【数土直志の「月刊アニメビジネス」
】2018年アニメ業界の3大潮流、「Ne
tflix」「業界再編」「海外融合」

(c) 2017 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved 2018年のアニメ業界を象徴する言葉は「激動」だ。もちろん大きな出来事は毎年ある。しかし2018年はいくつもの出来事が連なることで新たな質的な変化を生みだしている。

 「激動」の言葉の裏には危機感もある。「これまでと同じでは生き残れない」との考えがさらなる動きを生みだし、それがスパイラルに積み上がる。
 2018年の最後に、この潮流を「Netflix」「業界再編」「海外融合」のテーマとともに振り返ってみたい。
■Netflixの進撃、第4のメディアが生み出すオリジナルアニメ
 最初のテーマは「Netflix」である。Netflix は2018年にアニメ業界でもっとも頻繁に名前が挙がった会社だろう。本来ならテーマは企業名でなく、「配信」とすべきだろう。
 しかしあえてNetflixに絞るのは、数多い配信プラットフォームのなかで、唯一作品の製作費のほとんどをカバーするビジネスを打ち出しているからだ。Netflixが「Yes」ということで企画が成立するアニメが生まれている。メディア単独でアニメ製作を支えるという点で、Netflixの配信は名実ともに「テレビ」「映像ソフト」「映画」と並ぶ4つめのメディアとなった。
 Netflixにより成立した企画を代表するのが、2018年1月に配信を開始した「DEVILMAN crybaby」だ。永井豪の名作マンガを湯浅政明が監督する話題作だが、テレビ放送はされていない。本格的な配信発のアニメである。テレビ放送のない「Netflixオリジナルアニメ」は3月以降「B: The Beginning」「A.I.C.O. Incarnation」「アグレッシブ烈子」などが続いていく。
 さらに同じ1月には「B: The Beginning」を制作するプロダクションI.G、「A.I.C.O. Incarnation」を制作のボンズと包括的業務提携を結んだ。提携の詳細は明らかでないが、アニメスタジオとのより密な関係を目指している。
 ここまででスタートからまだ1年。時代の流れの早さを感じる理由だ。
■ワーナー傘下になったアメリカ・クランチロール
 海外向け配信では、日本アニメ専門の大手クランチロールでも大きな変化があった。12年前にファンベースの違法動画配信として誕生したクランチロールが、2018年にアメリカの大手通信会社AT&Tの完全子会社となった。さらにAT&Tと経営統合したタイムワーナーの傘下に入った。ワーナーと言えばハリウッド6大メジャーのひとつ。今後はワーナーと連携も予想される。
 すでに商品化事業やイベント事業と、日本アニメでのビジネス多角化に踏み出している。さらに独自のアニメを制作するとして東京に制作スタジオも設けた。配信を起点にさらなる動きが2019年に活発化しそうだ。
 一方で日本の配信会社の動きはにぶい。視聴者は伸び、配信からの売上げも増えているが、1タイトルの製作を丸々支えるほどの資金はアニメに投じられない。アニメ視聴の多くが配信に移るなか、イニシアチブを海外に取られかねない状況である。
■「業界再編」、アニメスタジオ・企業の合従連衡
 アニメ業界の変化は、会社のありかた自体にも表れている。2018年は企業合併や買収、新会社設立、グループ化などが目まぐるしく動いた。生き残りを目指し最適な企業形態を探っているかのようだ。「業界再編」がものすごい勢いで進んでいる。
 まず2018年の企業の主な動きをここでざっとまとめてみよう。
・東宝出身の大物プロデューサー、STORY株式会社設立 (3月)
・バンダイビジュアルとランティスが経営統合、バンダイナムコアーツ誕生 (4月)
・KADOKAWA、サミー、ウルトラスーパーピクチャーズ 新スタジオENGI設立 (6月)
