歌舞伎とRAPの共通点も、尾上松也と
屋比久知奈 各々の経験を歌に

「モアナと伝説の海」で声優に挑戦した、尾上松也と屋比久知奈

 歌舞伎俳優の尾上松也(おのえ・まつや)と、新人女優の屋比久知奈(やびく・ともな)が、3月10日(金)に公開されるディズニー・アニメーション最新作『モアナと伝説の海』の日本語吹き替え版で、声優デビューを果たした。屋比久は、ディズニーのヒロイン史上最大級のオーディションで選ばれた期待の新人で、4歳から続けているというクラッシックバレエのほかに、舞台・ミュージカルなどの経験もある。一方、もともとディズニー・アニメーションの大ファンで、今回の抜擢に大喜びという尾上松也(以下、松也)も、歌舞伎俳優という一面のほかに数々のドラマなどに出演、ミュージカルへの出演経験もある。この作品で声優初挑戦となった2人に、今回は声優に挑戦した感想、自身の経験との思わぬ共通点、ディズニーという憧れの大仕事に関わる上で特別な想いなどを語ってもらった。

モアナを通じてできた絆

MOANA (C)2016 Disney. All Rights Reserved.

 『モアナと伝説の海』は、南太平洋に伝わる不思議な伝説を描いた物語で、幼少時のある出来事をきっかけに海と強い絆で結ばれた16歳のヒロインが、愛する人々と世界を救うため大冒険の旅に出る姿を追ったストーリー。同じディズニーのアニメーション作品として、本国アメリカでは2013年に公開され大ヒットした『アナと雪の女王』に匹敵する、公開から3週連続興行収入1位を獲得。いよいよ日本公開も近づき、大きな注目を浴びている。特に自身が主演したミュージカル『ハミルトン』でトニー賞11部門を受賞した米俳優のリン=マニュエル・ミランダが楽曲を手掛けた音楽、とりわけ主題歌「どこまでも ~How Far I’ll Go~」は『アナと雪の女王』の主題歌「Let it Go ~ありのままで~」に並ぶ名曲とも言われ話題を呼んだ。

 今回、日本版声優では、主人公のヒロイン・モアナ役を屋比久、モアナとともに旅に出る、変身の達人にして伝説の英雄・マウイ役を松也が演じるほか、モアナの唯一の理解者であるタラおばあちゃん役を歌手の夏木マリ、海底のモンスター・タマトア役にミュージシャンのROLLYなど、錚々たる面子が顔を揃えている。

――1月にハワイで、本作の日本版声優に屋比久さんの決定が発表された際、本国版の声の出演を担当されているアウリィ・カルバーリョさんとお会いされていましたね。

屋比久知奈 そうなんです! あの時は本当に「モアナだ!」と思いました。本当にすごく素敵な女の子で、私の方が年上なんですけど、しっかりしていて積極的にリードしてもらったりもしたので、とても嬉しかったです。「彼女に会えたんだよ、私!」って、周りの人に自慢しました。すっかりファンです!

――どんなことをお話しされたのでしょうか?

屋比久知奈 モアナとして同じ経験をしたことを通して、同士というか、家族のような仲間として、すごく通じるものを私自身は感じました。アウリィちゃんも同じように感じてくれていたみたいで、そんなことを一緒に話していました。すごく嬉しかったですね。

MOANA - (Pictured) Moana and Maui.(C)2016 Disney. All Rights Reserved.

――なるほど。今回、屋比久さんは声優として初挑戦となりましたが、実際にアフレコなどをやってみていかがでしたか? 選ばれたことにプレッシャーもあったかと思いますが、一方で演劇的なセリフ要素と歌の部分では、ミュージカルへの出演経験もある屋比久さんとしては、やり易さみたいなものもあったのでしょうか?

