ヴァイオリニスト西江辰郎「お客さま
とともにブラームスの心の奥底に入り
込んだ旅へ」~『ヴァイオリン・リサ
イタル』開催

ヴァイオリニストの西江辰郎は、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務めるほかに、久石譲ミュージック・フューチャーのバンドマスター、ジャズ・ピアニストの上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットのメンバーとしてなど、多彩な活動を繰り広げている。そんな彼が、2023年8月4日(金)にHakuju Hallでピアニストの岡田将とともにブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲によるリサイタルをひらく。
この度、西江辰郎にリサイタルへの思いを聞いた。
ーー今回、リサイタルをひらこうと思われたきっかけは何ですか? そして今回は、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲を演奏されます。その選曲の意図は何ですか?
まず、この機会をいただいたこと、そして私の演奏するブラームスを聴きたいとおっしゃってくださった方がいたということがあります。そしてオーケストラ作品だけではなく、ソナタなど、ソロも自分で深く勉強できる機会も増やせたらと思い、今回の演奏会に取り組むことにしました。
私自身はいままで、自らが最も共感できる作品を中心に据えて構成を考える、という方法でプログラムを組んできました。ですからひとつの公演すべてをひとりの作曲家の作品でまとめる、あるいは特定の作曲家のソナタをひと時に全曲演奏するといったことには全く意味を見出せていなかったですが、最近ブラームスのソナタ3曲をストレートに直球勝負で演奏するのもいいのではないか、と思えてきました。
そして、こうしたプログラムを組んでみると、自分が想像していた以上にブラームスが世の中の人々に愛されているということもわかってきました。

西江辰郎    (c)Kazuhiko Suzuki
ーーまずは、ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」の聴きどころや魅力を教えていただけますか?
第1番を世に出す前に、ブラームス自身はすでに3曲とも5曲ともいわれるピアノとヴァイオリンのためのソナタを書いていますが、本人の厳しい自己批判により破棄されたといわれています。
この第1番は冒頭から、ブラームスの気に入っていた最初の一滴(ひとしずく)すら、どう表現されるべきか、ヴァイオリニストにとっても、ピアニストにとっても、とても気を遣うのです。
細部にわたって綿密に書かれているので、全曲を通じてある意味脆いというか、僅かでも虚栄や邪念が入ってしまうと何か失われてしまうものがあります。

すっと心に語りかけるような動機や、寛大さ、懐の深さ、人の悼みに寄り添うような旋律、情熱的な人柄などをかんじさせるとても魅力的な作品ですね。
ーーヴァイオリン・ソナタ第2番はいかがですか?
第2番は、この曲のみを演奏する場合と3曲のソナタと共にプログラムに組むのではアプローチの仕方を変える必要があるのかもしれないと私は思っています。
この曲が書かれたスイスのトゥーンのように雄大な風景が広がります。
ーー最後はヴァイオリン・ソナタ第3番です。
いずれの3曲もピアノとヴァイオリンのためのソナタと題して作曲されていますが、ピアノとヴァイオリンの比重という点においても、3番ではさらに対等に扱われているように思います。
言葉では表現したくないような個人的な思いや事柄でさえ、音では語れるように、巧みにその情熱や思いといったものが込められていると感じます。

西江辰郎    (c)Kazuhiko Suzuki

ーーこのヴァイオリン・ソナタ3曲を通しての魅力や特徴について教えていただけますか?
渋く枯れた音楽とでもいうのでしょうか、どこをとってもブラームスの作品だなと思います。譜面を深く読み込まないと、真意に沿わない表現になってしまいますし、ブラームスはピアニストでもあったので、弦楽器奏者であったなら思いつかないような手法で、曲を書いていると思うのですが、そこにはその良さもあります。
ヴァイオリンがよりピアノに近く、ピアノがよりヴァイオリンに近く、表現をどう絡み合わせていくか。そしてお互いを束縛しないような形でどのように演奏するか。私にとっては大切なポイントなのですが、ブラームスはそういった音楽的にも技術的にも熟練が求められる作曲家ですね。
ーー今回のリサイタルを聴衆のみなさんにどういう風に聴いてほしいですか?
何にもとらわれないで、オープンな気持ちで聴いていただければ、うれしいなと思います。
誰しもが経験したことのある、抱えているであろう気持ちに近い表現がたくさん散りばめられている作品群なので、是非、この日にホールでブラームスの懐の深い世界を一緒に旅できればうれしいと思います。
ーー共演の岡田将さんについてご紹介していただけますか?
岡田将
岡田さんは、学生時代の先輩で、初めて僕がドイツに行ったときに泊めてもらったりもしました。その後、何度も共演させて頂いています。
アンサンブルの面でも、お互いを聴きながら、前後関係でどういう風にしていくかを組み立てていくので、私はすごく信頼しています。
彼のブラームス像と私が楽譜からくみ取ったブラームスの音楽をいい意味で化学反応させて、取り組めればうれしいなと思います。
リハーサルはすでに始めていますが、お互いに影響しあいながら、より練って、本番に向けてもう一段階上を行きたいなと思っています。
私はスイスに留学し、岡田さんはヨーロッパに長く住まれていました。
お互いにブラームスが見たであろうに近い風景や風土、現地の人々に接したことがありますから、さらに想像力をかき立てられます。そういうところも活かして、二人でブラームスの作品の素晴らしい世界へとお客さまと共に行くことができればうれしいですね。
ーー最後にメッセージをお願いいたします。
久しぶりにブラームスの作品にどっぷりと浸って取り組み、Hakuju Hallという素晴らしい場所でのコンサートをとてもうれしく思っています。
信頼するピアニスト、岡田将さんと、お客さまとともに、ブラームスの心の奥底に入り込んだ旅を、皆様とご一緒させて頂ければと思います。
当日会場でお会いできればうれしいです。
西江辰郎     (c)Kazuhiko Suzuki

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