【坂本美雨 ライヴレポート】
『Sakamoto Miu "Still Lights"』
2023年12月20日 at
すみだトリフォニーホール 小ホール
坂本美雨が12月20日、すみだトリフォニーホール 小ホールにてワンマンライヴ『still lights』を開催した。2021年にリリースされたアルバム『birds fly』のレコーディングメンバーである平井真美子(Pf)、徳澤青弦(Vc)を迎えたトリオ編成による同公演の模様をレポートする。
数個の電球がキャンドルのような淡い光を放っていたステージにピアニストの平井、チェリストの徳澤、坂本が登場。「星めぐりの歌」がスタートすると、歌声と楽器の音色が会場を温かく潤していった。そして、この3人でレコーディングした『birds fly』より「birds fly」「shining girl」「Story」「gantan/birth」が披露されたあとに迎えた小休止。“咳やくしゃみを我慢しなくても大丈夫だからね”という坂本の穏やかな言葉に和まされる。自然体でステージに立ち、歌い始めると人々を各曲の世界へと深く引き込む様が素敵だった。
「Silent Night〜The Christmas Song」を経て、“ここからは身内コーナーです。父が遺したきれいなメロディーの歌をお届けします”と言い、彼女の父である坂本龍一が手がけた曲が届けられた。奥田民生が作詞をした映画『鉄道員(ぽっぽや)』の主題歌「鉄道員」、坂本龍一が2008年にリリースしたインストゥルメンタル曲「koko」に大貫妙子が歌詞をつけた「3びきのくま」、1986年にヴァージニア・アストレイに提供された「Some Small Hope」…一音一音を大切にしながら声を響かせ、無数の情感を込めて歌う姿は、偉大な音楽家が生み出した旋律を輝かせていた。
“今日は体調がいいから6時間くらい歌えそうです(笑)”と柔和な笑みを浮かべたあとに届けられた連続テレビ小説『おかえりモネ』の挿入歌「天と⼿」、レナード・コーエンの「hallelujah」、2018年に配信限定リリースされた「かぞくのうた」、友人の愛猫の音楽葬の意味を込めて制作したのだという「for IO」、1984年に公開されて大ヒットした映画『ネバーエンディング・ストーリー』の主題歌「Never Ending Story」…カバー曲を交えて歌い、時折のMCでさまざまな想いも語っていた坂本。ガザ地区で続いている紛争に胸を痛めている旨にも触れながら届けられた歌の数々は、平和な世の中を心から願う彼女の祈りでもあったのだと思う。
アンコールを求める観客の手拍子に応えて再登場した彼女は、アカペラでアイルランド民謡「ダニーボーイ」を披露。“どんな境遇で生まれても子供は宝物であるべき。そんなことを思いながらタイトルをつけました”と、本公演日でもある12月20日にリリースされたEP『あなたがだれのこどもであろうと』について説明しつつ届けた「タベタイ」は、明るく躍動する歌声と演奏が心地好かった。そして、“坂本龍一featuring Sister M”名義で1997年にリリースされた「The Other side of Love」を“原点に立ち返って”という言葉を添えて歌ったあと、会場に集まった観客に改めて感謝。“またこのメンバーで集まりたいですね(笑)。一緒に作ってくれてありがとうございます。みんなの健康を祈って、楽しく毎日過ごせることを祈っています”と言い、ラストを飾ったのは「in aquascape」。1999年にリリースされた1stアルバム『DAWN PINK』の先行シングルだったこの曲も彼女の原点のひとつ。透明感にあふれた歌声が、観客の心を穏やかに震わせていた。
アンコールの4曲を含め、全18曲が届けられたワンマンライヴ『still lights』。彼女の軌跡が示されたと同時に、カバー曲も随所で存在感を発揮していたのが印象的だった。会場で聴いた歌声を反芻しながら家路につき、カバー曲のオリジナルについて調べた観客が少なからずいたのではないだろうか。年の瀬にとても贅沢な時間を過ごせた公演だった。
撮影:岡田 健/取材:田中 大