ミュージカル『ジョン&ジェン』で二
役を演じる森崎ウィンを直撃~役作り
や楽曲の魅力、公演への思いを聞く

男性と女性の二人の俳優だけが登場し、現代アメリカ社会における姉弟&親子関係をつづるミュージカル『ジョン&ジェン』。作詞・作曲を担当した『アダムス・ファミリー』や『ビッグ・フィッシュ』が日本でも好評を博してきたアンドリュー・リッパが初めて手がけたミュージカル(本作でのクレジットは音楽・脚本で、トム・グリーンウォルドが歌詞・脚本を担当)で、今回が日本初演となる。演出・翻訳・訳詞・ムーブメントを手がけるのは市川洋二郎。ジョン役には森崎ウィンと田代万里生、ジェン役には新妻聖子と濱田めぐみがそれぞれダブルキャストで決定、4バージョンが楽しめるのも魅力だ。一幕ではジェンの弟ジョン、二幕ではジェンの息子ジョンの二役を演じる森崎ウィンに抱負を聞いた。
森崎ウィン
ーーオファーを受けたときの思いをお聞かせください。
今回でミュージカル出演は5作目になります。これまで大規模なミュージカルをやってきた中で、二人ミュージカルに非常に興味がわき、ぜひ挑戦したいなと。最初に台本を読んで思ったのは、これ、子役がいるってことかな、でも二人ミュージカルだから違うな、みたいな(笑)。幅広い年齢の役どころ、しかも二幕では同じジョンという名前ですが全然違う人物を演じるというところに、非常にやりがいがあるんじゃないかと感じました。何回かワークショップをやっていて、演出の市川さんとのセッションというか、彼の稽古の進め方、海外で実践されている演技のメソッドだったりというものを教えてもらいつつ、共通言語を作っている段階です。
ーー今回二役、しかも幅広い年齢を演じられます。
市川さんのインタビューも読ませていただいたんですが、ウィンくんはそのままで行けるんじゃないかとおっしゃっていたので、その言葉を信じて、そのまま行こうかなと思っています。市川さんがピュアとも言ってくださっているので、それをイメージして今日は白シャツで来ました(笑)。同じ役を演じる田代さんとは、ミュージカルライブで一度ご一緒しただけなんですが、経歴も長くて経験も豊富な方なので、稽古場で一緒に時間を過ごす中で学べるところは学んでいきたいなと。田代さんは幅の広い年齢層を演じるということを他の作品で経験されているので、ミュージカルの2時間ぐらいの中ですべてを演じ切る上でのポイントなどお聞きしたいなと思っています。今回の作品では、役者自身の持つものがすべてになってくる部分が多いと思うんです。そんなにミュージカルを経験してないからこそ出せるものもあると思うので、敢えて、共演するベテランの方々と無理に肩を並べようとせず、背伸びせず、作品を、市川さんを信じて取り組んでいきたいなと思っています。
ーー楽曲の魅力についてはいかがですか。
かなり難しいですね。メロディが全編通して流れているみたいな雰囲気がありますが、いい意味で、このミュージカルはこの曲だよねというわかりやすい曲がない感じです。メロディがセリフに近いように作られている作品だなという印象を受けました。全編を通して一曲みたいな感じというか、稽古していって、それが全部つながったときにどういうふうにまた感じるのかなと楽しみではありますが、とにかく難しいです(笑)。2人しかいないですし、楽器も少ないし、本当に力がないとできない作品というか。今までみたいに感覚でやるのではなく、もうちょっと計算的に稽古をして行かないとちょっと難しいなと。完成したときには、この楽曲の真の魅力もまた自分の中に落とし込まれるんじゃないかなと思ってます。
森崎ウィン
ーー役作りについてはいかがですか。
自分の持つ声のレンジ、音色の幅って、昔に比べたら増えていると思うんです。そこを駆使しつつ、この作品までに経験する他の仕事、映像関連だったり声の仕事だったりで得られることもたくさんある気がしていて。それで、この『ジョン&ジェン』をやるときに、あっ、あのときのあのモード、音でちょっとやってみようという風につながってくるんじゃないかなと思っています。楽曲が本当に難しいので、まず楽曲に耳慣れしておくと、稽古に入ったときに早いんじゃないかなと思っています。
