これからの日本酒を切り開く次世代の
蔵元大集合『若手の夜明け2019 体育
館de酒ポーツ大会!』レポート

『若手の夜明け2019 体育館de酒ポーツ大会!』

2019年10月20日(日)3331アーツ千代田
秋が深まってきた。秋と言えばスポーツの秋、文化の秋、読書の秋、行楽の秋、食欲の秋などなど、いろいろと楽しいことが盛り沢山の季節である。酒好きの大人に限ったことではあるが、そのすべてに欠かせないのがお酒である。そして秋の味覚にあう日本酒は、日本人にとって欠かせない友なのである。
そんな前置きで参加したのは、今回で12回目を迎える『若手の夜明け』という日本酒のイベントである。日本酒のイベントは数多く開催されているが、中でもこの催しはとても特徴的。イベントレポートの前にその特徴を紹介しておこう。
『若手の夜明け』の第一回は2007年9月に中野サンプラザで開催された。
「今の自分たちの酒質がどんな評価を頂けるか、これからの酒造りの糧とすべく、学びの場」を趣旨に、当時の若い同世代の蔵元が集まり、酒販店や先輩蔵元の力添えを得て催されたそうである。

播州一献・山陽盃酒造 壺阪雄一さん
「ここに参加しているのは、4代目、5代目、歴史のある蔵では6代目という若い蔵元が中心です。酒造りで新しい試みをしたり、蔵元自ら杜氏を努めたりと、これからの日本酒のあり方を考えて、盛り上げていこうという会なんです」と、このイベントの幹事酒蔵のひとつである、播州一献・山陽盃酒造の壺阪雄一さんが語ってくれた。
会場の受付で配られるパンフレットには、今回参加している酒蔵と出品しているお酒が紹介されている。そこにはお酒のポイントとともに、原料米、精米歩合、酵母、価格が記載されている。日本酒の要となる原料米と酵母を見てみると、確かに新しい品種の原料米や食用米、蔵で培養した酵母、県産の酵母など様々。
80年代後半の日本酒ブームの頃、大吟醸が市場に出始め、「YK35」という日本酒づくりの公式が話題となったことがある。Y=山田錦、K=協会9号酵母、35%精米が公式の内訳だ。これに沿って作れば間違いないと言われたのである。しかしこのイベントには公式にとらわれない若い感性のお酒が多く参加している。
パンフレット、お水、試飲用グラスをもらって入場
『若手の夜明け』という名称通り、新しい酒造りに果敢にチャレンジしている酒蔵がずらりと揃っている。どのような日本酒が体験できるのだろうかと、ワクワクしながら会場に入ってみる。受付でパンフレット、ミネラルウォーターの500ccのペットボトル、イベント名の入った試飲用のグラスを受け取る。利き猪口とは違い、すり切りで100ccは入りそうなグラスで、気をつけなければ飲みすぎてしまいそうだと心して入場だ。

主催者の挨拶の後、乾杯の発声でいよいよスタート!
廃校となった千代田区立の小学校をアートスペースにした、3331アーツ千代田の2階体育館が今回の会場である。奥には舞台があり、その左の壁には校歌の歌詞の額縁も残されていて、懐かしい雰囲気。見回すと壁に沿って各酒蔵のブースが並んでいる。左から時計回りに、北は岩手県から南は福岡県まで、今回参加している16の酒蔵(以下ブランド名)が「早く飲んで!」と待ち受けている。
岩手 AKABU
宮城 阿部勘
宮城 黄金澤
福島 天明
福島 山の井
栃木 朝日榮
栃木 若駒
栃木 仙禽
神奈川 松みどり
新潟 加茂錦
新潟 あべ
石川 手取川
福井 常山
兵庫 播州一献
奈良 みむろ杉
福岡 若波
では順序良くAKABUから試飲スターである。ここは『若手の夜明け』の中でも、とても象徴的に感じたブースである。6代目の若き蔵元自らが、杜氏として酒を醸している。では一盃。県産米と県産の酵母から生み出しれたお酒である。「旨ーい!」。陳腐な表現で申し訳ないが、ストレートな感想が思わず声になってしまった。これは幸先良しで、期待大。
酒蔵によっては2~4種類のお酒を用意している。公式通りの山田錦と協会9号酵母で造られているお酒もある。しかしここでは『若手の夜明け』の趣旨に沿って、各蔵のお酒の中でも、県産米や新しい酒米、酵母も自社酵母や県産酵母を使って新しい挑戦をしているお酒を中心に試飲をすすめていくことにしよう。