屋比久知奈 いいえ、本当に難しくて。技術的にも至らないところもたくさんあったし、まず知識もないまま収録に臨んだという感じだったので、監督さんやその他の方から丁寧にディレクションをして頂いたおかげで、ようやく収録を終えることができた、という感じでした。でも、勉強させて頂きながら収録を進められたので、本当に貴重な体験をさせて頂きました。

――松也さんの方はいかがでしょう? 同じく声優としては初挑戦ですが、松也さんも経験としては、ミュージカルの舞台に立たれていることもありますね。しかし松也さんの担当されたマウイという役は、わりとノリの軽さみたいなものや、セリフの量もかなり多い上にテンポも速いので、難しかったのではと思いましたが。

松也 そうですね、セリフがかなり多く、途中ではマウイとモアナしかいないシーンで、二人でほぼ物語が進んでいくようなところがとても長かったですね(笑)。それとアクションも多いため、飛ばされて落ちたとか、殴られたとか、そういう部分で「うっ!」「アッ!」「フッ!」みたいな箇所もたくさんありました。そういうセリフのタイミングを計るのが結構大変でした。

――初めてにしては、かなり難易度が高そうですね。

松也 そうでしたね、アフレコ自体が初めての経験でしたので、他の吹き替えの現場はどんな感じなのかはわからないのですが、特に本国と密にコミュニケーションを取りながら作ってきました。ですので最初に録る段階で、スタッフの皆さんと細かく合わせてやっていかなければならなかったですし、その辺をしっかりと合わせつつも感情をのせてやっていくのは、とても苦労しました。

 オファーを受けた時のイメージとしては、僕のやりたい仕事でしたし、ディズニーの声優というだけで、とても夢のある感じがしていたので、アフレコも「夢の中にいるように吹き替えも進むんだろうな」と思っていたんですよ。でも、実際はかなりシビアな感じで(笑)

――松也さんの演じるマウイは、キャラクターとしてはゴツいルックスやノリの軽さもあり、松也さんの性格と比べるとギャップのようなところで、すごく難しいところもあったのではないでしょうか?

松也 確かにそうですね。本国版では、プロレスラーとしても活躍されている米俳優のドウェイン・ジョンソンさんがやられていて、彼はもう体格がそのままというか。声に重みがあり、陽気にもできる。そういう意味ではそのままという感じなんですよね。

 まあ僕も明るい性格だとは思っていますけど(笑)、あの声の重みは、彼の様な体格からしか出ないというところもあります。確かにその辺で少し意識もしましたけど、基本はあくまで「吹き替え版」のマウイという気持ちでやらせて頂きました。

――ところで松也さんは、もともとディズニー・アニメーションの大ファンということですが、これまで観られた作品の中で印象に残っている作品はありますか?

松也 そうですね、僕はディズニー・アニメーションを見ながら育ちました。子供のころには『ダンボ』、『ピノキオ』、『ピーター・パン』、『くまのプーさん』が四天王でしたね(笑)。大人になってからは『アラジン』とか、『美女と野獣』、『ライオンキング』がすごく好きです。

両親の夢を背負って

マウイを演じた尾上松也と、モアナを演じた屋比久知奈

――今回の収録は、アフレコは松也さんと屋比久さん、お二人が同時におこなわれたのでしょうか?

松也 いえ、屋比久さんは僕がほぼ終わってからじゃないですかね。だから僕のアフレコは、相手の声を聴かずに終わってしまいました。ですので、余計に難しいところもありました。屋比久さんに初めてお会いしたのは、去年の秋ごろだったかと思います。

――屋比久さんは、松也さんにお会いした時の印象はどうでした?

屋比久知奈 ずっとオリジナルのドウェイン・ジョンソンさんの声を聴いていたので、もっとすごくオジさんを想像していたんです(笑)。初めてお会いしてビックリでした。実は最初にお会いする時、どなたが来られるのかを聞かされていなくて「会ったらビックリする方だから」とだけしか教えてもらっていなかったんです。それでお会いしたら「松也さんだ!」って(笑)。そういう意味では、想像していた声の方とは違ったけど、完成した時にはピッタリだったので、すごいと思いました。

――松也さんの顔を見ていると、マウイの顔を思い出すとか(笑)

屋比久知奈 いやいや、そんなことは(笑)。でも、マウイの顔ってユーモラスな感じですけど、見ているとだんだんイケメンに見えてきました(笑)

――なるほど(笑)。作品の中ではモアナの理解者であるタラおばあちゃんが、モアナの味方となって背中を押していくという場面が印象的でした。ご自身の経験の中で、ご家族のどなたかに自分の夢を応援してもらったというエピソードはありますか?

