ドレスコーズ

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【ドレスコーズ インタビュー】
戯れのような言葉にも
本気なのかもしれない感じがある

もともと決まっている母音があって、
そこに当てはまる言葉を探していく

《夏のあやまち 無期懲役》もさまざまな意味でとらえられそうです。“夏のあやまちの恋は無期懲役に値する罪”と解釈することもできますし、“夏のあやまちのような恋は、実は一生添い遂げる恋”と解釈することもできますから。

語呂もいいですよね。口に出すと気持ちいい。

“無期懲役”って面白い言葉ですね。“一生をそれに捧げる”という覚悟も言い表し得るというのは発見でした。

牢屋に入っていないというだけで、みんな何かの無期懲役かもしれないですね。

《季節は カレンダー》も面白いです。

これは本当に何も言っていない(笑)。意味が分からない。

(笑)。“よく意味が分からないけど、なんかいい!”っていう感じです。

“どういうこと?”って自分でも思いました(笑)。サビは特に語感が肝心だと思っていて、メロディーができた時点でもうある程度の母音が決まっているんですよね。そこに当てはまる言葉を探していきます。

歌い出しの《すべてとける 烈日炎炎》の“烈日炎炎”は知らない言葉だったので調べたんですが、これって中国語なんですね?

はい。漢字四文字のタイトルを考えようとしたのかな? “中国語 夏”とかで検索して、たまたま出てきたのが“烈日炎炎”でした。これも音の響きが気持ち良い。

先ほども少し触れた《ともだちがするだけのくちづけ》もどういうニュアンスの口づけなのか、さまざまなとらえ方ができそうです。本当に戯れの口づけかもしれないですけど、照れ隠し、あるいは自分の本心から目を逸らそうとしている表現とも言えそうじゃないですか。

小学生の頃にテレビで観た岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』っていうドラマをいまだによく覚えていて、先日久しぶりにDVDで観返したんです。その主題歌がまたいい曲で、全編英詞なんですけど《Hold me like a friend Kiss me like a friend》という歌詞で、“なんて悲しい歌詞なんだ…”と改めて感動しまして。そこからいただいたのが《ともだちがするだけのくちづけ》です。

実際にこういう体験をしたことがあるかどうかは別として、“夏にはこういう空気感があるよね?”という感覚になる音と言葉が満載されているのが「少年セゾン」だと思います。

失ったもの、あるいはこれから得るかもしれないもの。どちらでもいいんですけど、そういうものに対して人は等しく郷愁、ノスタルジーみたいなものを抱くんだと思います。“こういうことが過去にあったかもしれない”あるいは“これから起こるかもしれない”という感情ですね。

まだ体験していない状態で抱く“いつかこういうことがあるかもしれない”という憧れは未来に対する感情ですけど、過去に対するノスタルジーと通ずるものがありますしね。

まさにそのとおりだと思います。10代の頃に観た映画は、だいたい出てくる人物たちは自分よりも大人でした。今ではだいたいの登場人物が年下になりました。でも、今観ても昔観た時に抱いたような憧れがあるっていうのは、つまりそういうことなんでしょうね。

“こういう憧れが自分の中にはあるんだ”と鮮明な輪郭を得る感覚になるのは、何らかの作品に触れる際の大きな喜びですけど、ドレスコーズの音楽もそういうものをたくさん授けてくれるんですよね。

ありがとうございます。そういうものをひとつでも多く見つけたい。誰もまだ表現していない感情、状況とかを。

前作の「最低なともだち」から引き続き、この曲のMVも山戸結希監督が手がけていますが、MVをお願いするにあたって、山戸監督に対して志磨さんから何か事前にお伝えした事柄、キーワードなどはありましたか?

いいえ、歌詞と自宅録音のデモをお送りしたのみで、それ以外の補足や注文は特に何も。

では、志磨さんが山戸監督から受けた「少年セゾン」に関する質問などは?

ご質問も特になかったように思いますね。はじめから曲の解釈は監督にお任せするつもりでしたが、撮影前にプロット(脚本)をいただいた時点で、そこに齟齬はまったくなかったですし。まさに以心伝心という感じです。

そんな「少年セゾン」のMVを観た際、“山戸監督は、この曲のここに着目したんだ”“この部分をこう解釈したんだ”“こういうとらえ方は予想外で面白いな”…といったポイントがいくつかあったのではないでしょうか?