先程書いた順番にブースを回り試飲していく。試飲用グラスを差し出すと、ニッコリしながらなみなみと注いでくれるのである。気前がいい! などと調子に乗っていると泥酔の末路が待っているので、上品に5分目くらいに抑えておこう。
順番に飲みすすめていくと、香り、味、喉越しなど、今までに経験したことのない味わいが多く感じられる。これは「吟ぎんが」「夢の香」「あさひの夢」「ひとごこち」「露葉風」などのお米と、自社酵母や県産酵母から産まれた新しい日本酒だ。

中には3年間、マイナス8℃で熱と光を遮断して熟成させるという試みをしたお酒もある。これは720mlで8000円というチャレンジングな逸品。香りはやや控えめで、味はスッキリしていながら深みがあり、日本酒の可能性を感じさせる一盃である。
また、このイベントのために造られたお酒も出品されていた。これは非売品となっていたが、一口含むとそれそれはふくよかな旨味とスッキリした喉越しで、もの凄く旨いのである。必ず出品されるわけではないが、このような貴重なお酒に出会えるのもこのイベントの魅力である。
ブースによっては燗をつけているところもあった。お酒の魅力を一番よく感じられる飲み方であったり、同じお酒であっても冷と燗で味わいが変わったり、このような提供の仕方も日本酒のイベントではとても珍しい。
そんな新しい味わいに感動していると、参加している蔵元のスピーチが始まった。各々酒造りに対する姿勢と、挑戦していることなどを楽しくも熱く語っている。

中央が仙禽の蔵元・薄井一樹さん
「それぞれブースには出品酒のスペックが表に出しています。自分のお酒に責任と自信を持って、自分の言葉で語れる生産者が参加しています。ぜひ蔵元と話をしてください」と、会場が小学校なので“校長”と紹介されていた栃木の銘醸・仙禽の蔵元・薄井一樹さんの弁。
各ブースでは参加者(妙齢な女性)と、蔵元がお酒について楽しそうに話し込んでいる。耳を傾けると、使っているお米のことや酵母のこと、仕込みの内容についてかなり深い質問をしている。同業者なのかと質問すると「いえいえ、ただの酒好きなダメ女です(笑)」との返事だが、ただの酒好きではなく、凄い酒好きのようだ。
「昨年初めて参加したんですけど、皆さんいろいろな挑戦をしていて、お酒の勢いもあるんですけど、酒造りの苦労話を聞くんですけど、なんか元気になるんですけど……」見るからに、聞くからに楽しく酔っていらっしゃるようだ。

美味しそうに飲んでいる男性二人組にイベントについて聞いてみたら、中国人の方である。日本語が流暢な一人は、日本の企業で働いているという。
「会社の飲み会で日本酒をよく飲むようになりました。居酒屋では普通の日本酒で美味しいと思っていましたが、ここのお酒はびっくりするくらい美味しいです。中国から来る友人に飲ませてあげたいです」と日本酒を堪能している。
このイベントは二部制になっていて、そろそろ第一部の終わりの時間が近づいて来た頃、かなり出来上がったカップルが目を引いたので、イベントの感想を訊いてみた。
「やばいです。止まらないほど美味しくて。初めての味もあったし、王道の味もあって止まりませ〜ん」と嬉しそうに酔っ払っている女性。
「ここのお酒は珍しいというか……造り手から話を聞くこともできるし……楽しいです。僕はそれほど酔っていないです」とこちらも酔っ払いの男性。見回すとたしかに楽しげに声が大きくなっている参加者が多い。初めての味わいがあったり、飲み慣れたうまい味があったりなので、飲み飽きすることがなく盃が進んでしまうのも仕方がない。でも、肝臓も気遣ってもらいたいので、ご注意を。
『若手の夜明け』はベテランの日本酒好きにも、ビギナーの日本酒好きにも大いに驚きと感動を与えてくれるイベントだ。ワインブームや焼酎ブームに押されていた感のある日本酒であるが、このイベントで若い造り手の熱き情熱を感じるとともに、日本酒の無限の可能性を感じることができる。そんな素晴らしいイベントだった。次回も是非参加したいと思いつつ、フラフラしながら帰途についたのである。
取材・文=ハルマキケンジ 撮影=SPICE編集部

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