ーー市川さんとのワークショップで印象に残っていることなどありますか。
ワークショップの中で、作品のバックボーンについて、みんなで妄想劇をあれこれ繰り広げたときがあって。基本的には、ジェンが自分を受け入れて次に進んでいく、それがメインになってくる話だと思っていて。大人になるにつれ、自分が間違っていたということを認めるのが、特に家族に対して、すごく難しかったりする瞬間ってあると思うんです。そういうところにすごくメッセージ性があるんじゃないかということを市川さんがおっしゃっていたのが印象的で。この作品を通してその変化を出すジェンはすごく大変なんじゃないかなと。ジョンはジョンで、同じ名前ですけれども、一幕と二幕とで全然違う人になるから、そこをどう演じ分けていくかというのは大変だよねとおっしゃっていて。とにかく大変という言葉しか出てきてないですね(苦笑)。ただ、彼の中ではもうすべてできあがっていると。ステージングも含め、全部見えているから信じてと言ってくれているので、そういうコミュニケーションの取り方をできたのは貴重だな、非常に恵まれた環境にいるなと思ってます。ジョンとジェンの両親はどういう人たちなのか話し合ったりして。父親はどうして暴力的になっているのかとか。いろいろ質問したり、そういう時間が作れるってなかなかないので。いざ稽古に入ったら、そうやって話したことを全部思い出している時間はないと思うんですよ。何か演じるときはいつもそういうのをわっと作って、それで全部忘れるんですね。ただ、それがあるのとないのとでは全然違う。映像はつまめるから編集に任せるけれども、舞台上では、何もないときの間が一番怖いんです。その「間」を生きるために自分の中で埋まっていないと、と思う。だから、田代さんが持つもの、僕が持つもの、バックボーンが全然違って当たり前で、それでいいとも思うんです。
ーー一幕と二幕のジョンをまったく別の人間として演じられるのでしょうか。それともどこかオーバーラップするところのある人物として演じるのでしょうか。
見た目的、形的に変えていくことの大事な瞬間もあると思うんですけど、この作品、たぶん皆さんジェンの目線で観ると思うから、オーバーラップするところがあるんじゃないかという考えも出てくると思うんですね。だからこそ、ジェンから見たジョンっていうことを提示する瞬間は大事なんじゃないかと思っていて。でも、二幕で出てくるジョンの自我や彼のオリジナリティ、パーソナリティは台本の中でも十分語られているし、それを出せる場面もある。いい台本って、役者はそんなに変にいろいろやることはなくて、すっとそこにいられるんですよ。もちろん、ちゃんと伝えることや、表現や体現する技術は必要ですが。演じる役者として客観的な目を持って、ジェンの目に映るジョンはこう、ジョンのパーソナリティはこう、という台本上の理解は、細かいところになりますが必要だと感じています。
森崎ウィン
ーー一幕のジョンは1985年生まれということで、1990年生まれの森崎さんとも世代的に近いですが、共感するポイントはありますか。
育ったときの環境や受けた教育はその後の人生にすごく影響してくるんだなって思いますね。役柄に出会って、同じ世代だけど、この人はこういう考えなんだっていうことを知ることは、僕にとっても勉強になるんです。それと、家族の話の部分は共感できる部分も多いかなと。うちには暴力をふるう家族はいませんでしたが、バラバラになりかけている家族というのは、自分の気持ちとしてちょっとわかるなと思う部分もあったりします。一幕のジョンが戦争に行ってしまうというところを、僕は、アメリカから海を越えたところから見ていたりする。物語上はジョンが戦争に行く瞬間しか語られないけれども、そこまでの人生の考え方だったりとかっていうのは何千通りもある。その中のひとつにふれられて、なおかつ疑似体験として自分が演じられるということは、僕の中の引き出しを増やしてくれるような瞬間なのかなと思ってます。
ーー台本が英語と日本語の対照となっていますね。
