INTERVIEW | Sam is Ohm壮大なプロ
ジェクトの序章として発表された初E
P。これまでの足取りと共にその制作
背景を紐解く 壮大なプロジェクトの
序章として発表された初EP。これまで
の足取りと共にその制作背景を紐解く

Kick a Showのメイン・プロデューサーとして知られるSam is Ohmは、これまでに多くの挑戦を行ってきた。
2013年に〈TREKKIE TRAX〉から発表したインスト作品『Gorilla EP』(The Ohm名義)はジャズとダブステップを結合させたパワフルな仕上がりだったし、それ以外にもEDMトラップやマイアミ・ベースなどアッパーでダンサブルな楽曲を精力的に発表。Kick a Showがシンガーとしての活動を本格化させてからはR&B色の強いものも制作し始め、そこにハウスやUKガラージなどダンス・ミュージックの要素も織り交ぜていくようなスタイルに変化していった。その歌い手の特性に合わせつつプラスアルファの提案をしていくような手腕はZEN-LA-ROCKやMALIYAなど多くのアーティストからの支持を獲得。DJとしてもクラブからフェスまで活動の幅を広げていった。
そして2023年。プロデューサーとしてシーンの第一線で活躍してきたSam is Ohmはソロ・プロジェクトを本格化させ、同名義では初のEP『Chaos engineering』をリリースした。そこで聴かせたのは、近年のモードを反映したようなR&B色の強いメロディアスなスタイル。これまでトレンドを積極的に吸収してきたSam is Ohmだが、どちらかといえば最先端のものというよりは普遍的なサウンドに仕上がっていた。また、これまでやってきたことの幅を思うと、かなり路線を絞ったような印象もある。
しかし、そもそも私たちはSam is Ohmについてそこまで知らないのではないだろうか。これまでにクルーとしてのインタビューや周辺アーティストからの言及などはあったものの、個人としての歩みは意外なほど語られてこなかったように思う。そこで今回、Sam is Ohm個人へのインタビューを依頼。そのルーツを掘り下げた。
Interview & Text by アボかど(https://twitter.com/cplyosuke)
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
ブレイクダンスからヒップホップへ
――音楽への目覚めは何がきっかけでしたか?
Sam is Ohm:中学生くらいの頃に始めたブレイクダンスがきっかけですね。当時ナインティナインの岡村さんがテレビでブレイクダンスをやっていたこともあって、周りに結構やっている人がいたんです。中学校の先輩が体育祭で踊っているのを見て、「めっちゃカッコいい!」と思って自分も始めました。部活が終わった中3の秋くらいからがスタートですね。ダンスを始めたらやっぱりヒップホップ・カルチャーとも密接になっていって、最初は踊るためだったけど、どんどん音楽にも興味を持つようになりました。
――ヒップホップを聴くようになった最初の頃ってどんなものを聴いていましたか?
Sam is Ohm:最初はブレイクビーツとかでしたね。でも現行のヒップホップで踊る流れもあって、その当時流行っていたのはM.O.P.とかでした。
――2004年のダンス映画『You Got Served』でM.O.P.の「Ante Up (Robbin Hoodz Theory)」が使われていましたもんね。
Sam is Ohm:そうそう。その流れがあったので、M.O.P.とかでブレイクダンスを踊っていましたね。あとはNaughty By NatureGroup Homeとかの90’sヒップホップ。(ダンス・)バトルDJがかけるのがそのあたりだったんですよ。90’sヒップホップ、プラス当時のチャートで入ってくるリアルタイムのヒップホップで踊るみたいな感じでしたね。
――2000年代半ばくらいというと、G-Unitとかの勢いがあった時期ですよね。
Sam is Ohm:まさにG-Unitや50 Centなどがかかっていましたね。ダンス友だちの中にはLil Jonのクランクで踊っている人もいました。でも、俺は知ってはいるけどあまり馴染みはなかったです。踊るために聴く方が多かったので、自分が踊らない音楽に関しては「そういうのもあるんだな」みたいな感じでしたね。
――最近のOhmさんはR&B色の強い活動をしていますが、最初の頃に聴いていたR&Bについても教えてください。
Sam is Ohm:ヒップホップを聴いていると、R&Bって意識しなくても入ってくるじゃないですか。それでFugeesLauryn Hillを聴いていました。あとはUsherChris Brown。TLCやMaxwellも好きでしたね。『You Got Served』の流れで、OmarionとB2Kからもめっちゃ影響を受けていました。
――ビートメイクは何きっかけで始めたんですか?
Sam is Ohm:ダンスをやっていた頃に、高校生のクルーみたいなの入っていたんです。その中でトラックを作る人がいなくて、ダンスのショーケースで使う曲の編集を俺がやるようになったんです。それでオーディオ編集をやっていくうちに、「これでループしちゃえば曲を作れるじゃん」って思ったのがきっかけですね。最初はひたすらサンプリングだけしていました。
――初期はいわゆるブーンバップを作っていたんですか?
Sam is Ohm:そうですね。あと当時はDEX PISTOLSの勢いがすごかったので、ハウスの影響も入っていました。ブーンバップを作りつつ4つ打ちも作るみたいな、よくわかんない感じになっていましたね(笑)。R&Bは聴いていたんですけど、全く作ろうと思っていなかったです。コードとかキーみたいなものも全く知らなかったので、あらゆる音楽書籍を読み漁って、拙い手つきでピアノを弾きつつ和音を確認しながら、無理やり身に着けました。
エレクトロのパーティで味わった多幸感
――ハウスやベース・ミュージックはどのくらいの時期に聴き始めたんですか?
