天海祐希、アダム・クーパーにインタ
ビュー! 共演舞台『レイディマクベ
ス』を語る

『レイディマクベス』が、2023年10月1日(日)〜11月12日(日)に東京・よみうり大手町ホールで、11月16日(木)〜11月27日(月)に京都劇場で上演される。出演は、天海祐希、アダム・クーパー、鈴木保奈美、要 潤、宮下今日子、吉川愛、栗原英雄、という豪華な顔ぶれ。
シェイクスピアの『マクベス』で、強烈な悪女ながら名前のない存在として描かれたマクベス夫人。彼女から着想を得て、イギリス気鋭の若手女性作家・演出家のジュード・クリスチャンが書き下ろした『レイディマクベス』は、タイトルロールを産後、戦場に戻れなくなった元兵士に設定、夫マクベスと共に国を治める野望に燃える女性として描く。演出は、日本で『ピサロ』、『カスパー』、そして新国立劇場バレエ『マクベス』等を手がけてきたウィル・タケット。また、音楽を岩代太郎が担当する。
このほど、レイディマクベスを演じる天海祐希と、マクベスを演じるアダム・クーパーに、作品への意気込みを訊いた。

――このお話が来たときのお気持ちは?
アダム・クーパー 何より、芝居作品への出演ということ、その演出を手がけるのが友人でもあるウィルであるということ、そして隣にいるこの素敵な女性と共演できるということで、非常にエキサイティングに感じました。
天海祐希 最初にこの舞台のお話頂いたときは、まだ他の出演者が決まっていなくて。その後、コロナ禍もあって立ち消えになりそうになったのがむくっと立ち上がった力強い企画でした。しかもアダムさんが出演するという話になって目が飛び出るかと思うくらいびっくりして。物語の概要を少しうかがい、ウィル・タケットさんがアダムさんを選ぶのは必然的だったんだなと思いました。先日、準備稿をいただいたんですけれども、やはり、マクベスをアダムさんと思って読んでいくと、秘めた思いや、情熱、熱さの中にとても冷静で無機質のようなものが見えてきて、やはりエネルギーのある人が演じなければただの亡霊のように見えてしまうんだろうなと思いました。私、(取材時)先程アダムさんと一緒に撮影をしまして、その写真を見てもまだちょっと共演するということが信じられていない、こうして今、横にいらっしゃってもまだちょっと信じられていないという(笑)。こんな幸せと、こんないい意味で恐怖を感じることはないなと思うチャンスなので、自分を成長させられるように頑張りたいです。
――これまでも親交があったそうですが、お互いの印象や役者としての魅力についてお聞かせいただけますか。
天海 2014年にミュージカル『雨に唄えば』の来日公演があり、大好きな映画の舞台版で、しかも主演がアダム・クーパーさんということで観に行きました。ものすごく感動して客席で泣いてしまったんです。こういう世界にいる人間としてはぐっと来るお話でしたし、劇場の照明をすべてバーンと受け止めて吸収し、それをまた自分の中から違う光として発しているアダムさんにものすごく驚いたんです。その後、楽屋でアダムさんに初めてお会いしたときに「大丈夫?」と聞かれました(笑)。それで『兵士の物語』も観に行き、今度はサインをいただきました。
やがて、『雨に唄えば』の舞台で再び来日されるのですが、その直前に、現代のイギリスにおける女性のあり方を題材にしたテレビ番組でアダムさんにお話をうかがう機会があり、ロンドンでお目にかかりました。『雨に唄えば』のお稽古に行く前にその取材に答えてくださったんです。そんなこともあり、『雨に唄えば』のように幸せになれるミュージカルってなかなかないし、より多くの皆さんにアダム・クーパーさんの光を浴びてほしいと願い、応援団長のようにしゃしゃり出て公演を宣伝させていただきました。
その後、私が主演した劇団☆新感線の『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』を、アダムさんが観に来てくださったのです。IHIステージアラウンド東京の客席に座って、ぐるぐる回りながら観ていただきました。そうしたら今回の話が来て。もう、びっくりしましたよ。感激を通り越して、人生でこんなことがあっていいのかと。ご褒美なのか落とし穴なのかわからないですけれども(笑)、こんなチャンス二度とないと思うから頑張ります。
アダム (笑)初めて祐希に会ったとき、温かくて優しい人だなと感じた。いつ会っても本当に素晴らしい人で、とても大きな心の持ち主だということがわかる。映像や舞台の仕事で人々から敬意をもたれている女優である彼女と共演できることを、本当に光栄に思っているよ。非常にユニークで特別な舞台を一緒に作り出すことができると期待しているんだ。
