音楽座ミュージカル『シャボン玉とん
だ宇宙(ソラ)までとんだ』で主人公
を演じる畠中祐に聞く

シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』は音楽座ミュージカルとしてのスタートした第一弾として1988年に初演された原点とも言える作品。その後もキャストを変えながらここぞのタイミングで上演され、そのたびにさまざまな受賞も成し遂げてきた。そして2023年秋、初演から35周年にちなんで東京など全国で公演を行う。
遊園地の迷路で出会った作曲家を志す青年・三浦悠介とスリとして育てられた孤児・折口佳代の数奇な出会いが、地球に飛来した宇宙人の存在もあって想いもよらない展開を招く。主人公の悠介役(Wキャスト)・畠中祐は、実は1993年に悠介役を演じた畠中洋、1991年に佳代役を演じた福島桂子の長男でもある。声優や歌手として活動してきた彼が、満を持してミュージカルの舞台に立つ心境を伺った――。

――(インタビュアーの)私が音楽座ミュージカルに出会ったのは、1993年に東京芸術劇場で3カ月・3作品連続公演を行ったときなんです。『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』もそのラインナップに入っていて、お父様の畠中洋さんが音楽座ミュージカルでの初舞台を踏まれたときだったようです。
ええ、音楽座さんがそんなロングラン公演をされていたんですか? たぶん僕がまだ母のお腹にいたころですね(笑)。3カ月で3作品を上演するなんて超巨大な組織ですよね? だって別働隊がいて、次の作品の稽古を並行してやっていかないと成立しないじゃないですか。僕の母はちょうど『泣かないで~遠藤周作著「わたしが・棄てた・女」より~』(1994)のころに僕を身ごもっていて、さすがに無理だろうと降板したそうです。
――そういう意味では、祐さんのDNAの中に音楽座ミュージカルのエッセンスが入っていたのかもしれませんね?
そうですね。赤ちゃんのころは抱えられてよく舞台を見ていたようです。両親は日常的に『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』『アイ・ラブ・坊っちゃん』など出演した舞台のナンバーを家で歌っていましたからなじみはありましたが、音楽座ミュージカルを意識して見始めたのは物心ついた小学校の高学年くらい。母親が保管していた公演の資料やビデオを通してです。ほかには『21C:マドモアゼル モーツァルト』を母と見にいったときに「ああ、ここが両親がいた場所なんだ」と思った記憶がありますね。そこから改めて音楽座ミュージカルを意識したのは本当に最近です。
――今回、出演のオファーがあったときは、どんなことをお思いになられましたか?
いえ、実は音楽座ミュージカルさんから声が掛かったわけではなく、僕から連絡をさせていただきました。きっかけは、高野菜々さんが「プリズム」というCDをリリースされて、その記念のライブにゲストで呼んでいただいて『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』のナンバー「ドリーム」を歌うことになったんです。このとき改めて母の資料を当たったときにすごく面白い作品だと思い、僕が所属する事務所(賢プロダクション)の社長に「『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』は本当にいい作品だからやりたい」と頼み込んだんです。また音楽座ミュージカルの相川タロー代表と、事務所の社長が幼なじみだったので、声優としての活動も並行して行わなければならないので、なんとか調整をつけてもらえるんじゃないかというのもありました。だから出演が決まってうれしかったです。とは言え音楽座ミュージカルでは日々の稽古がオーディションのようなものなのでいつ降ろされるかわからない緊張感も同時にありますけどね。
――その辺の厳しさもご両親からは伺っていらっしゃったわけですか。
そういう話は中学校ぐらいから聞いていました、もう本当に過酷だったみたいです。でも僕自身は「ここができていない」とはっきり言ってもらった方が、何をどうすればいいのかわかりますから、その方がやりやすいと思っています。
――そういう背景があったのに、最初から舞台俳優になろうと思わなかったのですか。
いえ、小学校のころから舞台役者を目指していたんですよ。ただ、最初に受けたオーディションが声のお仕事で、そのときに合格させていただいてからずっと声の仕事を続けてきたんです。声の仕事の現場も非常に厳しくて、生半可な気持ちじゃできない。舞台をやってみたいとかは置いておいて、声の現場に集中せざるを得ない状況ではありました。もうここまで必死でしたよ。
――声優・祐さんのファンに対して、舞台に架け橋を築いていただければなあと思います。