Sam is Ohm:ハウスやエレクトロは20歳くらいからですね。それまではずっとヒップホップを聴いていました。ベース・ミュージックは23〜24歳くらいのときかな。ジャンルがどうこうっていうよりは、トレンドを追う感覚で新しいものを聴いていたって感じです。
――Kanye Westが「Stronger」でDaft Punkをサンプリングしたみたいな流れもありましたよね。
Sam is Ohm:そうそう。同じような感覚で、ヒップホップ以外のものも聴いたり作ったりしていたんですよね。だから自分としてはヒップホップをずっとやっているつもりなんですよ。色んな色があるみたいに言っていただけることが多いんですけど、オリジナルを作ろうと思って色んなことをやっているだけで、意識としてはヒップホップです。R&Bに関しても、Kick a Showが「歌いたい」って言い出したのが始まりなので。
でも、ちょうどそのときは自分が作るものに手癖が付いて、飽きてきた時期だったんです。それでR&Bを作っているうちに、メロウなコード進行やメロディの使い方みたいな知らない知識が入ってきたのがおもしろいと思ってそっちに行きました。
――なるほど。Kick a Show以前は結構バキバキのトラップとかも作っていましたよね。SoundCloudでKendrick Lamarの「Swimming Pools (Drank)」のトラップ仕様リミックスを出していた覚えがあります。
Sam is Ohm:そうそう。昔はああいうのはシングル盤のB面とかに入っていたと思うんですけど、それがインターネットに出てきたのがおもしろいと思ったんですよね。それでSoundCloudのリミックス合戦みたいなものに参加したくて作っていました。
――あと、前〈TREKKIE TRAX〉からダブステップを出していたこともありましたよね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。あの当時はUSのトラップ対UKのダブステップみたいな感じがあって。その流れでUKのダブステップ・プロデューサーのSwindleを聴いて、おもしろいと思って作りました。おもしろいと思ったものにすぐ興味が行くし、作っちゃうんですよね。ムーンバートンも作りました。あとジュークも。元々シカゴ・ハウスが好きだったので、その流れで「こんな新しいのあるんだ」と思って作りましたね。Traxmanが来日したときにも観に行きました。今もアフロビーツを作ってみたり、そういうトレンドに乗っていくみたいな流れはずっとありますね。
――色々な音楽を聴いている中で、一番思い入れが強いのはどういう音楽なんですか?
Sam is Ohm:ヒップホップもめちゃくちゃ好きなんですけど、エレクトロ・ハウスかもしれないです。エレクトロのパーティに遊びに行ったとき、ヒップホップのクラブにない多幸感がめちゃくちゃあったんですよね。みんなすごく楽しそうで。そのときに「こういう楽しそうなパーティで自分が作った曲をかけたい」と思ったのがDJを始めたきっかけなんですよ。そこからトラックメイクも頑張るようになりました。当時かかっていた曲は数曲しか覚えていないんですけど、その時の感覚はまだ自分の中に残っています。
真似しなければオリジナルは作れない
――研究したビートメイカーはいますか?
Sam is Ohm:人というよりは、音単位ですね。Dr. Dreのスネア、Pete Rockのキックとか。あとR&Bの「チャキッ」ってスネアとか。「ああいうのをどうやって出しているんだろう?」と思って、重ねたりとか研究しました。「パチン」ってスナップの音とかも、名前を知ってから「どうやって作るんだろう?」と思って調べてサンプルを見つけたりとか。そういう“誰か”というよりは“あの音”というところから影響を受けて、真似するようになりましたね。
――なるほど。あとOhmさんって、ほかのビートメイカーの人と比べてカバーをかなりやっていますよね。
Sam is Ohm:よく「カバーを上手いことやるね」とか「カバー好きだよね」と言っていただけるんですけど、実はカバーが“楽しいから”とか“好きだから”でやっているわけじゃないんですよ。「この曲のこういうエディットをDJでかけたい」「この曲をこうしたらいいんじゃないか」って発想で作っているんですよね。
――SoundCloudのリミックス合戦の延長線上でカバーをやっているみたいな。
Sam is Ohm:そうなんですよ。形としてはオフィシャルでリリースするカバーだけど、感覚としてはSoundCloudのリミックスと同じなんですよね。選曲は歌う人に合わせてやっています。
「接吻」と「Just The Two Of Us」に関してはKick a Showが歌う前提で作りました。最近MANONさんとやったm-floの「Come Again」のカバーに関しては、〈avex〉さんからお話をいただいて、自分がMANONさんがいいと思って呼んだ形ですね。あれは☆Taku Takahashiさんにも褒めていただいて、本当に嬉しかったですね。
――ご本人から!
Sam is Ohm:熱かったですね。「ああ……! ありがとうございます!」っていう感じでした(笑)。あれは今っぽいY2Kの流行りも含めつつ、当時の感じも残すことを意識して作りました。上手くできた感じはありましたね。
――Ohmさん的にはY2Kは懐かしさじゃなくて今っぽさなんですね。
Sam is Ohm:ぶっちゃけ自分としては懐かしいんですけど、自分が懐かしすぎると今っぽくないと思うんですよ。でも上澄みだけやってもしょうがないから、自分の記憶も50%掘り起こすみたいな感覚です。そのごった煮感みたいなものを大事にしていますね。自分のことをやりすぎると悪い意味でアクが出ちゃうので、それを抑えるようにしています。
――カバーを作っていく中で、学んだことは何かありますか?
Sam is Ohm:むしろ学びしかないですね。コード進行とかの知識を得たのはカバーをやってきたからです。トラックメイカーとかプロデューサーの方は、出す出さないは置いておいてカバーを作った方がいいと思います。スキルがめちゃくちゃ付くので。真似しなきゃオリジナルは作れないと思います。
――リミックスもかなり作っていますが、リミックス制作で何か学びはありましたか?
Sam is Ohm:曲の意図が汲めるようになりましたね。「こういう歌詞をこういうコードに載せているから、エモく聴こえるんだ」みたいな。リミックス作りで曲を解体することで、そういう見えてくるものはありました。
ドラムがカッコよくなければ次に進めない
――“史上最高のビートメイカー”を5人を挙げていただけますか?
Sam is Ohm:Dr. Dre、Metro Boomin、Flume、Max Martin、Nujabesですね。Dr. Dreは成功者としての実績がすごすぎるし、Metro Boominは若いプロデューサーの中でレベルがちょっと違う。愚直に音楽をやっている感じも好きです。Flumeは変な音楽をやっているのに、キャッチーで売れている。どうやって曲を作っているのか全くわからないんですよね。
Max Martinはビートメイカーというよりプロデューサーですけど、出てきてから30~40年近くヒット曲を出しているすごさ。Nujabesは海外での影響力とあの綺麗なサウンドをローファイな形で出すセンスがすごいと思います。
――Metro BoominとNujabesが並んで出てくるのはおもしろいですね。でも、Metro Boominはアフロビーツもやっているし、Nujabesもハウスをやっている。なんとなくOhmさんと通じるものはあるような気がします。
Sam is Ohm:自分で選んでいて、このごった煮感は俺っぽいと思いました。でもNujabesはハウスだと意識して聴いていなくて、あのローファイ感に惹かれていました。
――「ごった煮感が自分らしい」とおっしゃいましたが、複数の要素を組み合わせるのは狙ってやっているんですか?