僕もそれにすごくびっくりしたんです。それは、市川さんが翻訳に自信があるからだと思います。僕はそんな翻訳できるレベルの英語力ではないですが、日本語で書かれているのはこうだけど、これどっちのニュアンスなんだろうっていうのは、言葉の壁としてあったりするんです。英語があることで、これはちょっと皮肉的に言ってるんだなとか、役者へのヒントにもなる。原作のある作品をやるときって、例えば漫画だったり、原作を読んだりするじゃないですか。でも、経験してきた中で言うと現場で役者にもともとの英語の台本を見せることってなくて。だから、今回そういう台本をいただいたとき、すごく素敵で外国的なやり方だなと思いました。
ーーミュージカルを英語から日本語に訳すとき、音の都合で情報量が減ってしまうということはよく言われますが、これまでも、英語にあたって情報やニュアンスを補って表現するということをされてきたのでしょうか。
どういうニュアンスで言っているのかわからないなというセリフがあった場合は、英語脚本を見せていただいて、その中で、この流れで来ているからこれは皮肉的な表現なんだなとかっていうヒントを得たりはしました。英語で皮肉的なことを言うときって、日本語と全然文化が違いますし。たまに日本語だと表現しきれないことが出てくるので、そういう意味では、原文を見て、拾ってきて、そういう意味合いをこめて言ってみたり。どうしたら伝わりやすいですかみたいなことを現場で相談したりしますね。
ーー作品に対してワクワクするとコメントされていました。
とにかく二人芝居なんで、役者としては試されてるというか、ある意味非常に怖いんですけれども、こういう作品に出会わないと成長しないと思うんですね。大きい作品も大好きですし、大事だと思うんですが、芸術をやる人間として、小さいところ、ごまかせないところでいかに舞台に立てるか、そこをやっておくとすごく力がつくと思うんです。本番は毎回怖いだろうなと思うんですけど、たぶんそういう刺激が好きなんでしょうね。だから、ワクワクしています。
森崎ウィン
ーーダブルキャストについてはいかがですか。
他の方が自分と同じ役を演じているのを見ると、この人にはこういう風に見えているんだ、こういう風に読み解くんだというのがわかるのが、ダブルキャストの魅力だと思いますし、観に来られるお客様も、どちらが正解ということはない中で、その違いを楽しめると思います。そこでまた好みがわかれたり、このとらえ方もありだなという提示ができるのはおもしろいし、僕自身も楽しみです。ただ、基本的にはダブルキャスト、あまり好きではないんですけど。
ーー何故ですか。
(苦笑)。比べられるのがあんまり好きじゃないからでしょうね。いや、こっちの方がいいとかって書かれたりすることもあるんですよ、僕らって。でも、何回かやっていく中でちょっと慣れましたし、精神的にも強くなっていけるのかなと思っていて。ただ、逆を言えば、自分以外の相手役がダブルキャストなのはすごく楽しいんですよ(爆笑)。『ピピン』のとき、おばあちゃんのバーサ役を中尾ミエさんと前田美波里さんが演じていらして。お二人とも全然違うし、相手によって自分の演技が変わっている瞬間もすごく楽しかったですね。
ーーどんな作品になりそうですか。
日本初演になりますが、役者にとってはストイックで、すごく成長できる作品になるんじゃないかなと思っています。お客様にとっては、ジェン目線で、自分の中で、自分を許せる、自分を受け入れるきっかけになる、そんな勇気をもらえる作品になるんじゃないかなと思っています。特に家族について、自分にもそういう瞬間があるのかなとか、けっこう考えさせられるというか。僕は弟がいるので、ジェン目線で見てしまったり、そんな瞬間もあるんですよ。家族への向き合い方、言葉のかけ方ひとつ、そんな、一歩手前でちょっと休憩して考える瞬間を与えてくれる作品になるんじゃないかなと思っています。
森崎ウィン
取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=山崎ユミ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着