・エイベックス・ピクチャーズとグラフィニカ、新会社FLAGSHIP LINE共同設立 (7月)
SOLA DIGITAL ARTS、ギャラクシーグラフィックス、東映アニメーション CGスタジオTENH ANIMATION MAGIC設立発表 (7月)
・ポリゴン・ピクチュアズとグリーが資本業務提携 (8月)
・木下グループが福島ガイナックスを完全子会社化 (8月)
・A-1 Pictures、事業の一部をスピンオフCloverWorks設立 (10月)
・プロダクションアイムズが経営破綻 (10月)
・アニプレックス、映像プロデュース会社リアルト・エンタテインメント設立 (10月)
・IGポート、子会社ジーベックのアニメーション制作事業をサンライズへ譲渡決定 (11月)
 ひとつはアニメーション制作会社の動きである。11月20日に発表されたアニメ製作大手IGポートが子会社ジーベックのアニメーション制作事業をサンライズへ譲渡するとの発表は業界に驚きを与えた。20年以上グループ会社であったジーベックの主要事業を切り離す。
 IGは2012年にウィットスタジオ、2014年にシグナル・エムディとふたつの制作子会社を設立しているので、今回の譲渡は単純な事業縮小でない。IGポートは、近年は制作タイトルの権利獲得に積極的だが、受託制作中心のジーベックとグループの戦略にずれが生まれていたと推理するのだが、どうだろうか?
■新設相次いだCGアニメスタジオ
 一方のサンライズはジーベックの事業を取り込むことで、拡大するアニメーション制作ニーズへの対応が可能になる。ジーベックの制作機能が魅力だ。
 大手アニメーション制作会社では、A-1 Picturesも拡大志向だ。事業の一部をスピンオフし、新スタジオCloverWorksを設立した。会社を分割することで、独自のクリエイティブを目指すという。
 制作拡大は、スタジオ内部だけでない。2018年は業務提携も目立った。サンライズはCGアニメの新興スタジオであるサブリメイションに出資、成長分野であるCGで連携を深める。東映アニメーションもCGや中国事業に強いダンデライオンに出資した。
 共同出資での新スタジオ設立もトレンドだった。CG版「ウルトラマン」で話題のSOLA DIGITAL ARTSとウルトラスーパーピクチャーズ系列のギャラクシーグラフィックス、そして東映アニメーションの3社はCGスタジオのTENH ANIMATION MAGICを設立した。またエイベックス・ピクチャーズはグラフィニカと新会社FLAGSHIP LINE共同設立する。さらにKADOKAWAがサミー、ウルトラスーパーピクチャーズの2社と新スタジオENGIを設立している。
 3つのケースでは、新会社はいずれもCGが中心となる。2018年もCGアニメスタジオの躍進は続いてこともあり、各社はCGアニメに新たな活路を求めている。
 同時にエイベックス・ピクチャーズ、KADOKAWAといった映像ソフトや流通分野で大きな役割を果たしてきた企業が、スタジオ運営に乗り出したことでも注目される。
■製作・プロデュース会社も再編に向かう
 映像ソフトメーカーは、アニメ業界再編のもうひとつの目玉である。DVD・ブルーレイの市場縮小を背景に生き残り戦略が活発化している。
 バンダイビジュアルとランティスの経営統合と、新会社バンダイナムコアーツの登場はそのひとつだ。映像ソフトと音楽ソフト、それにライブにイベントとアニメとユーザーの間に入るエンタテイメントの総合企業に舵を切る。
 これまでアニメ製作・プロデュースの中心にあった映像ソフトメーカーが相対的に弱くなることで、アニメの企画・製作・マネジメントのリーダーシップを今後誰がとるのかが課題になっている。
 答えのひとつがアニメプロデュースに特化した会社である。会社の規模は必ずしも大きくないが、アニメ企画・開発・プロデュース会社が現在次々に立ち上がっている。川村元気氏と古澤佳寛氏、東宝のふたりのヒットメーカー設立したSTORY株式会社はそんな新たな流れを代表する。STORYは2019年7月公開の新海誠監督の劇場長編「天気の子」に、早速「制作プロデュース」としてクレジットされている。企画会社時代の幕開けを感じさせる。