僕のファンの方々は、もしかしたらミュージカルというものに触れたことない方が多いんじゃないかと思いますし、演劇そのものに触れることも初めてという人もいらっしゃると思います。確かにそういう方々が『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』を見てくださったらいいなと思います。何よりも本当に面白い作品なので、ご覧になって楽しんでいただけたらうれしいです。ただ、架け橋になるためにはもっともっと声優としても頑張らなければいけません。今回『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』に出演できることは本当にいい経験になるなって。板の上に立つということは役者としてとても大事だと思っています。その経験も声優としての活動に還元できると思うし、自分の中で役というものを育てていくという作業が本当に楽しみです。今回は本当にいいチャレンジをさせてもらっています。
――『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』をすごく面白い作品だとおっしゃっていますが、具体的に言葉にしていただけますか? 祐さんが心惹かれた部分を教えてください。
この戯曲自体は35年前に初演されたものですが、今回はかなり初演に寄せて上演される予定です。ストーリー的にはボーイミーツガール、二人がいろいろな困難を乗り越えて結ばれるという超王道ラブストーリー。そこにSFやさまざまな要素が入ったコメディになっています。和風洋風中華エスニックといろいろな味わいが入っているのにしっかりとした、すごくまとまったコース料理になっているんです。それぞれの要素がしっかりバランスをとって成り立ってる、そこが面白いなと思っています。
――現在、課題だと感じていらっしゃることはありますか?
すべて頑張らないとなと思ってるところです。まだ皆さんそろっての本格的な稽古は始まっていませんが、声優の仕事と並行してやっていくので、遅れてしまう部分が出てきてしまう。そこは自分の宿題として解決して稽古場に臨まなければなりません。具体的には何より踊りがやばいなという感じです。バレエもダンスもそんなに習ってこなかった僕としては、音楽座ミュージカルさんの朝稽古でバレエをやったりとかすると、もう本当に如実にプロと素人の差を感じますね。小さいころから鍛えられている人たち、毎日稽古でやってる人たちとは違うなって。
――でもCDをリリースされてもいますし、歌は武器ではないですか?
いやあ、ミュージカルでの歌い方と、アーティストとしての歌い方は違いますね。アーティストとして「楽しんで!」という感じの要素もありますが、ミュージカルはやっぱり物語の流れがあるじゃないですか。たとえば家でミュージカル・ナンバーを鼻歌で歌おうものなら、両親からめちゃくちゃ怒られていましたよ。「お前の歌い方はなんだ」って。だんだん思い出してきました(笑)。ミュージカルの場合は、セリフの延長線上で生まれた感情が歌になっていく。むしろセリフそのものなんですよね。もう両親から口うるさく言われてきたのは「セリフだから」「言葉の延長線だから」「歌おうと思って歌うな」みたいな感じでしたね。だから家族でカラオケをやるならミュージカル・ナンバーは歌わないんです。怒られたくなかったから。僕はフェイク(原曲の音程やリズムを変えて歌うこと)とか大好きなんですよ。それはJ-popならいいんですけど、ミュージカルでフェイクを入れると「どれだけいやらしいことしてるんだ」って怒られるんです。
――共演される皆さんについてはいかがですか。
一番絡みがあるのは佳代役の高野さんです。高野さんは本当に経験豊かですし、めちゃめちゃおんぶに抱っこになるだろうなという予感がします。それに高野さんはずっと佳代役をやって来られたわけじゃないですか。そんな高野さんに対してどれだけ新鮮なものを提示できるかが勝負な気がします。高野さんの中で完成したものがあるのであるならば、そこに少しでも変化を起こせるかどうかは僕のアプローチ次第です。まったく新しいものをつくっていくのであるならば、ちょっとアンバランスなことになっても自分の表現をぶつけてみたい気持ちはあります。もう完成されたものがそこにあるだけだったら、何も生まれないだろうし、僕が挑戦する意味もありませんよね。とにかくその瞬間瞬間で素直な思いをぶつけていきたいです。佳代がどれだけ輝けるか、僕にかかっている気がします。今甘えたいなって思っちゃいましたけど、甘えていられないです。そんな場合じゃないですね。悠介として本当をずっと出し続けて、佳代からも本当のことをもらえるか。その先に奇跡が起こったらいいなって思っています。
――お父様と同じ役をやられることについてはいかがですか? お父様とその話はされていらっしゃいますか?
父からも母からも「うれしいよ」と連絡が来ましたので、「うん、ありがとう」って返しました。そう多くは語ってないんですけど、見にはきてくれるようです。きっと重い口が開くのは終わってからですね。それまでは泳がせるかみたいな感じなんじゃないですか(笑)。親子で同じ役をやれるなんてすごい幸せなことですが、それ以前に僕としては挑戦という思いが大きいんです。
取材・文=いまいこういち

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着