マスネ作曲『サンドリヨン』に挑戦す
る関西歌劇団 ―― ロマンチックにし
て、マジカルでコミカルな『シンデレ
ラ』の物語、作品の魅力を、演出の井
原広樹と6名の出演者に聞いた

関西歌劇団は第103回定期公演で、9月16日(土)~17日(日)に吹田市文化会館 メイシアター大ホールにてジュール・マスネ作曲『サンドリヨン』を上演する。『サンドリヨン』とは『シンデレラ』のフランス語表記の音写。『シンデレラ』の物語というと、童話やディズニー映画を思い出すが、オペラに限って言うとジョアキーノ・ロッシーニ作曲『チェネレントラ』がまず思い浮かぶのではないか。しかし、ストーリー的にシャルル・ペローの童話に近いのは、マスネ作曲の『サンドリヨン』だそう。関西歌劇団が初演となる『サンドリヨン』を採り上げる意味や、作品の魅力、本番に向けた抱負などを演出家の井原広樹と、出演者を代表してサンドリヨン役の北野智子、岡本真季、王子役の清原邦仁、妖精役の日下部祐子、アルティエール夫人役の西原綾子、堀口莉絵が語ってくれた。
第102回定期公演『偽の女庭師』 中央が清原邦仁、左端が堀口莉絵 (22.9.17 メイシアター) (c)早川壽雄
●『サンドリヨン』はバレエも入るスケールの大きなグランドオペラです。
――関西歌劇団がフランスオペラ『サンドリヨン』を採り上げられます。
井原広樹:1949年に朝比奈隆先生が創設された関西歌劇団は、長い歴史を有するオペラ団体です。伝統的にイタリアオペラをメインのレパートリーとしてやって来ましたが、時代と共に価値観を見直す必要に迫られています。今は公演の規模で勝負する時代ではありません。エンターテインメントとしてのオペラも大切ですが、歌手の育成を意識した公演を打つ必要があります。オペラ制作がヨーロッパほど盛んではない日本は、アメリカや韓国同様に、イタリアオペラをやりながらも(リヒャルト・)ワーグナーなどのドイツオペラもやるといった具合にあらゆる国のオペラをやって行かないといけません。最近の傾向で、音楽大学などの教育機関では、フランス語やフランス音楽が見直されています。関西歌劇団のオペラ研修所でもマスネの『サンドリヨン』に取り組んだ実績が有り、若い歌手たちも育って来ているので、この機会に本公演でもフランスオペラに挑戦しようと云うことになりました。 
井原広樹(演出家) 写真提供:関西歌劇団
――演出のポイントを教えてください。
井原:私も『サンドリヨン』を演出するのは初めてです。フランスのグランドオペラですので、当然バレエも入るスケールの大きなオペラです。ストーリーは、皆様が思い描く『シンデレラ』の物語。妖精が弱者を魔法で救い、夢をえてくれるお話ですが、そこを今流行りの ダイバーシティ―・インクルージョン(人間の多様性を認め、受け入れて活かし、活躍できる場を与える)を意識して作っていきたいと思っています。『サンドリヨン』は、ロマンティックな上に、マジカルでコミカルな作品。マジカルな部分は映像や舞台美術を駆使して作ろうと思っています。
髙木愛(演出助手)、井原広樹(演出)

緻密な演出に定評のある井原広樹  北野智子(サンドリヨン)と 舛貴志(父親 パンドルフ)

桝貴志(パンドルフ)と西原綾子(アルティエール夫人)夫婦を演出する井原広樹
――出演者の皆様にもお話を伺います。北野さんは、2年前の『アドリアーナ・ルクヴルール』が関西歌劇団のデビューだったそうですね。
北野智子:今回の『サンドリヨン』が2作目ですが、どちらもタイトルロールを演じさせていただき、とても光栄に思っています。『サンドリヨン』は2009年の堺シティオペラの公演で、小妖精の役で出演しています。14年を経て、着替えを手伝う役から着替えさせてもらう役になりました(笑)。オペラのヒロインというと、前回のアドリアーナもそうですし、トスカなんかも、凛としていて華やか、そして儚い部分を持ち合わせた人物が多いように思いますが、シンデレラはナチュラルに自己犠牲を厭わない素直な心の持ち主です。とにかく井原さんの演出がとても緻密です。サンドリヨンと王子のシーンはうっとりさせられますし、意地悪な家族とのシーンは、とてもコミカルに作られています。妖精のシーンは映像や舞台美術を組み合わせて心躍るファンタジーな世界が広がると思います。
北野智子(ソプラノ) 写真提供:関西歌劇団
第101回定期公演『アドリアーナ・ルクヴルール』 写真中央が北野智子(アドリアーナ)(21.9.26 メイシアター) (c)早川壽雄
――今回、王子役が、メゾソプラノのズボン役(男役)とテノールという具合に、二日間で2パターン用意されています。
北野:そうなんです。私が出演する初日組は、メゾソプラノの橘知加子さんと一緒で、女性同士のカップルです。宝塚歌劇団のようなファンタジーで美しい世界を表現出来ればと思っています。シンデレラは、清潔で美しく純粋で素朴といったように皆様のイメージがあると思います。オペラを通して、純粋無垢なシンデレラが、王子様をも包み込むような大人の女性になる過程を、しっかり演じて行きたいです。私は基本的にはイタリアオペラがレパートリーですが、今回はフランスオペラに挑戦。関西にはフランスものを専門に研究されている方が多くいらっしゃいます。そんなエキスパートの皆様にも納得して頂けて、お客様に喜んで貰えるようなシンデレラをご披露できるように、頑張ります。
桝貴志(父親 パンドルフ)と北野智子(サンドリヨン)