――今回の作品はシェイクスピアの『マクベス』がベースになっています。
アダム シェイクスピアの『マクベス』の舞台を観たのはもう何年も前のことになるけれども、力強いキャラクターたちが出てくる、とても力強い戯曲だなと感じた。今回は『マクベス』をベースにしたまったく新しい作品だけれども、非常にエキサイティングだなと思うのは、それぞれのキャラクターが全く異なる視点から描かれていること。もともとの戯曲の持つテーマの多くを扱ってはいるけれども、レイディマクベスの視点、女性の視点から描かれているというのも、今日の観客にとってはおもしろい体験になるんじゃないかな。非常に複雑で豊かに描かれているレイディマクベスは、祐希が演じるのにぴったりな役柄だと思う。
天海 今の段階でいただいている台本はまだ準備稿ではありますが、出てくる言葉が非常に美しくて素敵で。『マクベス』におけるマクベス夫人は、夫をそそのかしてというか、お尻を叩いて自分の欲求を満たしたいと願う、ものすごい悪女のように描かれていますよね。世の女性が持つであろう「悪」のすべてを併せ持った女性のように描かれています。でも、シェイクスピアによって生み出されて以来、彼女自身は自分について何も弁解できなかった。でも今回、その『マクベス』という大きな柱からインスパイアされながら、レイディマクベスの新たな面や思いが描かれています。それは現代にも通じる話で、それがシェイクスピアの時代からずっと続いていたことなんだというのが、すごくおもしろいですね。彼女には、女性であるがゆえに選ばなければならなかったことや諦めなければならなかったことがあると思いますが、同時に欲も希望も確実にあったわけで、そこにみんなが共感できるんじゃないかなと、私は思っています。必ずしもレイディマクベスをいい人にしたいわけじゃないんだけど、彼女の立場からすると、ああそうだよねと思えることもあるかもしれない。でもその一方で、人に望んだことは良いことも悪いこともブーメランで自分に返ってくるよ、という話なのかなとも思っています。
――「時として自分の言葉を発することが非常に不自由となる」と概要に書かれているマクベスのほうは、“静”のキャラクターになるのでしょうか。
アダム ウィルと仕事をしていて非常におもしろいのは、それぞれのキャラクター間のボディ・ランゲージを見つけていく過程なんだ。今回も、この物語を伝えていく上での、ウィルならではの語り口が発見されていくだろうと思う。その彼の要求を自分がちゃんと満たせるといいなと思っているよ。
天海  “静”と“動”とよく言いますけれども、舞台上で演じる場合、強かったり熱かったり、内にエネルギーがなければ、“静”も演じられないと思っています。ぐわっと動ける人だからこそ、すーっとした“静”のお芝居も可能なんだろうなと。
アダム (頷く)
天海 ウィルさんがどういう視点でどういう演出をされるのかはまだわからないけれども、アダムさんが演じられる場合、大きなエネルギーをもった“静”のマクベスになるんだろうなと、概要を読みながら思ったんです。マクベス夫人がこの人を推して王にさせるわけですから、ちょっと頼りないところがあろうとも、その器である人間ということは変わらないわけで。ウィルさんの演出やアイディアの方向に誠実に向かっていくことができればいいなと思いますね。
――そのウィルさんの演出の魅力について教えてください。
アダム ウィルはいつも限界を超えるような作品作りをしている人だと思う。最初に一緒に仕事をしたのは英国ロイヤル・バレエ団時代だったけれども、彼の演出作品は踊る上で非常に興味深いものだった。どの作品も異なっていて、自分にとっては常に新しい経験だった。たいへん知的な人であり、自分が望むスタイルについても明確で、それが僕にも非常に合っているから、一緒に仕事をするのがすごく楽しいんだ。
天海 ウィルさんの演出した舞台は、アダムさんの出演された『兵士の物語』や、最近では『カスパー』も拝見しましたが、すごくおもしろかったですね。『兵士の物語』は、軽く入ってきながら、ずーんと突き刺していくような感じ。どこで刺さるかは人それぞれでしょうけれども、一気にぐわっと引っ張られて、気がついたら終わっている。それで、ぼーっと放心してしまうというか。この後、ウィルさんと初めてお会いするので楽しみなのですが、緊張もしています。
アダム 大丈夫。
――さきほどより、天海さんから「恐怖」や「緊張」と言った言葉が……。
天海 緊張しますよ~。アダムさんは、私、舞台を拝見して泣いた人なんですよ。だから今も、あまりアダムさんの方に顔を向けられないんですよ、緊張して。舞台上で観る人。見せてもらう人だったから。でも、お稽古に入ったら、どーんとぶつかっていきたいです!