Sam is Ohm:狙ってやっている部分と出ちゃっている部分、両方があると思います。明らかにサンプリングや弾き直しは狙ってやっていますけど、よく言われる「ダンサブル」「跳ねている」みたいなのは狙ってないです。ダンサー経験が無意識に出ているんだと思いますね。曲を作っているとき、ドラムがカッコよくないと次のステップに行けないんですよ。その発想はダンサーっぽいと思います。
――今回のEPもスネアの鳴りとか、とてもこだわっているんじゃないかと思いました。
Sam is Ohm:めちゃくちゃこだわりました。そうなんですよ。ピアノやシンセサイザーとかってコード進行やスケールみたいな理論があるんですけど、ドラムは正解がわからないんですよね。楽譜でも「強く」とか「アクセントを」とかあるけど、「アクセントってどのくらい?」みたいな風に思うんです。ドラムに関しては言語化ができていないと感じていて、時間をかけて自分の感覚でいくしかない。なのにドラムがカッコよくないと前に進めないから、結果的にめちゃくちゃ時間をかけちゃっています。沼なんですよね。
――ドラムにめっちゃこだわるのって、すごくブーンバップの人っぽい感覚ですね。
Sam is Ohm:確かに。ドラムがカッコよくないとダメで、「じゃあ、どうやってカッコよくするの?」っていうとブーンバップを作る感覚が出てくるんです。
――なるほど。特に今回のEPはヒップホップ要素が結構強いですよね。
Sam is Ohm:もちろん俺がヒップホップを好きだからってのもあるんですけど、制作環境によるものもありますね。今回の作品は、マスタリングは外注しましたけど、レコーディングやミックスは自分でやったんですよ。そうなるとハウスや2ステップ、トレンドのスタイルを作るには自分の理想の出音を出せなかったんです。なので、ドラムも含めてブーンバップ要素を入れつつ、BPM100前後でまとめました。ヒップホップはインディペンデント精神が強いので、音が悪くてもカッコよければ受け入れられると思うんですよね。XXXTENTACIONの「Look At Me!」とかすごいじゃないですか。
――なるほど。それで今回のEPはトレンドというよりは普遍的なノリが強い作品になったんですね。
Sam is Ohm:新しいグルーヴのものって、出音が全てだと思うんですよ。それは次回にしようと思って、今回は普遍的なもので固めました。でも、逆にそれで俺を初めて聴く人でもとっつきやすくなったのかなと思いますね。
パーティから生まれた音楽
――以前はインストも出していましたが、今回の作品は全曲にボーカリストが入っていますよね。
Sam is Ohm:自分のキャリアが本格的に始まったきっかけは、やっぱりKick a ShowやZEN-LA-ROCKさんのプロデュースだったと思うんですよね。〈TREKKIE TRAX〉から出したりはしていたんですけど、その後の活動まで追ってくれる人が増えたのは、プロデューサーとしての活動からかなと。インストもそのうちやるつもりではあるんですけど、今やるべきことは違うと思って今回こういう作品になりました。
――制作のプロセスとしては、ビートを先に作ってから客演を決めるような形でしょうか?
Sam is Ohm:基本的にはビートができたうえで客演を決めています。でも同時進行に近いですね。デモを作った次の日の朝から、ExcelとWordを立ち上げて呼びたいアーティストをバーッて並べて資料を作っていました。
――めっちゃプロデューサーらしい話。
Sam is Ohm:そうなんですよ。男女比やそれぞれのルーツも考えながら人選しました。自分が出したいサウンドを求めつつも、色々なことを考えるのを日夜やりましたね。
――客演の方々とはどのように知り合いましたか?
Sam is Ohm:基本的には関係値のある人に声をかけました。YonYonさんとはかなり昔に現場で知り合って、interfmのラジオ番組にも呼んでもらったり。そこは自然に声を掛けさせていただきました。Sagiri Sólちゃんも現場で知り合ったと思います。ただ、VivaOlaくんの曲を聴いたときに、異常に歌が上手い人がいると思って元々知っていたんですよね。
Wez AtlasくんもVivaOlaくんから入って、カッコいいラッパーがいるなと思って。FLEURくんも現場で会ったのがきっかけですね。Aile The Shotaくんもフェスで会ったし……おかもとえみさんとの出会いは現場ですね。
――みんな現場、パーティから生まれた縁なんですね。
Sam is Ohm:本当にそうなんですよ。自分が曲を作り始めたのもパーティがきっかけだし、今回呼ばせてもらったアーティストもみんなパーティがきっかけですね。結局自分はクラブの人なんでしょうね。
――なるほど。あと今回のEPでは、全曲でOhmさんが作詞でもクレジットされていることが気になりました。
Sam is Ohm:自分の作品を出すにあたって、“自分が作りたい音楽を作る”っていうのが大前提にあるんです。今まではアーティスト・マターで、アーティストがやりたいことをお手伝いするって感覚だった。でも自分の作品に関しては、決定権は俺。だから全部は書いていないんですけど、テーマを俺が決めてそれに合わせて書いてもらいました。その上で「ちょっとここはテーマと違う」とか、「ここもうちょっとこういうニュアンスにしてください」って意見を言わせてもらいました。プロデュースというよりは、俺が作りたいものを作るために手伝ってもらったって感じですね。
多彩なコラボレーター陣との共作
――「愛じゃないから」はヒップホップの名曲のフレーズを使っていますよね。あれは「きたな!」って思いました。
Sam is Ohm:きてますよね(笑)。Aile The ShotaくんはiriさんとかSIRUPさんみたいな、日本のR&Bが大好きなんですよ。めちゃくちゃ好きで、もう常に「好き」が溢れている。そんな彼に「俺のヒップホップ好きを当ててやろう!」って感覚なんですよね(笑)。「Aile The Shotaくんは音楽好きだけど、俺も好きだから!」っていう。そんな「好き」同士のバトルみたいな意味であのフレーズを入れました。
――曲名に反して、めっちゃ愛じゃないですか。
Sam is Ohm:そうなんですよ! めっちゃ愛です。あとAile The Shotaくんのリスナーの中にはヒップホップが好きな層も絶対にいると思うんですけど、意外とカルチャー要素を含んだ曲って少ない気がするんですよね。それで、そういう表現をしてもいいんじゃないかなと思ってトライしてみました。でもサンプリングするとストレートすぎるから、一応弾き直しています。
――「Hearth」を1stシングルにしたのはなぜでしたか?