今回は原語(フランス語)上演 フランス語のディクションを勉強中
――岡本さんは現在、ボーカルアンサンブル「ノスタルジア」のメンバーとしても活動をされていますが、この作品がオペラのタイトルロール・デビューですね。

岡本真季:はい、連日相当な緊張感をもって稽古に臨んでいます。音楽スタッフの皆様や先生方に助けて頂いていますが、未熟な私です。この際、盗めるモノは全て盗んで、当日を迎えたいと思っています。誰もが知っているシンデレラの物語ですが、お客様が改めて別の角度からオペラ作品として楽しんで頂けると嬉しいです。
岡本真季(ソプラノ) 写真提供:関西歌劇団

ヴォーカルアンサンブル「ノスタルジア」 左から2人目が岡本真季 写真提供:関西歌劇団
――役作り的にどんな事を考えて演じられていますか。

岡本:シンデレラの設定は14、5歳だと思います。素直で朗らかな娘が、辛い経験を経て王子さまと一緒になれた喜びをしっかり表現したいです。お客様もシンデレラの気持ちになって、一緒にハラハラドキドキして頂きたいです。私の組は王子さまがテノールの清原さんです。メゾソプラノが歌っている音源が多く、男性が王子さまをされるのは、記録を見ても少ないようです。初日組とは違い、リアルな力強い王子さまとの関係をお楽しみください。清原さんは、学生時代から私の事を見て頂いている先生ですので、個人的にはとても心強いです。
演出の井原広樹と、サンドリヨン役の北野智子、岡本真季(左より)
――清原さんは『サンドリヨン』は歌われたことは有りますか。
清原邦仁:サンドリヨン役の北野さんと同じで、2009年の堺シティオペラに学長の役で出演しています。十数年を経て王子役です。この役はメゾソプラノがやるケースが多く、テノールが歌っているのはほとんどないと思います。歌ってみると、やはりメゾの役だなと思いました(笑)。テノールが歌うにはやはり低い声が多いです。ただ、テノールのカッコ良さが生きるところもあります。第3幕の「心臓をくれてやるから、彼女に会わせてくれ!」と叫ぶシーンのオーケストレーションは、テノールの方が男らしくてイイんじゃないでしょうか。ファンタジーな感じは、メゾの方が向いているかもしれませんね。メゾとテナーでは、パッサージョの位置が違うので、聴いていて全く違った音楽になると思います。出来れば両公演とも観て頂きたいです。50歳近くになって王子さまの役は難易度が高い(笑)。若い頃、ずっと上の先輩方が若い役をやっている時に感じた違和感を、若い子に感じさせたくないと思います。
清原邦仁(バリトン) 写真提供:関西歌劇団
――いちばんの聴かせどころはどこになりますか。
清原:3幕の森のシーンですね。霧がかかった森は、夢か現実か分からない世界で、王子からすると夢の中で思い描いた幻の女性を探す舞台となります。理想の女性サンドリヨンとの出会いは、現実なのか夢なのか。双方を行き来する美しい音楽劇をお聴きください。
第100回定期公演『オリンピーアデ』 写真中央が清原邦仁(クリステーネ)(19.9.21 あましんアルカイックH・オクト) (c)早川壽雄