■海外依存度の上昇とビジネスの融合
 最後のテーマは「海外との融合」だ。海外自体は過去何年も言われ続けてきたテーマである。2018年の特長は、多様化と複雑化が進んだことだ。これまでの海外ビジネスは、国内アニメ番組の配信や商品化のライセンス販売。ときどき共同製作出資だろう。
 いまは日本と海外が連携する様々なかたちのプロジェクトが次々に現れている。そのひとつがこの連載の11月で取り上げた日本アニメ・マンガ・ゲーム原作の海外実写化企画の増加である。日本アニメ人気の盛り上がりに気づいた海外企業がそれを活用し、本格的に進出しようとしている。
(c)「詩季織々」フィルムパートナーズ 多様化の代表的な例は、日本では8月に公開された「詩季織々」である。中国のハオライナー製作の本作は、アニメーション制作を「君の名は。」で知られる日本のコミックス・ウェーブ・フィルムが引き受けた。その部分だけであればアニメーション制作の単純な受託制作に見える。
 しかしもともと「詩季織々」は新海誠監督へのリスペクトから生まれた企画である。コミックス・ウェーブ・フィルムによる制作とクリエイティブを前提に、アイディア段階からのやりとりも含めた共同作業が行われた。日中両国の密なコミュニケーションの産物だ。
 NHKで10月から放送された「ラディアン」も新しいかたちだ。こちらはフランスのバンドデシネを原作にした子ども向けのテレビアニメシリーズ。海外の小説やコミックを原作としたアニメは、これまでも沢山ある。
 ただ「ラディアン」は日本マンガの影響から生まれた日本スタイルを売りにした点が違う。日本からフランス、フランスから日本、さらに作品はフランスでも放送と、何度もカルチャーは行き来する。
 DCコミックの原作を日本アニメ風にアレンジした「ニンジャバットマン」は、ほぼ日本のスタッフで作り上げたが、日本よりアメリカで大きな人気を獲得した。
 フジテレビが新たな深夜アニメ枠「+Ultra」をスタートし話題を呼んだが、その第1弾は世界的なスマホアプリゲームのアニメ化「イングレス」。ここでもゲーム開発者とアニメスタッフの間で密なコミュニケーションが取られた。
 こうした例は、日本のアニメの作り手が世界と対等にわたり合える可能性を開いている。同時にアニメを海外のクリエイターとともに作る時代が、身近に到来したことを実感させる。
■どうなる? 海外資本の日本アニメスタジオ
 2018年には、よりダイレクトに海外企業が日本進出する動きもあった。日本でのアニメーション制作拠点の設立だ。中国のビリビリ、彩色鉛筆動漫が制作スタジオを設立、人材募集を開始した。アメリカ企業でもクランチロールが都内にスタジオをオープンしている。
 しかし先に日本進出をした絵梦は、2016年にアートランドを子会社化したが1年ほどで経営を手放し、日本での制作自体も縮小している。また国内の制作現場の人材不足が深刻化するなかで、新興となる海外スタジオが独自の位置を獲得するのは決して容易でない。そうした課題を乗り越えられるかが今後の鍵だ。
 また2019年以降を考える時に、中国の環境変化は避けられない話題だ。近年は日本アニメ業界では中国への番組販売、ライセンス販売が大きな売り上げになっていた。共同事業に向けた動きもトレンドになり、今後の成長機会を中国に求めようとしていた。
 しかし実施時期や詳細は明らかではないが、2019年に中国ではアニメ配信に厳しい制限が設けられるとされている。配信できる海外アニメの数量割当制や、事前検閲制が導入される可能性が高い。
 今回は中国だが、何かあれば日本のアニメ業界に大きな影響を与える点ではアメリカも同じである。海外依存が高まり、日本のアニメビジネスは海外とより強く結ばれるようになった。それがまさに「大激動」の時代なのだ。

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