Sam is Ohm:一発目の曲ってすごく大事だと思うんですよ。自分がソロを出すってなったとき、話題性だけでは聴かれないと思って。「じゃあ何が必要か?」と考えたとき、やっぱり歌唱力だと思ったんですよね。歌が上手ければ話題性がなくても、「この曲めっちゃいいじゃん」ってなる可能性が高いと踏んだんです。それで自分の中で“異常に歌が上手い人と言えば……”でSagiri Sólに決めたのが「Hearth」だった。自分にバリューがなかったとしても、Sagiriちゃんのパンチのある歌声だったら一発目でみんなに響くかなってところで1stシングルにしました。
――あの曲はYonYonさんも参加されていますよね。
Sam is Ohm:YonYonさんにも入っていただいて、韓国語と日本語と英語を混ぜてディスコっぽい雰囲気を出しました。YonYonさんも「これはSagiriちゃんの歌を活かした方がいい」と感じたみたいで、メロディにちょっと上下を付けてキャッチーな譜割りのおもしろさで聴かせてくれましたね。お互い共鳴し合ってできた曲です。
――3人で一緒にスタジオに入ったんですね。
Sam is Ohm:今回の作品は基本的には全部一緒に作っています。「Sleep On Me」もWezくんとFLEURくんに来てもらって、歌詞を一緒に作りました。実はあのトラックって最初はボツにしていたんですよ。WezくんとFLEURくんで一緒にやったらいいと前から思っていたんですけど、トラックが全然思いつかなかったんです。
でも、ある日Wezくんが自分のスタジオに来たときに、「色々トラック聴かせてください」って言われて、流していたうちのひとつがあれだったんですよね。最初はBPMがもっと早くて、120なんぼくらいあったんです。そうしたらWezくんが「これBPM落としてピッチ下げたらいいんじゃないですか?」って言ってくれて、あの感じになりました。そうやってWezくんがどんどんアイデアを出してくれて進んだ曲なんです。でも、自分の出したい音じゃないって判断にはならなかった。
――「アネモネ」はリリース時にDMで「クラブ・サウンドとY2KとJ-POPのごった煮」と仰っていましたよね。
Sam is Ohm:あれは特定の曲じゃなくて、それぞれのパーツをイメージして作りました。ドラムはオーセンティックなヒップホップで、コード進行はポップス。そこにY2Kっぽいサイン波のシンセっていうごった煮感ですね。それぞれのパーツをコンセプトに沿って組み込むっていう作り方です。
――あの曲だけリミックスがありますよね。
Sam is Ohm:あれはドラムはヒップホップですけど、自分の中ではJ-POPなんですよ。でも「完全にJ-POPとして売れるサウンドになっているか?」って言われたら、そうはなってないと思っているんですよね。やっぱりヒップホップのサウンドとして、言い方は悪いですけどあえてバランスが悪い状態を出したんです。だからこそ、ローファイなリミックスを作ったら“こういう落としどころもある”って理解してもらえるかなと思ったんですよね。
――ヒップホップ感をより伝えるための補足みたいな感じなんですね。
Sam is Ohm:そうなんです。逆にそのままブーンバップのサウンドでおかもとえみさんが歌っても、「HIT NUMBER」があるから俺がやる意義がないなと思ったんですよね。そこで“ヒップホップとJ-POP、Y2Kのごった煮をやるのが俺だ”と思って原曲を作って、それだと落としどころとして足りないからリミックスがあるって感じです。
EP、そしてアルバムの壮大なコンセプト
――制作において大切にしていることは何かありますか?
Sam is Ohm:今回のEPに関しては、絶対に自分が出したい音になるまで追求し続けることを大切にしました。何テイクも録るし、ミックスも何回もやり直す。プロデュースで頼まれたときは歌っている方に決定権を全て託していますが、今回は絶対に妥協せず、俺がやりたいことを突き詰めることが大前提としてありましたね。
――制作にも結構時間がかかったんですか?
Sam is Ohm:めちゃくちゃかかっています。実は最初に色々なレーベルに資料を持ってプレゼンしたんですよ。その前にトラックだけを先に作っていたんですけど、一番最初のトラックの書き出し日を見たら2020年でした。スタートするまでに3年かかっているんです。その間にトラックを作って、客演を決めて、資料を作るのに2年くらいかかりましたね。
――最初に立てた構想と実際に出来たものはどのくらい差がありましたか?
Sam is Ohm:全然違わないです。やっぱり客演がスケジュール合わなくて変わったりとかはありましたけど、最初に“これで行く”って決めたときからオケや方向性は変わっていないですね。コンセプトを固めて作るのが前提にあったので。
――どんなコンセプトだったんですか?
Sam is Ohm:キーってあるじゃないですか。頭からCメジャー、ハ長調から始まって半音ずつ上がっていって、最終的にCに戻るっていう12平均律っていうのがあるんです。正確には13曲あるんですけど、12個のキーを全て使うのがまずひとつ。だから同じキーの曲がひとつもないんです。
もうひとつのコンセプトは、ギリシャ神話のオリンポス12神。タイトルにも絡めつつ、リリックにも神話のストーリーを少し入れているんです。『Chaos engineering』っていう今回のEPのタイトルは、エンジニア用語で“システム中で架空の負荷をかけて、トライ & エラーを繰り返していく”っていう意味なんですけど、これは自分も納得するまでトライ & エラーを繰り返していくことから名付けました。
それと、オリンポス12神は混沌(カオス)から生まれているんですよね。今回のEPは最終的にはアルバムになる予定で、その手前だから“カオス”を作り出しているって意味も込めてます。全部が地続きで、コンセプトを固めてそれに対してパズルを当てていく感覚ですね。
――壮大ですね。
Sam is Ohm:壮大だからこそ、レーベルからは「これ本当にできんの?」ってことで断られたりもしました。大変だし、「なんだよそれ」って感じですよね(笑)。めんどくさいかもしれないけど、最初からめちゃくちゃ計画的にやっているから、ブレたとしてもプランBで行けるんです。自分は芸術に関しては、色んな可能性を含んでいるものの方が優れていると思っているんですよね。映画とかでも、言い切るよりも観ている人が色々な解釈ができるものの方がいいと思っているんです。だから、自分のアルバムでも色んな含みを入れたい。
――曲の要素が増えるっていうのもまさに同じ話ですよね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。増えれば増えるほどいいってわけじゃないですけど、明確に要素が沢山あるものをまず用意しなければならないと思ってやっています。やっていることはすごく壮大なので、みんなに協力していただいてありがたいですね。
――今後はどういう動きをしていく予定ですか?