アダム (笑)
――アダムさんにとって、日本の観客の前で舞台に立つのはどういう経験ですか。
アダム すでに30年以上、日本の観客の前で舞台に立ってきた。最初はバレエ・ダンサーとして来日し、そして「マシュー・ボーンの『白鳥の湖~スワン・レイク~』」、また、自分が演出・振付を手がけて主演したバレエ『危険な関係』、そして『オン・ユア・トウズ』や『雨に唄えば』といったミュージカル作品に出演してきた。どんなジャンルの作品であろうとも、どんな新しい挑戦であろうとも、日本の観客はいつも腕を大きく広げるような感じで温かく僕を受け止めてくれた。日本は僕にとって家族の一部のようなもの。今回、日本人キャストの中に一人まじって芝居に出演するということになり、ちょっと恐怖も感じているけれども、観客の存在が僕の挑戦を応援してくれると思う。
――アダムさんからも「恐怖」という言葉が出ました。
天海 もちろん大丈夫ですよ~。わくわくから来る多少の緊張や、怖いな、大丈夫かなと思う気持ちって、「こっちの方に向かって走ればいいんだ」と確信することによってじゃないと解消されないですよね。でも、ウィルさんの演出のもと、みんなで同じ方向に向かって走り始めれば、みんなのすべての恐怖も迷いもなくなっていくと思うので。
アダム (頷く)
天海 アダムさんはいろいろな経験をなさっているし、私たち日本のキャストだってもうみんな腕を大きく広げて待ってますから。アダムさんの一挙手一投足を、私もいっぱい盗みたいと思っていますし。
――レイディマクベスもそうですが、天海さんは力強い女の役どころが多いイメージがあります。
天海 シェイクスピア作品の中のマクベス夫人自体、強さであるとか、ターゲットをとらえて離さない感じとか、ここに向かうと決めたらものすごく執着する感じって、何かちょっと変わった人のように思えますよね。でも、今回、元軍人という設定になったことで、よりいっそう「ああ、だからなのか」と思えるところがたくさんあるんです。こうやって、いろいろなとらえ方ができるのって、本当におもしろいですよね。そして、私にそういう(力強い)イメージを持ってくださる、このような役をいただけるということは光栄で、本当にありがたいです。昔、若い頃は「あまり同じような役が来てもなあ」なんて生意気なことを思ったりしましたが、今となってはその頃の自分に「ありがたいことなのに何を言ってるのか!」って言いたいです。イメージを持ってもらえるって、それだけ知ってもらえているということだから。
アダム 今回の作品は『マクベス』の物語を新たな角度から語り直すということだから、マクベスとレイディマクベスがコンビを組んで軍人として戦っていた過去があるという設定は、二人の関係性を語る上で非常におもしろい視点だと思う。祐希は万能な女優だから、この役柄にも合うと思うよ。
――現時点で、この作品、ここがすごいと思われるのはどんなところですか。
天海 人生に厚みがある方ほど、いかようにも受け止めていただける作品なんじゃないかな、と思っています。登場人物それぞれが自分の知っているレイディマクベスを語る場面もあるんですが、そこもとてもおもしろいんですよね。それぞれが二重の感情をもっている感じがして、どっちが本音でどっちが建前なのかわからなくて、ちょっとしたミステリーのようにも感じられたりする。そうかと思えば、登場人物みんなが殺伐とした中にいるようでいて、心の安らぎを求めているんです。そこもすごくおもしろいと思います。抽象的な言葉、美しい言葉、そして、古い言葉と新しい言葉が混ざっているのですが、どうしてそこで古い言葉を使うのかということもちゃんとわかるようになっています。
