「こんなMV撮りたい」[Alexandros]川
上洋平、アキ・カウリスマキが純愛を
描いた6年ぶりの新作『枯れ葉』を語
る【映画連載:ポップコーン、バター
多めで PART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキの6年ぶりの新作。ヘルシンキで孤独を抱えて生きる男女が名前も知らないまま惹かれ合い、不運な偶然と現実の過酷さがささやかな幸せを邪魔する様を描いた一風変わった純愛映画『枯れ葉』を語ります。
『枯れ葉』
──カウリスマキ監督作品を選ぶとは意外でした。
この監督の作品は多分かなり昔に流し観したことがある気がしていて……いわゆるオシャレ映画として(笑)。でも今回ちゃんと観たら、すごく好きでした。というか、この監督めちゃめちゃ好きです! 僕のコアタイムである深夜帯に鑑賞するのにぴったりだし。
──確かに。フィンランド映画というと、2022年のカワカミー賞ベストムービーに選ばれてた『コンパートメントNo.6』もフィンランド映画でしたね。
そうでした。でも作風は全然違いますよね。『枯れ葉』は余計なことを語らない究極のミニマル作品というか。ショートフィルムや前衛的な舞台でも観てる感覚になりましたね。
──確かに舞台っぽい要素もありますよね。画角が固定されているシーンも多くて。
登場人物がフレームから外れた時に急な展開があったりとか。例えば車に轢かれる音が流れたり。でもそれで何が起きたかわかるわけで、すごく無愛想に見えて、スマートな作りになってるなと思いました。登場人物のセリフも少ないし。でもだからこそひとつひとつのセリフがクセのある気の利いた一言になってる。真似したくなるセリフがいっぱいありました。主演のアルマ・ポウスティさんのインタビューを読んだんですけど、監督が役者に対して「あまり脚本を読み込まないで」って言ったみたいなんです。しかもほぼワンテイクだったとか。
──そうなんですね!
アルマ・ポウスティさんはムーミンの作者のトーベ・ヤンソンが主人公の映画『TOVE/トーベ』のトーベ・ヤンソン役をやっていたり、Netflix映画の『1日半』にも出ていたので、「あ、見たことある!」と思いました。でも、その2作とも『枯れ葉』の役とは全く違う雰囲気で。僕と1歳違いっていうこともあって個人的に好きですね。めちゃくちゃ単純な理由ですが(笑)。
『枯れ葉』より
■ジム・ジャームッシュみたいな雰囲気もある
「ジム・ジャームッシュみたいな雰囲気もあるなあ」と思ってたら、主人公のカップル達が観に行った映画がジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』(笑)。 カウリスマキ監督とジャームッシュは友達みたいですね。『枯れ葉』には日本の小津安二郎監督の影響もあるそうで。
──監督は「この映画では、我が家の神様、ブレッソン、小津、チャップリンへ、私のいささか小さな帽子を脱いでささやかな敬意を捧げてみました。しかしそれが無残にも失敗したのは全てが私の責任です」というコメントを寄せています。
何なんだよ、そのかっこいいコメント(笑)。洒落てるなあ。いいですね。そういえば主人公が引き取る犬の名前はチャップリンだったな。
──チャップリンへも敬意を捧げてるっていうことで、コミカルな要素が多かったのかもしれないです。
そうそう、あの感じがとても好みです。コメディというより、コミカルなムード。爆笑ではなく、“なんか笑える"。不条理4コマ漫画に近いものを感じました。中川いさみさんや吉田戦車さん的なね。あと、音楽も大事な要素でしたね。主人公の心情をそのまま表したような歌詞が頻繁に流れたり。最後の方に出てくる風変わりなバンドもなんか良かった(笑)。
──ですね(笑)。
カンヌの審査員賞を受賞していて、来年の第96回アカデミー賞の国際長篇映画部門フィンランド代表になってるので結果が楽しみですよね。ただ、カウリスマキ監督はかなりのアカデミー嫌いらしくて、辞退したこともあるから、多分ないだろうな(笑)。そんなところも愛しいです。
『枯れ葉』より
■いちいちセリフがコミカル
──それにしても主人公のアンサとホラッパのカップルはふたりともかなり不器用な感じですよね。
僕もそう思ってたんですけど、あとから考えると「意外とスマートなのかも?」って思えてきたんですよね。お互い好きになったら割と一直線な行動を取っているし、ホラッパの方はデートしただけなのに「結婚しそうになった」って後日友達に語ってたのが印象的で。「もうそこまで結論出てるんだ?」ってなりません?(笑)。もちろん人間同士だからケンカもするんだけど、ちゃんと反省して、素直に謝罪して、ヨリを戻そうとする。その際の一言一言がとてもストレートなんですよね。だからもしかしてモテ男なんじゃないかって(笑)。
──(笑)かと思えば、名前も連絡先も知らずに一緒に映画館に行ったりするし、笑顔をほぼ見せない。
そこは変に取り繕うことをしないミニマリズムが出てますよね(笑)。そういえば、時代背景が謎じゃなかったですか⁉  携帯を持ってるのか持ってないのかわからないまま話が進んでいく。「昔の話なのかな」と思ってたら、ラジオからロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れてきたり。「え!? 現代なの?」って思いました(笑)。
──カウリスマキ監督は社会問題を取り入れることが多いですけど、『枯れ葉』について監督は「無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました」と記しています。確かに戦争って無意味でバカげてるわけですが、だからこそユーモアがふんだんに込められているのかなと。
かなりストレートに戦争批判のメッセージがありましたよね。一見物語の主軸とは関係なさそうではあるけれど、だからこそどんな状況の時でも世界中のニュースは入ってくるんだなって思いました。たとえば日本のファーストフード店でぼんやりフレンチフライを食べている最中にも戦争のニュースをスマホで見れちゃうわけですよね。なんか不思議だよな。
──確かに。カウリスマキ作品では珍しく純愛を描いたラブストーリーと言っていい作品でもありますね。
そうですよね。外国では悲惨な出来事が起きつつも、違う土地では全く違う人間模様があるわけで。それにしても、やっぱりいちいちセリフがコミカルでしたよね。
──理不尽な理由でクビになったアンサの再就職先の店長がドラッグで捕まった時に言う、「お前にしばらく店を任せる」っていうセリフとか。
あれも好きでしたね。監督は自分のことを、ぶっきらぼうで感情を出さないっていう意味で使われる“デッドパン"って言ってるらしいです。「俺は究極のデッドパンだから」って。
『枯れ葉』より
■秋の夜長にぴったりだと思います
──まさにそのキャラクターが作品に反映されてますね。
アンサの家もめっちゃシンプルじゃないですか。ラジオが置いてあって、自分の分の食器しかなくて。ホラッパが家に来ることになってお皿を買うんだけど、来ないってことになったらすぐ捨てる。ローランドかと思った(笑)。
──(笑)結構似たもの同士のふたりですよね。
登場人物全員が割と変ですよね。アンサが友達に「ホラッパにこんなことを言われた」って話した時、ホラッパを豚に例える友達に向かって、「豚に失礼よ」って吐き捨てるように言うやりとりがすごく好きでした。返し方もいちいち巧い。
──アンサがホラッパを家に招き入れるんだけど、「アル中は嫌だ」っていうやりとりが始まって。
そう。「アル中はご免だ」って言ったら、「俺も指図されるのはご免だ」っていう“ご免"返し。あの会話が一番痺れました。長さも81分でちょうどいい。秋の夜長にぴったりだと思います。こんなMV撮りたい。カウリスマキ監督の他の作品もいろいろ観てみようと思います。
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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