Sam is Ohm:シングルがちょくちょく出て、最終的にはアルバムの形になります。今回のEPの曲はほぼ全部入る予定です。リスナーのみなさんには最近出たSIRUPさんの「FINE LINE」のリミックスとかの過去の曲を楽しんでもらいつつ、新曲を楽しみにしてもらえたら嬉しいですね。
【リリース情報】

All Songs Mix, Rec, prod by Sam is Ohm

Mastering:Metropolis Mastering
Cover Design:清水真実
※LP:1月31日(水)リリース
■ 配信リンク(https://orcd.co/yaldxqe)
■Sam is Ohm: X(Twitter)(https://twitter.com/samisohm) / Instagram(https://www.instagram.com/samisohm/)
Kick a Showのメイン・プロデューサーとして知られるSam is Ohmは、これまでに多くの挑戦を行ってきた。
2013年に〈TREKKIE TRAX〉から発表したインスト作品『Gorilla EP』(The Ohm名義)はジャズとダブステップを結合させたパワフルな仕上がりだったし、それ以外にもEDMトラップやマイアミ・ベースなどアッパーでダンサブルな楽曲を精力的に発表。Kick a Showがシンガーとしての活動を本格化させてからはR&B色の強いものも制作し始め、そこにハウスやUKガラージなどダンス・ミュージックの要素も織り交ぜていくようなスタイルに変化していった。その歌い手の特性に合わせつつプラスアルファの提案をしていくような手腕はZEN-LA-ROCKやMALIYAなど多くのアーティストからの支持を獲得。DJとしてもクラブからフェスまで活動の幅を広げていった。
そして2023年。プロデューサーとしてシーンの第一線で活躍してきたSam is Ohmはソロ・プロジェクトを本格化させ、同名義では初のEP『Chaos engineering』をリリースした。そこで聴かせたのは、近年のモードを反映したようなR&B色の強いメロディアスなスタイル。これまでトレンドを積極的に吸収してきたSam is Ohmだが、どちらかといえば最先端のものというよりは普遍的なサウンドに仕上がっていた。また、これまでやってきたことの幅を思うと、かなり路線を絞ったような印象もある。
しかし、そもそも私たちはSam is Ohmについてそこまで知らないのではないだろうか。これまでにクルーとしてのインタビューや周辺アーティストからの言及などはあったものの、個人としての歩みは意外なほど語られてこなかったように思う。そこで今回、Sam is Ohm個人へのインタビューを依頼。そのルーツを掘り下げた。
Interview & Text by アボかど(https://twitter.com/cplyosuke)
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
ブレイクダンスからヒップホップへ
――音楽への目覚めは何がきっかけでしたか?
Sam is Ohm:中学生くらいの頃に始めたブレイクダンスがきっかけですね。当時ナインティナインの岡村さんがテレビでブレイクダンスをやっていたこともあって、周りに結構やっている人がいたんです。中学校の先輩が体育祭で踊っているのを見て、「めっちゃカッコいい!」と思って自分も始めました。部活が終わった中3の秋くらいからがスタートですね。ダンスを始めたらやっぱりヒップホップ・カルチャーとも密接になっていって、最初は踊るためだったけど、どんどん音楽にも興味を持つようになりました。
――ヒップホップを聴くようになった最初の頃ってどんなものを聴いていましたか?
Sam is Ohm:最初はブレイクビーツとかでしたね。でも現行のヒップホップで踊る流れもあって、その当時流行っていたのはM.O.P.とかでした。
――2004年のダンス映画『You Got Served』でM.O.P.の「Ante Up (Robbin Hoodz Theory)」が使われていましたもんね。
Sam is Ohm:そうそう。その流れがあったので、M.O.P.とかでブレイクダンスを踊っていましたね。あとはNaughty By NatureやGroup Homeとかの90’sヒップホップ。(ダンス・)バトルDJがかけるのがそのあたりだったんですよ。90’sヒップホップ、プラス当時のチャートで入ってくるリアルタイムのヒップホップで踊るみたいな感じでしたね。
――2000年代半ばくらいというと、G-Unitとかの勢いがあった時期ですよね。
Sam is Ohm:まさにG-Unitや50 Centなどがかかっていましたね。ダンス友だちの中にはLil Jonのクランクで踊っている人もいました。でも、俺は知ってはいるけどあまり馴染みはなかったです。踊るために聴く方が多かったので、自分が踊らない音楽に関しては「そういうのもあるんだな」みたいな感じでしたね。
――最近のOhmさんはR&B色の強い活動をしていますが、最初の頃に聴いていたR&Bについても教えてください。
Sam is Ohm:ヒップホップを聴いていると、R&Bって意識しなくても入ってくるじゃないですか。それでFugeesやLauryn Hillを聴いていました。あとはUsher、Chris Brown。TLCやMaxwellも好きでしたね。『You Got Served』の流れで、OmarionとB2Kからもめっちゃ影響を受けていました。
――ビートメイクは何きっかけで始めたんですか?
Sam is Ohm:ダンスをやっていた頃に、高校生のクルーみたいなの入っていたんです。その中でトラックを作る人がいなくて、ダンスのショーケースで使う曲の編集を俺がやるようになったんです。それでオーディオ編集をやっていくうちに、「これでループしちゃえば曲を作れるじゃん」って思ったのがきっかけですね。最初はひたすらサンプリングだけしていました。
――初期はいわゆるブーンバップを作っていたんですか?
Sam is Ohm:そうですね。あと当時はDEX PISTOLSの勢いがすごかったので、ハウスの影響も入っていました。ブーンバップを作りつつ4つ打ちも作るみたいな、よくわかんない感じになっていましたね(笑)。R&Bは聴いていたんですけど、全く作ろうと思っていなかったです。コードとかキーみたいなものも全く知らなかったので、あらゆる音楽書籍を読み漁って、拙い手つきでピアノを弾きつつ和音を確認しながら、無理やり身に着けました。
エレクトロのパーティで味わった多幸感
――ハウスやベース・ミュージックはどのくらいの時期に聴き始めたんですか?
Sam is Ohm:ハウスやエレクトロは20歳くらいからですね。それまではずっとヒップホップを聴いていました。ベース・ミュージックは23〜24歳くらいのときかな。ジャンルがどうこうっていうよりは、トレンドを追う感覚で新しいものを聴いていたって感じです。
――Kanye Westが「Stronger」でDaft Punkをサンプリングしたみたいな流れもありましたよね。
Sam is Ohm:そうそう。同じような感覚で、ヒップホップ以外のものも聴いたり作ったりしていたんですよね。だから自分としてはヒップホップをずっとやっているつもりなんですよ。色んな色があるみたいに言っていただけることが多いんですけど、オリジナルを作ろうと思って色んなことをやっているだけで、意識としてはヒップホップです。R&Bに関しても、Kick a Showが「歌いたい」って言い出したのが始まりなので。
でも、ちょうどそのときは自分が作るものに手癖が付いて、飽きてきた時期だったんです。それでR&Bを作っているうちに、メロウなコード進行やメロディの使い方みたいな知らない知識が入ってきたのがおもしろいと思ってそっちに行きました。
――なるほど。Kick a Show以前は結構バキバキのトラップとかも作っていましたよね。SoundCloudでKendrick Lamarの「Swimming Pools (Drank)」のトラップ仕様リミックスを出していた覚えがあります。
Sam is Ohm:そうそう。昔はああいうのはシングル盤のB面とかに入っていたと思うんですけど、それがインターネットに出てきたのがおもしろいと思ったんですよね。それでSoundCloudのリミックス合戦みたいなものに参加したくて作っていました。
――あと、前〈TREKKIE TRAX〉からダブステップを出していたこともありましたよね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。あの当時はUSのトラップ対UKのダブステップみたいな感じがあって。その流れでUKのダブステップ・プロデューサーのSwindleを聴いて、おもしろいと思って作りました。おもしろいと思ったものにすぐ興味が行くし、作っちゃうんですよね。ムーンバートンも作りました。あとジュークも。元々シカゴ・ハウスが好きだったので、その流れで「こんな新しいのあるんだ」と思って作りましたね。Traxmanが来日したときにも観に行きました。今もアフロビーツを作ってみたり、そういうトレンドに乗っていくみたいな流れはずっとありますね。
――色々な音楽を聴いている中で、一番思い入れが強いのはどういう音楽なんですか?