アダム 祐希の言うように、予想もしなかったところに連れていかれるようなおもしろさのある作品だね。どんな作品になるかある程度予想していたつもりだったんだけれども、読み始めると毎回新たな発見がある。観客にとってもそんな作品になるんじゃないかと思っているよ。
――おふたりそれぞれの、シェイクスピア作品との関わりについて教えてください。
アダム 12歳くらいのころ、学校で『ロミオとジュリエット』や『真夏の夜の夢』といった作品を勉強したんだけれども、最初は外国語かなと思ったよ(笑)。でも、彼の書き方のスタイルや言葉遣いに慣れてくると、その美しさがわかってきた。物語も素晴らしいものが多いから、今日になってもさまざまなジャンルのバージョンが作られていくんだと思う。ロイヤル・バレエ団時代に『ロミオとジュリエット』や『真夏の夜の夢』に出演したし、ピーター・ダレルが振付したスコティッシュ・バレエの『ハムレット』のタイトルロールを演じたこともある。シェイクスピアの言葉自体が音楽みたいな魅力があるから、そこに音楽をつけて、それを身体で表現するというのがとてもおもしろくて。物語を言葉ではなく身体で語っていくのもとてもやりがいのあることだよね。好きな作品は『ロミオとジュリエット』かな。初めて読んで勉強したシェイクスピア作品だし、もっとも好きな映画作品の一つがフランコ・ゼフィレッリが監督した『ロミオとジュリエット』なんだ。 バレエ版ではロミオと ティボルトを踊ったこともあるし、一番よく知っているシェイクスピア作品でもある。でもこれからは、一番好きな作品は『マクベス』になる予定だよ(笑)。
天海 私も宝塚時代、小田島雄志先生の訳を使用した『ロミオとジュリエット』でロミオを演じて。小田島先生はきっちり言葉を選択しながら原文を訳していらっしゃいました。言い回しこそ難しかったりしますが、言葉遊びなんかもあり、何よりも美しくて。悲劇であったり、人間の汚い部分もちゃんと書かれているところがすごいですよね。人間って昔から変わらないんだなと思ったりしますよね。『ロミオとジュリエット』はもちろん好きですし、『タイタス・アンドロニカス』なんかもいいですね。すごい復讐劇ですけど、舞台を観ながら思わず「ちゃんと復讐して~」と応援しちゃうほど、強烈な体験でしたね。同じようなことを言っていても、世の中が変わっていくと、悪に見えたり正義に見えたり、解釈が変わって見えたりするのもおもしろいところですよね。
―― 今回の舞台で楽しみにしていることは?
アダム 作品がどう発展して行くのか、その過程をリハーサルで楽しみたいと思っているよ。この物語を語る上での“言語”をどう発見して行くことができるのか、エキサイティングだよね。リハーサルの時間が僕は大好きで。参加している全員にとって安心できる場所を作り出すことができれば、さまざまなチャレンジが容易になっていく。しかも今回、共演者が初めての方ばかりだから、すごく楽しみだよね。みんながどんな人なのか、そしてそれぞれがどんなものをこの作品にもたらしてくれるのか、発見していくのがとても楽しみなんだ。ウィルもきっと素晴らしい演出をしてくれると思う。彼はいつもプロジェクトにユニークなアイデアをもたらしてくれる人物なんだ。
天海 私が海外の演出家さんとお仕事するのは、宝塚時代の『グランドホテル』のトミー・チューンさん以来かな。
アダム トミー・チューンと仕事してるんだ~!
天海 アダムさんをはじめ、初めましての方も多いですし、みんなと一緒にいろいろなことにチャレンジしながら頑張っていきたいと思っています。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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