松也 そうですね、僕は直接というわけではありませんが…父は歌舞伎俳優でしたが、僕が20歳の時に亡くなり、ある意味全うし切れずにというか、まだまだこれからというところだった。

 母は舞台女優をやっていましたが、僕が生まれるのを機に引退しました。ですので、両親としてはまだやり切っていないまま、何かを残したまま一線を退いたという感じがします。

 そういう意味では、僕は「その思いをなんとか僕が」というつもりでやってきたところもあります。また、母の影響でディズニーを好きになったというところもありますし、今回の出演については母もすごく喜んでいるんじゃのではないかな、と思っています。

MOANA - (Pictured) Gramma Tala and Moana. (C)2016 Disney. All Rights Reserved.

――作品の内容に共鳴するようなエピソードですね。作品中では今回、主題歌の「どこまでも ~How Far I’ll Go~」を始め、セリフとともに歌の部分の印象も非常に強いですが、歌の収録はどのような感じで、どんなことを思いながら収録されたのでしょうか?

屋比久知奈 私は全曲を一瞬で大好きになりました。世界観とか、歌いたくなる曲ばっかりだったし、そういう意味では楽しみつつ収録をさせていただきました。一方で自分の中で悔しいというか、もっとこうできたらなと思うところもあったのですが、思いを届けたいという願望は強く持っていたいと、1曲1曲を丁寧に歌おうと思いました。何度も時間が許す限り歌いました。

松也 僕は1曲だけですし、とても楽しい雰囲気の楽曲。マウイは憎らしい部分みたいなところもあって、言っていることが鼻につく時もありますけど、あのような曲の感じによって、それが憎めない雰囲気になっているんです。それをストレートに出すことを意識しました。何より楽しい楽曲で、自分自身が楽しんでいないと見て聴いて頂いている方にそれが伝わらないのではないかと思ったので、僕はとにかく楽しむということを考えていました。

――劇中に登場する歌は、どちらかというとミュージカル風の歌ですね、例えば主題歌「どこまでも ~How Far I’II Go~」は、導入の部分が語りっぽいメロディになっていて、サビでバーンと声を伸ばす感じというか。曲のスタイル的なところもあると思いますが、お二人がそれぞれご自身で持たれているルーツという部分と比較すると、共通点的な部分を見出したところもあったのでしょうか? それともギャップを感じてやり辛いところがあったとか?

松也 そうですね…僕の歌った曲はラップも入っているので、最初は大丈夫かな? と思っていました。けれどこれが例えば普通に歌唱としてのものであったら難しかったかもしれないですが、劇中で歌うとなると、ミュージカルなど出演させて頂いた経験を活かして、セリフに近い形で気持ちよく表現することができました。それは僕の中では新たな挑戦でもあり、新たな発見でもありましたね。

――かなりご自身の経験が生きているところもありますね。

松也 そうですね、その実感はありましたね。例えば歌舞伎の中でも、浄瑠璃にのせてセリフを喋るというシーンはいくつもあるので、そういうところは少し僕の中でリンクするところはありますね。

屋比久知奈 松也さんがおっしゃるように、私もセリフのように歌うというか、セリフとして歌を歌うというところはすごく意識をしたいという思いがありました。今まで私もミュージカルをやらせて頂いた時に、同じようにそれを意識していたので、そこは経験が生きたところがあったかなと思います。

――では、ある意味自分の領分に沿ってできた感じだったのでしょうか?

屋比久知奈 そうですね。ただ、今回は映像に合わせるという形だったので、自分がこの部分はこう歌いたいとか、こういう歌詞だからこんな表情なのかな? と思った時にも、合わせた時に違うと感じたら、「映像に対して私の気持ちを合わせる」というか、映像の表情に合わせることを意識しました。それは、今まで自分が経験したことがないアプローチでした。

――公開と観客、中でも子どもたちの反応が楽しみですね。本日はお忙しい中希少なお時間を頂き、ありがとうございました。

屋比久知奈 ありがとうございました。

松也 ありがとうございました!

(取材=桂 伸也、撮影=編集部)

■公開情報

タイトル:『モアナと伝説の海』
公開表記:10日(金)全国ロードショー
配給表記:ウォルト・ディズニー・ジャパン
著作表記:(C)2017 Disney. All Rights Reserved.

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