やっぱり主人公のパートナーとして選ばれた相手が人間ではなくて犬だったところですかね。その発想はなかった。実は撮影前に監督から届いたプロットの中には、相手が“少年”でロケーションもストーリーもまったく違うパターンも存在したんです。それも素晴らしいアイディアでしたけど、監督から“やっぱり犬を撮りたいです”と強いお答えをいただきましたので、“もちろんです”とお答えしました。

“黄色”のモチーフ(ゴールデンレトリバーのモーリがつけている黄色いリボン、黄色いビニールプール、黄色いボール)、“死”を想起させる要素(墓地、ナツキが最初の辺りで身に着けている黒い服、エンディングで現れる大当たりのアイスキャンディの棒が墓標のよう、死者の魂を思わせる光の粒子、異界からの使者をイメージさせる黒い服を身に纏った志磨さん)など、MV全体に散りばめられている様々、ナツキの表情の変化、風景を通じてたくさんの想像ができるMVである点についても言及していただけますと嬉しいです。

前作の「最低なともだち」のMVの打ち合わせで“自分が今作ろうとしている音楽のテーマは“別れ”や“死”といったものです”と山戸監督にお伝えしまして。そこで監督と自分たちに与えられている時間の有限性であるとか、別れが確約されている上での我々のドラマであるとか、そういったことについて少し話しまして。この「少年セゾン」も山戸監督が光で照らすことによって、曲単体ではそれほど強くない“別れ”や“死”といった影の部分もさらに強く濃くなったというような印象ですよね。僕もどこか冥府の使者のように見えますし。

「少年セゾン」のMVは7月初頭に神奈川県の三崎の辺りで撮影された旨をお聞きしております。撮影の際の印象的な出来事、ナツキ役の服部樹咲さん、モーリとのエピソードなどありましたらお聞かせください。

服部さんはこの撮影日がなんと17歳のお誕生日でして。そんな記念すべき夏の一日をこの作品に与えてくださって本当にありがたいなぁと。モーリさんはすでに大きなドラマや映画に何本も出演されている先輩で(笑)。懐いてもらえるようにビーフジャーキーをたくさんあげました。僕は動物と暮らしたことがないので、犬と触れ合うのはこの日が生まれて初めてで。抱っこしたのも初めてでした。

ジャケットイラストは「エロイーズ」(2022年5月発表の配信シングル)以来、ドレスコーズの作品を手がけている不吉霊二さんですが、今回も素晴らしいですね。

ね。完璧な答えを出してくださった感覚があります。

ふたりで王冠を共有していますね。

でも、黒い王冠というところが何となく不吉ですよね。ふたりがとらわれた監獄のようにも見える。船が遠くにありますけど、ふたりは船に向かって泳いでいるのか? それとも自ら船を降りたあとなのか? とにかく歌詞を完璧に解釈してくださっています。

曲のリリースが続いていますが、アルバムの制作も進んでいるんですよね?

はい。もうちょっとで仕上げに取りかかる感じですね。昨年の『戀愛大全』と対になるアルバムになると思います。

取材:田中 大

配信シングル「少年セゾン」2023年7月7日リリース EVIL LINE RECORDS

ライヴ情報

『red cloth 20 th ANNIVERSARY × ドレスコーズマガジン
《 新宿紅布 のドレスコーズ 》』
7/31(月) 東京・新宿red cloth紅布

ドレスコーズ プロフィール

2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライヴやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。8thアルバム『戀愛大全』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』(2023年)が発売中。9thアルバムが2023年9月13日に発売予定。秋にはアルバムをひっさげたツアーも開催予定。近年は菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)などに参加。俳優として映画『溺れるナイフ』Netflixドラマ『今際の国のアリスSeason2』などに出演。映画『零落』(2023年 浅野いにお原作・竹中直人監督)では初のサウンドトラックを担当。現在は東京新聞にてコラムも連載中。ドレスコーズ オフィシャルHP

「少年セゾン」MV

OKMusic編集部

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