奥深さがあります。藤井監督のこれまでのキャリアを振り返ると、『デイアンドナイト』(18)や『新聞記者』あたりからそういった社会的な視点が表面化してきた印象がありますが、そういう意識はもともとあったのでしょうか。
 いいえ。全くありませんでした。高校時代は「ジム・キャリーの大ファン!」、「ベン・スティラー最高!」(いずれも、ハリウッドのコメディスター)みたいな感じで映画を見ていましたから。そういう意味で一番大きいのは、東日本大震災です。2011年に震災が起き、なにも意志を持つことができず、どうすればいいのかも分からなかった。映画監督としても食えず、20代はずっと葛藤していて…。自分の生き方と向き合えるようになってきたのが、『青の帰り道』(18)の脚本を書き始めた頃だったと思います。自分の中で、「モラトリアムを終わらせなきゃ」という意識が芽生えて。そのあたりから徐々に、3.11後の日本に対する自分の意見を脚本に書けるようになってきた感じです。
-なるほど。
 ただ、「社会的な問題を描きたい」ということではなく、人間を描いていると必然的にまとわりついてくるものが社会、という感じです。自分が感じたことや疑問に思ったことを、掛け算して書いていく。だから今回も、やくざという職業にフォーカスしていますが、そこには、コンプライアンス重視で「間違っているものは駄目」、「能力の低い人は、社会から排除します」といった不寛容な風潮に対する疑問が強く込められています。
-具体的には?
 例えば、世の中には「ある分野では不得意なことがあっても、得意としていることもある。そういう人もいますよね。そういう人にも、きちんと愛情を持って接することができる社会になってほしい。そういうものの掛け算で、この本が書けたと思っています。
-今回のやくざは、そんなふうに社会から居場所を失っていくものの象徴だと?
 そうですね。最終的に、完成してそう思いました。撮っている最中は、「これがテーマだ」とは分からないんです。必死に人間を撮っていく中で、剛さんとしゃべったことや、舘さんから聞いた昔の話など、そういうもの一つ一つの中に、ヒントがあったような気がします。
-そういう意味では、この作品は役者・綾野剛の真価が存分に発揮された映画でもあると思います。例えば、序盤のやくざに追われて逃げる場面、台本にはなかった車にひかれるアクションを、綾野さんご本人が演じていますよね。驚きました。
 あそこは、スタントコーディネーターの吉田(浩之)さんと「アクションを強化したい」ということで、「“車にひかれる”とかできますけど」、「でも、綾野さんやらないよな…」みたいな話をしていたら、ちょうどそこにやって来た剛さんが「やろうよ」と。すごく乗り気でやってくれました。でも、普通はできないですよね。海から落ちる場面も本人ですし、全部ノースタントでやってくれて。本当にすごいな…と。
-尾野真千子さん(工藤由香役)との2人の場面も、台本には「口論になる」と一言しか書かれていないところを、迫真のお芝居で…。
 尾野さんと剛さんって、やっぱり相性がピッタリなんです。「口論になる」もああしてくれるんだ…と。すごくよかったです。
-初めてタッグを組んだ綾野さんの印象は?
 運命的なものをすごく感じました。剛さんのように本を飛び越えてくる人とはなかなか出会えないので、素直に感動しましたし。恐らく剛さんの方もそう感じていて、お互いがそう感じたからこそ、加速していったんだろうな…と。例えば、「本当はこれをやりたいんだけど…」という場合でも、役者にそれを無理強いしたら、いいものは撮れないし、逆に俳優部が言って来たことを全部「はいどうぞ」とやっても、絶対によくなりません。だから、そういうアジャストの部分に関して、僕と剛さんの目指しているところが一緒だったんだろうな…と。
-それぐらい感性が合ったと?
 合いました。あとは、そういう俳優部との出会いを、僕が待っていたというのもあって。例えば今回、自分の兄貴分的な方で言えば、剛さんはもちろん、舘さんや(北村)有起哉さんとの出会いも大きかったです。
-綾野さんも、雑誌・キネマ旬報のインタビューで「(名コンビだった)黒澤(明)と三船(敏郎)みたいに、藤井・綾野で毎年1本ずつ撮っていきたいと思うぐらい」とおっしゃっていますね。
 そういう付き合いになるんだろうな…という予感はあります。ファンの皆さんには、楽しみにしておいてもらえるとうれしいです。
-キャリアを積み上げてくる中で、社会に対する意識が芽生えてきたということですが、今はちょうどコロナ禍という大変な状況の中、さまざまな問題が表面化しています。今後、そういう題材に取り組むつもりはありますか。
 今はありません。人間がこれまで長い時間を地続きで生きてきた中で、コロナは横から来た追突トラックみたいなものなんです。今、この人生を書いていたのに、急にボーンときて、その火で火事が起きているような状態というか。そこにまだ人間ドラマも見いだすことができず、今は「つらい」としか言えない。救いがなさ過ぎて、飲食業に携わっている仲間のことを考えても、「コロナ禍の中をこうやって生きていこうよ」ということを僕は今、映画で語ることができません。だから、足踏みしているところで…。現在の話を描けるのは、もっと先になるんじゃないかな…と。そういう遅さは自分の弱点かもしれませんが、もしやるのであれば、しっかり勉強してからにしたいと思っています。
(取材・文・写真/井上健一)

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