Sam is Ohm:ヒップホップもめちゃくちゃ好きなんですけど、エレクトロ・ハウスかもしれないです。エレクトロのパーティに遊びに行ったとき、ヒップホップのクラブにない多幸感がめちゃくちゃあったんですよね。みんなすごく楽しそうで。そのときに「こういう楽しそうなパーティで自分が作った曲をかけたい」と思ったのがDJを始めたきっかけなんですよ。そこからトラックメイクも頑張るようになりました。当時かかっていた曲は数曲しか覚えていないんですけど、その時の感覚はまだ自分の中に残っています。
真似しなければオリジナルは作れない
――研究したビートメイカーはいますか?
Sam is Ohm:人というよりは、音単位ですね。Dr. Dreのスネア、Pete Rockのキックとか。あとR&Bの「チャキッ」ってスネアとか。「ああいうのをどうやって出しているんだろう?」と思って、重ねたりとか研究しました。「パチン」ってスナップの音とかも、名前を知ってから「どうやって作るんだろう?」と思って調べてサンプルを見つけたりとか。そういう“誰か”というよりは“あの音”というところから影響を受けて、真似するようになりましたね。
――なるほど。あとOhmさんって、ほかのビートメイカーの人と比べてカバーをかなりやっていますよね。
Sam is Ohm:よく「カバーを上手いことやるね」とか「カバー好きだよね」と言っていただけるんですけど、実はカバーが“楽しいから”とか“好きだから”でやっているわけじゃないんですよ。「この曲のこういうエディットをDJでかけたい」「この曲をこうしたらいいんじゃないか」って発想で作っているんですよね。
――SoundCloudのリミックス合戦の延長線上でカバーをやっているみたいな。
Sam is Ohm:そうなんですよ。形としてはオフィシャルでリリースするカバーだけど、感覚としてはSoundCloudのリミックスと同じなんですよね。選曲は歌う人に合わせてやっています。
「接吻」と「Just The Two Of Us」に関してはKick a Showが歌う前提で作りました。最近MANONさんとやったm-floの「Come Again」のカバーに関しては、〈avex〉さんからお話をいただいて、自分がMANONさんがいいと思って呼んだ形ですね。あれは☆Taku Takahashiさんにも褒めていただいて、本当に嬉しかったですね。
――ご本人から!
Sam is Ohm:熱かったですね。「ああ……! ありがとうございます!」っていう感じでした(笑)。あれは今っぽいY2Kの流行りも含めつつ、当時の感じも残すことを意識して作りました。上手くできた感じはありましたね。
――Ohmさん的にはY2Kは懐かしさじゃなくて今っぽさなんですね。
Sam is Ohm:ぶっちゃけ自分としては懐かしいんですけど、自分が懐かしすぎると今っぽくないと思うんですよ。でも上澄みだけやってもしょうがないから、自分の記憶も50%掘り起こすみたいな感覚です。そのごった煮感みたいなものを大事にしていますね。自分のことをやりすぎると悪い意味でアクが出ちゃうので、それを抑えるようにしています。
――カバーを作っていく中で、学んだことは何かありますか?
Sam is Ohm:むしろ学びしかないですね。コード進行とかの知識を得たのはカバーをやってきたからです。トラックメイカーとかプロデューサーの方は、出す出さないは置いておいてカバーを作った方がいいと思います。スキルがめちゃくちゃ付くので。真似しなきゃオリジナルは作れないと思います。
――リミックスもかなり作っていますが、リミックス制作で何か学びはありましたか?
Sam is Ohm:曲の意図が汲めるようになりましたね。「こういう歌詞をこういうコードに載せているから、エモく聴こえるんだ」みたいな。リミックス作りで曲を解体することで、そういう見えてくるものはありました。
ドラムがカッコよくなければ次に進めない
――“史上最高のビートメイカー”を5人を挙げていただけますか?
Sam is Ohm:Dr. Dre、Metro Boomin、Flume、Max Martin、Nujabesですね。Dr. Dreは成功者としての実績がすごすぎるし、Metro Boominは若いプロデューサーの中でレベルがちょっと違う。愚直に音楽をやっている感じも好きです。Flumeは変な音楽をやっているのに、キャッチーで売れている。どうやって曲を作っているのか全くわからないんですよね。
Max Martinはビートメイカーというよりプロデューサーですけど、出てきてから30~40年近くヒット曲を出しているすごさ。Nujabesは海外での影響力とあの綺麗なサウンドをローファイな形で出すセンスがすごいと思います。
――Metro BoominとNujabesが並んで出てくるのはおもしろいですね。でも、Metro Boominはアフロビーツもやっているし、Nujabesもハウスをやっている。なんとなくOhmさんと通じるものはあるような気がします。
Sam is Ohm:自分で選んでいて、このごった煮感は俺っぽいと思いました。でもNujabesはハウスだと意識して聴いていなくて、あのローファイ感に惹かれていました。
――「ごった煮感が自分らしい」とおっしゃいましたが、複数の要素を組み合わせるのは狙ってやっているんですか?