――妖精を演じられる日下部さんは、フランスオペラに精通しておられます。

日下部祐子:関西歌劇団オペラ研修所の研修演目で、『サンドリヨン』を1時間にまとめたものを採り上げたことがありました。色々と学ぶことが多く、成果もあったので、本公演でも採り上げようという事になりました。マスネの音楽は、美しい上に分かりやすく、映像を交えた演出効果を用いることで、ミュージカルのようにお客様に喜んで頂けると思います。そしてフランスのグランドオペラですので、今回は法村友井バレエ団にご協力を頂き、華やかなバレエが入ります。イタリアやドイツものに比べると今ひとつ馴染みが薄いと思われるフランスオペラですが、現在、大学などの教育機関ではフランス語を学び、歌う事が一般的になって来ています。フランスオペラが一般的なレパートリーになるのも、そんなに先の事では無いように思います。役の上では、6人の小妖精を従えて、マジカルな場面を担当しています。コロラトゥーラで魔法のような声で超人的に歌いますが、お客様に難しく感じられないように心掛けています。 
日下部祐子(ソプラノ) 写真提供:関西歌劇団

日下部祐子(メガークレ) 第100回定期公演『オリンピーアデ』(19.9.21 あましんアルカイックH・オルト) (c)早川壽雄
――西原さん、どんなアルティエール夫人を演じられますか。

西原綾子:私が考えるアルティエール夫人は、決してコミカルオンリーではありません。彼女は、美貌や気品、色気に加え、エスプリなどにも長けていて、そういった全てを駆使して現在のポジションまでのし上って来ました。そしてまたとないチャンスが到来し、自分の娘を巻き込んで、最後の目的を完遂しようと思っているのだと思います。歌唱的には本心が漏れ出ている部分は敢えて汚い色を使って歌います。自分の生き方に自信と誇りを持っているので、優雅に歌っていても圧倒的な存在感。堂々と歌い上げる「家系図のアリア」は、いちばんの聴かせどころ。衣装も美しいので、ご期待ください。色々なキャラクターの出演者が、それぞれ適材適所で登場して来ますので、楽しんで頂けると思います。
西原綾子(メゾソプラノ) 写真提供:関西歌劇団

西原綾子(アリティエール夫人)、柴山愛(ノエミ)
――堀口さんは、ズボン役のイメージが強いです。

堀口莉絵:今回は女性の役ですが、強烈に個性的な役です(笑)。怖くて意地悪だけど面白い継母を演じたいです。高貴な方ですが、頭が筋肉で出来ていて、瞬間湯沸かし器のように感情の動きを少々オーバー気味に演じたいです。フランス語の語源を重視した早口言葉のような歌唱は、他のオペラではあまりないかもしれませんね。「家系図のアリア」は最大の見せ場の一つで、スケールの大きな音楽です。ドレスは見るからに性格が表れて見事ですし、早変わりのシーンもあって楽しんで頂けると思います。両方の組で、全く違った作品になると思います。出来れば、両方観て頂くことをお勧めします(笑)。
堀口莉絵(メゾソプラノ) 写真提供:関西歌劇団
堀口莉絵(アルティエール夫人)、北野智子(サンドリヨン)、柴山愛(ノエミ)

イタリアやドイツオペラに比べると比較的なじみの薄いフランスオペラ、マスネの『サンドリヨン』に挑戦する関西歌劇団から目が離せないところではあるが、ここに来てフランスオペラを上演するホールやオペラ団体が増えているように感じる。関西では住友生命いずみホールが、来年から指揮者 佐藤正浩プロデュースで、フランスオペラを3作品(ジョルジュ・ビゼ―『真珠とり』、フランシス・プーランク『カルメル会修道女の対話』、マスネ『ウェルテル』)上演すると発表している。

フランス音楽特有の、色彩豊かで叙情的な旋律が特徴的なフランスオペラ。フランス語の美しい響きは、それ自体が歌っているようにさえ聞こえるのだが、フランスオペラ最大の特徴は、華やかなバレエが登場するところ。関西歌劇団の『サンドリヨン』には、関西が誇る実力派バレエ団「法村友井バレエ団」が出演する。
法村友井バレエ団 (c)Fumio Obana
紅葉の秋も食欲の秋もいいけれど、今年の秋は、芸術の秋、音楽の秋で、どっぷりオペラに浸ってみてはいかが?! 総合芸術と言われるオペラを一度も聴かないなんて、つくづく勿体ないと思うのだ。子供心にワクワクドキドキした『シンデレラ』の物語が、ゴージャスなオペラとして貴方の目の前に現れる。楽しまない手は無い。

オペラでしか味わえないこの感動を、劇場で味わってみて!   第101回定期公演『アドリアーナ・ルクヴルール』(21.9.26 メイシアター) (c)早川壽雄
取材・文・撮影=磯島浩彰

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