Sam is Ohm:狙ってやっている部分と出ちゃっている部分、両方があると思います。明らかにサンプリングや弾き直しは狙ってやっていますけど、よく言われる「ダンサブル」「跳ねている」みたいなのは狙ってないです。ダンサー経験が無意識に出ているんだと思いますね。曲を作っているとき、ドラムがカッコよくないと次のステップに行けないんですよ。その発想はダンサーっぽいと思います。
――今回のEPもスネアの鳴りとか、とてもこだわっているんじゃないかと思いました。
Sam is Ohm:めちゃくちゃこだわりました。そうなんですよ。ピアノやシンセサイザーとかってコード進行やスケールみたいな理論があるんですけど、ドラムは正解がわからないんですよね。楽譜でも「強く」とか「アクセントを」とかあるけど、「アクセントってどのくらい?」みたいな風に思うんです。ドラムに関しては言語化ができていないと感じていて、時間をかけて自分の感覚でいくしかない。なのにドラムがカッコよくないと前に進めないから、結果的にめちゃくちゃ時間をかけちゃっています。沼なんですよね。
――ドラムにめっちゃこだわるのって、すごくブーンバップの人っぽい感覚ですね。
Sam is Ohm:確かに。ドラムがカッコよくないとダメで、「じゃあ、どうやってカッコよくするの?」っていうとブーンバップを作る感覚が出てくるんです。
――なるほど。特に今回のEPはヒップホップ要素が結構強いですよね。
Sam is Ohm:もちろん俺がヒップホップを好きだからってのもあるんですけど、制作環境によるものもありますね。今回の作品は、マスタリングは外注しましたけど、レコーディングやミックスは自分でやったんですよ。そうなるとハウスや2ステップ、トレンドのスタイルを作るには自分の理想の出音を出せなかったんです。なので、ドラムも含めてブーンバップ要素を入れつつ、BPM100前後でまとめました。ヒップホップはインディペンデント精神が強いので、音が悪くてもカッコよければ受け入れられると思うんですよね。XXXTENTACIONの「Look At Me!」とかすごいじゃないですか。
――なるほど。それで今回のEPはトレンドというよりは普遍的なノリが強い作品になったんですね。
Sam is Ohm:新しいグルーヴのものって、出音が全てだと思うんですよ。それは次回にしようと思って、今回は普遍的なもので固めました。でも、逆にそれで俺を初めて聴く人でもとっつきやすくなったのかなと思いますね。
パーティから生まれた音楽
――以前はインストも出していましたが、今回の作品は全曲にボーカリストが入っていますよね。
Sam is Ohm:自分のキャリアが本格的に始まったきっかけは、やっぱりKick a ShowやZEN-LA-ROCKさんのプロデュースだったと思うんですよね。〈TREKKIE TRAX〉から出したりはしていたんですけど、その後の活動まで追ってくれる人が増えたのは、プロデューサーとしての活動からかなと。インストもそのうちやるつもりではあるんですけど、今やるべきことは違うと思って今回こういう作品になりました。
――制作のプロセスとしては、ビートを先に作ってから客演を決めるような形でしょうか?
Sam is Ohm:基本的にはビートができたうえで客演を決めています。でも同時進行に近いですね。デモを作った次の日の朝から、ExcelとWordを立ち上げて呼びたいアーティストをバーッて並べて資料を作っていました。
――めっちゃプロデューサーらしい話。
Sam is Ohm:そうなんですよ。男女比やそれぞれのルーツも考えながら人選しました。自分が出したいサウンドを求めつつも、色々なことを考えるのを日夜やりましたね。
――客演の方々とはどのように知り合いましたか?
Sam is Ohm:基本的には関係値のある人に声をかけました。YonYonさんとはかなり昔に現場で知り合って、interfmのラジオ番組にも呼んでもらったり。そこは自然に声を掛けさせていただきました。Sagiri Sólちゃんも現場で知り合ったと思います。ただ、VivaOlaくんの曲を聴いたときに、異常に歌が上手い人がいると思って元々知っていたんですよね。
Wez AtlasくんもVivaOlaくんから入って、カッコいいラッパーがいるなと思って。FLEURくんも現場で会ったのがきっかけですね。Aile The Shotaくんもフェスで会ったし……おかもとえみさんとの出会いは現場ですね。
――みんな現場、パーティから生まれた縁なんですね。
Sam is Ohm:本当にそうなんですよ。自分が曲を作り始めたのもパーティがきっかけだし、今回呼ばせてもらったアーティストもみんなパーティがきっかけですね。結局自分はクラブの人なんでしょうね。
――なるほど。あと今回のEPでは、全曲でOhmさんが作詞でもクレジットされていることが気になりました。
Sam is Ohm:自分の作品を出すにあたって、“自分が作りたい音楽を作る”っていうのが大前提にあるんです。今まではアーティスト・マターで、アーティストがやりたいことをお手伝いするって感覚だった。でも自分の作品に関しては、決定権は俺。だから全部は書いていないんですけど、テーマを俺が決めてそれに合わせて書いてもらいました。その上で「ちょっとここはテーマと違う」とか、「ここもうちょっとこういうニュアンスにしてください」って意見を言わせてもらいました。プロデュースというよりは、俺が作りたいものを作るために手伝ってもらったって感じですね。
多彩なコラボレーター陣との共作
――「愛じゃないから」はヒップホップの名曲のフレーズを使っていますよね。あれは「きたな!」って思いました。
Sam is Ohm:きてますよね(笑)。Aile The ShotaくんはiriさんとかSIRUPさんみたいな、日本のR&Bが大好きなんですよ。めちゃくちゃ好きで、もう常に「好き」が溢れている。そんな彼に「俺のヒップホップ好きを当ててやろう!」って感覚なんですよね(笑)。「Aile The Shotaくんは音楽好きだけど、俺も好きだから!」っていう。そんな「好き」同士のバトルみたいな意味であのフレーズを入れました。
――曲名に反して、めっちゃ愛じゃないですか。
Sam is Ohm:そうなんですよ! めっちゃ愛です。あとAile The Shotaくんのリスナーの中にはヒップホップが好きな層も絶対にいると思うんですけど、意外とカルチャー要素を含んだ曲って少ない気がするんですよね。それで、そういう表現をしてもいいんじゃないかなと思ってトライしてみました。でもサンプリングするとストレートすぎるから、一応弾き直しています。
――「Hearth」を1stシングルにしたのはなぜでしたか?
Sam is Ohm:一発目の曲ってすごく大事だと思うんですよ。自分がソロを出すってなったとき、話題性だけでは聴かれないと思って。「じゃあ何が必要か?」と考えたとき、やっぱり歌唱力だと思ったんですよね。歌が上手ければ話題性がなくても、「この曲めっちゃいいじゃん」ってなる可能性が高いと踏んだんです。それで自分の中で“異常に歌が上手い人と言えば……”でSagiri Sólに決めたのが「Hearth」だった。自分にバリューがなかったとしても、Sagiriちゃんのパンチのある歌声だったら一発目でみんなに響くかなってところで1stシングルにしました。
――あの曲はYonYonさんも参加されていますよね。
Sam is Ohm:YonYonさんにも入っていただいて、韓国語と日本語と英語を混ぜてディスコっぽい雰囲気を出しました。YonYonさんも「これはSagiriちゃんの歌を活かした方がいい」と感じたみたいで、メロディにちょっと上下を付けてキャッチーな譜割りのおもしろさで聴かせてくれましたね。お互い共鳴し合ってできた曲です。
――3人で一緒にスタジオに入ったんですね。
Sam is Ohm:今回の作品は基本的には全部一緒に作っています。「Sleep On Me」もWezくんとFLEURくんに来てもらって、歌詞を一緒に作りました。実はあのトラックって最初はボツにしていたんですよ。WezくんとFLEURくんで一緒にやったらいいと前から思っていたんですけど、トラックが全然思いつかなかったんです。
でも、ある日Wezくんが自分のスタジオに来たときに、「色々トラック聴かせてください」って言われて、流していたうちのひとつがあれだったんですよね。最初はBPMがもっと早くて、120なんぼくらいあったんです。そうしたらWezくんが「これBPM落としてピッチ下げたらいいんじゃないですか?」って言ってくれて、あの感じになりました。そうやってWezくんがどんどんアイデアを出してくれて進んだ曲なんです。でも、自分の出したい音じゃないって判断にはならなかった。
――「アネモネ」はリリース時にDMで「クラブ・サウンドとY2KとJ-POPのごった煮」と仰っていましたよね。
Sam is Ohm:あれは特定の曲じゃなくて、それぞれのパーツをイメージして作りました。ドラムはオーセンティックなヒップホップで、コード進行はポップス。そこにY2Kっぽいサイン波のシンセっていうごった煮感ですね。それぞれのパーツをコンセプトに沿って組み込むっていう作り方です。
――あの曲だけリミックスがありますよね。
Sam is Ohm:あれはドラムはヒップホップですけど、自分の中ではJ-POPなんですよ。でも「完全にJ-POPとして売れるサウンドになっているか?」って言われたら、そうはなってないと思っているんですよね。やっぱりヒップホップのサウンドとして、言い方は悪いですけどあえてバランスが悪い状態を出したんです。だからこそ、ローファイなリミックスを作ったら“こういう落としどころもある”って理解してもらえるかなと思ったんですよね。
――ヒップホップ感をより伝えるための補足みたいな感じなんですね。
Sam is Ohm:そうなんです。逆にそのままブーンバップのサウンドでおかもとえみさんが歌っても、「HIT NUMBER」があるから俺がやる意義がないなと思ったんですよね。そこで“ヒップホップとJ-POP、Y2Kのごった煮をやるのが俺だ”と思って原曲を作って、それだと落としどころとして足りないからリミックスがあるって感じです。
EP、そしてアルバムの壮大なコンセプト
――制作において大切にしていることは何かありますか?
Sam is Ohm:今回のEPに関しては、絶対に自分が出したい音になるまで追求し続けることを大切にしました。何テイクも録るし、ミックスも何回もやり直す。プロデュースで頼まれたときは歌っている方に決定権を全て託していますが、今回は絶対に妥協せず、俺がやりたいことを突き詰めることが大前提としてありましたね。
――制作にも結構時間がかかったんですか?
Sam is Ohm:めちゃくちゃかかっています。実は最初に色々なレーベルに資料を持ってプレゼンしたんですよ。その前にトラックだけを先に作っていたんですけど、一番最初のトラックの書き出し日を見たら2020年でした。スタートするまでに3年かかっているんです。その間にトラックを作って、客演を決めて、資料を作るのに2年くらいかかりましたね。
――最初に立てた構想と実際に出来たものはどのくらい差がありましたか?
Sam is Ohm:全然違わないです。やっぱり客演がスケジュール合わなくて変わったりとかはありましたけど、最初に“これで行く”って決めたときからオケや方向性は変わっていないですね。コンセプトを固めて作るのが前提にあったので。
――どんなコンセプトだったんですか?
Sam is Ohm:キーってあるじゃないですか。頭からCメジャー、ハ長調から始まって半音ずつ上がっていって、最終的にCに戻るっていう12平均律っていうのがあるんです。正確には13曲あるんですけど、12個のキーを全て使うのがまずひとつ。だから同じキーの曲がひとつもないんです。
もうひとつのコンセプトは、ギリシャ神話のオリンポス12神。タイトルにも絡めつつ、リリックにも神話のストーリーを少し入れているんです。『Chaos engineering』っていう今回のEPのタイトルは、エンジニア用語で“システム中で架空の負荷をかけて、トライ & エラーを繰り返していく”っていう意味なんですけど、これは自分も納得するまでトライ & エラーを繰り返していくことから名付けました。
それと、オリンポス12神は混沌(カオス)から生まれているんですよね。今回のEPは最終的にはアルバムになる予定で、その手前だから“カオス”を作り出しているって意味も込めてます。全部が地続きで、コンセプトを固めてそれに対してパズルを当てていく感覚ですね。
――壮大ですね。
Sam is Ohm:壮大だからこそ、レーベルからは「これ本当にできんの?」ってことで断られたりもしました。大変だし、「なんだよそれ」って感じですよね(笑)。めんどくさいかもしれないけど、最初からめちゃくちゃ計画的にやっているから、ブレたとしてもプランBで行けるんです。自分は芸術に関しては、色んな可能性を含んでいるものの方が優れていると思っているんですよね。映画とかでも、言い切るよりも観ている人が色々な解釈ができるものの方がいいと思っているんです。だから、自分のアルバムでも色んな含みを入れたい。
――曲の要素が増えるっていうのもまさに同じ話ですよね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。増えれば増えるほどいいってわけじゃないですけど、明確に要素が沢山あるものをまず用意しなければならないと思ってやっています。やっていることはすごく壮大なので、みんなに協力していただいてありがたいですね。
――今後はどういう動きをしていく予定ですか?
Sam is Ohm:シングルがちょくちょく出て、最終的にはアルバムの形になります。今回のEPの曲はほぼ全部入る予定です。リスナーのみなさんには最近出たSIRUPさんの「FINE LINE」のリミックスとかの過去の曲を楽しんでもらいつつ、新曲を楽しみにしてもらえたら嬉しいですね。
【リリース情報】

All Songs Mix, Rec, prod by Sam is Ohm

Mastering:Metropolis Mastering
Cover Design:清水真実
※LP:1月31日(水)リリース
■ 配信リンク(https://orcd.co/yaldxqe)
■Sam is Ohm: X(Twitter)(https://twitter.com/samisohm) / Instagram(https://www.instagram.com/samisohm/)

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